とある風紀委員といいんちょー   作:御堂 明久

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この度めでたく受験生デビューしました、御堂です(白目)!
三話目の執筆中にまさかの裏世界服部が登場する、しかもかの第8次侵攻のイベントが開始。テンションが上がりまくり、ほとんどノリでこの番外編を執筆した次第です。
舞台は第8次侵攻時の裏世界。主人公である夏目の介入により、原作よりも少しばかり女子たちの心に余裕が出ている、かも⋯⋯?

それでは早速、どうぞー!



番外編
滅びゆくこの世界にて


 悲鳴が、怒号が、破壊音が、聞こえる。

 腐臭ともつかない異様な臭気に当てられ、思わず口元を手袋で包まれた左手で塞いでしまう。

 が、いつまでも塞いでいる訳にもいかない。すぐに手を離して何の気なしに手の平を見てみれば、薄汚れ、所々破れた白色の手袋に血が滲んでいた。

 

 

「⋯⋯チッ。どこで切ったんだか」

 

 

 一人悪態を付きながら、倒壊したアパートの陰から姿を現した中型の魔物に、魔力によって生成された炎弾を撃ち込む。当の魔物は燃えるというよりは弾け飛ぶといった様子で散り散りになり、瞬く間に霧散して虚空へと溶け消えて行った。

 

 喜びは、無い。

 

 この程度の魔物を一匹仕留めた程度で歓喜出来るような状況ではないし、俺はポジディブではない⋯⋯いや、そんな奴がいるとすれば、そいつはもはや楽観的思考の持ち主というよりはただの阿呆だろう。

 俺はそんなことをボーッと考えつつ、戦闘服に付いた砂埃を払い⋯⋯、誰もいないように見える空間へと声を掛けた。

 

 

「まったく、面倒な時代に生まれてきたモンだぜ。なぁ、服部?」

 

「⋯⋯こんな時でも口が減りませんね、()()()()()⋯⋯」

 

「いつ聞いてもむず痒い響きだな、その肩書き」

 

 

 いつの間にかそこには、一人の少女が立っていた。

 一つに結われた深緑の髪と、いかにも忍といった感じの装いが目を引く⋯⋯生徒会所属、服部梓。

 

 

「もうこの辺りには誰もいないぜ。逃げ遅れた市民が数人いたが、ちゃんと全員避難させた。⋯⋯つっても、避難先が絶対に安全だとは、言えないが」

 

「それは⋯⋯いえ。早速ですが会長から招集命令が出ていますので、自分に着いて来てください」

 

「水無月から?」

 

「はい。この先500メートル付近にタイコンデロガ含む魔物の群れが出現⋯⋯現在、会長以下数名が応戦中ですが、苦戦しています。自分とあなたの二人で増援に」

 

「⋯⋯ッ。生徒会長自ら出張ってんのかよ。もしものことがあったらどうする気だっつーの⋯⋯!」

 

「それだけ戦況は困難なモノになっている、ということです。それよりも、早く向かいましょう」

 

「⋯⋯ああ、悪い。案内頼む!」

 

 

 こくりと小さく頷いた後、相変わらずの常識外れの速度で前を走り出した服部を追随する。

 体の節々は痛むし、前線に出てからひたすらに魔法をぶっ放しつつ市民や負傷者を運んでいたために、疲労感もかなりのもの。

 

 けれど、足は止めない。

 

 俺は人類だとか学園だとかの前に―――たった一人の女の子のために戦うのだと、決めたから。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「―――夏目ッ!」

 

「―――委員長」

 

「ナイスアシストだぜぃ、二人とも! さて、テメェらで最後だクソッタレ⋯⋯はぁあああぁぁぁぁーーーーッ!」

 

 

 風飛市内、某地点。

 あれからしばらくして無事水無月たちと合流することに成功していた俺は、水無月の重量魔法と服部が仕掛けた罠によって動きを止めた二体の魔物の頭部を、炎をまとった脚で蹴り砕いていた。⋯⋯まあ、砕く骨がコイツらには無い訳なんだが。

 

 

「とりあえず、近辺の魔物の気配は消失しました」

 

「タイコンデロガともなると流石に強ぇな。せっかく上手いこと溜め込んでた魔力が一気に持ってかれたぜ」

 

「⋯⋯すみませんね。助かりました、服部、夏目」

 

 

