瞬身の使い魔   作:EKAWARI

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ばんははろ、EKAWARIです。
えー、まだパソコンは修理中ですので今回漫画喫茶から投稿してみたわけですが、相変わらず1万文字近くいってしまいました。
本音は1話あたり平均5千文字くらいに押さえたい所なんですが、上手くいかないものです。
それではどうぞ。


6話

 

 

 正直な話をすれば、召喚してすぐ男を見たときルイズが抱いた想いというのは不安と戸惑いでしかなかった。

 それは当然といえば当然だった。

 なにせ春の使い魔召喚の儀式……サモン・サーヴァントといえば、ハルケギニアのどこかにいる、召喚者に相応しい生物を呼び出す儀式であり、通常人間が召喚されることなど考えられない。ましてやルイズが呼び出した男といえば、全うな平民にも貴族にも見えない相手だったので尚更だ。

 まるで吸い込まれるかと思うほどの闇を湛えたブラックオパールの瞳。血の匂いを漂わせながら不吉にも口元から膝下まで覆う黒いコートに、それに負けぬほど漆黒の髪、独特の変わった形態をした黒いブーツ姿の青年は己に名を聞かれたあの時まるで泣いているような顔と声で狂ったように笑った。

 歳は……ルイズより2つか3つほど年上といったところだろうか。まじめな顔をしている時はそれなりに落ち着きのある大人にも見えたが、穏やかに笑みを浮かべた姿は案外幼く感じさせるそれだったので、おそらく20歳を越えてはいないのではないだろうかと思う。

 男に対する第一印象は、何か影のある過去を背負った暗殺者といったものだった。

 けれど、その印象はルイズだけが受けたものではないだろう。何故なら、男は誰が見ても真っ当な職についているように見えなかったし、デザインこそハルケギニア……少なくともトリステインではお目にかかったことのないものとはいえ、全身を黒で覆ったその装束は闇討ちにこそ適してい格好と思われた。それに血の匂いを纏って現れた時点で尋常ではなく、普段は軽口ばかりの他の生徒たちも男の雰囲気に飲まれて野次を飛ばすことさえなかった。

 まあ、男曰く、己は暗殺者ではなく、東方出身の傭兵ギルドに所属していた魔法使い(メイジ)の傭兵で、魔法は使えても身分は平民とのことだったが……正直胡散臭い。その証拠のように、男はルイズと二人っきりになると今度は本当は東方出身じゃなくて、自分は異世界出身だなどとのたまったのだ。

 はっきりいってルイズとしては一体どこまでこの男を信用していいのかがわからない。男の言葉は荒唐無稽すぎて嘘臭いのだ。

 けれど、確かに男はハルケギニアの人間らしくはなかったので、男の言葉のすべてが嘘というわけではなさそうではあったのだけれど。

 しかし今朝起きて、さらにルイズは驚かされることになった。

 なにせうちはシスイと名乗ったルイズの使い魔ときたら、一晩経つなりまるで昨夜とは別人のような変わりっぷりだったのだ。

 一体どこに持っていたのやら、デザインこそ独特ではあるけれど普段着のような服を身につけ、よくわからない模様の描かれていた額宛を外し、血の匂いもさせず、人懐っこい……昨日の影は一体どこにいったのよ、と聞きたくなるほど朗らかな笑みを浮かべた男は、そののほほんとした雰囲気も相俟ってどう見ても……ちょっと変わった服装と顔立ちをした普通の平凡な平民にしか見えなかった。

 何よこれ詐欺? と思ったルイズはきっと悪くない。

 ていうか本気でただの平民にしか見えない。人殺しどころか喧嘩すらしなさそうなくらいの人畜無害オーラは本当に一体どういうことなのか。昨日の暗殺者にしか見えなかったアンタはどこいったってほどの変わり具合だった。

 なので、正直ルイズは落胆していたのだ。

 昨日は強そうに見えたけど、本当は弱いんじゃないかと、魔法を使えるとか強がってたけど、やっぱりなんの取り柄もないただの平民なんじゃないかと。

 だが……その前言は撤回する。

 

「きゃああああーーー!」

 ルイズは現在、男に抱えられたまま森の中を超スピードで高速移動していた。そのスピードたるや早馬の三倍は速いのではないかというほどで、ひょっとしたらこれはドラゴンといい勝負なのではないだろうか。

 人間のくせにドラゴンと張り合えるスピードといった時点で、それがどれほどのことかお分かりだろうか。既にルイズに至っては理屈ではなく肌で理解していた。

(こいつ……絶対普通じゃない!!)

