おまたせしました、瞬身の使い魔4話、ルイズの部屋編です。
あ、それと明日パソコンを修理に出す予定ですので、暫く更新は出来なくなると思いますがご了承ください。
挨拶も済み、ルイズとシスイは今まで握手していたその手を離した。
こうやって改めると少々照れくさいものがある。そんなことを思いながら一息吐くと、漸くシスイは自分が未だに血の臭いを被ったままであることに気付いた。
それでどうやらやはり自分は冷静ではなかったらしい、とシスイは自身の状態を再確認をしながら、「失礼」と一声かけて懐から消臭剤を取り出した。
本当は里を出たらすぐに籠もった血の臭いを消すつもりでいたのに、里を出る前にハルケギニアに召喚され、おまけにあり得ない筈の状況に緊張を強いられていたせいかすっかり今まで忘れていたらしい。
……まあ、冷静でないのは無理もないといえる。
何故なら彼が自身の一族である、うちは一族をたった2人を除いて皆殺しにしてからまだ数時間前しか経っていない。
彼らを殺したこと自体は無理矢理もぎ取った任務であったと同時に私情でもあった。
何故クーデターを起こそうとしたと、どうして大人しくしてくれなかったと、そんな少し逆恨みとも取れる恨みも一族に抱いていたのも事実だったが、それ以上にイタチの未来に「邪魔」だと、自分の中の天秤で切り捨てるほうに傾いたからこそ殺したのだ。
しかし、恨みがあるからといって、優先順位が低かったからといって、同時に彼らに抱いていた愛情や想い出も偽物になるわけでもなければ、消えるわけでもない。
人は一面だけの生き物ではないのだ。愛する気持ちも憎む気持ちもどちらも真実であり本当だった。それに一族の生存は彼にとって1番大事なことではなかったとはいえ、それでも本音を言えば生きて欲しかったし、クーデターなど馬鹿なことを企んで欲しくなかった。
殺した感覚は今も手にこびり付いている。おそらく一生忘れることはない。
それでも今でも思う。確かに彼らは……うちは一族は、シスイにとってもう一つの家族だったのだと。
家族を殺してなんでもないように振る舞えるほど、生憎彼は人間を辞めていなかった。
なんらかの錠剤を飲み、それから懐から取り出したスプレーのようなものを自分の体に向けて使う自分の使い魔になった男に対し、ルイズはマジマジとした目でそんな様子を見ながら「それ何?」と尋ねる。
「消臭剤と、消臭スプレーだな。血の臭いをいつまでもつけたままじゃ拙いだろう」
「ふぅん」
そう答えながら、はたとシスイはそういえばこの少女をこれからどう呼べばいいんだろうかと、そんな根本的な問題に気付いた。
自分はルイズの使い魔となった。つまりはこの世界……ハルケギニアにいる限りは自分はルイズの武器であり、従僕であるのだ。しかし、シスイは当然ながら前世では平凡な日本人として育ったから貴族などと接した経験などないし、現世においても貴族っぽい相手とは任務の時に依頼人や護衛対象としてという、そういう形でしか接したことがない。
そして、任務で上流階級と接する場合は、あくまで任務で守っているだけであり、短期の付き合いでありよそ者なのもあって貴人を名前を呼んだりとかすることも当然なかったし、口調もよそ行きのもので済ませてきた。
しかし、ルイズはそうはいかないだろう。使い魔に承諾した以上、帰れるまでは彼女の下で自分は働くことになる。数週間くらいで終わるとは思えない。それなりに長い付き合いにはなるだろう。
口調もどうするべきなのか。年下の女の子とはいえ、主に当たる人物となるのだ。よそ行きの言葉にしたほうがいいのだろうが……そんな長時間よそ行きの言葉で喋り続ける自信がない。うっかり素が出て不敬とかしてしまいそうだ。いや、今の口調も充分不敬と取られているかもしれないが。
(主殿? 主様? それともルイズ様? ルイズお嬢様? いや、ここは学園長とミスタ・コルベールを習ってミス・ヴァリエールか? どう呼べばいいんだ……やべえ、わかんねえ)
因みに御主人様は却下だ。なんていうか、痛い趣味みたいで精神衛生上嫌だ。
「ついたわよ。入りなさい」
そんなことを思う間に少女の部屋についたらしい。ルイズはそうシスイを一瞥して促すと先に部屋へと入っていった。それに青年も一つ頷いて後ろに続く。