 周辺の魔物が全滅したことを知らせる服部の言葉に息を吐き、俺が呟いていると、全身傷だらけの状態で俺たちの後方に佇んでいた()()()()、水無月風子がそう言った。

 

 

「礼なんざ不要だよ。それはともかく、傷は大丈夫か? お前もだけど⋯⋯その、後ろの奴らも」

 

 

 水無月が立っている、そのさらに後ろ。

 もはや自分の足で立ってすらおらず、地面にうつ伏せになって倒れている二人の女子。彼女たちもグリモアの生徒だ。

 俺と服部が来た時、水無月はその二人を守りながら、タイコンデロガをも含めた複数体の魔物相手にその魔法を奮っていた。

 

 

「気を失ってはいますが、命に別状はねーはずです。ですが、交戦中、タイコンデロガの攻撃で巻き上げられた瓦礫に打たれたようでして⋯⋯」

 

「よりによって戦闘服でダメージ軽減が出来ない瓦礫か。クソッ⋯⋯で、お前は?」

 

「⋯⋯この程度、傷の内に入りませんよ」

 

「ホイ〇(裏声)」

 

「ホ〇ミじゃねーですよ、何勝手にウチに治癒魔法なんて使ってんですか! そんなことに魔力を回す暇があったら彼女たちに使ってくだせー!」

 

「うっせーなこのバカ、お前はまだ前線で指揮執るつもりなんだろ! 保健委員のとこまで行かねーんだったら、魔物がいない今の内に治しとくべきだろうが!」

 

 

 少なからず憤激した様子の水無月に声を返す。見たところ割と深い傷だったみたいだし仕方ないだろ! 痩せ我慢する時とマジでやべー時の区別は付けろっての!

 

 

「お二人とも。一応ココ、戦場ですから。気を緩めないでくださいよ」

 

「「警戒は解いてねーよ(ませんよ)」」

 

「⋯⋯お二人の様子は見ていると和むんですけどね。流石は組織の長、と言うべきですか」

 

 

 別にそんなんじゃないが。

 ⋯⋯と、いうか。

 

 

「和むっつーんなら、服部。お前ももうちょい笑ってみたらどうよ。最近のお前は無愛想で怖いぜ。短い間だったとはいえ、同じ組織に所属してた先輩だぜ? 可愛い笑顔を見せてくれよぉ」

 

「⋯⋯ふくいいんちょーが変わらなさすぎなんスよ」

 

「お。やっぱり副委員長(そっち)の方がしっくりくるな」

 

 

 仕方ないといった様子で苦笑を浮かべ、口調を昔のものに戻した服部に対し、俺も薄く口の端を上げることで応える。

 うーん、実に久しぶりに服部の笑顔を見た気がする。笑うと女の子の魅力って倍くらいに跳ね上がるよね!

 

 

「な、水無月。やっぱり服部は笑ってた方が可愛いよな?」

 

「いきなり何聞いてきてんですか、まったく⋯⋯。服部。この二人はウチと夏目で本部へ運びます。アンタさんは再び戦線の維持をお願いしますよ」

 

「了解です、生徒会長」

 

「女の子運ぶ時って、お姫様抱っこの方が良いかな」

 

「担ごうが抱き上げようがどっちでもいーですから。ほら、行きますよ」

 

「へいへい」

 

 

 呆れたような表情の水無月に促され、俺は二人の女子生徒のうち一人の体を担ぎ上げる。

 傷は全体的に打撲や擦り傷などの軽いものが中心のようだが、何せ気絶しているのだ。一刻も早く保健委員が待機している本部へと連れて行くべきだろう。

 そう考え、同じく女子生徒を抱えた水無月よりも先駆けて歩を進め出す。

 

 

「んじゃ、レッツゴー」

 

「⋯⋯軽いですねぇ」

 

「必要以上に重い雰囲気醸しても仕方ないしな。楽観的になってる訳じゃないし、油断もしてないが」

 

「それは見れば分かりますよ。それでも今のあなたは、不自然でない笑顔を作れている⋯⋯、それだけで、凄いんです」

 

 

 言わんとしていることがよく分からない。

 俺が視線で続きを促すと、水無月は肩を竦め。

 

 

「ウチはこれでも生徒会長として正確に戦況を把握し、冷静に学園生たちに指示を出しているつもりです。だからこそ分かる⋯⋯、そろそろ限界ですね」

 

