お待たせしました瞬身の使い魔2話です。
因みに予定のほうですが12話まではギーシュ編であり、そこにたどり着くまではしーたんとルイズは互いに本当の意味で向き合うことはない以上ギーシュ編自体がプロローグみたいなものですが、そんな感じで宜しくです。
「ウチハシスイ?」
コルベールは不思議そうな声を上げて男の名前をオウム返しに返した。
「変わった名前ですね」
そう少し興味深そうに告げる目の前の男に対し、シスイは淡々とした感情を抑えた声で簡潔に「うちはが一族名で、シスイが名前だ。シスイでいい」とそう答えた。
それにコルベールは家名があるのなら、やはり貴族なんだろうか……それとも、家を継げず暗殺業についた貴族の家の二男、三男なんだろうかと思ったが、それ以上詳しいことを今聞き出すのもお門違いだと思ったので「そうですか」とだけ言ってその話をおしまいにした。
ピンクブロンドが印象的な少女……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは大きな不安に身を包まされていた。
それは彼女が本日召喚した使い魔……まだコントラスト・サーヴァントを済ませていない以上、使い魔候補と呼ぶべきか、とその呼び出された相手に対するトリステイン魔法学園教師ジャン・コルベールの対応の仕方も問題にはあったのか。
自分以外の生徒達は皆使い魔を無事呼び出し契約を交わした。
だというのにも関わらず、自分が呼び出したのは貴族には見えないクセに、ただの平民とも思えない……触れたら崩れそうな眼の、血の臭いを纏った男で、しかもまだ契約が出来ていないのだ。
つまり、このうちはシスイと名乗った男は、使い魔にするためサモン・サーヴァントで呼びだした相手ではあれど、まだ自分の使い魔ではない。
そして、この男が危険なのか、そうでないのかもよくわからない。
素人でもわかるほどの血の臭い……おそらく目の前の男は今し方誰かを殺してきたのだろう。人殺しを恐れる気持ちはヴァリエールの娘としては少々情けないがルイズにはある。争いも殺人も忌避するものだという感覚がある。意地っ張りで気が強く見られがちだが、ちょっと不器用なだけで彼女は優しい子なのだ。
だが、おそらく誰かを殺してきたのだろう、この呼び出した男が果たして殺人鬼なのか? それはわからないのだ。
何故ならどんな場面から男がやってきたのかルイズは知らない。勿論男の過去や経歴、職業も知らない。
何故血の臭いを纏っているのか理由を知らないのだ。
知らないのに初対面の相手に、血の臭いがするからと、人殺しだからと、事情も知らず軽蔑するのも何かが違う気がする。ルイズは貴族であり、公爵家の一員だ。国の為に貴族が働きその結果血で手を汚すことがあっても当たり前だと思ってたし、彼女自身の母もまた『烈風のカリン』と呼ばれおそれられた一流のメイジだったのだ。わざわざ尋ねはしないがおそらく彼女も人を殺めたことがあるだろう。その烈風のカリンの娘である自分が、初対面の相手に人殺し、と糾弾する資格はないだろう。
快楽殺人鬼や野党盗賊の類ならばまた話は別だが、仕事で殺したのかもしれないし。
しかし、人を殺すというのは大変なことだ。
まず、平民は魔法が使える貴族に敵わないが、メイジ同士でもランクは様々だ。無傷で複数の人間を殺害するというのは達人でもなければ難しい。
この男はメイジか、もしくはメイジ殺しなのかもしれない。
平民が魔法を使える貴族に敵わないというのはルイズの中だけでなく、この世界ハルケギニアにおいては常識といってもよかったけれど、それでも中には魔法を使えない平民ながら魔法を使えるメイジ相手に対抗できるものが稀にいるという知識くらいはルイズの中にもあった。……まあ、本当に実在すると思うかと問われたら半信半疑だが。
それでも、実際にいるとしたらこんな奴じゃないのかと、ルイズは前をコルベールの後に続いて歩く男を見ながら思う。
召喚されてすぐの頃のあの壊れたような大笑いはなんだったんだと聞きたいほどに、今の男は大人しい。
そうして静かに歩く男を暫く見てて気付いたのだが、一緒に歩いているにも関わらず、この男足音が全くしないのだ。気配もない。目の前にうちはシスイと名乗ったこの男の姿が見えず、血の臭いもなかったら、コルベールと自分の2人だけしか、この場にいないのではないかと錯覚してしまいそうだ。
しかし、これから自分はどうなるのだろう。
コルベールはこの男に対し、「ミスタ」と呼びかけた。平民に対してならばコルベールが相手にミスタなどと呼びかけることはないだろう。つまりは、目の前の人間は貴族……あるいはその名を無くしたメイジである可能性が高いと、そうこの中年の教師が判断したということなんだろう。
メイジがメイジを使い魔にする。
そんなこと果たしてあり得て良いのか?
