お待たせしました、今回から第二章スタートです。
というわけで立ち位置的には今回の話は第二章のプロローグみたいなものですね。
尚、瞬身の使い魔は全五章構成なのですが、第二章が全章の中でもっとも本質的にはほのぼのした章になりそうです。それではどうぞ。
PS、前回の閑話:シスイの1日ですが、読み直して誤字脱字他気になったので修正&1000文字くらい加筆しときました。
13話
……その日も、赤と青の双月だけが存在感を放つそんな静かな夜だった。
トリステイン魔法学院は、トリステイン中の貴族の子弟から外国の留学生まで受け入れているだけあって、まるで城のように立派で白く美しい造りをしている。
先代国王が崩御し、王が不在となってからというもの、ずっと国力が落ち目に傾き続けているトリステイン王国ではあるが、こうもこの学院が立派な造りをしているのは、外国にそんなことはないと、やはりトリステイン王国は偉大だと思わせる為だったのかもしれない。他の理由もあるかもしれないが、所詮、これは見得なのだ。
しかし、得てして貴族とはそういうものだ。
たとえ実際は借金で家計が火の車であろうと、そんなことはないと見得の為に贅を凝らし、借金を増やしていく。そうして富めるものとしての姿を見せることも、「この人の元なら大丈夫なのだな」と下に思わせるための、上の務めなのだ。
いかに金がないとはいえ、金がないですと大々的に宣伝するような真似を貴族がすることはない。そんなことをすれば平民に舐められるのが落ちだし、それに領民もまた、「こんな貧乏でいつ没落するかわからない貴族様についていって大丈夫なのか? 守ってくれるのか?」と不安を募らせるようになる。
要するに、如何に平民が贅を尽くす貴族に不満や嫉妬を抱いても、良い暮らしをしやがってとやっかんだとしても、それでも貴族は見栄を張って良い暮らしをしたほうが結果としてはいいのだ。住民たちの心の不満の捌け口にもなる。
そういう意味では、貴族の見得という奴は、馬鹿らしいが理に叶ったものといえる。
しかし、そのことを自身もまた生まれはかつて貴族だったが故に理解しながら、それでも、貴族を追われたが故に憎み恨む気持ちもまた消えそうにはない。
貴族という存在を、見栄と名誉の騙し合いばかりを繰り返しながら悠々と暮らす道化共の慌てふためく顔を、見て嘲笑ってやりたくてしょうがない。
この学院に対してだって、そうだ。
ここは貴族の為の学院であり、大人たちほど汚く染まりきっているわけではなくとも、ここにあるのは貴族社会の縮図だ。
ハリボテで着飾り、その実は膿み爛れたガキ共の楽園。
それを思えば、憎しみすら沸く。
自分が故郷に残してきた子供たちは、大切な『妹』は、きっと彼らの残した食い散らかしの残飯ですらご馳走に感じることだろう。それでさえ、眼を輝かせて喜ぶだろう。
……そのことを思えば、不憫でならない。
そうして益々己は貴族への憎しみを募らせていくのだ。
けれど、そんな自分の心を誰にも気付かれてはいけない。
何故なら、自分は……彼女は今、この学院で働く学院長の秘書という立場にいるからだ。
ミス・ロングビル。
そう呼ばれている。勿論、偽名だ。
翡翠色の長く美しい髪に、眼鏡のよく似合う理知的な瞳、出るところは出ていて女性らしい曲線を描く、スラリとした美女である。その顔に温和な表情を浮かべ、楚々として振舞う姿には生まれ故の品がある。
しかし、それら全ては彼女がこの学院に侵入する為に身につけた仮面でしかない。
本当の彼女は、そんな清楚な淑女などではない。
ミス・ロングビル。そんな名前よりもっと世間に通った呼び声を彼女は持つ。
そう、『土くれのフーケ』と。
彼女こそ、今巷を騒がせている貴族の屋敷にある高価なマジックアイテム専門の大盗賊である。彼女はその『錬金』の魔法とゴーレムを使って時には繊細に、時には大胆に色んなアイテムを盗みつくす。
そんなトリステイン中の貴族に恐れられている彼女の正体が、これまで白日の下に晒されたことは無い。おそらく政府はフーケの正体が男であるか女であるかすら知らないだろう。そのことをいい気味だ、と思う。
盗み自体は彼女の故郷で待つ家族を養うためでもあったが、貴族をターゲットにした盗みばかりを働くのは、これが彼女なりの復讐でもあったからなのかもしれない。大切なお宝を盗まれた奴らの間抜け面を見るたびにざまあみろ、と胸がすく思いがした。少しだけ彼女の心の慰めになった。
だから辞められなかった。
そして彼女は、次のターゲットにこの、トリステイン魔法学院を選んだ。
彼女がここに居る理由はつまりそういうことだ。
しかし、この学院に彼女が来てもう二ヶ月になる。いい加減オスマン学園長のセクハラにもうんざりしていたところだし、そろそろ貰うものを貰ってこの学院も後にしたいところだ。
そんなことを思いながら、彼女はこの学院にあるお宝が眠っている宝物庫のある塔のほうへ向かって歩を進めていた。
(? なんの声だい? これは……歌?)