「⋯⋯生徒たちが? それとも、風飛がか」

 

「両方ですね。本部に戻ったら、ウチは撤退命令を出します。ここから先の学園生たちの目的は風飛の防衛ではなく⋯⋯ただただ、生きること」

 

「ふぅん」

 

「⋯⋯失望しましたか? こんな、事実上の人類の敗北を認めるような判断を下したウチに」

 

「英断だろ。大体の生徒は既に満身創痍だし、死の恐怖に呑まれて、精神的に戦闘が困難になっている奴もいる。これ以上は無用な犠牲を生むだけだ」

 

 

 当初学園生たちに下された指示は、戦え。魔法使いに覚醒した身として、逃げて死ぬのではなく魔物と戦って死ね―――。

 正直、中々に酷な命令だったと思う。が、それほどまでに厳しく叱咤激励しなければ、そもそもこの場に来ていなかった者すらいたかもしれない。

 それほどに⋯⋯今の学園生たちの心は、傷つき、折れかけていたのだ。

 友人の死、衰えることを知らない霧の侵攻、日々強くなっていく魔物たち⋯⋯。

 

 

「むしろ、今も誇りと希望を持って戦い続けていられる野薔薇(のいばら)たちみたいなのが特殊なんだよな」

 

「⋯⋯⋯⋯誇り、ですか」

 

 

 そう、誇り。

 縋る希望すらほぼ見えなくなってしまったようなこの世界にて、野薔薇(ひめ)のような学園生を突き動かしているのは、ひとえに誇りや義務感などの、一見すれば命を賭けるには不相応であるような感情なのだ。

 そんなか細い感情の下、人類は戦っている。

 

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯俺も。

 

 

「夏目は」

 

「あ?」

 

「夏目は⋯⋯彰さんは。どうして戦うんですか? 学園生だから? 風紀委員長だから? 人類を救いたいから―――?」

 

 

 ⋯⋯⋯⋯。

 

 俺は女子生徒を担ぎ直しつつ、フハッと笑みと共に息を吐いて答えた。

 

 

「俺が死ぬ時になったら教えてやるよ」

 

「⋯⋯じゃ、一生言わなくていーです」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 サイレンの音が澱んだ空に響く。

 負傷者を保健委員たちに預けた後、水無月は風飛を守るのを諦め、学園生たちに撤退を促すためのサイレンを鳴らすように本部に残っていた学園生に命じた。

 本部の学園生たちもここで退却することとなる。

 このサイレンが鳴らされた以上、これは紛れもない生徒会長からの命令。街に市民が残っていようが、負傷した学園生や兵士がいようが⋯⋯原則として優先されるのは、戦場からの退却である。

 

 

「⋯⋯さて、夏目。アンタさんも学園生の例に漏れません。退却してください」

 

「お前はどうすんの?」

 

「ウチは⋯⋯私は生徒会長として、最後までここに残る義務がある。学園生全員が撤退するまではここに残りますよ」

 

「⋯⋯へぇ」

 

「前もって言っておきますが、あなたも残るだなんて言い出さないでくださいよ」

 

 

 なるほど、お見通しと。

 こうなると水無月は絶対に退かない。彼女が風紀委員長だった頃から芯の方は変わっていないのだ⋯⋯。

 俺は両手を挙げて降参の意を示す。

 

 

「わかったわかった。死ぬなよ?」

 

「ええ。必ず戻ってきますよ」

 

 

 煤に汚れた頬を拭いながら、拳を突き出してくる水無月。俺はそれに自らの拳を突き出して合わせ⋯⋯笑った。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「ふ―――――ッ」

 

「ゴォ⋯⋯ッ!?」

 

「えっ⋯⋯!? み、水無月生徒会長!?」

 

「この魔物はウチが抑えておきます。⋯⋯早く撤退を!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 風子の苛烈な声音に一瞬肩を跳ねさせたものの、すぐに負傷した肩を押さえながらその場を離れるグリモアの生徒。

 もう何度目になるだろうか、風子は彰と別れてから、ひたすらに魔物を自らの魔法で足止め、討伐し、その間に逃げ遅れた学園生たちを逃がすという作業に没頭していた。

 過度の魔力行使の影響で体が軋むが、まだ魔力は絞り出せる。その場に倒れたりしなければ、それで良い。

 

