とある風紀委員といいんちょー   作:御堂 明久

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お久しぶりです、御堂です!
最近受験勉強でグリモアを起動出来ていないので、原作の表世界第8次侵攻以降の新設定云々で矛盾が生じていないかビクビクする日々です。
今回報道部の二人が出てきますが、一応部長はまだ鳴子の時系列となっています。
では、どうぞー!



ペンは風紀委員長よりも強し

 

 

 とある日の平日。

 俺は我等が風紀委員長水無月(みなづき)風子(ふうこ)から、今日の仕事の内容を言い渡されていた。

 

 

夏目(なつめ)ー。アンタさんには今日、ウチと一緒に報道部の取材を受けてもらいます」

 

「お断りします。よし服部(はっとり)、今日一緒に見回り行こーぜ」

 

「まあ待ちなせーな」

 

「くぴっ」

 

 

 水無月からの命令を無視して早々に服部と共に風紀委員室を出ようとしたところ、水無月に制服の後ろ襟を掴まれ動きを止められた。

 気道が一瞬締まり、変な声が出た。くぴっ。

 

 

「ごふっ、けは⋯⋯っ。いきなり何すんだ」

 

「アンタさんこそ、いきなり逃げよーとしねーでくだせー。傷付いちまうじゃねーですか」

 

「だって嫌だもん報道部からの取材なんて! お前遊佐(ゆさ)と仲悪いし、同じ空間にいると圧迫感ヤベぇんだもん!」

 

 

 遊佐鳴子(なるこ)

 他の学校でいう新聞部に当たる報道部を部長として率いる彼女は、詳細は省くがどうにも自由奔放で学園の治安を乱す傾向にあり⋯⋯、学園の秩序を守ることに重きを置いている水無月とは不仲にある。

 ことある度にいがみ合う二人の光景はもう見慣れたと言えば見慣れたのだが、そんなギスギスした二人の関係に俺まで巻き込むのはもう本当、勘弁して頂きたいのだ。

 

 

「そんなつれねーこと言わずにぃ。そもそも、取材担当が遊佐とは限らねーじゃねーですか」

 

「あ、違うの? じゃあ協力するのもやぶさかでは―――」

 

「まあ、遊佐なんですけど」

 

「何なんだよ今の無駄なやり取り!」

 

 

 ニコニコと年相応の可愛らしい笑みを浮かべつつも、俺を逃がさないという確固たる意志を感じさせる水無月。何のつもりだコイツ⋯⋯!

 俺が頬を引き攣らせていると⋯⋯、突然水無月がズイ、と身を寄せてきた。マズい、懐に入られた! 殺られる―――と思ったが、彼女は俺の耳元に口を近付けるのみで。

 周囲に聞こえないようにするためか、小声で俺に話しかけてきた。

 

 

「⋯⋯最近、二人きりになれる日が全然無かったじゃねーですか。仕事なのは変わりねーんですけど、その後は⋯⋯ね?」

 

 

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

 

 

「⋯⋯しょーがねーなー!」

 

(チョロいですね)

 

((((何を言われたのか大体予想がつくなぁ⋯⋯。チョロいなぁ⋯⋯))))

 

 

 何だろう。今、俺以外の風紀委員全員の考えがシンクロしたような気がした。

 まあ、他でも無い水無月の頼みだからね! 一肌脱いでやるのが友達ってモンだよね!