今は深夜だ。夜も深い。こんな時間じゃ生徒どころか教師すら外に出たりしないだろう。当直の教師でさえ、学園の見回り業務をサボるということは彼女はとっくに確認済みだ。この学院の教師たちはこの魔法学院に賊が入るわけないと慢心し、安心しきっているのだから。
(じゃあ、誰が?)
聞こえるのは、宝物庫のある塔の辺りからだ。耳を凝らさないとわからぬほどには小声だが、よく通る成人した男の声で、聞き覚えの無い曲だが、どこか懐かしい郷愁を誘うようなそんな歌を唄っている。
(綺麗な歌だね……)
思わず、故郷に置いてきた『妹』の姿が彼女の脳裏によぎる。男が歌う曲の雰囲気やメロディがあの純粋無垢な『妹』を連想させたせいだろうか。
やがて進み出た先で、彼女はその歌の持ち主を見た。
それは見慣れない独特の黒いコートに身を包んだ、20歳前後の若い男だった。
塔の壁に背中を預け、目を瞑り、トントンと指でリズムをとりながら……まるで何かの楽器を引くときの動きみたいなものまで加えつつ、小さく歌を口ずさんでいる青年。
クセが強い黒い髪に健康的に少し焼けた黄色い肌。美形というほどではなくとも、そこそこに整った顔立ちに、しっかりとした体つき。このトリステイン魔法学院にあまりに似つかわしくない人物ではあったが、彼女は……ミス・ロングビルはその男に覚えがあった。
2度ほどすれ違っただけだが、確かその男は今年の春の使い魔召喚の儀式で、2年生のヴァリエール公爵家の令嬢に召喚されたとかいう傭兵の男だった。
人間が召喚されたなど、トリステイン中を廻った大盗賊である彼女ですら聞いたことがなかったが、元々ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールという生徒は魔法もまともに使えない劣等生だという話だ。おかしなこともあるもんだね、とは思ったが、召喚されたという男にも、召喚した少女にも興味はなかった。
しかし、何故この男はこんな時間にこんなところにいるのだろう。
ひょっとして主だという少女に部屋から追い出されでもしたのだろうか? そうだとしたら少し不憫だなと思いつつ、ミス・ロングビルは青年がいるほうに向かって足を進めた。
ピタリと歌が止まる。
そしてゆっくりと瞼が開かれた。それは夜の湖水のような、深く静かな黒い瞳。それにどうしてか、ドキリとした。その瞳が、どこかの誰かに似ているような気がしたからか。
いや、きっと気のせいだ。そう思い直すも妙に心が落ち着かなかった。先ほどまであのどこか懐かしさを感じる歌を聞いていたせいか、『妹』のことを思い出して感傷に浸っていたせいなのかもしれない。
やがて男はそっと微笑み、それから「こんばんは」とそう挨拶を彼女へと投げかけてきた。
彼女がやってきたことに対し、全く驚いたそぶりも見せず自然なまでに挨拶へと向かったあたり、おそらくはミス・ロングビルの存在に気付いていたのだろう。そのことに内心舌打ちしつつ、しかし長年の生活で培った演技力を駆使して、ミス・ロングビルもまた学園秘書としての柔らかな笑顔の仮面を被りながら挨拶を返した。
「こんばんは。確かあなたはミス・ヴァリエールに召喚された使い魔の方でしたわね」
「はい。うちはシスイといいます。ところであなたは……ミスえっと……」
「ロングビルです。オスマン学園長の秘書を務めておりますのよ。……とはいっても、わたくしは貴族の名を無くした身ですから、身分としてはあなたとそう変わりませんわね」