 なんて無茶苦茶、なんて出鱈目。

 人畜無害そうな顔をしているくせに、一見ぼんやりしたただの平民にしか見えないくせに、人1人抱えた状態でドラゴン並のスピードを出して、汗ひとつかかず平然としているのは一体どういうことなのか、これは既にルイズの理解の範疇を超えている。スクウェアの風メイジだってここまで速くはないだろう。

 実はこの男、人間なんじゃなくてやっぱりエルフが人間に化けているだけなんじゃないのか。人畜無害そうな顔して、いかにも平凡な平民ですといわんばかりの雰囲気纏わせといてこれは本当に詐欺だ。

 しかしルイズのそんなグルグルとした思考は長く持たなかった。

 何故なら……。

「着いたぞ」

 そういって飄々とした態度で、男……ルイズの使い魔となった青年うちはシスイはそう声をかけて、彼女をゆっくりと腕から降ろしたからだ。

 その際今まで密着していたけど漸く止まったからこそ気づいたことだが、案外男の胸板やら腕やらがノホホンとした顔に似合わず鍛え上げられたそれで、逞しかったということに一瞬ちょっとだけドキッとしてしまったことが少し悔しい。

 とりあえず、男の腕から降りたルイズは、乗り物酔いのような気持ち悪さにグッタリしつつも、少し周囲を見渡した。そこは学園からそれなりに距離の離れた森の中で、男の腕に捕まって移動し始めてから5分程度しか経っていないはずなのに、随分な距離を移動したのだと気づかされた。

 が……そんな現状確認をしている現在も高速移動の余韻で正直気持ち悪い。

 シスイはそんな風にぐってりとしながら青い顔をして参っているルイズの様子に気づいたらしい、どうにもばつの悪そうな顔で頬をポリポリとかきながら、懐から何かの粉薬と腰にぶら下げた水筒を取り出して、それを差し出しながら言った。

「えっと、その……言うより実際体験したほうが早いかなーっと思ったんだけど、なんか悪かった。これ、水と酔い止め。辛かったら無理するなよ?」

 そんな風に困ったように言う男に対し、ルイズはその鳶色の瞳をギンと吊り上げ、酔い止めと水をひったくるようにして口に入れると、この一見平凡だけどまったく普通じゃない使い魔に向かって怒鳴りあげた。

「アンタッ、絶対おかしい! もし落ちたらどうしてくれんのよ!? いえ、それよりあのスピードは何!? あんた、メイジとか平民とか以前に人間じゃないでしょ! 本当はエルフなんじゃないの!? い、今なら怒らないでいてあげるから正直に白状なさい、ええ、今すぐに!」

 その少女の剣幕に思わずオロオロしながら、男は困ったように答えた。

「え……いや、あれぐらいで落とすヘマなんてしないし、オレ人間だしなんでエルフ? ……っていうか、正直魔法使いっていうからてっきりあれくらいの移動速度には慣れていると思ってたんだけど」

 あっれ~? と首を傾げながら答えるシスイに対し、思わずルイズは絶句した。

(何、あのスピードで魔法使いなら慣れていると思ってたって!? こいつ、本気でどこから来たのよ!)

「慣れてるわけないでしょ! アンタ、魔法使いをなんだと思ってんの!? スクウェアメイジでも普通あんな早く動けないわよ、馬鹿ッ!」

 一方でそんなルイズの罵倒を浴びせられながらシスイも考え込んでいた。

 

(そうか……慣れてないのか)

 彼が15年育ったNARUTO世界においては、チャクラで肉体を活性化させて高速移動する術である『瞬身の術』はメジャーといえるほど使い手が多いわけではなかったが、マイナーと呼ぶほど使い手が少ない術ではなく、木ノ葉瞬身、霧瞬身、砂瞬身、水瞬身など地域ごとに数多くの種類の呼び名がある時点でそれなりには使い手の多い術といえる。

