瞬身の使い魔   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
今回の話はギーシュ回というわけで、割りとコメディチックな話の予定だったのですが、冒頭がこんなんであるあたり、相変わらずしーたんはめんどくさい子のようです。
まあ、めんどくさくないしーたんなどしーたんではないが。あとしーたんはツンデレではなくヤンデレなので悪しからず。
それでは、どうぞ。


14話

 

 

 シスイがこの世界に来てから10日の月日が流れた。

 10日で異世界に順応できるか、といわれたらまあたいていの奴は無理だろうと言えるし、シスイ自身なんでもない風を装ってはいるが、完全に順応できているかといわれたらそうでもない。

 しかし、表面上は大分この学院ともこの世界の人々とも打ち解けていたし、忍びとして色んな任務を受けてきた過去のお陰か、表面上はなんでもないように振舞えているとは思う。

 とはいえ……自分が碌に眠れて居ないということに、まさかこの世界での主であるルイズが気付いていたとは思っていなかったが。しかし、そういうポカをしてしまうあたりからして、やはり自分は以前の自分を再現仕切れて居ないのだろう。

 だが、この感傷や自分の心の澱みを表に出したところでどうなる?

 悪夢に魘されて眠れないんです、など口にすることさえ馬鹿らしい。

 そもそも悪夢のキッカケは自分自身が生み出したものであり、悪夢の正体は自身が過去に実行した出来事の再現でしかないのだ。1番を守る為にそれ以下を切捨てたのはシスイ自身の判断だったし、そのことについては後悔はしていないというのに、泣き言を言う資格などあろうはずが無い。

 一族を殺した自分が殺した人々に謝る資格もないし、赦される資格もないし、赦される気もない。そもそも自分は確かに彼らを愛してはいたが、同時に憎んでもいたのだ。

 どうして里からの一族に対する扱いへの不満をクーデターなんて手段に訴えようとしたのだと、恨む気持ちはいまだに胸にくすぶっている。彼らに対する情と憎悪どちらもが本物だった。その時点で、うちは殺しという任務は己にとっては私怨も同然と成り果てた。

 醜すぎて反吐が出る。

 だから毎夜訪れるこの悪夢は当然の報いだ。寧ろ、この悪夢を見なくなった時のほうが……彼らを殺した時の感触と光景を忘れてしまう時が来てしまうほうが余程怖い。

 そうあれから10日だ。一族を殺した日でもあり、イタチと別れた日でもあり、ルイズにハルケギニアへと召喚された日でもあったあの日から10日が経った。それをたかが10日というべきか、もう10日も経ったのだというべきかはわからない。

 ……初日に『うちはシスイ』に言われたように、おそらくこの世界に留まった方が楽なのだろうとそういう考えが全くないとはいえない。

 あの世界で一族殺しを行い里を抜けたシスイに待ち受けているのは、犯罪者として生きる道だ。おそらく既にもう指名手配は済んでいるだろう。それは別にいい。イタチを犯罪者にするくらいなら自分がなったほうがずっとマシだ。

 そうして追われる者として生きながら、里にとって有害であり、イタチを将来火影にするのなら邪魔な奴らを片付けたいという思いもあった。それはきっと、里所属の忍びとしてよりも犯罪者として動いているときのほうがやりやすいだろう。

 大局が動き出すのは5年か6年は先だ。それまでは準備と時の問題で抹殺リストに載せた人物達が大きく動くことはないだろう。だからそれまでに何年もかけて準備を進め……なにせ殺したいと思っているやつらはどちらも自分より余程格上の存在だ。きちんと準備してかからなければ犬死するだけで終わるのが関の山だ、でタイミングを見計らって、第四次忍界大戦なんてものを起こされる前に葬ろうと、そう計画していた。

 しかし計画を実行に移す以前に、里を抜けた直後に己はルイズによってこの世界に召喚された。

 元の世界では一族殺しと里抜けを犯した犯罪者として今頃指名手配されている身分ではあるが、この世界にシスイが過去何をしたのかを知るものはいない。

 本来なら里抜け直後にシスイにかけられていただろう追っ手も、世界を超えてまでやってくることはない。それは積極的に彼の命を狙うものはこの世界にはいないということである。