 

「誰か逃げ遅れた者はいますか! ウチはグリモアの生徒会長、水無月風子です! いるのなら早急に退却、避難を! それが不可能なら声でも何でもいいです、合図をください! ウチが助けます!」

 

 

 声を張り上げつつ、荒れ果てた風飛の街を風子は駆ける。途中小型の魔物を何匹か見かけたが、今は学園生を逃がすのが先決。無駄に労力を割いている暇は無い。

 声は返って来ない。

 瓦礫が散乱する道路を踏み締める度、凄まじいまでの不安感、寂寥感が襲ってくるのを感じる。心臓が引き絞られるような思いになる。

 生徒会長として。魔法使いとして。

 他の生徒よりも遥かに多く、大きい使命や義務感に縛られ続けてきた彼女は、前だけを向いて今まで戦ってきた訳ではない。ふと脳裏をよぎる最悪の未来や、目の端に滲みそうになる涙を、その度に必死で抑えつけながら戦ってきた。先の第7次侵攻で学園生が死亡した時は、一度だけ、本気で泣いた。

 水無月風子は普通の女の子と同じように、弱い。けれど、それ以上に強かった。

 だからこそ生徒会長になった。

 だからこそ戦えた。

 彼女を支える感情は生徒会長としての誇り、義務感。そして他でもない、学園への愛だ。

 

 ⋯⋯あとは、そう。

 

 ひどく個人的な感情なのだけれど⋯⋯、彼には生きて欲しいと思ったから、だろうか。

 

 と、そこまで考えた時、彼女は気付く。

 

 

「コォアァォォーーーーーーーーッ!!」

 

「―――空!? このサイズ、タイコンデロガとまではいかずとも⋯⋯!」

 

 

 上空からの強襲。

 ベースは鷲か鷹か、はたまた隼か。獲物を仕留めるためのみに特化したと思われる流線的なフォルムの魔物が風子へと突進してきた。地上にいるであろう学園生たちを捜索していた風子の対応が一瞬遅れる。そして、その一瞬が戦場においては命取り。

 

 

(間に合わ⋯⋯)

 

 

 ――――刹那。

 

 風子は紅い光を散らしながら、真横へと吹き飛ぶ鳥の魔物を見た。

 

 

「え⋯⋯」

 

「⋯⋯あっぶねぇな! どこ見てんだ水無月このバカッ! 俺がいなかったらどうなってたか分かんなかったぞ!?」

 

 

 そこに立っていたのは、赤熱した拳を構えながらこちらを叱責してくる見覚えのあるくすんだ黒髪の少年。継ぎ接ぎだらけのローブを翻しながら近づいてくる彼に、風子は⋯⋯。

 

 

 

 

 思い切りビンタをした。

 

 

「いってぇ!? な、何だお前この野郎、感謝されこそすれ、頬を張られる理由は無いぞ!」

 

「⋯⋯何で戻って来たんですか!」

 

「あぁ⋯⋯?」

 

「撤退指示を出すと言ったはずです! あなた自身が退却すると言ったはずです! ウチが何のために⋯⋯誰のために戦っていると!」

 

 

 激情のままにまくし立てる風子。

 ああ、こんなにも怒ったのはいつぶりだろうか。彼といるとどうにも感情的になってしまう。彼になら自分の深い部分を見せても良いという気になってしまう。⋯⋯させられてしまう。

 

 

「そんなに怒るなよ⋯⋯。仕方ねぇだろ、どうしても放っておけなかったんだから」

 

「⋯⋯何を、放っておけなかったんだって言うんですか」

 

「そりゃ、お前」

 

「⋯⋯⋯⋯ッ」

 

 

 いつも通りの間の抜けた表情でそう言う彰に、風子は顔を赤くする。それが羞恥によるものなのか憤怒によるものなのか、それは既に風子本人にも分からなかった。

 まるで力のこもっていない、弱々しい拳で風子は彰の胸を叩く。

 

 

「⋯⋯何なんですか、あなたは」

 

「何が」

 

「いつもいつも、ウチを惑わせて。こんな時でもあなたは変わらなくて⋯⋯。ふとした瞬間に、ウチはあなたに希望を見てしまう」

 

「⋯⋯ただ、感情が表に出にくいだけだ。少し強いだけの魔法使いがヘラヘラ笑ってるより、魔力を回復させてくれるポーションでもあった方が役に立つだろうぜ」

 