そういって微笑んでみせる。
ぶっちゃけミス・ヴァリエールが召喚したとかいう男に興味などこれまでなかったが、それでも噂ではなんでも二つ名持ちのメイジだが、身分が平民だという話であり、こうやって自分は貴族じゃないことを明かしたのは、ひょっとしてこの男も自分と似たような境遇持ちなんじゃないのかという、そんな親近感を少し感じたせいだったのかもしれない。
それに、今はほんの少しだけこの男に興味……というよりは関心を持っていた。どちらかといえば、男が口ずさんでいた歌に対する興味なのかもしれないが。なんだか、先ほど男の歌っていた歌が故郷の古い言語に似ていた気がしたのだ。
「そうですか。じゃあ、ロングビルさんとお呼びしてもいいのかな? 正直、ミスなになにとか、ミスタなになにとかそういう呼び方するの苦手なんだ」
そういって男も笑った。
見るほうがつられて笑いそうになるほど、なんだか子供っぽくて酷く人懐っこい笑みだった。
「それにしてもこのような時間に何故このような場所にいますの? まだまだ夜は冷えますわよ」
しかし、そのロングビルの質問に対し、男は困ったように頬を掻きながら「えっと……」と呟き、彼女を見上げて戸惑う。
「もしかして……ミス・ヴァリエールに追い出されましたの?」
「いや、そんなことはない。ルイズにはよくして貰っているよ。ただ、そうだな……うん、まあ月見だよ」
そういって男は言葉を濁した。なんとなく後半の言葉は嘘だなと思いつつ、しかしそのことを追求できるほどこの男と親しいわけでもない。結局彼女はその嘘を「そうですか」と本当のこととして受け入れることした。
「それよりロングビルさんこそ何故ここに? こんな深夜に女性の一人歩きなんて危険だし感心出来ないけど」
「わたくしは見回りです。それにわたくしとて魔法を修めた者の1人。自分の身は自分で守れますからご安心を」
「うーん。自衛出来るのはいいけど、そういう問題じゃなくてなあ……女性が危険な真似をすること自体どうかなあと思うって話なんだけど、まあ見回りってことはお仕事なんだし、しょうがないか。うん、お仕事ご苦労様です」
そういってペコリとシスイは頭を下げた。
(なんだか調子狂うねえ……こいつ)
そんなことを呆れた気分でそう思いながら、ミス・ロングビルは先の青年の言に引っかかるものを感じたことについて、言う。
「女は案外強いものですわよ?」
「うん、知ってる。結局は守りたいと思うのも、危険な真似をしてほしくないというのも男のエゴだから。でも強さとか関係なく、やっぱり危険に近づく真似はしてほしくないんだよ」
そういってまたシスイは笑った。
……やはり、調子が狂う。そう思いながらも、ロングビルは訊ねる。
「ひょっとしてそういう人がいますの?」
それはなんとなくだった。なんとなく、自分にかけられた守りたいや危険な真似をしてほしくないというのは、自分を通してみた別の誰かに対する言葉のような気がしたのだ。それに対し、苦笑しながらシスイは言う。
「うーん。いるっちゃいるし、いないといえばいないけど、そうだなあ……一番大事なものがあって、そのためなら結局それ以外を切り捨てることになってもそのこと自体は後悔しないけど、それでも出来るならさ、誰も切捨てないですむのが一番だし、誰が傷つく姿も見たくはないし、それが女子供だったら尚更……って、ごめん、わけわかんなかったよな」
そういって男は謝った。
「まあ、要はオレが嫌なんだ。この世に絶対なんてもんはないし、子供や女性が危険なことすんの。最悪の結果想像しちゃって気分悪くなるから」