 この世界にシスイの罪を知る者はいないのだ。

 そのまま過去を忘れ、この世界で生きるほうがどう考えても楽だろう。シスイが将来里とイタチにとって障害になるとして殺したいと思う相手だってくどいようだが己より余程手強い格上の相手だ。何年もかけて準備したところでそれらすべてが無駄に終わり、犬死にする可能性だってかなり高い。

 シスイが自身の生存を望むのならあの世界になど帰らぬほうがずっといい。ルイズの使い魔を務めているほうがずっと安全なのだから。

 それでも、そんなことシスイ自身が赦せなかった。

 イタチを火影に……木の葉の里を治める里長としたい。それがシスイの夢だ。正確にはイタチの治める里で笑う子供達の姿を見たいというのが願いだが、彼にとってはどちらもその願いは同じことだ。

 その障害を削りたい。自分の命と引き換えにしてでも、里にとっての危険物を消したい。そのために自分の命を使いたい。この目も、万華鏡に目覚めいつか失明するだろうイタチのために残したい。そのために、大局が動き出す前にはあの世界に帰りたい。そうでなければ、なんのために彼らを……第二の家族といえるうちは一族の人々を皆殺しにしたのか、わからなくなるではないか。

 そう思っているのに、それでも、己は本当に甘い。

 

 自分にとって優先順位一位が変わることはない。それは己の夢そのものでもあるから、譲る事は出来ない。その障害になったなら二位以下だって切り捨てよう。

 それでも、出来るなら、それ以外も守れる限りは守りたいと思っている。拾えるものを見過ごす真似はしたくない。それも捨てたくない理由は他人の為ではなく、自分のために、だ。酷いエゴイストだ。自己中心的過ぎて反吐が出る。

 本当は誰にも死んでほしくないなんて、誰が悲しむ姿も見たくないだなどと……もしも一番と天秤にかけられたら即座に切り捨てるくせに、よくもまあ図々しくそんなことを思うものだ。

 誰でも守れるほどこの手は広くもないし、自分は強くも無い。それを知っていながら、己は望むのだ。救えるものは救いたいと、見捨てずにすむものならそうしたいと、それはまるで強迫観念のように。

 ルイズの使い魔を引き受けたのも、つまりはそういうことだ。

 彼女のためなんかじゃない、自分のためだった。

 確かにいつかは帰らなければいけない。どんなに長くてもこの世界に居座れるのは3年が限界だ。それ以上留まる事は自分の目的に対する妨げになるため、そこは譲ることが出来ない。けれど、急いで帰らないといけないほど事情が切迫しているわけでもなければ、数ヶ月ほどあの世界から消えることが出来るのなら寧ろ追っ手を撒けて好都合ともいえる。

 それでも初対面同然の人間を前に甘える気はなかったし、いつかは去ることが決まっている奴が使い魔なんてものを引き受けてどうすると思ったから申し出を一度は断ったが、一度使い魔を召喚したら別の使い魔を召喚することは出来ず、契約出来ないのならルイズは留年してしまうという話を聞いて気持ちは傾いた。いや、もしかするとこれも強迫観念だったのかもしれない。

 自分の一生をあの小さなご主人様に捧ぐことはどうしても出来ない。だから引き受けるべきではないと思った。しかし、別に今すぐ帰らないといけないほど事情が切迫しているわけでもないのだ。むしろ半年ぐらいあの世界から消えることが出来たらそのほうが都合がいい。

 一生仕えるのは無理でも彼女の進級のために半年一緒にいるぐらいなら、元の世界に帰る方法を探しがてら無理ではないはずだ。なのに見捨てるのか、と、留年がキッカケで彼女の将来が滅茶苦茶になったらどうするのかと、人一人の人生を滅茶苦茶にしても何も思わないなんて外道だな、最低の屑だと、そんな風に囁く己の心の声に負けたというだけの話だ。