もしかしたら、このままコントラスト・サーヴァントを行うことは出来ず、自分は使い魔を得ることも出来ずに、そのまま留年してしまうのではないか。下手すれば退学……そんな可能性もないとどうしていえる?
そんなことになったら、母に、父になんていえばいい?
怒られる、なんてレベルじゃ済まないだろう。もしかしたら、見捨てられるのかも知れない。
失望したと、ヴァリエールの名を汚したとそんな風に思われてしまうのかもしれない。
そうなれば自分はおしまいだ。
使い魔のいないメイジなんてメイジじゃない。
貴族じゃないメイジは世の中いても、メイジじゃない貴族なんていない。
確かに自分は今まで魔法を失敗し続けてきた。どんなに練習しても、杖の振り方から呪文の唱え方さえ完璧に諳んじて見せても、それでも何故か自分の魔法は爆発という結果しか残さなかった。
それでも、自分は、誇り高きヴァリエール公爵家の娘なのだ。だから、たとえどんなに周囲に笑われても、いつか魔法を使うということを諦めたことはなかったし、諦めたくもなかった。魔法が使えない分、せめて心だけでも気高く誇り高くあろうとし続けてきた。ヴァリエールの娘として恥ずかしくないように、父と母の名に恥じないように。今は無理でも、いつかは……その時の為に。
だけど……使い魔さえいない、魔法を何1つ満足に行使出来ないメイジは果たして魔法使いといえるだろうか?
確かに強力な使い魔を欲していたけれど……こんなことならただの平民を召喚するほうがマシだった。
マイナス方向にどんどん進む自分の想像を前に、ルイズはまるで自分が世界に拒絶されているようなそんな錯覚に陥っていた。
オールド・オスマンはこのトリステイン魔法学院の学園長であり、トリステインきっての偉大な
深い皺と真っ白な長いヒゲに長い白髪に大きな杖が彼に貫禄を与えている。
……が。
「ふむ、水色か」
使い魔であるネズミのモートソグニルを、美人秘書である緑髪に眼鏡を掛けた知的な女性……ミス・ロングビルのスカートの下に忍ばせている時点で色々と台無しだった。
次の瞬間ミス・ロングビルはグシャリとオールド・オスマンの使い魔であるハツカネズミを踏みにじる。それに年寄りながらも心だけは若い学園長は悲鳴を上げた。
「あぁー! モートソグニルッ! これ、ミス、酷いとは思わんのか!?」
「なら使い魔にパンツを覗かせるのをやめてください。そして仕事してください」
にっこりとした顔で告げられたそれはつけいる隙がないほどにクールそのものだった。
やがて、書類をもってミス・ロングビルは学園長室を退出した。そんな秘書のつれない態度にやれやれと水煙管を吹かせながら、クルリと壁にかかった大きな鏡のほうへ振り向きぼやくように言葉を落とした。
「やれやれ。ミスは怒りっぽくていかんのぅ。と、そうじゃ。そろそろ春の使い魔召喚の儀も終わりに差し掛かっているじゃろう。どれ一つ様子でもたまには見るかのう」
そういって、オスマンは杖を一振りした。すると壁にかかった大きな鏡にこの学園長室とは別の光景が映し出された。
この鏡は『遠見の鏡』と呼ばれているマジックアイテムであり、これさえあれば学園内のあらゆる場所の情報を見たいと思えばすぐに見ることが可能という優れもののアイテムだ。使用者であるオールド・オスマンの意志を汲み取り鏡は使い魔召喚の儀式を生徒達が執り行っている丘の様子を映し出した。
先ほどは軽い調子で生徒達の様子でも見るかと口にした彼だったが、その眼は存外に真剣だ。もしもこの場に先ほどのミス・ロングビルがいたのならば、普段オールド・オスマンのセクハラ被害にあってばかりで彼への見方が軽蔑にどんどん偏ってきている彼女もきっと別人か、おかしなものでも食べたのではないかと驚いたところだろう。
しかし、何故たかが召喚の儀式ぐらいでそんなに真剣になっているのか?