そんなことを初対面同然の女を前に赤裸々に語るなど……ひょっとして、こいつは馬鹿なのだろうか。そう思いながら呆れの感情が湧き上がってくるが、なんとなくそんな綺麗ごとにもエゴ塗れにも聞こえる台詞を吐く目の前の男に対し、ロングビルは村の子供たちを少しだけかぶらせた。
そこで気付く。
(ああ、そっか)
何に似ていると思ったのか、ようやくわかった。
この男の黒い目は子供達の瞳に似ていたのだ。まっすぐな視線が無垢な子供を思わせたから、自分の手が汚れている自覚のあるロングビルは正視出来なくてドキッとしたのだ。
しかし、こいつは子供ではない。男は傭兵だという。メイジだという。……暗殺者のようだと、そう噂が流れていた。おそらくこいつは人殺しだ。きっと己とは同類だ。無垢であるわけがない。
その証拠のように、落ち着いて微笑む姿は子供というよりも、落ち着き払った大人の佇まいだ。それにリラックスしているように一見見えるが、隙がない。こいつはとんだ食わせ物だ。
しかし、どうしてだろう。先の男の言動が嘘には見えなかった。
なんだか、この男は見ていて奇妙な気分になる。矛盾していて、それが1つになっているような……無論ただの勘でしかないが、子供のような大人のような……いくつもの歯車をちぐはぐに掛け違えたまま大きくなったそんな、奇妙な違和感。
関らないほうがいいと勘が告げる。少しぐらいはいいのではないかと感情は言う。
だから、ロングビルは話しかけた。
「ねえ、先ほどの歌、わたくしにも教えてくれませんこと?」
それにいいよと男は無邪気に笑った。
* * *
今日もまた、夜が訪れる。
「それじゃあ、おやすみ、ルイズ」
「待って」
そういって、昨日や一昨日、その前の夜と同じように出て行こうとしている使い魔たる青年に対して、ルイズは静止の言葉をかけた。
……漸く、といったところだろうか。
明日で男を召喚してから10日となる。けれど、1週間以上もの月日、ルイズはその言葉をかけようとしてかけることが出来なかった。訊ねる勇気がなかった。
けれど、いつかは訊ねる問いだ。だから彼女は言葉を振り絞り、聞きたかったそれを訊ねた。
「どこにいくの?」
「どこって……眠りにだよ」
そういって曖昧に男は……シスイは笑う。
「うそ」
ルイズは男の言葉を一言で切って捨てて、それから心配そうな色を鳶色の瞳に宿して見上げながら言った。
「あんた、ちゃんと眠っているの?」
「…………」
男は答えない。ただ、曖昧な笑みを浮かべたままだ。
日中、男は明るい態度を崩さない。だけど、初日に見せたあの壊れた笑みをルイズはよく覚えている。あれほど参った顔をしていたのに、あんなにすぐ果たして何事も無く明るく振舞えるものなのだろうか? 当初は自分の劣等感をもてあますだけで精一杯でルイズは気付かなかったが、男は、シスイは変なのだ。そして一昨日、ルイズは気付いた。部屋で一緒に過ごす夜の時間、ふとした時に気付いた男の目の下の隈に。
そして、ギーシュとの決闘騒ぎ以来何故か自分に懐いてきた、自分の使い魔とも仲良くしている黒髪のメイドに本日尋ねて初めて知った出来事を合わせて、出た結果。
『え? シスイさんがどこで眠っているかですか? ミス・ヴァリエールのところじゃないんですか?』
シスイは、使用人宿舎で眠っていたわけでもなければ、使い魔用の家畜小屋のようなあの建物で眠っているわけでもなかった。
じゃあ、一体どこで?