 それがルイズの使い魔を引き受けた真相だ。

 これを、自分のためといわずなんという。

 そう、正直に言おう。

 己は弱い。

 どうしようもなく、弱いのだ。

 たとえ前世より肉体頭脳両面においてスペックが高まっていようと、心まではそうはいかない。結局己はいつまでたっても弱い人間でしかない。

 ゼロと蔑まれ続けようと、1年以上に渡る周囲の嘲笑から気高く耐え続けたルイズのほうがずっと強いだろう。

 結局己は子供の頃から……前世からも何も変わっていない。誰かに何かに依存せずにはいられない、そんなどうしようもない人間だ。任務であればいくらでも切り捨てられるのに、一番が秤にかけられたのなら見過ごせるのに、そうでなければ出来ないなどと、とんだお笑い種だ。強迫観念で起こした行動など偽善ですらない。自分の心の平穏を手にしたいがために、おこしているだけの行動なのだから。

 そんなことを思う。

 だが、ルイズに気づかれたのはいい機会なのかもしれない。

 悪夢に魘されるのは当然の報いだから受け入れるにしても、睡眠が短いというのは、思考能力の低下を招くよくない傾向だ。あまり長引けば今以上にルイズに心配をかけることになるだろう。

 だから、たとえどんな夢を見たとしても、どんな状況でも眠れるようにこれから慣らしていこうと思う。とにかく、もうルイズに己の不調を見破られないようにしないと。

 

 そんなことを思いながら、シスイは今日も自分とルイズの2人分の洗濯物を取り込んでいた。

 嗚呼、今日も良い天気だ。よく乾いている。

 そう思いふっと頬を綻ばすシスイの元に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

「君っ」

「ん?」

 その声にシスイは洗濯物を抱えたまま少年のほうへと視線を向ける。

 そこに立っていたのは、フリルがあしらわれた白いシャツに、胸元に造花の薔薇を模した魔法の杖を収納している、ゆるりとウェーブを描いた金髪が眩しい気障な優男風の少年だった。

 その少年にシスイは見覚えがあった。

 確か、少年の名はギーシュ・ド・グラモン。グラモン伯爵家の四男坊と名乗ったか、二つ名を青銅といい、ルイズのクラスメイトである少年であった。

 シスイがギーシュを知ったのは9日前のこと。

 女の子に二股をかけ、それがバレて振られたのをメイドのシエスタのせいにして、そんなギーシュを見たルイズと口論を起こし、決闘騒ぎを起こした少年だったか。結局、決闘相手はルイズからシスイへと替わり、教育的指導代わりの軽い幻術をかけて気絶させてあの時は事件を終わらせたはずなのだが、いったいなんの用なのだろう。なんだか真剣なブルーの瞳で僅かにギーシュよりも背の高いシスイを見ている。

 そんな少年の様子に首をかしげながら青年は問うた。

「確か……ミスタ・グラモンだったかな。オレに何か用でもあるのか?」

 噂によれば、あの日気絶から目覚めたギーシュは目覚めるなり、自分が泣かせた女の子たちに土下座をして回ったということだった。勿論、シエスタの元にも謝りに現れたらしい。まあ、それでもギーシュの自業自得を自分のせいにされた過去を忘れることは出来なかったようで、謝られたところでシエスタの中では自分に謝ってくれたギーシュ株より、自分を庇ってくれた(とシエスタは思っている)ルイズ株のほうがよっぽど高いようだが。

 まあ、そんな余談はおいといて、そんなギーシュの土下座行脚によって「貴族が軽々しく頭を下げやがって」と一部の人間からの侮蔑を集めたらしいが、逆に女の子たちからの好感度はそれで上がったそうで、今ではミス・モンモランシーとは元鞘に収まったらしく、教室でも仲睦まじそうにやっている。まあ、フラフラする男はけしからんが、1人に決めたのならいいことだ。

 とまあ、そんな感じであの事件のことを回想しつつ、しかしなんで自分に話しかけてきたのだろうと不思議に思いながらギーシュを見るシスイを前に、ギーシュは黒の青年にとって予想外なことを言い出した。

「君、僕に戦い方を教えてくれないか!?」

「へ?」

 

 突然といえば突然すぎるギーシュの発言に、「とりあえず、どうしてオレに教わりたいと?」と最初っから話すよう促したシスイを前に、ギーシュは次のようなことを言い出した。

 曰く、僕は君との戦いで如何に自分が愚かなことをしていたのか気がついた。

 曰く、ドットとはいえ、僕もメイジの端くれだ。なのに君が何をしたのか気づかなかった。

 曰く、君は身分こそ平民だがメイジで傭兵で実戦経験があるそうじゃないか。あんなふうに傷ひとつつけずに勝利出来るなど余程の凄腕に違いない、武門の家に生まれた者として是非ともご教授願いたい!