「ゲームじゃねーんですよ、この世界は。紛れもない現実(リアル)なんです⋯⋯ねぇ、彰さん」

 

「ん?」

 

 

 一際大きな爆発音が遠方から聞こえてきた。

 まだ学園生たちの撤退は済んでいない。が、いよいよこの風飛も末期⋯⋯、自分たちもそろそろ撤退しなければ危なくなるだろう。

 それでも今、言うべきな気がした。

 

 

「ウチはあなたのことが好きです。大好きです。ウチは今まで学園のために、人類のために戦ってきましたが⋯⋯、何よりウチは、あなたのために戦ってきた。あなたとずっと一緒に、生きていたいと思ったんです」

 

「――――」

 

 

 ああ。

 言ってしまった。

 こんな時に何を言っているんだと軽蔑されるだろうか。この場で突っぱねられ、叱責され返されるだろうか。それも仕方ない。当然だ。

 でも、でも⋯⋯。

 

 

 

 

 次の瞬間、風子は彰の胸に抱き寄せられていた。

 

 

「⋯⋯⋯⋯昔から、要所要所では気が合うよな」

 

「あ⋯⋯」

 

「俺も好きだよ、水無月。お前のことが好きだ。だから、生きよう。これからもずっと奴らと戦うことになると思うけど⋯⋯二人が一緒なら、絶望なんてしない」

 

「⋯⋯⋯⋯ふぁ⋯⋯彰、さん⋯⋯」

 

 

 駄目だ、泣くな。ここは戦場だ。気を抜くな。

 生徒会長になってからずっと抑えてきた涙が溢れ出そうになる。今まで溜め込んできたあらゆる感情を吐き出してしまいたくなる。

 

 でも⋯⋯きっと彼は。愛しい彼は、それすらも受け入れてくれるのだろう―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ド ズ ン

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――――――ッ!?」」

 

 

 地面が、揺れた。

 地震ではない。それだけは直感で察した。

 じゃあ何だ。こんな、一瞬で背筋が凍りつくような威圧感(プレッシャー)を伴った揺れなど⋯⋯!

 

 

「はは⋯⋯。マジかよ⋯⋯」

 

 

 そこで風子は、自らを抱き寄せたままでいる彰がある方向を見て、頬を引き攣らせていることに気付いた。

 先ほど彼が自負したように、彰はあまり感情を表情に出すタイプではない。そんな彼がここまでの表情を⋯⋯?

 訝りながら風子も彰と同じ方向に視線を向ける。

 

 

「⋯⋯⋯⋯! アレ、は⋯⋯」

 

「噂には聞いていたが、実在するとはな⋯⋯いや、信じたくなかったってのが正しいのか?」

 

 

 いつの間にか、そこには巨大な『壁』がそびえ立っていた。

 あまりの大きさに距離感が狂い、()()が今、自分たちから近いのか遠いのかすらも把握するのが困難。

 嗚呼、それはもはや伝説として語られていた、その脅威はタイコンデロガさえも軽く凌ぐとされる、最大最凶の霧の魔物。

 通称―――。

 

 

「ムサシ⋯⋯!」

 

「学園生たちを完全に逃がすには、少なからずアイツを足止めする必要がある。⋯⋯やれるか」

 

 

 彰が風子を放し、彼女への問いと共に臨戦態勢を取る。鍛え抜かれた肉体からチリチリと火の粉が舞い始めた。

 無論、答えは決まっている。

 

 

「とーぜんです。ウチはグリモアの生徒会長⋯⋯。そして、あなたの恋人ですから。離れませんよ」

 

「ハッ。なるほど。じゃあ―――行くぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人類の行く末は、暗い。

 

 けれど、彼ら彼女らは歩みを止めない。

 

 滅びゆくこの世界にて。

 

 彼ら彼女らは、愛と死を紡ぐ。

 




いかがでしたか?
自分なりに悲壮感絶望感を描写しようと努力はしましたが、いかんせん慣れていないものですから、自分的にもどこか綻びがあるように感じます。
とにかく、ついに原作の方でも裏世界とはいえ第8次侵攻が始まり⋯⋯、これからはずっと興奮しっ放しになりそうです。

では、今回はこの辺で。ありがとうございました! 感想待ってます!
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