 俺はあくまで友人のため、いかがわしい目論見など一切無しに、水無月と共に風紀委員室の扉を開き、報道部の部室へ向かった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯それにしても、何故委員長はあそこまで夏目を連れて行こうとしたのだろうか」

 

「いやいや神凪(かんなぎ)先輩。それは愚問ってものッスよー」

 

「? どういうことだ?」

 

「好きな人を傍に置いておきたくなるのは、当たり前のことなんですよ! んもう、いいんちょーってふくいいんちょーが関わると、本当かわいーッスよね!」

 

「そ、そうか」

 

「およ、微妙な表情ッスね?」

 

「私はまだ、そういうことはよく分からなくてな⋯⋯。服部は詳しいのか?」

 

「生憎、自分もそーゆー話にはまだ縁が無いッスよ。でもぶっちゃけあの二人、めちゃくちゃ分かりやすいッスからねぇ⋯⋯」

 

(は、服部がまるで我が子を愛でる母親の様な目をしている⋯⋯)

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 場所は変わり、報道部部室前。

 心なしか妙に重厚に見える扉の前で、俺と水無月は並んで立っていた。

 

 

「そういやさ、水無月」

 

「はい?」

 

「そもそも何で取材受ける気になったん? 仕事が立て込んでるからとか適当言って蹴ることも出来たじゃん」

 

「それだとウチが遊佐から逃げたみてーになるじゃないですか」

 

「子供か」

 

「誰が幼児体型ですか。仕事量増やしますよ」

 

「言ってねぇよ!?」

 

 

 確かに同年代の女子と比べたら水無月はちょい小柄だけれども!

 相変わらず理不尽なロリボディ水無月は、少し拗ねた様子ながらも扉に手を掛け、開いた。

 中にいたのは二人の女子生徒。

 

 

「やあ、水無月君。待っていたよ。⋯⋯ん? もう一人お客様がいるようだね。夏海(なつみ)、悪いけどもう一つカップを取ってくれ」

 

「はーい。彰も来たのね」

 

「ん、ああ。この好戦的なツインテ委員長に連れられて来てな」

 

「呼称に悪意を感じますねぇ⋯⋯」

 

 

 水無月がジト目でこちらを見てくるが、今更その程度で怯む俺では無い。むしろ少し気持ち良くなってくるまである。やべぇ、知らぬ間に新たな性癖の扉を開きかけてるぞ、俺。

 

 ⋯⋯女子生徒二人の正体は、それぞれ報道部部長の遊佐鳴子と、同じく部員の岸田(きしだ)夏海であった。

 報道部ゴシップ記事担当、岸田夏海。貪欲にスクープを求めるその姿勢と根性を買われたのか、部長である遊佐に特に可愛がられている女子生徒である。

 小柄ツインテっていう容姿が少し水無月と被っている気がしなくもない。言わないけど。

 

 

「まあ何にせよ、お手柔らかに頼むよ。⋯⋯水無月から取材の詳細を聞かされてないんだけどさ。どんな内容なのん?」

 

「おや、そうなのかい。駄目じゃないか水無月君。報告、連絡、相談は組織に所属する者の義務だよ」

 

「⋯⋯ご忠告どーも」

 

 

 やめてぇ! 少し質問しただけですぐギスギスするのやめてぇ! 俺の胃までギスギスしてくるだろうが。

 俺が胃薬がどこかに無いかと部室を見回していると、岸田がティーカップに紅茶を注ぎ、俺たちの方に差し出してくれながら答えてくれた。

 コイツ紅茶なんか淹れられたのか。

 

 

「今回発行する予定の校内新聞で、風紀委員特集を組むのよ。で、風紀委員長のインタビューも欲しいねって話になって」

 

「ほーん」

 

「せっかく副委員長の夏目君も来てくれたことだし、普段は知り得ない風紀委員の深部なども聞いてみたいところだね?」

 

「よくいーますよ、大抵のことはアンタさんに筒抜けのクセに」

 

「僕だって何でも知っているという訳じゃない。だからこそ、僕の知識欲は未だ留まることを知らないのさ」

 

「その知識欲がもー少しマトモな方向に働いてくれれば文句はねーんですが、ね」

 

「岸田、ここって胃薬とかある? 出来れば分けてくれねぇかな」

 

「⋯⋯アンタも案外大変なのね」

 

 