 とまあ、ギーシュが言い出した内容はそんな感じで、青い瞳をキラキラさせながら彼はそう語った。

(いやいや、美化しすぎだろう……)

 それに思わず脱力した気分でシスイはそう思った。

 ぶっちゃけ、自分はギーシュとまともに戦ってなんていない。こちらとしてはあれはただたんに女の子を泣かせた最低二股野郎に対する制裁基、お灸を吸えただけというその程度の認識だったのだ。

 いや、まあ確かに忍び暦は9年だから、約10年近い実戦経験があるので、実戦経験もないただの学生のお坊ちゃん相手に負ける気はしないのも確かだが。ていうか、忍び暦10年近い上忍なのに学生に負けた日にゃあ流石になけなしのプライドも傷つくってもんだ。へこむどころじゃない。なのでシスイのほうが強いのは過去の積み重ねであって、ある意味当たり前のことだったのだが……だがまあ、こうして向上心を秘めた瞳を見るのは、悪くない。

「つまり、強くなりたいと」

 だからシスイはギーシュにそれを尋ねる。

「ああ、そうだ。僕は強くなりたい」

「それは、なんのために?」

 その質問に、ギーシュは迷うことなく答えた。

「父や兄達……グラモンの家名に恥じないように、守りたい人を守りたいときに守れるように、だ」

 その少年のまっすぐな言葉に思わず、シスイの口元が綻んだ。

「……うん。悪くないな」

 そういって、よっと声を軽くかけながら洗濯物を抱えてシスイは立ち上がった。そうして背を向けるシスイを前に、あせるような声でギーシュが言葉をかける。

「それで、ミスタ・シスイ。引き受けてくれるのか? 僕はまだ返事を聞いてないぞ」

「その呼び方やめれ。オレは貴族じゃないんだ、むずがゆい。それと、指導すんのは別にかまわないけどうちのお嬢様に先に許可を取ってくれ。オレは彼女の使い魔だからな。でないと筋が通らないだろう」

「! ああ、そうだな。確かにそうだ。行ってくる」

「それと生憎オレはこれから仕事が入っててな。忙しい。だから許可が下りたなら7時半にヴェストリの広場で待っててくれ」

「わかった」

「じゃな、ギーシュ」

 そういってドサクサ交じりに下の名前を呼び捨てて、悪戯な笑みを浮かべながらシスイは広場から去っていった。

 

 

 * * *

 

 

 結果をいえば、ギーシュの希望は叶えられた。

「で、うちのお嬢様は見学を希望と?」

「そうよ。だってわたしの使い魔を貸すんだもの。悪い?」

 ……ただし、ルイズの見学付きで、という条件がついていたが。

 まあ、けれど彼女の言には一理ある。シスイはため息を1つ吐くと「まあ、いいや。危なくないよう下がっててくれ」といってそれを受け入れた。

 そしてギーシュの元の向かおうとしている自分の使い魔に対してルイズは、「ねぇ」と潜めた声で疑問を放つ。

「ん? なんだ?」

「……いいの? なんでなのかわたしは理解出来てるとはいえないけど、あんた自分の魔法知られたくないんでしょ?」

 そういって見上げてくる鳶色の瞳にはこちらを心配する色があって、それにシスイはルイズは良い子だなあとしみじみ思いながら言った。

「いや、別に指導するだけなら問題はないよ。あくまでオレがするのは実戦に基づいたアドバイスをするだけなんだし」

「そう」

 そういってどこかほっとしたような顔を見せるルイズに、基本的にこの子は戦いや争いは嫌いなんだろうなとシスイは思う。確かにルイズ自身自覚しているようにちょっと意地っ張りなだけで、本質的には優しい子なのだ。

