今回はまあある意味ルイズによるしーたん分析回ですね。
有能な筈なのに頼りにならない駄目人間(暴走尽くし系ヤンデレ)それがしーたん。……一応戦闘では頼りになるはず、多分。因みにへたれに見えても奴はへたれとは真逆の人種(のほほんとした顔して周囲を振り回す系男)です。
それではどうぞ。
PS,因みにやつは前世では非童貞だが現世では童貞というか勃起不全予備軍(本人無自覚)だ。
時刻は夜の8時半を過ぎた頃。
「あー、おっかしい」
あれから男子寮に戻るギーシュとも別れ、しかしその間ずっとシスイをからかいつつ、彼と共に自室へと引き上げたルイズであったが、現在ルイズは朗らかな顔でそんな言葉を楽しげに言い放ちつつ、ぼふりと自身のベットに体を預けていた。
笑った、笑ったという態度をとってもうおしまいのような声を上げているが、その割に彼女の口元はまだ笑い足りないようににやついている。
そんな主を前に、彼女の部屋の隅でその使い魔である青年はいじけた態度を取りながら背中を向けていた。
けれど図体はでかいのにまるで子供みたいな、そんな態度を取る彼がおかしくてたまらないというように、ルイズは未だにやついた口元のまま含み笑いを隠そうともせずに言う。
「しっかし、あんたが行き遅れ好きとはねー。「30歳の女性が好き」なんて公言するようなやつ、始めて見たわよ」
というか、ルイズの知る限りそんな奴に出会ったのはこれが始めてだ。
そもそも20歳を過ぎて未婚なだけで行き遅れ、25を過ぎたら年増扱いが当然のこの世界で、好みの女性の年齢が18~30歳くらいだ、と公然と言い放つのだからまあルイズの反応も当たり前と言えば当たり前だろう。
少なくとも、ルイズの持つ常識では女の結婚適齢期は15~20歳くらいであり、男が好み付き合いたがる年齢というのも、それくらいの女だという認識だったのだから。多めに見ても上限は25歳くらいまでだろう。
しかし、そんなルイズの発言がグサリとシスイの心に突き刺さる。
(なんでだよ、エヴァだったら綾波やアスカよりもミサトさんのほうがたまらないだろ。ナルトだったら紅さんだろ。30歳近くてもいいじゃねえかよ……)
とか思ってしまうのは、元々彼の精神面の故郷が平均寿命80歳越えの日本だったせいなのか。
(それに、30手前の何が悪いんだよ、それくらいのが艶や落ち着き出てきて、魅力的だし女盛りじゃんか……)
とはいっても、それくらいの年齢の女性も好ましいと思っているだけで、実際にシスイが三十路手前の女性と付き合ったことはない。
前世での初恋は隣に住んでいた大学生のお姉さんで、前世で高校時代に付き合っていた人生初となった彼女は2歳ほど年上の先輩で、大学時代付き合っていた人生最後の彼女は同級生だったというのが彼の女性遍歴である。両親の死後は愛だの恋だのを考える精神的余裕もなければ、最後の数年はそんな欲求もどこかにすっかり消えていたためあとは空白だ。
まあそんな後年はともかく、彼が過去に付き合ったり惚れたりしていた人々ってのは、悉く20歳前後くらいの年齢だったのである。因みにうちはシスイとして生きてきた現世においては、許嫁はいたが恋人はいたことはないし、作りたいとも何故か思えなかったためそういう意味で好きな人は現時点ではいない。
が、それはそれとして、自分の好みがおかしいと、変だと言われるのは傷つくものである。
故にムスッとした顔で彼は言う。
「行き遅れ好きとかゆーな」
拗ねた声音で憮然とそう答えるシスイであったが、ルイズとしてはそんな子供っぽい反応がまたおかしくてたまらないらしく、再びかみ殺せない笑いを漏らしつつ、プククとルイズは笑う。
(意外とからかうと面白いのよね、こいつ)
正直初めは、出会いが出会いだったのもあって、こんなからかい甲斐のある性格をしている奴とは思っていなかったが、当初はルイズにあれほどの劣等感を植え付けたとは思えないくらいに、有能に見えて案外この男は変なところで抜けていた。