それは予感があったからだ。勘といっていい。なんとなく、今年の召喚の儀式はいつも通りにはならないだろうというそんな、長い時を生きた老人としての勘だ。
そしてそこに映し出されたのは、何度もサモン・サーヴァントを行っては失敗して爆発を繰り返しているルイズの姿だった。それに思わずオールド・オスマンは拍子抜けした。
「ったく、ミス・ヴァリエールは何をやっているんじゃ……」
思わず呆れながら腕を組む。
オスマンから見て、ルイズ・フランソワーズという生徒は、由緒正しいヴァリエール公爵家の娘であるにも関わらず、魔法も碌に使えない無能なメイジという判断だった。確かに座学は学年一位だし、本人なりに一生懸命頑張っているのだろうが、結果を出せなければ意味がない。だから特別に何か思うような生徒ではないはずなのだが……この胸騒ぎはなんなのだろうか。
やがて、何十回目の失敗だったのか、とうとう桃色髪の少女は何かを召喚した。
それを目にした途端オールドオスマンの持つ雰囲気が変わった。
出てきたのは見たことのない黒い装束に身を包んだ異様な風体の黒い青年だ。
それを見て、やがてオスマンは呟いた。
「これは荒れそうじゃな……」
そして件の人物がこの部屋にたどり着いたのはこの20分後のことだった。
シスイは移動がてら簡単にいくつかの情報をコルベールと交換しあっていた。
「ふむ、では君自身は平民と?」
「ああ、そうだ」
彼がこの世界……『ゼロの使い魔』世界とでも呼ぶべきか、について覚えていることは少ない。
せいぜい覚えているのはピンク色の髪の少女がヒロインで、彼女は伝説の系統らしいとか、主人公は伝説のなんとかで剣使いだったとか、薔薇もった奴と盗賊かなんかと戦っていたとか、ヒゲの裏切り者がいたとか、盗賊の妹が巨乳エルフだとか、零戦が出てきたとか覚えているのはそれくらいのものだ。
他でせいぜい覚えているのは中世ヨーロッパっぽい世界観で、魔法使える奴=偉いで、通貨が金貨とかぐらいでそれ以外のことは本当に全く覚えていない。15年以上前に読んだ小説の知識なのだ、これだけでも覚えていただけマシなほうだろう。
この世界のことについて彼は殆ど何も知らないといっていいのだ。
因みに盗賊の妹が巨乳エルフとか本筋に関係ないのにそこを覚えていたのは彼が巨乳好きとかではなく、彼にゼロの使い魔を勧めた友人がただ単にその巨乳エルフっ子(名前は覚えてない)の大ファンでよく話を聞かされていたせいで印象に残っていたというだけの話である。
なので、コルベールから得た知識を元に、色々情報を整理して自分の身分を作ることにした。
そもそも少ない断片知識から物事を判断し推測して固めるというのは、忍びとしてある種必須の能力だ。
彼はNARUTO世界で15年生きてきたし、9年間も忍びとしてやってきたのだ、この辺は職業柄彼にとってさほど難しいことではなかった。
その結果、作った設定が祖父がメイジであり、自分が魔法を使えるのは祖父に教えて貰ったから。魔法は使えても自分自身の身分は平民であり、傭兵ギルドに所属している傭兵で、任務中に召喚された。東方の魔法なのでこっちとは魔法体系が違うという設定にしていた。
何故こんなややこしい設定にしたのか。というのも彼はNARUTO世界で育ち、チャクラと忍術を使えるからだ。
人間、自分が知りもしない概念を理解するのは難しい生き物なのだ。だからシスイはNARUTO世界での常識をわかりやすくこの世界の常識に置き換えて説明したほうが手っ取り早いと考えた。