 ともかく、もう一度ルイズに下がっているよう口にしてから、シスイはギーシュの前まで赴いた。

「それで、どうするんだい?」

「んー、まあ前回は結局見れなかったからな。とりあえずお前の得意な魔法、全力でオレにぶつけてみろ」

 そう飄々とした顔と声でシスイは言った。その言葉が予想外だったのだろう。ギーシュは一瞬ポカンと目を見開いて驚きに固まる。

「どうした?」

「いいのかい? 後悔してもしらないよ」

 ギーシュはメイジとして最下位ランクのドットメイジだ。しかし彼が一度に動かせるゴーレムの数は7体いるのだ。そのことをシスイは知らないのかもしれないが、それでも複数のゴーレムを相手に杖を構えもせずにかかってこいというなど、流石に舐めすぎなのではないかとギーシュは思った。

 そんなギーシュに向かってシスイは言った。

「かまわない。それに言ったろ、オレの二つ名は『瞬身』だって。回避は得意なんだ」

 それを挑戦と取ったのか、ギーシュは造花の薔薇を振った。

 それが地面についた途端、青銅製の甲冑を着た女戦士型をしたゴーレムが7体現れる。大きさは人間の等身大ほどだ、それがギーシュの「行けっ! ワルキューレ」という指示に従ってシスイの元へと向かう。

(ほう、こりゃすごい)

 何もないところからこんなアンティークじみたものを作り出したこの世界の魔法に、シスイは素直に感心する。だが……。

「甘いなあ」

 そんな暢気な声を上げて、ひらりと一体のワルキューレの頭部を掴んで青銅製の『彼女たち』のコブシを回避する。そんなシスイの行動を前に、別の戦乙女が別の個体の体を打ちのめし、二体のワルキューレが折り重なって倒れていく。

「ほい、ほい、ほい」

 後の光景はまあ、言うまでもない。

 シスイは全てのワルキューレの攻撃をなんでもないように避け続け、ワルキューレはシスイを倒そうと挑みかかっては別の個体を攻撃して崩れていった。

 因みに二つ名を『瞬身』だと改めて名乗っておいてなんだが、この手合わせにおいてシスイは一度も瞬身の術を使ってはいない。寧ろ忍術やチャクラすら使ってない。やったのは回避行動だけだ。それもルイズやギーシュがちゃんと自分の動きが見えるように、スピードに制限をかけての回避だけだった。

 そして最後の一体もシスイの足払いで倒れていった。

「な、なんでだ。どうしてあたらない?」

 ギーシュとしてはまさか、相手にかすり傷すら与えず終わるとは思ってなかったのだろう、動揺した声でつぶやく。そんなギーシュに近づいて、シスイは言った。

「そりゃあ、あれだよ。動きが単調すぎるからだよ」

 それからまるで教師のような顔をしてシスイは語った。

「7体もの人形を同時に動かせるのはすごいと思うけどな、だからこそ一体一体の動きが散漫になっている。それにせっかく多くの人形を使えるってのに全部同じ性能なのももったいない。用途に分けて使い分けるほうがいい。というか、甲冑はつけてんのに、なんで武器を持たせてやらないんだ? そうだな、女形の人形であることにこだわりがあるんなら、あまり重い装備にはしないほうがいい。戦場での死因の多くは飛び道具だ。そのことから弓を持たせて遠距離攻撃を磨くというのも手かもしれないな。矢はお前が練成してすぐ渡せれるし、ゴーレムに囲まれていたらお前も安全だろう。それから実用性を考えるなら……」

 

 そんな風にギーシュのゴーレムを改造するならどうするか、戦術は、戦略はと、あーでもないこうでもないとギーシュ相手に話を続ける自分の使い魔を見ながらルイズは思った。

(楽しそうよね……あいつ)

 実際今のシスイはとても生き生きとしている。ギーシュに何か尋ねられ、それに答えるたび緩んでいる口元にあの男は気づいているのだろうか?