 なので下忍でこれを使えるものは少ないが、中忍や上忍では使い手は珍しくはなく、一定以上の地位に昇りつめた忍びが瞬身の術を使ってるのは別段珍しい光景でもおかしな光景でもなんでもなかった。

 とはいっても、シスイのように「瞬身のシスイ」と二つ名にされるほど使いこなせるものは多くはないが。まあ、実際シスイが本気を出して瞬身の術を使えば追い付くどころか、目測すら難しいレベルでこれに長けているのは確かである。

 本気で逃げを打ったシスイに追いつきたいのならば、瞬身の術ではなく、4代目火影である波風ミナトが使用していた得意忍術である時空間忍術の、「飛雷神の術」を使うしかないだろう。因みに飛雷針の術は使い手が少ないのもあって、一般人の目から見たら「凄い瞬身の術」にしか見えないが、マーキング先に異次元空間を通して一瞬で移動する術なので、瞬身の術とは全くの別物である。

 しかし、今回シスイはルイズを安全に運ぶことを優先していたため、本気で瞬身の術を使っていたわけではない。そもそも瞬身の術は名の通り、瞬間移動に見えるほどの高速移動術のことなのだ。本気で使ったらこんなスピードで済むはずがなかった。

 なので、これくらいのスピードならそんなおかしくもないだろう。魔法使いのいる世界なんだからこれくらいの移動速度なら大丈夫だろうと思って使ったわけだが……ルイズから帰ってきた反応はこれだ。まさか、魔法使いなんてファンタジーな存在に、この程度のスピードで人間じゃない扱いされるとは思ってなかった。

(これは、もっと慎重にするべきか?)

 とりあえずルイズには知られたから今更だが、これからは気をつけようと自戒した。

 

「うん、ごめん。とりあえず、帰りは気をつけることにするから」

 とりあえず素直に謝って頭を下げながらそういうと、フンっと鼻を鳴らしながらもルイズは「ええ、そうしなさい」といってそっぽを向いた。

(優しい子なんだな)

 怒ってただろうに、こちらが謝るとすぐに許してきたことからシスイは目の前の子が、多少意地っぱりのようだが、優しく素直な子なんだろうと思った。

 なにせ、ルイズは公爵家の息女である。公爵家といえば、貴族でも王家に次ぐほどの上位に位置する貴族だ。そんな大貴族の娘だ、ちょっとでも不興を覚えれば、平民相手なら自分の差配で処断する権利くらい持っているのだろう。それに……最初っからこの口調のままで改めるタイミングがつかめなくてそのままにしているが、ちゃんとした敬語を使っていない自分に対して罰しない時点で相当に寛大なのだろうと、シスイは思った。

 ともあれ、そんなことは思うが時間は有限であり、朝の鍛錬後は昨日の契約の通り食堂に働きに出る予定である。シスイは「悪いけど、もう始めるからそっちで見ていてくれるか?」と声をかけて鍛錬を開始することにした。

 因みに青年が指差した先にあったのは、根本から切り倒された木の株だ。ちょうど一人分が腰掛けられるサイズであり、ルイズは怒るだけ怒ってもう満足したのか、それとも主としての寛大さを見せようと思ったのか「わかったわ」と指示に素直に従い、ちょこんと木の株に腰かけた。

「ありがとう」

 そうフワリと柔らかく笑みを浮かべつつ、シスイはそういうと、鍛錬で服が汚れないよう上着を脱いで几帳面に畳み、手ぬぐいや水筒等と共にルイズの隣へと置いた。

 そして少しだけ開けた森の中心で目を瞑り、精神を一つに集中させる。

 

 ―――――途端、男の纏う空気が変わった。

 

 静寂。言葉で表すならまさにその言葉がふさわしい。息をすることさえ忘れたかのようにピンクブロンドの少女は空気に飲み込まれる。ピリリと緊張感が全身をかけぬけ、目の前の男から目を離すことさえ出来ない。

 ただ立っているだけなのに、何故なのか、ルイズには理解出来なかった。

 やがて男が目を開く。その眼は優しげな黒ではなく、血のような赤。巴模様を描いたそれは昨夜彼が説明していた幻術を見せるという目、写輪眼ではないだろうか?