 同情の言葉と共に胃薬の入った小瓶を渡してくれる岸田。ゴシップの鬼たる岸田が天使に見えてくる辺り、この(おさ)二人のアレっぷりが察せられる。というかもう、早くインタビューに入ってくれないかな。

 と、俺の念が通じたのか、遊佐が軽く手を叩きながら。

 

 

「さて、そろそろ始めよう。インタビューの内容はレコーダーに録るけど、大丈夫かい?」

 

「ま、問題ねーです」

 

「りょーかい」

 

 

 やっとまともな取材っぽくなってきた。元々は水無月の付き添いとして来ただけの俺だが、もしかして俺の方にも質問が来たりするのだろうか。ちょっと緊張してきた。

 

 

「まあ、最初は行稼ぎのための当たり障りの無い質問ばかりさ。リラックスしてくれて構わないよ」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「⋯⋯ふむ。改めて聞くと、中々風紀委員も多忙だね。今回時間を取ってもらえたことが、信じられないくらいだよ」

 

「仕事ってのは慣れとともに効率的にこなせるよーになって、費やす時間も短く出来ますからね。時間の方はどーとでもなります」

 

「同感だね。ともかく、有益な話をどうもありがとう」

 

「いえ⋯⋯」

 

 

 遊佐の言葉に嘘は無く、それからしばらくは着々と当たり障りの無い、言い換えればありきたりな質問が次々と水無月、そして俺にまで投げかけられた。

 具体的には風紀委員の主な仕事や歴史を聞かれたり、学園生たちに対するコメント(校則守ってね! 的な呼び掛けじみたモノ)などを求められたりした。うーむ、実に普通で素晴らしいと思います。ビバ普通。普通が一番である。

 ⋯⋯意外と普通に進んで安心だと思うべきか、嵐の前の静けさだと警戒すべきか判断に迷う。不自然な程に華やかな笑顔で言葉を交わす水無月と遊佐を見ていると、胃が⋯⋯ッ。

 

 

「アンタ、あの二人に板挟みになる度にそんな調子になってるの? よく今日まで生きてこられたわね⋯⋯」

 

「そりゃあ、二人とは友人のつもりだし⋯⋯」

 

 

 実は、この二人意外と相性が良いんじゃないかと思う時もあるっちゃあるんだけどなぁ⋯⋯。それを言ったら、水無月とか「じょーだんじゃねーです♪」って物凄く怖い笑みを浮かべてくるからなぁ⋯⋯。

 

 

「もうこの関係性でも、それはそれで良いかなと思い始めてるところだよ。俺の胃へのダメージは度外視することになるけど」

 

「胃潰瘍になる前に、ゆかりか養護教諭に診てもらった方がいいと思うわよ」

 

 

 友達二人の仲が悪いので胃潰瘍になりました、などと言われた保健委員の椎名(しいな)さんは俺のことをどう思うのだろうか。

 そんな感じで俺と岸田が隅で話していると、先ほどまで質問と回答を繰り返していた水無月と遊佐がこちらに話しかけてきた。

 

 

「こら夏目ー。遊佐をウチに押し付けといて、自分は女の子とお話ですかー?」

 

「押し付けるも何も、お前が引き受けた取材だろうが⋯⋯。何、お前も岸田と話したかったの?」

 

「⋯⋯うーん」

 

「あ?」

 

「さて、夏海。後は君に任せるよ。使える情報を引き出してみろ」

 

「やっと私の出番ですか! えっへへー、任せてください!」

 

 

 俺が水無月と話していると、隣から歓喜した様子の岸田の声が聞こえてきた。どうやら、今度はインタビュアーが岸田に交代するらしい。

 ぶっちゃけ交代する意図がよく分からないが、遊佐から経験のために質問を考えてくるように言われでもしていたのだろうか。

 

 

「風子、彰。少し休憩した後は今度は私からの質問に答えてもらうからね! アンタたち二人へのインタビューだなんて本当に機会が無いし、気合い入るわー!」

 

