今日パソコンを修理に出す予定なので更新は昨日の4話でストップさせるつもりでしたが、明日の台湾旅行が楽しみ過ぎて目が冴えてしまって気付いたら5話書き上げてしまったYO.
というわけでどうぞ。
―――――嗚呼、静かな夜だ。
その感情の侭に、駆け抜け、飛び、跳ねる。
闇に溶け込むような黒いコートで口元まですっぽりと覆った男は、夜の学園の中を足の裏にチャクラを集め、石造りのまるで西洋の城のようなその学園の壁を垂直に上り、屋根の上にまで登り切る。
その男は暗い闇夜に溶け込むような黒い姿をしているというのに、瞳だけが巴模様を描き、赤く闇光りをしている。その目で男……つい数時間前にヴァリエール公爵家の三女であるルイズと契約を交わした使い魔うちはシスイは学園の敷地とその規模、それと建物や施設の配置等を頭に叩き込んでいた。
そして空を見上げる。そこには赤と青の双月が悠然と佇んでいた。
異なる光を放ちながら互いを支え合うように存在するその姿はとても大きく美しい。
……こんな月は見たことがない。
それは彼にとって前世である地球の日本でもそうだし、15年生まれ育ったNARUTO世界の火の国木の葉隠れの里でもそうだ。
そもそもどちらの世界にしろ月は一つだった。
(本当にオレはゼロの使い魔の世界に来てしまったんだな……)
そんなことを思う。
正確には前世で読んだ小説である「ゼロの使い魔」そのままの世界というわけではないのだろうが。
そもそもここが本当にゼロの使い魔の世界だというのならば、ルイズが召喚するのは己ではなく……名前は忘れたがパーカー姿の日本人の普通の少年が呼ばれる筈であったわけだし、己が呼ばれている時点でこの世界はゼロの使い魔とは別物の世界であり、正確にはゼロの使い魔という小説によく似た平行世界であり異世界なのだろうとそう思う。
それは彼が15年生まれ育った世界が漫画NARUTOの世界によく似ているが、異なっている平行世界の異世界で厳密にはNARUTO世界とは別物であるのと同じように。
だが、別物とわかっていてもとてもよく似た世界であることには違いないし、呼び名があるほうが自分の中で整理が付けやすい。だからこそ、15年育ったあの世界のことをNARUTO世界と呼び、この世界をゼロの使い魔世界と呼ぶ。それだけの話だ。
それにしても、本当なんでこんなことになったのだろうか、と青年は考える。
15年前、自分が漫画の世界の住人に憑依してしまったとそう思った時も内心酷く混乱したものだ。
正確にはそこは漫画の世界そのものといったわけではなかったが、それでもどういうタチの悪い冗談だと思いながら、それでもなってしまったものはどうしようもないからと、やがて自分は己を納得させ、この世界で生きていくための技能を身につけようと思い、そうして馴染もうと努力してきたつもりだった。少なくとも前世の記憶や人格云々など他人に言っても笑われるか、頭がおかしいんじゃないかと疑われるのがオチだと思ったから自分の人格は前世の延長線ではあったけど、その過去についても他人に漏らしたこともない。
初めは現実感の持てない世界だったとはいえ、自分はその世界で生きている。だから、やがて周囲の人々に愛着や情を覚えるようになったのはある意味必然でもあった。
現世の両親や、うちは一族のみんな、厳しいところがあっても優しく暖かい先輩達や、アカデミーの子供達、みんな大切だったし、好きだった。
まあ……木の葉を愛していたか、と聞かれたら素直に首を縦に振るのは難しかったが。
それでも、大切な物も好きな人々もたくさんいたのだ。
そして、夢も出来た。
前世の生涯に置いて、彼に夢というものはなかった。