 男は目の前でバッと指を高速で組み始める。それは先日、学園長やミスタ・コルベールの前で青年自身が説明した魔法を使うときの媒体という、印というものだった。

 そして男は言葉を放った。

「影分身の術」

 そして、その言葉に合わせるように、ドロンと音をたててもう一人のうちはシスイが煙の中から現れた。

 

 影分身の術。

 それは難易会得度Bランクに当たる実体をもった自身の分身を作り出す術だ。

 残像でしかない普通の分身の術と違い、影分身で作られた分身は本体と同じ自我を持ち、術者のチャクラを分けて作り上げるため、本体同様の術を使うことも出来、それなりのダメージを受けるか本人の意思で消さない限り実体し続けるという特徴の分身の術であり、実体を持つ分本体との見分けが難しいという、数多の分身の術の中でも高ランクに属する分身の術だ。

 しかしスペックが高い分影分身の術を使用するのに置ける必要チャクラ量のほうも多く、故にこそ影分身の術は特別上忍や上忍などが操るような高位忍術だった。その証拠のようにシスイが上忍に昇進してから約2年近い月日が経つが、彼が影分身の術を覚えたのはつい数か月前のことだった。

 また、多重影分身の術という、実体のある分身を複数作り出す術もあることはあるが、そちらに関して言えばシスイは覚えていない。というのも、影分身の上位版である多重影分身の術は、分身すべてに均等にチャクラを配って作らなければいけないため、チャクラ量の少ないものが使えば命を落としかねない危険な技なのだ。……その辺、原作のうずまきナルトがバカみたいなチャクラ量頼りにポンポン使っているから誤解している人がいる気がするが、多重影分身の術はれっきとした禁術の一つなのである。ゆえにチャクラ量は普通よりは多くても、特別恵まれているわけでないシスイが多重影分身を覚えているわけはなかった。

 しかし、普通の影分身も、これはこれで覚えていたらそれだけでとても便利な術である。

「はっ」

 影分身と本体、2人のシスイは同時に気合いの声を発し、同時に組み手を始めた。

 そう、これこそ影分身の……実体のある分身の利点の1つだ。

(1人で鍛錬するより、相手がいたほうが断然いいもんだな)

 それが自分と実力が全く同じ相手なら尚更だ。

 その弱点も強みも同じ自分相手だからこそ知り尽くしている。だからこそ、何にも勝る鍛錬となる。

 ……とはいえ、今はそれほど多く時間があるわけではないし、この場にはルイズもいる。

 故に鍛錬とは口では言うが、どちらかといえばれは自己確認作業だ。

 自分の小さな主が目の前にいるのに、毒やら森の木々をなぎ払うような真似やらをするわけにはいかない。武器なしでどれほど動くのか、これは敢えていうのなら動作確認に過ぎない。それに、何より今は武器を使うわけにはいかなかった。

 今朝、彼は武器の手入れ作業を行った。その時、左手が光り輝き、体が軽くなりうちから力がわいてきたものだ。間違いなく、シスイは……名称は忘れたが、伝説の使い魔とやらの能力が宿ってしまったのだろう。しかし、彼はその力に頼る気は微塵もなかった。

 シスイは戦士でも剣士でもないのだ。

 彼は忍びだ。

 闇を潜み、諜報、暗殺、毒殺こそが本分の忍びなのだ。

 そんな闇から敵を討つ戦い方を専門とする彼に、光り輝く手など敵に居場所を教えているようなもので、障害でしかない。それにたとえそれがどんな偉大な力なのかは知ったことじゃないが、そんな慣れぬ力を頼りにはしゃいで、自分の本分を蔑ろにするほど彼は幼くも無邪気でもない。

 本々当時7歳のアカデミー卒業時のイタチにすら手裏剣術は負けるほど、武器の扱いに関しては忍びの中では不得手なほうであったシスイだが、使い魔のルーンのおかげで武器の使いこなしスキルが向上することに関してのみなら、今回手にしてしまった能力の数少ないメリットでありがたいことなんだろうと思えたが、それでも本来彼にとって武器とは敵にトドメをさすための道具でしかなかったし、主戦力にするつもりはこれからもない。