というか、フワフワしているというべきか。
有能なことは有能なんだが、どこかのほほんとしているというか、天然というか、とにかく世間慣れしているようで何かズレているのだ、このうちはシスイという男は。
仕事はきっちりやるようで、そういった面で不備を見せることはないし、手際もよくて気がまわるにも関わらず、ルイズに少しからかわれるだけで顔を真っ赤にして反論したり、子供みたいに拗ねたりいじけたり、コロコロ変わる表情はなんだか面白くて見ていて飽きない。そのくせ、鍛錬中やギーシュへの指導中などははっとするくらいには落ち着きと安定感があるし、まったく、大人っぽいんだか子供っぽいんだかよくわからない男だ。
まあ、今の姿は子供っぽいとしか言いようがないが。
有能なくせに、どことなく危なっかしい男である。人によってはそういうところに母性本能をくすぐられるるのかもしれないが、少なくともルイズから見たら有能なんだから頼りになるはずなのに、頼りがいのない男というか、からかって遊ぶ分にはいいけど寄りかかりづらい男だなとまあ、そんな評価をつけざるを得ない。
しかし一方で、でもだからこそ年上好き宣言に初めは吃驚かつ笑ったけれど、本人の申告通り、年下や同年代の女性よりも年上女性とのほうがあっているのかもしれないなとも思う。
世話焼きで気がまわるわりに、表情豊かで子供っぽくてどこか浮世離れしてて危なっかしい感じがするから、そういう精神的に己を支えてくれそうな、母性豊かな姐さん女房タイプのほうが付き合う相手には向いているのだろう。
年下が相手だとそういうところで甘えにいきにくいんだろうなというか、年下に頼られたらほいほい引き受けて自滅していくタイプなんだろうなということは、10日という短い付き合いながらルイズも察してはいた。故にこいつに必要なのは頼り甘えてくれる女じゃなくて、甘えさせてくれる女なのだろう。
(それにしてもこいつ、ホント感情豊かよね)
ルイズも感情豊かなほうだが、こいつほどじゃないわ、と彼女は思う。ちょっとしたことですぐ照れたり拗ねたりするあたりとか、見てて面白いが、本当にこんなんが強いのかしら? と毎度思ってしまう姿だ。いや、実際鍛錬の様子見たり、ギーシュへのアドバイス聞いたりする限り強いのだろうけど。
そうだ、ギーシュといえば……。
「それで? あんたはこれからもギーシュの奴の相手するつもりなの?」
とそれまで部屋の隅でいじけて拗ねていた態度を取っていたシスイであったが、話題が変わったからか、そのルイズの言葉に反応して青年は表情を切り替え、「向こうが望んで、ルイズが構わないならな」とそんなふうに答えた。その顔は穏やかだが真面目そのものであり、落ち着いた物腰は先ほどのガキくさい態度とは裏腹に実年齢以上に大人びている。
(……さっきまで顔を羞恥で真っ赤にしたり、拗ねたり、いじけたりしてたくせに切り替え早いわね、こいつ)
そう思いつつも、そこを追求していたらいつまでたっても話が進まなさそうな気がしたので、ルイズはそんな感想を心の中で止めて、先の話の続きについて問う。
「そう。具体的にはどういったことを教えるつもりなの?」
「んー、とりあえず身を守れる手段を幾通りか覚えさせるのが第一だな。次に、想定外の自体や実戦に出されたときにちゃんと体が動くように、とっさに動ける体作りをメインにやっていこうかと思ってる」
「ちゃんと体が動くようにって?」
「予め習っていたとしても、本番で体が動くかどうかは別問題だからな。脳内シミュレートと現実は違う。戦場で新兵が使い物になる確率なんてそう高くない。どれほど覚悟してても、いざというときはパニックになって訓練通りの行動を行えない確率が高い。で、パニックに陥った奴ほど死ぬ確率もまたでかい。だから、オレの殺気に慣らしたり、勿論寸止めにするつもりだけど、オレの攻撃を受けて貰って、それを回避させることを通じて敵から攻撃を受けた際にも動じず適切な行動を取れる体作りにもっていこうかと」