中学校の頃は友達と馬鹿をやってたらそれで満足だったし、高校大学となると友人と結成した学生バンドに加え、そこに恋や彼女との付き合いなどもあって毎日が楽しかった。
転機は20歳の時の両親の事故死だっただろうか。20歳の時、両親にプレゼントした温泉旅行の帰りに両親は事故で亡くなった。
それから大学を中退し、6歳年下の妹を養うため彼は働きに出た。
両親がいなくても妹に不自由などさせたくなくて、家事全般から近所付き合いに、学校行事の出来る限りの参加に仕事と出来うる限りは頑張った。しかし、それは別に夢とかではなく、彼にとっては「やらなければいけないこと」であって「したいこと」ではなかったのだ。
彼に夢などなかった。
やがて妹が大学に進学し、大学近くのアパートで暮らすようになって1人暮らしになった時も、その時にはもう彼女とか作りたいという気力すら彼は失い、その頃からやがて逃避するように漫画やアニメをレンタルし見るようになった。
彼が死んだのは、妹の就職が決まり、28歳の誕生日を1週間後に控えた丁度そんな時期だ。
一般的に見れば短い生涯といえるのかもしれない。だが、あそこで死んで良かったのではないかとすら彼は思っていた。何故なら、彼には妹が大学を卒業した後自分がどうするのかというビジョンなどなかったのだ。
恩を返したいと言っていた妹には悪いが、妹が卒業するまで自分が妹の面倒を見るのは彼にとっては義務であり刹那的な目的でありやらなければいけないことだった。そしてそれが終われば自分がどうするのかなど彼にはなかったのだ。昔はいつか彼女と結婚し家庭を持ちたいとか子供は2人欲しいとか、そんなことを漠然と思っていたような気もするが、その頃には既に彼は彼女を欲しいとすら思うことはなかった。
夢もなく、したいこともなく、やるべきことももう無く、女に対する欲求すらなく、いわば彼は人生の迷子となっていた。
だから、二度目の生である今生で『夢』を持てたのは彼にとって何事にも代え難い喜びだったのだ。
夢を今までもったことのない自分が抱いた夢だから、それを1番に守りたいと思った。
たとえ他人に理解などされなくても構わない。
たとえエゴイストの大悪党と罵倒されてもいい。
自分の命などどうでもいい。
(オレはうちはイタチが火影となる姿を見たい)
イタチの治める里で笑う子供達が見たい。そしてそのためなら、その未来のためなら、邪魔なものは切り捨てよう。……たとえその邪魔なものが自分自身だとしても。
イタチは優秀だ。犯罪者として影の道を歩むような選択さえしなければ、おそらく自分が何もしなくても自力で火影となれるだろう。イタチにはそれほどの才覚があるとシスイは信じていたし、それだけの器があると思っていた。
それでも、この世に完全なものなどない。
だからこそ、原作の知識という名の武器を持つシスイには、自分の夢を実現させる可能性を高めるため、殺しておきたい相手がいた。
NARUTO正史で第四次忍界大戦を後に起こすことになる、核たる人物であるうちはオビトと薬師カブトだ。原作におけるこの2人がもたらした被害の大きさから、この2人は特に彼にとって仕留めたい相手であった。
うちは一族の画策したクーデター論は止められず、結局イタチに本来なら与えられる筈だったうちは一族皆殺しの任務を無理矢理もぎ取り、皆を殺して里を抜けることになったシスイであったが、里を出たあとは原作のイタチがそうしたように犯罪組織「暁」に入り込み、内部から監視し裏で三代目火影猿飛ヒルゼンに奴らの情報を流しながら、その裏でオビトやカブトを数年後チャンスをものにして確実に殺すため、情報を探ったり道具を取り寄せたりなどして着実に葬るための準備をする、そのつもりでいた。
……そういう予定だった。