(……まぁ、いいか)
未だに彼女への呼び名に答えが出ないが考えるのは後にしよう、とシスイは問題を先送りにすることにした。
ルイズは部屋に設置してあるアンティークテーブルと揃いの椅子に座ると、「さてと」と声をかけ、それから手慣れた優雅な仕草で髪をかき上げると言った。
「確認するけど、あんたって何が出来るの? メイジと言ってたけど魔法体系が違うとも言ってたし。嗚呼……座って良いわよ。特別に許可して上げるわ」
「主と同じ席に座るわけにはいかないだろう」
シスイは上流階級に仕えた経験はない。しかし、任務上貴族のお姫様の護衛任務などに当たる場合もあるため、上流階級との付き合い方を覚えさせられることはあった。よってシスイには一介の忍び風情が貴族のお姫様と同じテーブルにつくなど烏滸がましいことだ、という『常識』が備わっていた。
そんなシスイの返答にどこか呆れたようにルイズは青年を見上げながら言う。
「その心がけは悪くないけどね、御主人様が良いといってるんだからいいから座りなさい。というか、あんた大きいから見上げるのは首が疲れるのよ。みなまで言わせないで」
そこまで言われたら仕方ない。シスイはルイズの向かいの席に腰をかけた。
「で、オレが出来ることについての話だったよな」
「そうよ、御主人様として使い魔の出来ることは確認して置かなきゃ」
まあ、それは当然か、とシスイは思った。道具の性能も知らず道具を使うことほど愚かしいことはない。この世界に居る限り彼はルイズの道具であり、武器なのだ。本当はあまり自分の能力について他人に知られることは好ましくないがそうもいってられないだろう。
寧ろ自分の主だというのなら、知らないほうが困るのだ。
……自分が如何なる道具を手に入れたのかということについては。
願うならば使い方を誤って欲しくないものだな、とそんな風に思いながら彼は説明した。
「まあ、先も言ったけど1人暮らしが長かったからまず家事全般は一通り出来るな」
「いや、今それここで関係ある? でもまあ、いいわ……そういうことなら、平民とはいえメイジだって話だから勘弁してあげようと思ってたけど、掃除、洗濯、雑用等遠慮無く頼むことにするわ。文句なんてないわよね」
「ああ、別に構わない」
シスイはルイズの言葉に頷いた。因みに彼はどちらかというと綺麗好きに分類されるほうであり、掃除にしろ洗濯にしろ嫌いではなかった。
「次にサバイバルの類も仕事柄慣れているから問題はない。野営の準備や野外料理もわりと得意なほうだと思う」
「……便利といったら便利なのかしら? まあ、野宿なんてわたしの使い魔である以上あまり経験することないと思うけど」
そこまではたと答えてから、ルイズは「って、そうじゃなくて」と声を上げそれから言った。
「そういうのじゃなくて、あんたの戦力が知りたいのよ!」
それにさてどう答えるかとシスイは思考する。有りの儘答えたほうがいいのか。
否、有りの儘答えるべきか。正直言ったら引かれるような気はするし、あまりこういうことを言いたくはないんだが、自分の主である以上知らないほうが拙いか。
「そうだな……オレが得意なのは奇襲と暗殺、毒殺……」
「怖いわよ!?」
ルイズはなんとなく暗殺者っぽいとは思ってたがそれに違わぬ青年の答えに、思わず勢いでそう返した。そんな少女に苦笑しながらシスイは言葉を続ける。
「薬草の知識と毒草の知識もある程度あるから、知っている草があれば毒草や薬草の調合もある程度は出来るな。こういっちゃなんだが足の速さは数少ない自慢の一つでもあるし、応急処置程度の医療忍じ……治療魔法も使えるといえば使える。生憎専門家じゃないんで得意じゃあないけどな」
そういってため息を一つついた。
「ま、オレは基本奇襲とサポート専門と思ってくれていい。正面戦は苦手だが支援は得意だ。耐久力にはそれほど自信がないから敵の攻撃が一発でもまともに入ったらアウトと思って置いてくれ。避けるのは得意だからあまり怪我することはないとは思うけどな。あとは火遁の術……火の魔法を少々と幻術がメインといったところか」
「幻術?」
なにそれといわんばかりの口調で訝しむようにルイズが聞き慣れないそれについて尋ねると、シスイは瞳の色を故意に写輪眼へと切り替えた。