チャクラ=魔力で、忍術=魔法と表現したほうがわかりやすいだろう。実際問題としてファンタジーという観点で見るならこの二つはよく似ている。チャクラにせよ魔力にせよ、体内で育まれるものであり、血で受け継がれ誰でも気軽に使えるものというわけではないというところや、魔法が使うための触媒に杖が必要なように、忍術を使う媒介に印が必要なこと、魔法にしろ忍術にしろ属性というものがあり、使えるのは基本的に相性の良い属性くらいのものだ、ということなどがそれだ。
そして、忍者の仕事についてなのだが、この世界のもので表現するのならば傭兵が1番役割に近いのではないのか、そう判断したから彼は自分を傭兵なのだと説明することにしたのだ。
というのも、忍者の仕事は多岐に渡るが、要人の護衛や暗殺から、暗号を届けることや潜入任務、果ては戦争の参加までそこには含まれている。そして金をもらって依頼人から請け負った仕事を果たすのだ。この世界でいうなら傭兵が1番忍者に近い位置にある職業だろう。
……まあ、もっとも下っ端忍者の仕事は子供の子守や子猫の捜索などもあるので、どちらかというと何でも屋といったほうが近いのかもしれないが。
そして傭兵ギルドに所属していると言ったのは、忍者の里システムがこの世界でいうのならばギルドに似ていると思ったからだ。まず依頼がある場合、それは木の葉を治める里長の火影の元へと入ってきて、それが危険度ごとにランクを振り分けられ、その数々の任務の中から適任者に依頼が振り分けられ、任務に付く。
それが木の葉の……否NARUTO世界の忍者と里のシステムだ。
何かに似てはいないだろうか?
そう、ギルドに依頼が来て、そのギルドの中から適任者に依頼を回す。ギルドの仕組みと忍び里のシステムはよく似ているのだ。
だからこそ彼は魔法(忍術)の使える傭兵ギルド(木の葉の里)に属する傭兵(忍者)で、身分は平民(貴族ではない)と答えたのだ。
まあ、魔法……実際は忍術であって魔法ではないのだが、を使えるといってもそれを見せびらかす気はなかったが、それでも万が一という場合もある。出来れば使うつもりはないが、それでも万が一忍術を見られたときの事を思えば「東方流のこちらとは体系の異なる魔法」を使えると先に言っておけばある程度誤魔化せるだろう、という算段もあった。
嘘を吐くときは真実を混ぜた方が信憑性が上がる。そう言われているように、全てを嘘で塗り固めるほどまずいものはない。だから、自分の素性について、彼は出来るだけ嘘を吐かず、ただ言葉を置き換えて表現しただけ、とも言えるだろう。まあ、完全には一致しないので嘘は嘘なわけだが。
やがて、学園長室に3人はたどり着いた。
「オールド・オスマン、私です。コルベールです。客人を連れてきました、失礼しますぞ」
「うむ、入りたまえ」
ドアを規則正しく3回ノックをし、ツルリとはげ上がった頭が印象的な中年教師、ジャン・コルベールはそう声をかけてドアを開く。
やがてコルベールに連れられ、ピンクブロンドの少女と、黒尽くめの件の人物が部屋へと現れた。
(ほう……これは)
うっすらと目を細めてオールド・オスマンはじっくりとその異邦人の姿を観察する。
歳は20歳前後といったところだろうか。独特の見たことのないデザインの黒いコートを身につけている。殺意も害意もないようではあるが、その代わりに隙も気配もない。これはミスタ・コルベールが持て余すはずじゃな、とそんな納得を覚えながら、そんなことをおくびにも出さず威厳のある声で朗らかに彼は言った。
「よくぞ来た。私がこのトリスティン魔法学院の学園長のオールド・オスマンじゃ。さて、そちらの君はうちはシスイ君じゃったかのぅ? まあ、君も急な召喚で吃驚したじゃろうが、色々話合おうと思うんじゃが……どうじゃろ?」