が、どういう因果なのか彼はNARUTO世界から見ても異世界であるこの世界、ハルケギニアに木の葉隠れを出る直前に、イタチやサスケ達と仇として別れてから5分後には召喚されてしまった。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの手によって。
これは悪夢か、なんてタチの悪い冗談なんだ、と大笑いした自分は果たして悪いのか。
いや、だってもうあれは笑うしかないだろう。笑う以外にどうしろというんだ。どんな喜劇だ。
断腸の思いで一族をイタチとサスケを除いて皆殺しにしたのに、なのにその直後に大罪人の自分はそのことを知られていない世界に召喚される? なんていう悪夢だ。
なんて……馬鹿らしい。
それでも、自分は帰らなければならない。
タイムリミットは3年。それまでに帰らなければ。
ナルトやサスケがアカデミーを卒業し、下忍となり、暁や木の葉崩しを企む大蛇丸とその配下のカブトが動き出すのは今から6年後だ。自分という異物がいた時点で正史通りに進むなど達観するのは危険ではあるが、それでも九尾の回収時期や力を溜め込む問題とかを考えても、5年は大体安全と考えていいだろう。でもそれ以降は保障出来ない。誰も彼も潜伏期間を終え動き出すだろう。
オビトもそうだが、カブトも一筋縄でいかない相手だ。否……はっきり言おう。なんの準備もせずに挑んだらまず自分は返り討ちに遭うのが関の山だと。
シスイは平均的に見れば決して弱いほうではない。寧ろ幻術と瞬身の術だけに関して言えば里ではトップクラスだし、16歳で上忍に昇進していることからしても、どちらかといえば上位に属するほうではあるのだろう。しかし彼には火力がない。知力もない。1から何かを生み出す頭脳もない。耐久性もない。無い無い尽くしだ。そんな彼が格上である2人に勝ちたければ、準備や罠を整えた上で、焦らず取れる時にチャンスをものにするしかない。
その準備のためにも、暁に潜り込むためにも、2年は欲しいのだ。
3年以内に帰りたい理由はそんなものだ。
そんなものだが、それは彼にとっては最優先事項である。何故ならその目的さえ果たせたなら彼はいつ死んでも構わないと、そう心底から思っているのだから。
まあ……たとえ一族殺しの犯罪者として処刑される未来でも構わないのだが、出来るならばこの命を渡すならば、イタチに取って欲しいなというのが彼のささやかな願いなのだが。
でも、全てはこの世界から帰れたらの話だ。
彼が内に秘めた願いも目的も、ハルケギニアからあの世界へ帰れなかったら意味がない課程に過ぎない。
「ハルケギニア……か」
“とんでもないことになったな”
ふと、ポツリとこの世界の名前を零す青年を前に、彼に話しかける声が内部から響いた。
「なんだ、あんたか。……眠っているんじゃなかったのか?」
その自分と同じ声でありながら異なる口調と雰囲気で語られる声の主を前に、シスイは穏やかな口調でからかうようにそう問いかける。そんな青年に対し、声の主は苦笑したような気配を纏いながら言った。
“いきなり、違う世界に飛ばされたんだ。こんな状況で呑気に寝てられるわけがないだろう”
「そうだな……『うちはシスイ』」
そうして青年は、『彼』の名前を呼んだ。
シスイの内側で眠っていた青年……それこそが本来のこの体の持ち主である『うちはシスイ』だ。1度死んだ世界から逆行し、幼い頃の自分となった彼は、そのイレギュラーに引かれるように己の体に入ってきた異世界の人間の魂にその肉体の主導権を与え、ずっと眠り続けてきた。
いわば、シスイがこうして表で活動出来るのは裏を返せば、本当の『うちはシスイ』が部外者の魂である彼に肉体と人生を譲り眠ることを選んだからといえる。