睡眠は人間の三大欲求の一つだ。衣食住は人間の生活には欠かせない。
けれど、ルイズの部屋に泊まることもなく、使用人宿舎を使っているわけでもなく、使い魔用の小屋ですら使用していないというのならば一体どこで眠っているというのか。
「いつも、どこに眠りにいこうとしているのよ」
そのルイズの質問に男はややあってから答えた。
「どこって……使用人宿舎だよ」
「うそ。あんたが、着替えの時以外使用人宿舎を使っていないことは確認済みよ。なんでそんな嘘をつくのよ」
ルイズがそう詰め寄ると、シスイは苦虫を踏み潰したような顔をして顎を掻いた。
「ここで寝なさい」
「へ?」
「ここで寝泊りしなさいといったの。ご主人様の命令よ」
そういってルイズは怒鳴りつけた。けれど、内心は哀しいような情けないような感情でグチャグチャだ。どうして頼ってくれないの、どうして嘘をつくの、わたしはそんなに頼りないの、そんな感情でいっぱいのルイズに対してシスイは言った。
「それは駄目だ」
「どうしてよ!」
そういって怒鳴りつけてくるルイズに対して、シスイは少女を落ち着かせようというかのように、相手を落ち着けるのを目的とした類の微笑と穏やかで静かな口調を携えてから言った。
「ここは女子寮だろう」
「それがなんなのよ」
ルイズにはシスイの言わんとすることがわからない。そんなルイズに対して、ことさらゆっくり言い聞かすような声で青年は言った。
「ルイズ、オレは男だ。それも成人もしている。ルイズの部屋に通うこと自体はオレはルイズの使い魔だから黙認されているけど、泊まりここで暮らすとなるとまた別の問題が出てくる。男と女が一つ屋根の下ということはだ、襲うんじゃないかとまあ、そういう心配ごとが出て来るんだよ」
「は? あんた襲うの?」
多くの使用人に囲まれ大貴族の家で育ったルイズとしては、男の言い分はいまいちわからない。
何故ならルイズというより、大貴族の娘にとって、貴族の男は恋愛対象でも、平民は平民という生き物であり、身分の違う相手にどうこう思うこと自体受けてきた教育観的にありえないことだったのだから。
しかも「襲うかもしれない」云々を言うのがキュルケの色香にさえ揺らがなかった男なのだから、そんなことを言われても余計にピンと来なかった。
「いや、襲わない。っていうか、オレは恋人でもない女を抱きたくないし、学生やってる子供相手に欲情する趣味も無い。が、周囲がどう見るかはそれとは別問題なんだよ。ルイズはともかく、オレがいくら襲わない、手を出さないといっても、同じ屋根の下に男がいるなんて知ったら、他の女子寮に住む女の子たちが不安がるんじゃないか?」
確かに、襲わないといくらいっていても、実際接してみてそういうことしそうにない男だとしても、碌にこの男のことを知らず、寮に住まわせたらそういう不安を持つ層は一定出てくるだろうと、ルイズは思考した。なにせ、この男は平民とはいえ魔法も使えるのだ。無力なただの平民ならともかく、平民とはいえ魔法が使える相手じゃ不安を抱いて当然だろう。
そんな風に考えが及んだルイズに気がついたのだろう、シスイは「理解したか?」というと、纏めるようにこう告げた。
「だから、オレはこの部屋に住むことは出来ない。……悪ぃな」
そういってシスイは困ったように笑った。
きっとこのままだと男はまた出て行くのだろう。そうして背中を向けてこの部屋を後にするのだ。昨日や一昨日、その前も同じだったように。
この部屋に泊まれない理由はわかった。それでも、納得できるわけがなかった。
だって、この男は使い魔なのだ。
たとえこの男が元の世界に帰る方法を見つけるまでの短い期間の主従だろうと、それでもルイズが主で、この男はルイズの使い魔なのだ。
だから、ルイズは叫ばずにはいられなかった。
「じゃあ、あんたはどこで眠るのよ!」
それに対して、男は言った。
「心配しなくても、この学院内にはいるし、眠っているよ。言ったろ? オレは傭兵なんだって。眠りなんて、屋根さえあればそれで十分なんだよ」
まあ……眠れるのは3日に1度くらいの割合ではあったが、けれど本当ではなくても嘘ともいえないことをそうさらりと返して、シスイは告げた。
「だから、心配しなくてもいい。だけど、心配してくれてありがとうな」
そういって幼い妹にするように、シスイはルイズのピンクブロンドの髪をくしゃりと撫でてから「おやすみ」と声をかけ、ルイズの部屋を出て行った。
「ッ!」
ポスリと枕を男が出て行った扉に向かって投げる。枕は虚しく地面に転がって、勢いが止まる。その姿がまるで自分と男の関係のようで、知らずルイズの目尻にじわりと涙が滲む。
「バカ……」
言葉に声が返ってくることは無かった。
続く
次回予告。ギーシュ登場するお。