 ゆえにルーン能力の確認についてはまた後日として、今は自分の素の能力についてあの鏡を通ってこちらの世界にきたことにより、何か異変が起きていないかという確認作業のほうが優先順位は上だった。

「火遁・鳳仙火の術!」

「火遁・豪火球の術!」

 本体と分身が同時に放った種類の異なる火遁の術が互いに鍔競り合う。

 方や複数の火の玉が相手のほうに向かい飛び、方や巨大な火の玉が相手を焼き尽くさんと向かう。

 やがて炎は互いに相殺し、天に昇るように弾け消え、次の瞬間には本体も分身も相手の裏を取らんと駆け抜けあう、その光景をまるで夢でも見ているかのように茫然とルイズは見ていた。

 

(何これ……)

 いまだに自分が見ているものが信じられない。

 確かにこの森に連れてこられた時も、こいつは普通じゃないと思った。

 昨日写輪眼の説明を受けた時もつい「あんた……本当に人間?」と訊ねてしまったわけだが、今の目に映る光景を見ていると尚更に「本当にこの男は人間なのか」という思いが胸に強く広がっていく。

 最初に影分身をして分身を生み出したシスイを見たときだって、ルイズは叫ぶことすら忘れるほどに驚いたのだ。

 ルイズ・フランソワーズはトリステイン魔法学院の劣等生だ。

 それは貴族でありながら魔法が使えない故に。何の魔法を使っても爆発という結果だけを残して失敗する「ゼロのルイズ」故に。

 しかし、魔法が使えないからこそ彼女は努力に努力を重ねた。その結果が座学における学年一位という成績なのだ。皮肉なことに、魔法が使えないにも関わらず、ルイズほど魔法について詳しい生徒はそういないのだ。

 そんな彼女の知識の中には「術も使える実体のある分身を生み出す術」に関する知識も当然あった。

 それは対人戦では最強といわれる「風」系統の最上位、風のスクウェアが使う「偏在」の魔法だ。

 魔法使いのランクは足せる系統の数によって決まる。系統を足せないならば「ドット」、属性を2つ足せるならば「ライン」、3つなら「トライアングル」、4つなら「スクウェア」であり、うち、実体のある分身を作ることが出来るのは風系統のスクウェアだけなのだ。

 そして大抵の場合において、魔法学園の教師のランクはトライアングルだ。スクウェアなんて滅多にいない。なのに、今この使い魔は軽々と風のスクウェア級の技を使って見せたのだ。確かに異世界の魔法使いの傭兵とはいっていたが、スクウェア級の技が使えるなんて聞いていない。

 それにどうだ、この体捌きは、力は。

 先ほど起こした火の魔法なんて、微熱のキュルケの最大火力にこそ劣るが、ラインメイジ級はあるのではないか?

 出鱈目だ! と思わずにはいられなかった。

 確かに複数の属性をもつメイジがいないわけではない。だけど、「風」でスクウェアにいけるやつが、「火」でまでラインにけるなんて考えられない、有り得ない。

(わたしは系統魔法どころか、子供でも出来るコモン・マジックさえ出来ないのに……)

 目の前で舞い踊るように組み手を交わすシスイ達の姿を見ながら、ルイズの胸の中で劣等感が這い上がり、ジワジワと彼女の心を蝕んでいく。

(なのに、どうしてわたしの使い魔のはずのあんたは魔法を使えるの……?)

 ずっと、強い使い魔がほしかった。

 そうしたらずっと誰も自分を馬鹿にしなくなると、自分に自信がもてるようになるんじゃないかとそう思っていた。

 だけど……。

 そんなわけがなかった。

 だって、その力はあくまで使い魔本人のものだ。

 自分のものじゃない、自分の力じゃない。

 ルイズは無力だ。

 脳裏に先日の男の言葉がよぎる。

『その子の使い魔になることにオレに一体何のメリットがある?』

『生憎、庇護されないと生きていけないほど軟弱じゃないんだ』

 その言葉は本当だった。思えば、彼が自分の使い魔になることを受け入れてくれたのも、受け入れてくれないとルイズが留年してしまうからと、元の場所に変える方法を探すと約束するからと、そうオールド・オスマンが口にしたからだ。