「うっ⋯⋯。しょーじき、遊佐よりも嫌なインタビュアーですね⋯⋯」

 

「た、確かに岸田はゴシップ記事担当だけど。そこまで直球では来ないだろ⋯⋯」

 

 

 先ほど遊佐が()()()行稼ぎための当たり障りの無い質問と言っていたが、今まで彼女自身は記事を書くための最低限の質問しかしていない。

 ⋯⋯え、まさか質問に当たり障りが表れ出すのは、インタビュアーが岸田になってからってことですか。

 微かな不安を覚えながら、しばしの休憩時間を過ごす。⋯⋯おお、この紅茶美味いな。隣でカップを傾けている水無月も感心したような表情をしていた。

 ここに来るのも久し振りだし、遊佐とも色々話してみたいな⋯⋯と、呑気に俺が考えていたその時。

 

 

「それで、アンタたちってデキてんの?」

 

「ぶふっ!?」

 

「思いの外直球だったし、休憩時間短いなオイ! つーかお前、いきなりそういう質問するのやめろよ! 大丈夫か水無月、紅茶零してないか!?」

 

「⋯⋯⋯⋯フッ」

 

「ごほごほっ⋯⋯。わ、笑ってんじゃねーですよ遊佐ぁ⋯⋯」

 

 

 突然の不意打ち。

 休憩するように言い渡されてからものの数分で岸田から投げかけられた新たな質問に、紅茶を飲んでいる途中だった水無月は狼狽した様子でむせ返り、遊佐はそんな彼女の様子を見て、堪えきれないと言った様子で口角を上げていた。

 

 

「フフ、やはり夏目君と一緒にいる時の君は面白い。実は今回君に取材を求めた理由の大半は、そんな君を見て楽しみたかっただけだったりする」

 

「な⋯⋯」

 

「君のことだから、絶対に夏目君も連れてくると思ってたからねぇ」

 

「遊佐鳴子ー!」

 

 

 口元を押さえ顔を赤くした水無月が叫ぶ。

 圧倒的な力を有する大魔王とそれに挑む勇者のような構図である。大魔王の性格が狡猾に過ぎる気もします。

 

 

「それで、どうなのよ」

 

「で、デキてる訳ねーでしょう」

 

「関係性としては友達って表現が適切だなあ。または上司と部下」

 

「なーんだ、つまんない。彰は紗姫(さき)とかと違ってそこら辺緩い上に周囲は女子だらけなんだし、もっとガツガツいっちゃえばイイじゃない。カップルとかハーレムが成立したら報告してね? ⋯⋯スクープ」

 

「最後の四文字が本音だろ。恋愛自体には人並みに興味はあるが、その氷川がいる中でハーレムとか形成出来る訳ねぇだろ⋯⋯」

 

 

 そういう面には人一倍厳しい氷川のことだ、二股の時点で殺されかねないし、ハーレムだなんて呼ばれるほどの規模となったその時はどうなるのか、想像もつかない。

 仮に俺がそうなったとして、俺の身体は原型を保っていられるのだろうか。

 

 

「とゆーか、氷川だけでなくウチも許しませんよ。そんなの」

 

「いや、俺もそんな気は無いからね?」

 

「何だ、無いのかい」

 

「えー、無いの?」

 

「報道部員、ゲス過ぎない?」

 

 

 何でそこで残念そうな表情をするんだよ。というか、俺ってそういう願望があるように見えるのだろうか。

 

 

「まあ、彰も風紀委員だしね。その辺りは綺麗なモンだとは思ってたわ」

 

「でも、たまに変態ですよ」

 

「水無月さん? あなたどっちの味方なの?」

 

「ウチはいつだって風紀の味方です」

 

 

 やだ、水無月委員長カッコいい⋯⋯!