黒から赤に、巴模様と共に色の変わった瞳を前にルイズが吃驚したように男の目を凝視する。
「幻術は文字通り対象に幻影を見せる術のことだ。そして、この目は写輪眼といい、チャクラ……魔力の流れを見、そしてこの目を見た人間を幻術にかけることが出来る魔眼だ。目を合わせただけで相手を夢の世界に誘うことが出来る。その使い方は拷問から情報の聞き取りまで多岐に渡る。まあ、他にも出来ることはあるが……中でもオレの目は幻術に特化しているといっていい」
そう答えたシスイを前に、ピンクブロンドの少女はややあってから恐る恐るといった口調でそれを尋ねた。
「あんた……本当に人間?」
あまりに聞き覚えのない能力を前に、ルイズは実は目の前のこの男は人間に化けたエルフかなんかではないのかと思わず疑った。目を合わせただけで幻術にかけられるだの、拷問にも使えるだのと言われて内心少女は少しびびってもいた。
「そのことに関してなんだがな……オレはこの世界の人間じゃない」
「……は?」
淡々とした声で黒の青年はそう答えた。いきなり何を言い出すのか、とルイズは目を丸くして尋ねる。
「どういうことよ」
「そのままの意味だ。ミスタ・コルベールに合わせて東方から来たと答えたがな、本当はオレは東方じゃなくて異世界出身なんだよ。信じる信じないはそちらの勝手だけどな。力の体系がこちらと異なる本当の理由もそういうことだ」
「なにそれ」
ルイズはまるでなんだか狐に騙されたような気分でむくれた。
「本当に違う世界から来たっていうの?」
「疑うのは当然だが、君の使い魔になった以上君には嘘を言うつもりはない」
……もっとも言いたくないことや言えないことは言わずに置くが。
ルイズはその鳶色の瞳でじっと男を見上げた。ピンと姿勢を伸ばして視線を自分に合わせてくる男が冗談や嘘を言っているようには見えなかった。
けれど、異世界から来た? 馬鹿らしいくらいにあり得ない突飛な話としか思えなかった。
「なら、証拠見せてよ。あんたの魔法がこっちと体系違うのは異世界だからなんでしょ。見せなさい」
正直異世界出身とかは、写輪眼とかいうこちらではあり得ないものを目にした今も半信半疑だし、その写輪眼の性能についても説明をいくら受けたとはいえ、実際に経験したわけではないので今の所変わった目止まりであるが、ハルケギニアと体系の違う魔法というのには興味があった。
だからこそそう申し出たルイズに対し、シスイは左右に首をゆっくり振って言った。
「ここでは見せられない」
「何よ、あんたひょっとして魔法が使えるって嘘吐いてたの?」
むっとして言うルイズに対し、シスイは「そうじゃない」と言いながら説明を続けた。
「オレは、君以外の人間に俺の使える『魔法』を見せる気がない。だから多くの人がいるだろうこの場では見せられないと言ったんだ」
まあ、実際は魔法ではなく忍術なわけだが、そこを訂正するとなるとややこしくなるし、NARUTO世界の忍術はその殆どが知らないものが見れば魔法と大差ないものだ、だからシスイはそう答えた。
「なんでよ」
「ここに居る以上はオレは君の使い魔だ」
「そうね」
ルイズはその言葉を肯定した。
「つまりオレという道具を使うのは君だ。そうである以上君には知ってて貰わないと寧ろ困る。だから見たいというのなら明日の朝の鍛錬の時に君には見せる。けどな、それ以外の人間にオレは自分の力を見せる気なんてないんだよ」
ルイズはその言葉にわけがわからなくなった。見せたくない? 自分の力を。
コルベールに「魔法が使える平民」と答えた以上、別にメイジであることを隠しているわけでもないようだし、折角魔法が使えるというのに、どうしてその力を知られたくないと矛盾するようなことをこの男は言っているんだ、とルイズはそんな風に考える。そんなルイズを前に男は言葉を続けた。
「それと、君が望むのなら明日の朝必ず見せると約束してもいいが、見た後も何を見たのかについては他言無用にしてほしい」
「どうしてそこまで隠そうとするのよ」
ある意味ルイズの疑問は至極最もだった。それに対し、シスイは答えた。
「この世に弱点のないものはない。だけど、知らないものに対して人は対策を立てられない。情報を提示するっていうのはな、同時に相手に弱点を分析されるってことでもあるんだよ」