そういって、「ま、いくらメイン武装がゴーレムとはいえ、何があるかわからないんだし、折角の軍人志望なんだ。同時に体作りもさせるつもりだけどな」と更にそう付け加えると、シスイはうんうんとなにやら1人頷いた。
そんな男をゴロリとベットに体を横たえたまま行儀悪く見上げて、ルイズは訊ねた。
「なんていうか、地道ね。もっと、こうドカンと派手な魔法を教えて解決とかないの」
その主の言葉に、シスイはどこか呆れたような顔をすると、それからこめかみのあたりを押さえつつ言う。
「あのさ……ルイズ、お前さ、千里の道も一歩からって言葉知ってる? 結局の所、いざというとき役立つのはそういう地道な日々の積み重ねなの。楽しようと考えるんじゃない。そもそもそんなことを思って相手を舐めきっている奴に限って死ぬの。大体そんなドカンと簡単に敵を楽々倒せる方法があんのならオレが教えてほしいくらいだわ」
そんなシスイの言葉に、面白くなさそうにルイズは呟いた。
「何よ、使えないわね」
「へいへい、悪かったですね。どうせオレは小細工無しでいけるほどは強くありませんよ」
そんなことをどこか拗ねたような声音でシスイは口にするが、彼の強くない発言にルイズは密かに眉を顰め考える。
こいつが自分のことを強くないと考えているらしいのは召喚した初日の夜から変わらないわけだが、それでもルイズが見るかぎりこれほど強い奴には出会ったことはほとんどないのに、なんで平然と自分は弱いとも聞こえるそんなことをいうんだという気分になってしまう。
今日だってそうだ。あのギーシュの作り出した7体のゴーレムの攻撃を一撃すら食らうことなく、魔法すら使うことはなく、ただ避け続けるだけでゴーレム自身に自滅させるなんて真似をしたが、ルイズの知る限りあんなデタラメな身体能力の持ち主などこいつの他には知らない。しかもこいつは超余裕で、ゴーレムの相手をするのに息を乱してすらいなかった。
魔法に関してだって、ルイズの知る限りこいつはスクウェアクラスの技をなんでもないように使って見せた。おまけにその走りはドラゴンのように早い。あんなスピードを生身で出せる時点で人間とは思えない。
これで強くないなんてなんの詐欺なのよと彼女が思っても仕方ないだろう。少なくとも、ルイズの周囲にはシスイのようなスペックの持ち主はいないのだから。……まあ、破壊力と魔法力だけならルイズの母も規格外な強さではあったが、それはそれ、これはこれである。それにルイズの母は紛う事なき最強が一角だ。
(小細工抜きでも充分あんたは強いでしょうが。それにこのわたしの使い魔なんだから、もっと自分に自信持ちなさいよね)
まあ、ルイズの不満はようはそういうことだ。
故に今度は少女がムスッとする番だった。
しかし、変なところでよく気が回るくせに、主のそんな感情の変化に気付いていないのか、「ああ、そうだ」と些か呑気にすら感じる口調で青年は自分のお願い事を口にする。
そんな使い魔を前に、ルイズも自分が抱いた不満を押し殺して、主としての顔で青年の言葉を聞き受ける。
「ルイズ、悪いんだが、使い捨て用のダガーを何本か補充してもらってもいいか? 安物で構わないから」
「ダガーが欲しいの? あれ? でもあんた、持ってなかったっけ?」
ルイズは当然のように何度か自分の武装の手入れを行うシスイの姿を見ている。
その中にはルイズから見てみたら変わった形をしているなーと思う、短刀らしきものの手入れをする姿だってあるのだ。にも関わらずなお願いに首を傾げながらルイズが問うと、青年は苦笑しながらこう答えた。
「あることはあるが、オレが欲しいのは使い捨て用だからな。今だけの量じゃちょっと心許なくてな。何があるかわからないし、有事を想定してもう少し増やしておきたいんだ。ちょっと……情勢がきなくさいようだし」
そんなシスイの脳裏によぎるのは、口寄せ契約動物や自身の目や耳を使って収拾した情報によって得た、この国を取り巻く現時点での各国の情勢だ。