 でもよく聞くと質問の答えにはなっていないし、そこは普通に俺の味方だって言って欲しかったです(本音)。

 

 

「というか俺、変態と称されるほど欲求に任せた行動を取った覚えは無いぞ」

 

「ちなみに、何を以て風子は彰を変態と?」

 

「以前、購買部で購入した猫耳カチューシャをウチに差し出しつつ、動画を撮って楽しむから猫の物真似をしてくれと迫ってきました」

 

「「ギルティ」」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

 

 猫耳カチューシャを見た時の感想って「かわいい」か「誰々にこれ付けてニャンニャンして欲しいな」くらいしか無くない? ごくごく自然な行動だったと今でも思うんだけど?

 というか、つい先ほどまで風紀委員VS報道部みたいな構図だったのに、いつの間にか女子勢VS俺の形になってない?

 しかし、ここで岸田から起死回生の一言。

 

 

「それで⋯⋯、したの? 猫の物真似」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「ああ、それは僕も気になるところだね。水無月君のそういう姿は実に興味深い。差し支えなければ、この場での撮影をお願い出来ないかな?」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 二人の質問に水無月は答えない。ただ、その視線はずっと俺の方へと注がれていた。

 俺と水無月の目が合う。長年の付き合いの賜物か、それだけで俺は彼女の考えていることをほぼ正確に読み取ることが出来た。すなわち、

 

 

(⋯⋯ぜぇぇぇったいに、言わねーでくだせー!)

 

 

 ⋯⋯以前、俺と氷川との見回りが終わり、風紀委員室に戻って、水無月と二人きりで仕事を終わらせた後。

 俺は彼女に猫耳カチューシャをプレゼントし、何やかんやあって彼女が俺の見ていないところで猫の真似をして、俺はもう一度自らの目の前でやってくれるよう懇願したが結局見せてもらえなかった⋯⋯というのが、前回までの物語。

 だが、この話には続きがある。

 

 あれは俺と水無月が風紀委員室を出て、廊下を歩いて寮に戻る最中の話⋯⋯。

 

 あれからも俺はめげることなく、水無月に猫の物真似を要請し続けていた。

 

 

『なー⋯⋯。水無月ぃ』

 

『うぐ⋯⋯。存外アンタさんもしつけーですね』

 

『俺は興味の無いもの薄いものは割とすぐ諦めるけど、その分一度興味を持ったものにはそれなりに執着するタイプなんだよ』

 

『将来何らかの犯罪を起こしそーな性分ですね⋯⋯。⋯⋯オーケー、分かりました』

 

『?』

 

『ひ、人前で懇願されるとシャレになりませんし。い、一度だけですよ? 写真、動画撮影はもちろん禁止!』

 

『やったぜ! 任せとけ、網膜に永久保存しとけばいい話だからな!』

 

『やっぱり変態さんですね⋯⋯。えーっと、鞄の中にカチューシャを入れましたから⋯⋯ありました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『⋯⋯にゃ、にゃーんっ♪』

 

『うおおおおおおおおおおおおおおお! 世界一可愛いぃよぉおおおおおおおお!!』

 

 

 ⋯⋯みたいなことが、以前あったのだ。

 うん、改めて思い返してみると、あの時は二人とも疲れていたし時間も遅かったし周囲には誰もいなかったしで、少々脳がトランス状態に陥っていたらしい。マジで何だったんだあの謎テンション。

 水無月も似たようなことを思っているからこそ、自分があんな言動を取ってしまったことは誰にも知られたくないのだろう。いわんや遊佐をや。

 水無月の考えていることはよく分かる。⋯⋯その上で答えよう。

 

 

 

「死ぬほど可愛かったよ」

 

「「わーお」」

 

「わああああああーーーっ!」

 

「うおおっ! やめっ、やめろ! 首に手をかけようとしてくるのをやめろ水無月! お前人のことは変態呼ばわりしといて!」

 