うちはシスイとして3歳のその時から表に出ていた人格は、本来は部外者である筈の元日本人の青年のほうだ。あの15年彼が生まれ育った世界に置いてうちはシスイだったのは、本来の『うちはシスイ』ではなく、部外者だったはずの青年のほうなのだ。だからこそ、一つの肉体を共有する異なる魂を持つ彼ら2人は、どちらもが『うちはシスイ』であり、『うちはシスイ』ではなかった。
“悪いな、オレは何も出来なくて……何か出来たら良かったんだろうが”
魂は別人でも肉体は一つだ。どちらかが表に出てきたらもう1人が中に引っ込むしかない。そのことをわかっているからこそ、そんなことを口にする『うちはシスイ』に対し、シスイは首を横にゆっくりと振ってから、言う。
「いや……あんたにオレは既に救われているよ」
そういって、安心したように微笑みながら述べた。
「1人じゃない、それだけで充分心強い。あんたがいてくれて本当に良かった……ありがとう」
そんな風に穏やかに笑いながら礼を述べる男に対し、少し複雑そうな雰囲気を乗せながら『うちはシスイ』は“なぁ……”とどこかもの悲しそうにも聞こえる声で話しかけ、それを言った。
“別に、この世界に残ってもいいんだぞ”
「……いや、帰るよ。オレはあの世界に帰る」
それは決意さえ感じさせる顔と言葉で……『うちはシスイ』は悲しげな声音で“……そうか”とポツリと呟いた。
“……イタチに会いたいか?”
「そうだな……会いたいよ。会えるなら。でもどちらにせよ駄目だな。帰れたとしても会うのは5年後だ」
“別にオレの体だからといって遠慮はいらないんだ。お前はオレに縛られず好きに生きていいんだぞ”
「充分好きに生きているよ。こちらの世界のほうが向こうよりも安全かもしれないけどな……それでも、帰りたいと望み、そうしたいのは他ならぬオレだ」
“そうか”
「そうだよ……まあ、心配してくれてありがとうな。おやすみ、『うちはシスイ』」
やがて自分の内で『彼』が眠りにつく気配を感じ取った。
青年自体には眠気はない。一族を殺してからまだ1日も経っていないせいか、とてもじゃないが今夜は眠れそうにないのだ。そうしてぼんやりと月を見上げつつシスイはこれからのことについて考える。
この世界からNARUTO世界にどうやって戻ればいいのか彼にはわからない。ついでにいえばこの世界の文字もわからない。不得手ではあるがその辺は勉強するしかないだろう。
ともかく暫くはあの子……ルイズの使い魔をしながら空いている時間に情報を収集して地道にやっていくしかない。
(気持ちを切り替えろ)
自分は未だいつもの自分の調子に戻れていない。
心を落ち着け冷静に振る舞えていない。一族の死を引き摺っているとはっきり言える。
だが、この世界の人間は自分のことを知らない。自分が何をしたのかも知らない人間を相手に、過去を引き摺った態度で接するのは相手にとっては迷惑だ。暗い態度など鬱陶しいだけに違いない。
だから、明日、明日にはいつもの自分に戻ろう。
心の澱が消えるわけではないけれど、笑顔という仮面で蓋をするのは慣れている。
だから……。
やがて空が少しだけ明るくなり始める。体内時計で判断するなら今は朝の4時半ぐらいといったところか。
丁度良い時間だ。シスイは立ち上がり、ルイズに洗濯しておけと言われていた下着の洗濯を始めた。
年頃の娘の下着を洗っているというのに、その顔には動揺はない。
正直女性物の下着を洗うのはこれが初めてではないし、こんなことくらいでドギマギしたりはしない。前世で両親が死んでから妹が大学に入るまでの約4年間、家の洗濯をしていたのも洗濯物を干していたのも彼だったため、シスイは女物の下着は見慣れていたし触り慣れていたといえる。ルイズに下着の洗濯を頼まれてもちょっと動揺した程度で済んだのもそのためだ。
