良いんだよ、求めて   作:雫。

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諸星きらりは「それ」を知らない

「……きらりは、ほんとうにこんなに優しくしてもらっていいのかにぃ?」

 

そんな言葉が、弱音が、諸星きらりの口からついつい出てしまった。

 

ここは喫茶店。諸星きらりに対面して座っているのは、イケメンアイドルとして名高い東郷あいと木場真奈美。

 

「ふむ、私たちとしては特別に気を遣ったわけでもないが……」

 

「何か、気に障ったことがあったかな?」

 

「そ、そうじゃなくてぇ……」

 

きらりはこの日、あいと真奈美の二人とともに街に出ていた。理由は大したものではない。ただ、小物作りの材料を買おうと思った時に、二人の予定がちょうどマッチしていたから。一緒にハピハピ、その程度の考え。

 

でも、きらりにとっては初めての体験がそこには待っていた。ほんとうは、きらりが二人をハピハピさせようと思っていたのに。

 

東郷あいは、いつの間にか、動く気配すら隠して、車道側をキープしていた。電車の中で怪しい挙動の男が近くにくれば、何気なくきらりと男の間に割入って、男を萎えさせた。彼女は迷っていればすぐに、笑顔で何らかの選択肢も提示してくれた。

 

木場真奈美の手には、いつの間にか重い荷物があった。持ってくれ、なんて言わない。でも、力のあるきらりでも重いと思うものはいつの間にか、真奈美の手のひらにテレポーテーションしていた。真奈美は、きらりを笑う、或いは狙う者には冷たく鋭い視線を向けていた。何も言わない、それでも、絡もうと思った者は舌打ちをして何処かへと立ち去った。

 

こういうカタチで優しく、いや、これは本当に「優しい」という言葉で良いのかな? こうやって守ってもらえたことは、きらりには初めての体験だった。

 

「……きらりは、みんなよりちょっとおっきくて、だからきらりは、むしろみんなに気を遣ってもらうより、気を遣わなきゃいけなくて……なんな、守って? もらゆの、慣れなくて……」

 

きらりには、守られることがわからない。

きらりには、頼らせてもらうことがわからない。

 

身体が大きく、力の強い彼女は常に、自分こそが周りを傷つけぬよう配慮し、壊さないようにひたすら繊細に大きな手を動かし、そしてともすれば恐怖の対象になり得るその巨体を他者のために使うことを是としてきた。

 

否、使うことを強いられてきた。強いられていることを忘れてしまうほど長い間。

 

「あいさんと真奈美さんは、無理してないにぃ?」

 

だから違和感があった。あいと真奈美の接し方が、作られたものではないかと。

 

「私たちが、か……。いや、むしろ全くもって自然に接していたつもりだったよ。あいは?」

 

「私も同じく、だな。きらりくんをエスコートするのに、何の違和感も無ければ特別気遣うこともない。私は、私があるようにして、君に接していた」

 

「まあ、私としても君のことを恐れなきゃいけない理由は無いからな」

 

「私たちからしたら、君も普通の女の子だよ」

 

普通の女の子として接してもらえる。

別にそれを求めていたわけではない。

むしろ、そんなことは忘れていた。

普通の女の子として接してもらうには余りに厳ついきらりは、自分も周りも「ハピハピ」させることで、「諸星きらり」を一般概念が切り離すことに邁進して久しい。

 

「……あいさんと真奈美さんは、優しさをもらってゆ?」

 

「私たちが、か。はは、難しい質問をするな」

 

真奈美は自嘲気味の笑みを浮かべた顔の前で手を組んだ。

 

「まあ、察しの通り男扱いされることもあるよ。守ってやるような相手ではない、そう思われて別に悪い気がするわけでもないけどな。アメリカにいた時は一応レディーファーストの対象にはなってたようだが、あれは社交辞令だ。空虚なものさ」

 

「にょわ〜……じゃあ、真奈美さんも優しさを貰ってないにぃ?」

 

「いや、そんなことはない。私にとっては、社交辞令の延長にある優しさだけを受けても、それは私が私であることを担保し得るものじゃないからな。だが、私も幸せ者でね、自分を自分たらしめる強さ、それに正確に対応する優しさ、それをくれる人もちゃんといる」

 

「うーん、ちょっと難すぃ……」

 

「なに、難しく思うことはないんだ」

 

と、あいが続ける。

 

「例えば、私はアイドルをやるにしても、性別など関係無く、私という個人として人を魅了することを目指している。むしろそれこそが、何のフィルターもかかっていない、真の純粋な個人の魅力だ。もっと言うなら、〈イケメン〉という評価だって、性別や年齢に囚われなくてもいいと思う」

 

あいはそこまで言って、少しばかり身を乗り出してきらりに顔を近づけた。肩をすぼめて小さくなっているきらりの視界に、麗人と称されるだけある、神秘性を帯びた中性的な貌が広がる。

 

「魅力と優しさは、守りたいと思う心は、時として似ているんだ。『小さいから』『女だから』『弱いから』……そんなマニュアル化されたような基準で誰かに優しさを与え、守るよりは、その相手が欲している優しさを推察して与えたい。私はそうあろうと努力している。真奈美さんが言いたいのは、そういう風に君を守ってるに過ぎないから気にするなってことさ。君を見て、表面的な印象で優しさを与える選択肢を排除した者がいるなら、それはそうやって君と向き合う自信が無いからじゃないか?」

 

「うーん……なんとなくわかったけど……。じゃあ、どうしてきらりの……いや、きらりは……」

 

真奈美とあいが言いたいことはわかった。相手に合わせて優しさを、守りを変えることには慣れているということは。

 

でも、ここで疑問が生じた。だとしたら、私が必要としている優しさは、守りはなんなんだろう?

 

きらりが二人から受けたのは、ある意味で典型的な「優しさ」と「守り」だったと思う。しかしそれは一見、二人の言うような臨機応変さとは矛盾しているようで。

 

でも、きらりの中には確かな幸福感がある。真奈美が感じたような空虚感は全く皆無。

 

私は、私は何を求めているの……?

 

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