今日は母親が仕事でいなかったので、母親のパソコンを借りて投稿です。(myパソコンはまだ修理中です)
尚、3000文字~5000文字くらいで気軽にチラ裏投稿でいっかと思って連載を開始した本作ですが、なんかどう足掻いても軽く書けないというか5000文字~1万文字になってしまうようなので、いっそのことガッツリやるかと考えて、チラ裏から、表のほうに今回移動することにしました。
というわけで、チラ裏から引き続き読んでくれている読者の方々、また今回新規の読者の方々、こんなちょっとアレな設定の二次創作だか自家発電三次創作だかよくわからない作品ですが、これからもよろしくお願いします。
トリステイン魔法学院の廊下を歩みながら、先日ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔となった青年、うちはシスイは少し考え込んでいた。
(なんだか様子がおかしかったな)
鍛錬初めは威勢が良かった筈なのに、自分の鍛錬見学後妙に大人しくなってしまった、この国での主であるルイズの様子が気がかりではないといったら嘘になるが、昨日自分から条件として出した「食堂で働く」という約束を初日から破棄するわけにもいかず、シスイは後ろ髪を引かれる思いもないわけではなかったが、食堂の厨房口に向かって歩を進めていた。
現在の時刻はもうすぐ6時といったところである。
本当は初日故に5分か10分前には着くようにしたかったところではあるのだが、ルイズの調子を思えばあまり急いで移動することは出来なかったし、なにより、昨日写輪眼まで駆使してある程度学園の構成や配置なども覚えたといっても付け焼刃である。それにこの学園は中々広く厨房の場所についても検討がついているというだけで正確な位置がわかっているわけではない。
そのため、場所の確認がてら彼にしてはゆっくりと歩きつつ散策していたわけだが……そんな彼の目にある危なげな光景が写った。
それは一人のメイドの少女だ。
この国では珍しい黒髪にカチューシャをしている素朴な少女で、雀斑が可愛らしい年のころ16か17歳ほどの少女だ。が、シスイが彼女に目を留めたのは、よくみれば彼女が中々美少女だったりすることが原因などでは勿論無い。
そのメイドは歳若く、メイド服の上から見て取れる体付きを見ても外見相応に華奢な体型をしている。にも関らず、その両手に水がたっぷり入ったバケツを2つばかり大変そうに運んでいたからだ。
そんなもち方してたら倒れるぞ、とこれがハラハラせずにいられるだろうか。
「んしょ……キャッ」
案の定、少女はスッテンと廊下で転びそうになった。咄嗟に少女は目を瞑る。このまま自分は転んで先ほどまで運んでいた水が自分にかかる想像が脳裏をよぎり、青くなっていた。間も無くその想像は現実のものとなるはずだ、というのにいつまで経っても水のかかる冷たい感触にはぶつからず、彼女は不思議そうな顔をしてその目をソロリと開いた。
「大丈夫か」
彼女が見たのは空中を舞った筈のバケツをこぼさず受けとめ、倒れかけていた彼女の肩のあたりを空いている肘のあたりで支えている見覚えのない青年の姿だった。
背はやや高く、黒と緑の一風変わった格好をしている。髪は癖の強い四方に跳ねた短い黒髪で、瞳もまた優しげな黒鉛色をしている。
このあたりではまず見かけない顔立髪や目の色をしていたが、どうみても貴族には見えない。となると平民ということになるが、男が身に纏っているのは使用人の服でもなければ衛兵の服でもない。それに賊という可能性も一瞬だけ彼女の脳裏を掠めたが、こんな堂々と学園内をうろつく賊がいるとは思えないし、なにより体つきはしっかりしているけど、穏やかにどこか心配そうな顔をしているこの男が賊とも思えなかった。
じゃあ、誰? と疑問に思っている少女に気づいたのだろう、男は苦笑を浮かべながら自己紹介をした。
「失礼、オレは昨日2年生に進級したミス・ヴァリエールに召喚された使い魔のうちはシスイです」
そういえば、昨日の使い魔召喚の儀式で生徒の一人が人間を召喚したことは使用人の間でも噂になっていた。そのことを思い出してようやくメイドは男の正体がわかり、胸を撫で下ろしながらほっとした声で言った。
「ああ、あなたがミス・ヴァリエールが召喚したっていう傭兵の方でしたか」
「ところで、ええと君立てる?」
その言葉で今まで男の体に支えて貰っていた中途半端な姿勢のままだったことに彼女は気づき、きゃっとかわいらしい声を漏らしながら羞恥に頬を染めつつ言った。
「す、すみません。私ったら」
「いや、大丈夫、大丈夫。それより怪我が無いなら良かった」
そういって男は安心させるように少女に向かって笑いかけた。そんな男にクスとつられて笑いつつ、カチューシャで纏めた黒髪が清楚なメイドは自己紹介をする。
「私はシエスタといいます。ところで、こんなところでこんな時間にどうなされたんですか? えっとウチハシスイさん? ……変わったお名前ですね」
「ま、服装見たらわかると思うけどこの国の人間じゃないからな。オレのことはシスイでいいよ」