土くれと名乗る盗賊の活躍に貴族が怯えているらしいとは聞くが、それよりもこの国とは王族が縁戚関係にある同盟国だというアルビオンとかいう国の状況が中々やばそうだったので、ひょっとするとこの国もなにかしらアルビオン関係で飛び火が来て巻き込まれるかも知れないなと、そう考えていた。
とはいえ、学生として学院という閉鎖空間に住んでいるルイズにはそのあたりのお国事情はわからないだろう。シスイの危惧をわかっているとは思えないが、それでもルイズはあっけらかんとした口調でこんな返答を返した。
「まあ、いいわ。使い魔に必要なものを買ってあげるのは御主人様の務めだし。普段からあんたは真面目に働いてくれているしね。安物といわず、それくらい買ってあげるわ」
「ありがとう、ルイズ。助かる」
それに素直に礼を告げ、シスイが笑いかけると、ルイズはそんな青年に対し少し照れくさいような満更でもないような顔を見せつつも、得意げに指を立てながら澄ました態度で次のようなことも言った。
「そうね……それに次のユルの曜日には『フリッグの舞踏会』があるし、ついでにあんたの式服も買ってあげる。わたしの使い魔がそんな貧相な格好じゃ格好がつかないし」
その言葉に青年は少しだけ遠慮がちに戸惑うような声で訊ねた。
「いいのか?」
「いいのよ、お金はあるんだし、こんなの必要経費よ。その代わり、ちゃんとエスコートしなさいよ」
「わかった。尽力はする」
そういってコクリとシスイは頷いた。
そんな従順な青年の態度に、ルイズは満足そうに笑みを浮かべると、明るい調子で言い放つ。
「さ、もう寝ましょ。明日は虚無の曜日だし、街には明日連れてってあげるわ」
「明日起こすのはいつもと同じ時間で良いのか?」
その質問に少しだけ考えこんだあとルイズは答えた。
「うーん、折角の虚無の曜日なんだしもう少し寝ていたいけど、王都まで馬で3時間かかるしね……」
「なら、いつもと同じ時間のほうがいいかな。しかし、馬に乗るのか……」
「なによ、文句あるの?」
そんな風にむっとした顔をして問うルイズを前に、シスイは彼女にしてみれば意外な言葉を返した。
「いや、ただオレ馬に乗ったこと殆どないんだよな……ちょっと心配になっただけ」
その言葉に吃驚してルイズは問う。
「え? あんたないの? 馬に乗ったこと」
家事から戦闘までそつなくこなせるこの男が、馬にも乗ったことがないというのが意外で思わず少し大きな声になる。そんなルイズを前に、また照れくさくなったのか、ほんのり耳元を赤く染めながら、シスイはポリポリと頬をかきつつ言った。
「だって、オレの場合馬に乗るより走るほうが早かったし。経験なくてもしょうがないじゃん」
その言葉に呆れたような声でルイズは言う。
「馬より早いあんたがおかしいのよ。それに、いくら速くても王都まで走って移動は流石のあんたでも無理でしょ。第一、あんなの他人に見られたら、異常者に思われるわよ。わたし、そんな理由で注目集めるの嫌よ」
……いや、馬で3時間の距離ならルイズを抱えていても余裕で走れるんですけど。とは思うが、実際に口にすることは自重して、シスイは従順にルイズの言葉を前にコクリと頷いた。
まあ、確かに……馬より速く走れても当たり前な忍びが大量にいるあの世界と違って、ここハルケギニアでは己のような存在はおかしく思われて当然なのだろう。魔法が使えるといっても、どうやら身体能力自体はこの世界の魔法使いは普通の人間と大差がないようだし。それに目立つことはシスイとしても本意ではなかった。
「わかった、馬で行こう。ただ、オレは乗馬経験殆どないから、遅れたとしても大目に見てくれると助かる」
その妙に真面目な顔をして放たれた宣言を前に、ルイズはやけに愉快そうに笑って言った。
「いいわよ。御主人様の乗馬テクニックを見せて上げる。こう見えて乗馬には自信あるのよ」
そういって少女は悪戯そうにウインクを1つした。