 要は情けをかけられただけだ。

 男が使い魔になってくれたのは、ただ留年してしまうかもしれなかった自分が『可哀想』だったから。

 昨夜、男は確かに自分を主と認める言葉を吐いた。この鍛練だって、ルイズが主だから望むなら見せるとそう口にした。けれど……。

(わたしじゃなくても、良かったのよね)

 自分の使い魔、自分だけの使い魔なら己のことをわかってくれるかもしれないと、それは結局幻想だったのか。

 ただルイズは悔しくて情けなくて辛くてたまらなかった。

 

 やがて鍛錬を始めてから30分の時間が経過し、シスイは分身を消してルイズの下に戻ってきた。どうやら本日の鍛錬はこれで終了らしい。彼は手拭いで体をぬぐうと、奇麗に畳んでいた上着を羽織り水を呷った。

「ねぇ」

 そんなシスイに向かってどこか沈んだような落ち込んだような顔と声で、ルイズが声をかける。

「どうした?」

「あんたって、二つ名はあるの?」

 思わぬ質問にシスイは思わず、パチクリと目を丸める。その眼はすでに写輪眼の巴模様の浮かんだ赤ではなく、静かな色を湛えた黒だ。

「どうなの」

「二つ名なあ……あるといえば、あるな。瞬身のシスイって呼ばれてた。それがどうかしたのか?」

 いまいちルイズの言いたいことの意図を理解出来ず、首を捻りながら聞き返すシスイに対し、ルイズは元気のない声で質問を続けた。

「瞬身ってどういう意味?」

「高速移動術の名前だ。行きで見せたろ? 体内にチャクラ……魔力を集め、肉体を活性化させて高速移動を可能にする術。まあ、使い手によって速さはピンキリだけどな」

「……そう」

 その説明に、やはり自分とは違うとルイズは思った。

 ゼロのルイズ。成功率ゼロのできそこないの魔法使い(メイジ)。そんな不名誉な自分の二つ名とはまるで違う。はたして、こんな自分がこの男の、うちはシスイの主だと胸を張っていえるのだろうか。自分なんかが主だなどと言えるのだろうか。

「ミス・ヴァリエール?」

 使い魔であるはずの男は、不思議そうな心配そうな顔で少女の顔を見ていた。

 ミス・ヴァリエール、他人行儀な遠い呼び名。

「……ルイズでいいわ」

「え?」

 シスイは戸惑うような声を上げている。まさか名を許されるとは思っていなかったのだろう。けれど、そんな何気ない仕草や表情でさえルイズの劣等感と落ち込みを増長させるものでしかなかった。

「あんたは使い魔だけど、メイジだもの。名を……許すわ」

 本当はそんなの言い訳だ。

 資格がないと思ったのだ。本当は。この男にご主人さまと呼ばれる資格がないと、そう思ったのだ。

 けれどそんなこと昨日の今日の付き合いである青年にわかるはずがない。

「そっか。わかった。じゃあ、プライベートのときはそう呼ばせてもらう」

 コクリと頷き、そういって納得した。

 その顔を、ルイズはまともに見ることができなかった。

 

 やがて行きの半分ほどのスピードで彼はルイズを部屋まで送った。その間ずっと無言だったルイズを気遣い、心配そうに「本当に大丈夫なのか」と問うてくる使い魔の男に対し少女は、視線を合わせないようしながら答えた。

「大げさね。慣れない早起きで少し疲れただけよ。寝てたら治るわ」

「そっか、わかった。あとで食事の時間になったら起こしに来るから」

「わかったわ。遅れないでよ」

「ああ、お休み、ルイズ」

 そういって気遣い気な笑みを湛えた使い魔は出て行った。

 パタンと扉が閉められる。

 ポスリと備え付けの最高級枕に顔を埋めるが、彼女の脳内を占めるのは10分ほど前に見たばかりの男の戦う姿だった。

「瞬身のシスイ……か」

 あの時は寝るとそう答えたけれど、とても眠れそうにはなかった。

 

 

 

 続く

 

 

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