 というか、こうしてみるとまるでシスイは教師か講師のようだ。ならば、さながらギーシュは勉強熱心な生徒といったところだろうか。実際、あの2人の雰囲気はそんな感じだ。

 楽しそうに、笑っている。

 それにどうしてこうほっとしているんだろう。やがて、話は終わったのか30分ほどしてギーシュとシスイは己の元へ帰ってきた。

「ルイズ、君の使い魔はすごいね!」

 そういってなんだか目を輝かせながらワクワクした顔でギーシュはルイズに声をかけた。

 そんなギーシュを見上げ、次に自分の使い魔へと視線を移しながら少女は言った。

「そうやってるとあんたってなんだか先生っぽいわよね。慣れてるっていうか、なんで?」

「え? そ、そうか?」

 シスイはひょっとしてハメを外し過ぎたかと思いながら、ルイズの問いにそんなとぼけた返事を返す。そんなシスイをじと目で見上げながら少女は言う。

「あんた、本当に傭兵?」

「いや、そうだけど」

 そう答えながらも、シスイは妙に鋭いななんてことを考えてた。

 ほんの数週間前までシスイはアカデミーで幻術の臨時教師として時には教壇に立っていたのだ、先生っぽいというのも当然といえば当然だった。それに、シスイは上忍として3人の担当下忍がついていた。彼らを指導教育するのはシスイの役割だったし、ギーシュとの話し合いはついその担当下忍だった忍たまっこ3人組との日々を思わせるそれだった。

 彼らもよくどうすれば強くなれるかシスイに相談を持ち込んだし、シスイもまたどうやれば彼らが強くなれるか一緒に考えては課題を与えたりしたものだ。そのせいで強くなりたいと教えを乞うてきたギーシュに対し、話に熱が入ってしまったのかもしれないと考えていた。

「ま、いいわ。あんたが秘密主義なのは今更だし、そこは追求しないであげる」

「は、はは、ごめん。助かる」

 そういって苦笑するシスイを前に、ルイズはため息を1つ落としそれから言った。

「それにしてもあんたって人の面倒見るの好きね。楽しそうだったわよ、すごく」

「ああ、それは僕も思ったよ」

(え?)

 ルイズの言葉にうんうんと同意するギーシュの貴族2人を前に、自分ではそんな自覚はなかったシスイは動揺しながら反射的に言葉を返した。

「べ、別にオレは子供の面倒見るの嫌いじゃないけど、好きってほどじゃないし! そんなんじゃないし! 楽しそうだったとか気のせいだ!」

 ……もっともそんなことを顔を照れで真っ赤にしながら言ったところで説得力などないのだが。

「ははは、君は意外と照れ症なんだね」

「いや、あんだけ楽しそうにしといて何言ってるのよ? ツンデレ? ツンデレなの? そうなの? わたしとキャラ被る気なの?」

「だー!!! オレはツンデレじゃねえ! てか、なんでそうなるんだよ!」

「うーん、ツンデレはレディだけで十分かなと僕は思うけどねえ」

 からかっているのだか本気で言っているのだかイマイチわからないルイズ、顔を真っ赤に染めてちょっぴり涙目で叫ぶシスイ、そんな誰も聞いてねえよな意見をしみじみと語るギーシュ。なんだかカオスだった。

「ていうかさ、あんた前からさりげなくわたしたちのこと子ども扱いしてくるけど、そういうあんたはいくつなのよ」

「あ、それは僕も聞きたいな」

 ふと変わった話題にキョトンとしながら、シスイは答えた。

「18だけど?」

 それに、別の意味でルイズとギーシュは固まり、そして叫んだ。

「はぁ!? あんたわたしと2つしか変わらないじゃないの!? それでわたしを子ども扱いしてたっての!?」

「僕と1つしか変わらないのか!?」

「んなに驚かなくてもいいだろ……。それに、学生は十分子供で通じると思うぞ」

 そんなことを首をかしげながらいうシスイを前に、ルイズははっとした顔であることを思い出した。

「待って……あんた、確か学生やってる子供相手に欲情する趣味も無いとか言ってたわよね。ひょっとして熟女趣味?」

「え!? そうなのかい!?」

 なんて可哀想なやつなんだ、若い蕾の良さがわからないなんてといわんばかりのギーシュの視線を前に、シスイは慌てたような声で叫んだ。

「別に熟女趣味ってほどじゃねえよ。オレはただ単に18歳から30歳くらいの女性が好きなだけだ!」

「十分年上趣味の熟女趣味じゃないの! 何、行き遅れ? 行き遅れの女性が好きなの?」

「君……可哀想な男だね……」

 そう口にするギーシュの瞳には同情の色がたまっていた。

 その晩、シスイがルイズにからかわれ続けたのは言うまでもない。

 

 

 続く

 

 

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