オールド・オスマンは遠見の鏡を使って、この部屋に来るまでコルベールとうちはシスイと名乗るこの男のやりとりを見ていた。故にコルベールが知っていることは大体においてオールド・オスマンも知っていたし、物腰や体つきなどを見ても魔法の使える傭兵だという話に納得……まぁ、傭兵というより暗殺者なのではないかとコルベール同様に考えてはいたのだが、したりもしていた。
それでも現段階でいうなら、この青年をどう捉えるかだが……わからない、としか答えようがない。
東方出身だからか、それとも裏に属する人間だからなのか、冗談抜きで現状ではよくわからないのだ。
なので互いに状況を説明したり情報交換をしたりしながら男を観察……監視といってもいいが、しているがどうにも上手く掴めないでいた。
そんな中でも、好々爺といった態度を崩さず、オールド・オスマンは気になった点について問う。
「ところでミスタ・ウチハ。おぬしは身分こそ平民とはいえ、東方の
それは一魔法使いとしてのオールド・オスマンの疑問だった。それに乗ったかのように、話題が魔法となるとコルベールもまた興味深そうに顔を輝かせた。
そんな2人の質問にシスイは一瞬顔を曇らせたが、ここで答えねば余計な疑惑を持たれるかもしれないと判断したので、言った。
「こっちの魔法は杖とルーンを触媒に魔法を発動しているが、オレ達が使う魔法は忍術といい、印を触媒にして発動する」
と淡々とそう答えた。
「ほう? 印とは?」
「指で組む暗号の組み合わせ……みたいなものだ。たとえば火遁の術……火の魔法を使う時はこの寅の印を必ず組み込むことになる。あとは発動する術ごとに印の組み合わせや順番などが異なってくる。」
そう言いながら寅の印を実際に目の前で組んで見せた。
「ほうなるほどの……先住魔法とはまた違うようじゃの」
「指の組み方で発動する術が変わるのですか……実に興味深いですな」
確かに杖なしで魔法を使うとなれば、エルフなどの魔法を思い浮かべるが、杖の代わりを印というものが担っていると理解したら、それはまた先住魔法とは別物だと納得することは出来た。
コルベールもまた、未知の魔法の存在に学者として探求心が刺激されたのか心なしか声を弾ませてそう感嘆の言葉を告げる。そんな2人の反応に少しだけ複雑そうな顔をしながら、シスイはこう言った。
「……まあ、こちらの魔法は杖が必須のようだから、オレの使う魔法は見せないほうがいいのだろうな」
それからも10分ほど互いに色々情報交換をすませると、「さて」と一息ついて、咳払いしてから気を取り直し、オールド・オスマンは目の前の意外と大人しい青年に向かって言った。
「さて、君の話は実に興味深いので名残惜しいところじゃが……いつまでもこうしてはおられんからのう」
そういって威厳ある長いヒゲを撫でながら言う学園長を前に、コルベールは背筋を伸ばして、学園長室に入ったときから緊張して無言のまま立っていたルイズはビクリと肩を揺らして次の言葉を待った。シスイは……表面上は何も変わっていない。
「任務中に召喚されたというシスイ君には気の毒じゃが、なにせ春の使い魔召喚の儀式は伝統ある神聖な儀式じゃ。君がメイジではあっても、貴族ではないこともわかった。ヴァリエール家ほどの大貴族の元じゃったら不自由することもないし、今までよりも良い生活を送れることじゃろう。だから、言いにくいんじゃが彼女の使い魔になる件、引き受けてはくれんかのう?」
それは言われるだろうと思っていた台詞だった。
期待するような老人の目が向けられる。
穏やかだが、否は言わせないようなそんな不思議な力ある瞳だ。
だが、シスイは……。
「断る」
その申し出を一言で切って捨てた。
その後ろで1人の少女がビクリと体を不安で震わせていたことに、冷静に振る舞っているようでいて、その実全く冷静でない彼が気付くことはなかった。
続く