それにルイズは16歳になるが、彼女は実年齢以上にその顔も体型も性格さえ幼く見える。妹という家族の下着を洗っても別段何も思わないように、シスイからしてみればルイズは庇護するべき子供であり、そしてそんな完全恋愛対象外の子供の下着を洗うくらいで彼女を女として意識などするはずがなく、彼女の下着を洗うことについても別段何も思うようなことではなかった。
御主人様の下着の洗濯ついでに彼はコートの中から荷物を取りだし、それを綺麗に並べると自身のコートも洗い、枯れ葉を集め火遁の術で火をつけると、コートを干し始める。
因みにこのコートは彼が給料3ヶ月分をはたいて作った特別製で、水や血の類を弾く習性があるため、火で乾かせば10分もあれば乾く。その間にクナイなどの刃物の手入れを手早く済ますと、濡れタオルで体を拭い、元々里を出るつもりだった故に携帯していた普段着に着替えた。
それからルイズの部屋に向かった。
「朝だぞ」
「わぷっ。きゃ、何?」
突然自分の顔を襲った冷たい感触に、ルイズは吃驚しながら心地よかった眠りから目覚める。
そしてそんな風に目を丸くして周囲をキョロキョロと見回す彼女にルイズを相手に、聞き慣れない男の声が「おはよう」とかけられて、彼女は体を起こしながら声の発生源へと顔を向けた。
そこに立っていたのは黒髪黒目をした見慣れない風貌の青年だ。
それが、ニッコリと穏やかなどこか純朴そうに見える笑みを浮かべながら自分を見ている。
「え? 誰よ、あんた」
ルイズは思わず素で問いただした。
そんな彼女の言葉に思わず苦笑しながら、目の前の人懐っこそうな微笑みを浮かべた青年が答えた。
「酷いな、君が召喚したんだろ」
その言葉でルイズは、この青年が昨日呼び出して契約を交わしたうちはシスイとかいう魔法の使える平民であることに気付いた。
「え!? あんた、昨日の奴なの!?」
吃驚しながらじろじろ見てみると、確かにクセの強い短い黒髪といい、釣り気味のくっきりした黒い瞳といい、大柄な鼻の形や厚めの唇といい、パーツの形は同じだ。しかし、男は昨日の暗殺者然とした黒いコート姿ではなく、奇妙な形をした黒い中着と深緑の上着姿だし、なにより雰囲気が昨日と酷く違った。有り体にいえば、昨日の彼は穏やかな顔を浮かべてもただ者じゃない臭がしていたにも関わらず、今日のシスイはまるで普通の平凡な好青年かつ地味な平民の男にしか見えないのだ。まさかこれほど雰囲気が違うのに同一人物とは思わなかった。
そんな風に驚いているルイズを前に、男は「まだ、寝ぼけてるのか?」といいながら、濡れタオルで慣れた仕草と力加減でルイズの顔を優しく拭った。それで、先ほど肌に触れた冷たいと思ったものの正体がその濡れタオルだとわかった。
「んぐ……あ、あんたね……」
「んー……目は覚めてるようだな。あ、それと悪いけど、部屋の中は見させてもらった。着替えも用意しておいたから着替えてくれ」
そうして見ると確かにルイズのベットのすぐ横に下着から制服まで、キチンと丁寧に畳まれ置かれている。なんというか、傭兵だとか言ってたわりに手際が良い男だ。
それについても色々言いたいことがあったが、ルイズははぁとため息と共に飲み込み「まぁ、いいわ。着せて」そういって着替えを手伝わせることにして追求することを辞めた。それにシスイは一瞬だけ戸惑うような仕草を見せたが、結局はルイズの言うことに従い、彼女の着付けを手早く始めた。……が、しかし、その仕草がやけに慣れていたような気がするのはどうしてなのか、お前は傭兵じゃなかったのか、とルイズはなんだか余計にモヤモヤした気分になった。
真相を言うのならば、実年齢よりも幼く見えるルイズを前にして、彼はよく幼稚園児だった妹の着替えの手伝いを母の代わりに自分がやっていた小学生時代をつい思い出してしまい、懐かしい気持ちになって当時小さかった妹にやってやったことをそのままルイズ相手に再現していたというだけなのだが。