そうこうするうちに次の日はあっという間に来た。
そして昨晩話したとおり、どうやらシスイに乗馬経験が殆どないというのは事実だったらしい。
ルイズが先行して時折悪戯に馬の速度を上げれば、それに慌てて追従しようとして悪戦苦闘する、時折馬の反応に驚いて鬣にしがみつく、馬に鞭を入れるのをおっかなびっくりやる、とまあそんな素人丸出しな青年の姿にルイズはなんだか愉快な気分になってしまった。とはいっても、1時間も馬を走らす頃には大分慣れてきたのか、ぎこちなさだけは随分と削がれて一応見るに耐えるものとなったのではあるが。
そして現在、彼のルイズの使い魔はぐったりとした顔で、気疲れしたように駅に預けられる馬とお別れをしていた。
「情けないわねー」
「ほっとけ……」
そう茶化すように言いつつもルイズは上機嫌だった。
(なんでも出来る奴だと思ってたのにね)
それがルイズの率直な感想である。
そう、ルイズが知る限り、この男は大抵のことをそつなくこなすことが出来る。
洗濯から、部屋の掃除にルイズの着替えの手伝いに至るまで、彼女がシスイに駄目だしをしたことはない。否、する必要もなかった。それくらいこちらが求めればキチンと応えるのがこの男だった。更にあの黒髪のメイド……シエスタといったか、彼女がいうには、厨房仕事についてもそつなくこなしているらしく、大体1人で1,5人前くらいの働きをやってのけているらしい。手先が器用でよく気がつくから重宝しているのだそうだ。
しかし、なんでも出来るのはいいがそれではルイズが面白くない。
確かに無能と有能じゃ有能なほうが嬉しいに決まっているが、雑務だけでなく戦闘や魔法まで自分よりもずっと出来ると知っていれば、これが嫉妬せずにいられるだろうか。何もかも自分より優れる使い魔なんて嫌すぎる。それじゃあ御主人様の存在意義はどうなるのだという話だ。1つくらい勝てるなにかが欲しい。
けれど、なんでも出来るように見えて、この男とてやはり出来ないものはあったのだ。少なくとも、乗馬の腕に関してなら、この青年よりも自分のほうがずっと上だ。そのことに密かな優越感を覚える。ああ、なんて気持ちがいいのだろう。これほどさっぱりした気持ちはこの男を召喚してから、否、魔法学院に入学してから始めてかもしれない。
(まったく、馬に乗れないなんてこいつも可愛いところあるじゃない)
そんなルイズを見て、シュンとシスイはうなだれている。その姿はなんだか小動物っぽくてつい慰めてやりたくなる。故にルイズはフォローのようなからかいのような言葉をかける。
「もう、いつまで落ち込んでるのよ」
「落ち込んでない」
そう言いつつも、むすっとした耳元は赤い。
釣り目がちの黒い瞳は伏せ気味で、きゅっと眉間に皺をよせながら垂れている眉といい、その雰囲気といい、ある動物を何故か彷彿とさせる。なので、ルイズはそのままの感想をストレートに吐き出した。
「なんかあれよね……あんたって図体はでかいくせに、子犬っぽいわよね」
「はい?」
突如として変わった話題と、思わぬルイズのしみじみとした感想に、吃驚したように青年は顔を上げた。そんなシスイの心を知ってか知らずか更に少女はこう続けた。
「なんか思わずいじめたくなるというか、つつきたくなるというか……そのうち、犬耳と尻尾生えてきたりしない?」
「生えるかっ! 何言ってんの!?」
そういってズザッと距離を取る青年を前に「冗談よ、冗談」といってカラカラとルイズは笑った。
(いや、わりとマジな目してましたけど!?)
とシスイは思うが、生憎それを口に出していうほど彼は命知らずではなかった。
「さ、それより早く行きましょ。あんまりモタモタしていると日が暮れるわよ」
そういって少女は笑うから、青年もまだ心にひっかかるものはあるものの、まあいっかと思ってつられて笑った。白い石造りの街はもうすぐそこだ。
そうして門をくぐる。
そしてルイズとシスイの2人はトリステイン王国の城下町へと足を踏み出した。
続く
次回、王都編。