「アンタさんは元々学園内の皆さんに変態だと知られているから、今更じゃねーですか!」

 

「んだとぉ!?」

 

 

 あんまりな水無月の物言いに、俺は彼女と両手合わせになって向かい合いつつ反論する。

 

 

「テメーふざけんなよ、俺はこれでも学園生たちからそれなりに信頼されてるんですー! 口では色々言いながらも割と真面目だって言われてるんですー!」

 

「それとこれとは話は別でしょーが! 根が真面目な変態さんですよ、アンタさんは!」

 

「根が真面目な変態って何だよ! っつーか、その変態の要求を最終的に呑んだのはどこの風紀委員長でしたっけねぇ!?」

 

「くっ⋯⋯! ふっ、うぅ⋯⋯!」

 

 

 俺の言葉を受けて徐々に赤面し出し、涙目になりながらこちらを睨みつけてくる水無月。

 舐めるなよ水無月、俺は自分のことを棚に上げて相手の弱味を(なぶ)るのは、得意中の得意分野なんだよ⋯⋯!

 そんな感じで俺たちがいがみ合っていると。

 

 

「仲が良くて結構だね。あぁ、夏海。一応写真を」

 

「もちろん、撮ってありますっ」

 

「ふむ。成長したね」

 

「何勝手に撮ってんですか!?」

 

 

 遊佐と岸田の会話が聞こえた途端、水無月は俺から離れ叫び声を上げた。声がデカい。

 というか岸田の奴、いつの間に撮影なんざ終えてたんだ⋯⋯? まるで気付かなかったぞ。

 

 

「ここの辺りを切り貼りすれば、風子が彰にしなだれかかっているように見えるわよねー⋯⋯」

 

「ああ、ここも使えそうだね。この写真と記事の文章を工夫して組み合わせれば、来週には風紀委員長と副委員長が、一番学園内の風紀を乱している人物扱いされるだろう」

 

「本人たちの前で、堂々と捏造の準備をするのをやめてくだせー!」

 

「おい、しれっと俺まで巻き込むなよ!」

 

 

 水無月のついでとばかりに俺の権威(元々大して無いが)が失墜させられようとしていた。まるで水を得た魚、コイツら急に生き生きとし過ぎだろ。

 俺と水無月が焦燥とともに声を上げると。

 

 

「ふふ。まあ、ちょっとしたジョークだよ。僕とて、()()()情報を故意に広める気はないからね」

 

胡散臭(うさんく)せーですね⋯⋯」

 

「心外だなあ。超えちゃいけない一線くらい、僕だって弁えているよ」

 

 

 学園内に盗聴器を仕掛けるのは一線とやらの範囲内なのか⋯⋯? と疑問に思ったが、下手に口を挟むと余計に(こじ)れそうなので口には出さないておいた。

 口は災いの元、けだし至言である。

 俺が口を噤みつつ二人の成り行きを見守っていると、そこで遊佐が肩を竦め微笑んだ。

 

 

「とにかく、僕らにも矜持ってものはある。記事を使って嘘を広めるつもりなんて毛頭無いさ」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯なら、いーですけど⋯⋯」

 

 

 未だに釈然としていない様子の水無月。

 ⋯⋯遊佐の言葉通りなら、今回の取材を元に作成される記事に嘘は書かれないことになる。

 が、水無月は今、冷静さを欠いているために気付いていないようだが、それだけではまだまだ彼女にとって都合が悪い―――。

 俺がそのことを水無月に伝えてやろうか迷っていると。

 

 

「夏目君」

 

「うおっ、びっくりした。今度は何だよ、遊佐」

 

 

 遊佐が突然真剣な表情でこちらに話しかけてきた。水無月や岸田が遊佐の態度の急変に面食らっている中、淡々と遊佐は言葉を連ねてくる。

 

 