そういって男は語った。
「戦場で生き残るコツはな、勝てない戦いに挑まないということと、弱点をいかに知られないようにするかってことなんだよ。弱点をたとえ知られてもそれをカバーする方法を用意する。それを出来ない奴から死んでいくんだ」
それはルイズの知らない世界の話だった。
「オレは弱くもないが強いわけでもない。それにオレには帰らないといけない場所がある。そのためにも死ぬ気はないし、リスクを高める真似もしたくはない。だから君以外に見せられない」
真面目な顔で真剣に言った自分の使い魔の言葉に、ルイズは何よそれ、と思った。
(折角自慢できると思ったのに)
ルイズはまともに魔法が使えない。だからこそ、いつかちゃんと魔法を使えることが彼女にとっての夢であり目標だった。たとえドットレベルでいいから、ちゃんとした魔法を使って周囲を見返したいとそう思っていた。自分は落ち零れなんかじゃないと証明したかった。
だからこそ強力な使い魔が欲しかった。
メイジの実力を見るには使い魔を見ろという格言がある。つまり強力な使い魔を召喚することが出来たらそれはそのメイジの資質を手っ取り早く証明することも出来るというわけだ。
正直にいえば、ルイズはこの魔法が使えるという平民が自分との契約を受けたことで浮かれていた。
この男が強ければ強いほど、それは彼を使い魔とした自分の能力の高さを示すことが出来るんじゃないかと、それほどの人間を使い魔に出来たのならばもう周囲に落ち零れと呼ばれなくなるんじゃないかとそんな淡い期待を抱いていた。
だから、もし男が想像以上に使えそうな時は、自慢出来ると思ったのだ。
なのに、男は自分の力を見たとしても他言無用にしてほしいとそんな風に言う。
説明は受けたけど、力あるものがその力を隠そうとする心理がルイズにはわからない。
(こいつ、本当は弱いんじゃないの)
故に彼女がそう思ったのも仕方ないことだったのかもしれない。
どちらにせよ、ルイズは少なからず男に失望を覚えていた。
「……寝る」
ルイズはむっすりとした顔でそう一言告げたかと思うと、突然ぽいっと服を脱ぎだした。そしてあっという間にブラウスを脱ぎ捨て下着姿となった。
それに思わずシスイは目を丸くする。
「え……」
そして大きめのネグリジェを頭から被るとキャミソールとパンツを脱ぎ捨てた。
ルイズが服を脱ぎだした時から慌てて後ろを振り向き彼女を見ないようにしていたシスイではあったが、まさか仮にも年頃の娘が他人の目の前で着替えを始めるとは思ってなかったため、ちょっと動揺していた。
(あ、でも……)
そういえば貴族の娘は使用人に服を着替えさせて貰うものだとも聞くし、彼女は公爵家の娘だという。おそらく他人に着替えを見られるということに慣れているから何も感じていないのだろう。
(これが貴族の常識って奴か……庶民とはやっぱり違うんだな)
まだ動揺してはいるが、そう考えてシスイはなんとか自分を納得させた。
しかし、あれだ。自分は別にロリコンじゃないから罪悪感こそ覚えど彼女の裸を見ても多分何も思わないが、貴族に仕えるため教育されてきたわけではない普通の少年があれを見させられたらたまったもんじゃないんだろうな、とか現実逃避気味に彼は思う。
いや、そんなどうでもいいことを思うあたりシスイはなんというか想像以上に動揺しているらしい。カルチャーショックを受けているといってもいい。
そう思う間にも着替えが終わったのだろう。ルイズはごそごそとベットに入り込むと、先ほど脱ぎ捨てた下着を指さしながら「それ、明日洗濯しといて」とそう指示を出した。
それに苦笑しながら、シスイは問う。
「それは別に構わないが、どこで洗濯するんだ?」
「下の水汲み場……あと、明日起こしなさい」
「わかった」
ルイズは眠いのだろう。どこか不機嫌そうな顔をしていたが、同時にうとうとと少し気怠げでもあった。
幼く、あどけない顔だ。
ふと、前世での妹の幼少期のことを思い出し、シスイは柔らかな表情と口調で眠る前の挨拶を交わした。
「おやすみ」
そしてそのまま、そっと扉を閉めて、彼女の部屋を後にした。
あとにはベットの中で幸せそうに眠る小さなお姫様だけが、赤と青の月に照らされ残されていた。
続く