おそらくこれが子供扱いの延長だったなどと知ったら、ルイズは怒っただろう。まあ、勿論そんな真相と知らないルイズは、「どこかの家に使用人として本当は仕えていたことでもあったのかしら?」なんて風に考えていた。
まあ、そうこうするうちに5分と経たず着替えも終わり、ルイズは窓の外の状態から浮かんだ、もう一つの疑問である今の時間帯について男に尋ねることにした。
「それにしても、気のせいじゃなかったら随分早くない?」
正直濡れタオルのおかげか眠気は吹き飛んだが、多分今はルイズならいつも眠っている時間なんじゃないかと辺りをつけ、そう男に問う。時間が本当にあるのなら二度寝をしたいぐらいだ。
そんな風に思うルイズを前に青年はあっけらかんとした声音で現在の時刻を答えた。
「そりゃ早いだろう。多分まだ5時過ぎだ」
「は!? あんたなんて時間に起こしてくれてんのよ!?」
そう憤慨するルイズを前に、シスイはどことなくおっとりした調子で苦笑しながらそれでも焦るでもなく、「いや、昨日のこと忘れているのか?」なんてことを口にした。
「昨日?」
「オレの力を見たいと言ってなかったか? だから朝の鍛錬に間に合うよう起こしたんだけど」
「そういえば言ってたわね……」
そこで昨日、ハルケギニアとは体系が違うとか言っていた東方の魔法……実際は異世界の、らしい、を明日の鍛錬の時に見せるとかなんとか語って、結局自分に男は何も見せてくれなかったということを思い出した。
それに自分はもったいぶるなんて本当は魔法を使えないか弱いんじゃないのかと思った物だが……こうして起こしたということは本当に見せる気自体はあったらしい。
「ま、朝早いと言っても時間は無限じゃないんだ。人に見られないようにちょっと離れた森に行く必要があるし、大丈夫そうなら今すぐに出発するけど、大丈夫か?」
そういって男は優しげに微笑みつつ穏やかな口調でそんな風にルイズの都合を尋ねた。
「わかったけど……」
そんな男の様子を見てルイズはじと目で見上げつつ、つい今朝起きた時から気になってたそれについて口出した
「ところで、アンタなんか昨日とキャラ変わってない? 違い過ぎてなんか気持ち悪いんだけど」
「……え?」
(オレ、どちらかというとこっちのほうが素なんですけど)
人間とは第一印象に左右される生き物である。
シスイとてそのことは知っていたつもりだが、まさか普段の自分を気持ち悪い扱いをされるとは思って無くて、少しだけルイズの言葉にショックを受けたのだった。
靴も履き終わり、外に出たルイズは今から森に行くといった男に対し、「ところで、森にどうやっていくつもり」と問う。男は馬を用意しているわけでもなさそうなので、ルイズにとってはそれは当たり前ともいえる疑問だった。
そんな彼女の疑問を前に、シスイは「抱えていくから問題ない」と真面目な顔で答える。
そんな青年の返答に少女は訝しみながら問い返す。
「は? 抱えていくってどういうことよ?」
……ぶっちゃけ説明が面倒くさい。こういうのは実際体感して貰ったほうが早いのだ。
「あー、とりあえず……舌噛むなよ?」
そう口にすると、ひょいっとシスイは片腕で華奢なルイズの体を抱き上げ、落ちないように固定し、そして……。
「え? き、きゃああッ」
高速で駆け始めた。
その正確な速度はわからなかったが、それでもルイズを抱え上げたシスイの足は早馬のスピードの3倍は軽く速くて、ルイズは男の腕の中で悲鳴を上げながら、過ぎていく景色を前に目を回すのであった。
続く
ちなみにルイズさんを運ぶ際、しーたんはこれでも気を遣ってスピードを落としています。