「君は気付いたようだけれど。僕にとって、これはまたと無い機会(チャンス)だ。⋯⋯君が欲しい情報を何でも一つ。これで取引をしよ「乗った」話が早くて助かるよ」

 

 

 俺の懸念はほぼ的中していたようだったが、この際それはどうだっていい。彼女自身は謙遜だか隠蔽だかをしているが、遊佐の保有する情報はまさに宝物庫の中の宝。

 どんなことを教えてもらおうか、今からワクワクしてきました。

 

 

「何の話です? 夏目」

 

「いや、気にしなくても良いぞ水無月。ごくごく個人的な話だ」

 

「そうだよ水無月君。君は何も考えなくていい」

 

「アンタさんたち二人が息を合わせると、嫌ーな予感しかしねーんですが⋯⋯」

 

 

 予想以上に水無月の俺への信頼が無かった。

 俺が地味にショックを受けていると、横に立っていた岸田がポンと俺の肩に手を置いてきた。やだ、慰めてくれるのかしらん。

 

 

「落ち込んでるところ悪いけど。まだ取材、終わってないからね?」

 

「鬼かよ」

 

 

 結局、これから更に一時間ほど、俺と水無月は報道部の取材に付き合わされることになったのだった―――。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 報道部のインタビューを受けた日から一週間後、俺と水無月は二人でペアを組んで学園内の見回りをしていた。

 隣を歩く水無月が満足気に頷きながら言った。

 

 

「んー、特に問題は起きてないよーですね。感心、感心です」

 

「そう毎日問題ばかり発生してたら、俺らとしてはたまったモンじゃねぇからな」

 

「どんなに問題が多かろーと、全部取り締まって、学園の秩序を維持するのがウチらの仕事ですよ」

 

「流石水無月さん、風紀委員の鑑ぃ⋯⋯」

 

 

 水無月がちろっとコチラを窘めるような目付きで見てきたので、俺はそれに視線を合わせないようにしながら言葉を返す。い、いや、別に本気で面倒だとかサボろうだとかは思ってないから⋯⋯。

 と、そこで俺はあることを思い出し、口を開いた。

 

 

「⋯⋯あぁ、そういや水無月、知ってる?」

 

「はい?」

 

「先週俺たち、二人で報道部の取材受けたじゃん。 アレの記事が今日、学園内に貼られるんだってよ。せっかくだし、見回りついでに見に行かない?」

 

 

 そう、今日が報道部制作の校内新聞発行日。

 別に見回りのルートから大きく外れた位置に掲載されている訳でもなし、少し見る程度なら水無月もそう拒否しないだろう。

 

 

「あー⋯⋯。確かに、少しは気になってたっちゃー気になってましたね⋯⋯ま、ちょっと見る程度ならいーでしょ」

 

 

 そう言ってこちらに微笑みかけてくる水無月。やだもう可愛い。

 そんな訳で、見回りの途中に報道部の記事を見ていくこととなった。記事が貼られる場所は毎度決まっているので、現在俺たちがいる場所から一番近い、図書館棟に貼られているモノを見に行く流れに。

 移動中は見回りもしつつ、しばし雑談に興じる。

 

 

「そういえば取材の時に思ったんですけど。アンタさん、割と遊佐とは仲がいーんですね?」

 

「え、今さら? まあ、仲が良いっつっても普通の友人の範囲内だが⋯⋯、むしろお前が遊佐を敵視し過ぎなんだよなあ」

 

「風紀を乱す上に、こちらの忠告もガン無視してくるよーな輩を相手に、好意的に接しろってのが無理な話なんですよ」

 

「あっ、ノーコメントで」

 

 

 水無月の言うことにも一理あるので俺は口を噤む。

 思想の時点で食い違うどころか、正反対の方向をフルスロットルで突っ走っている二人が仲良くする日はいつか訪れるのか⋯⋯、それは当の二人のみぞ知る。

 

 

「ウチのことはどーでもいーんですよ。で、どうなんです? 遊佐とは休みの日とかに会ったり?」

 

「何? 風紀委員の方で俺の記事でも作成すんの?」

 

「いえいえ、あくまで個人的なキョーミですが」

 

「⋯⋯うーん。俺もアイツも忙しいし、まず休日が重ならないんだよなあ。暇な時に適当に話し込むくらいだよ」

 

「ははーん⋯⋯」

 

 

 なんか今日の水無月、やたらと俺のプライベートに探りを入れてくるな⋯⋯。

 この学園の風紀委員というものは往々にして休みが少なく、余程のことが無いと風紀委員メンバー同士が揃って街で遊んだりすることはない。だから余計に気になってくるのかしらん。

 などと考えていると、報道部製作の新聞が貼られた地点へと到着した。

 目に着きやすいベストポジションに貼り出された新聞に対し、水無月が興味深そうに身を屈める。

 

 

「ほほう。ま、イメージアップ効果なんざ期待してませんが、一体どんな皮肉文句が綴らてんでしょーねー。⋯⋯⋯⋯⋯⋯ん?」

 

 

 ―――遊佐鳴子は虚偽の情報を広めないと宣言した。

 報道部室での水無月は、その言葉を完全ではないだろうが信じ、捏造、でっち上げ等の問題は起きないだろうとタカを括っていたのだろう。

 が、状況が状況だったために、彼女はもう一つの懸念事項についての言及を怠ってしまった。

 そう、今回水無月にとって最もダメージを与える要素は『嘘』ではなく⋯⋯。

 

 

「⋯⋯ふ、『風紀委員在籍の少女M•Hと少年N•Aの暗色の逢瀬! 猫ちゃんプレイでラブラブ♡』⋯⋯!?」

 

 

 他でもない『真実』と、『脚色』であったのにも関わらず。

 ⋯⋯新聞の内容を要約すると、俺と水無月(名前は上記のようにイニシャルで伏せられていたが、焼け石に水レベルだった)がいかにラブラブな関係であるかの説明、関係者から見た二人の印象(この関係者とやらの顔写真が掲載されていた。目線が入れられているが、どう見ても服部だ。おのれ)、そして二人の今後の行く先の予想などがまとめられていた。

 ⋯⋯うん、まあ、嘘は書かれてないかな。誇張はされてるけど、嘘は無いですね、ええ。

 だが当然、あの夜のニャンニャンプレイの露見を誰よりも恐れていた水無月のこの新聞を見た反応は決まっていて。

 

 

「⋯⋯遊佐鳴子ぉーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

 

 絶叫。

 羞恥と怒りで真っ赤に染まった顔を隠そうともせず水無月は、廊下の床をベシベシベシベシと上履きで叩きつつ報道部室の方へと歩いていった。遊佐への報復へ向かったか⋯⋯。

 あ、こんな時にも廊下を走らない水無月さんは素敵だと思いました。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにしばらくして、俺と水無月は学園生たちからの質問責めや冷やかし、祝福の声等に晒された挙句に、委員長副委員長の身で風紀を乱したとして氷川にこっぴどく叱られるハメになってしまった。

 ⋯⋯そして、水無月のヒミツ情報欲しさに遊佐の計略に気付きながらもそれを水無月に忠言しなかった俺は、その悪事が水無月本人にバレ、書類仕事の量を1週間ものの間、倍に増やされることになってしまったのでした⋯⋯。

 

 ⋯⋯めでたし、めでたし。いやめでたくねぇよ。

 

 

 




いかがでしたか?

拙作の風子は色ボケして弱点を晒しまくっているが故に、そこを突かれると割と鳴子とのパワーバランスが崩れます。アッサリ宿敵にやり込められるいいんちょ可愛い。
まあ、そこは主人公がフォローしたりしているのでしょう。多分。きっと。

さて、今回はこの辺で。ありがとうございます、感想等待ってます!
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