そういって気さくに笑う男は悪い人間には見えず、噂は当てにならないなあとシエスタは内心でごちた。なんでもミス・ヴァリエールが召喚したという男はそれはそれは恐ろしい黒尽くめの血まみれの傭兵で、まるで死神みたいな男だという噂だったので、内心シエスタはそんな恐ろしい人に会ったらどうしようとビクビクしていたのだが、こうやって接する男は死神どころか傭兵にすら見えなかった。
そんな風に警戒から安心に変わった少女の態度に気づいたのか、青年は穏やかに笑いつつ何故ここにいるのかという彼女の疑問への答えをお願いと共に返した。
「実は今日から暫くの間朝は厨房で働かせてもらうことになったんで厨房を探していたんだ。それで……シエスタさんはキッチンメイドで合ってるかな? で、良ければ連れて行ってもらえたらと思って声をかけようかと思ってたんだ」
「そうだったのですか。ええ、確かに私はキッチンメイドですけど、よくお分かりになりましたわね」
「まあ、勘だけどな。ところでこの水を厨房まで運べばいいのか?」
そういってシスイは何気ない仕草で水が入ったバケツを持ち上げた。それに自分の手にバケツがないことを漸く思い出したのだろう、シエスタは慌てた声を上げながら言う。
「す、すみません。私ったらすっかり忘れて。あの、私が運びますから」
「いいって、いいって。厨房まで案内してもらうお礼だ。それに言ったろ? 今日から暫くオレも厨房で働かせてもらうことになったって。同僚なんだから気を使わなくていいって。それにオレのほうが後輩なわけだし、先輩に持たせたままにはしてられないよ」
「せ、先輩って私がですか?」
「うん。これからよろしく」
そういって人懐っこく黒の青年は笑った。
「へえ……じゃあシスイさんは東方の出身なんですか」
「ん、まあそういうことになるかな」
厨房までの道中、シスイはこのシエスタと名乗るメイドの少女と他愛無い会話を繰り広げていた。まあ、これも情報収集の一環ではあったのだが。なにせ、シスイはあまりにこの世界のことについて知らない。ゆえに少しでも多くの情報がほしかったし、いつまでいるかはわからなくてもある程度はこの世界に居つくことを見越して人間関係を固めておきたかったというのも、理由にはある。
「しかし、本当に傭兵なんですね?」
「見えないか?」
「ええ。私、傭兵っていうからてっきりもっと恐ろしい人をイメージしてました。シスイさんには失礼かもしれないですけど、傭兵ってもっと品がなくて荒っぽい人がなるものだと思ってましたし」
そういってじっとシスイを見上げる。そんな少女の視線に苦笑しながら青年は答えた。
「まあ、個人の傭兵はそんなもんだもんな、そのイメージは無理もないか。オレは運が良かったんだよ。オレの所属していたギルドって結構でかくてしっかりしたところだったからな」
「……恐ろしくは無いんですか?」
ふと、神妙な声になってシエスタが男に訊ねた。
「恐ろしいって?」
「傭兵ってことは戦場にも出てらしたんですよね? メイジと戦う場合もありますよね? 怖くないんですか?」
それは確かに貴族への怯えが見え隠れした台詞で……青年は一瞬言葉を失ったが、ニッと笑って答えた。
「大丈夫大丈夫、オレも魔法使えるから」
「え?」
少女の顔が今度こそ強張る。それに気づいて、返答を間違ったかと思いながら、シスイはそれ以上シエスタの思考がマイナス方向にいかないよう先手を打って言った。
「とはいっても、オレ自身の身分は平民だから気にしないでくれ。魔法が使えるのは祖父に習ったからだ。オレ自身は生まれつき平民だよ。今日から同僚なんだし、魔法が使える件については気にしないでくれると助かる」
それに、別に魔法は使えるが貴族ではないという言葉が効いたのか、シエスタは少し憂いを残しながらも安心したようにほっと息を吐いて、「そうだったんですか」といってぎこちなく笑った。
「ということは、シスイさんは貴族の皆さんとも対等に戦えるんですね……いいなぁ」
「いや、殺し合いなんてやらないに限ると思うけど……」
「……そうですね。あ、着きました、此処です」
朝の厨房はまさに戦場だった。
「うちはシスイです。シスイと呼んでください。今日からこちらでお世話になります、よろしく」
と、なんとか挨拶だけは交わすことが出来たが、あとはすぐに料理長であるマルトー親父直々の指示で野菜の皮むきから皿洗い等雑用係として指示を飛ばされ、せわしなく動き働いた。
その間も作業からは目を離さず手を動かしつつ、周囲の話に耳を向けるのも忘れない。
「ねえ、聞いた、この前城下町でさ……」
「へえ、それで?」
「そうそう、アルビオンについて知ってるか? 実はさ」
……これが、シスイが厨房で働くことを希望した理由のひとつだ。
確かにあの日オールド・オスマンに言ったように劣化防止のためにも包丁に触れていたいとか、自分の私物くらい主におんぶにだっこではなく、自分の給金で購入したいというのも嘘ではない。しかし一番の理由は情報収集のためだ。
民は愚かであれが中世の方針ではあるが、上が思うほど民とて馬鹿ではない。なにより火の無いところに煙は立たないのだ。市井の噂も馬鹿に出来たものではない。その中から信憑性のある話を見極め、必要な情報を入手することは忍びとしては必須技能とさえいっていい。
そして厨房には多種多様な平民が集まっている。噂を集める際にこれほど便利なところもそうはない。それにそこの人々に溶け込み、仲良くなることによって表面上の付き合いでは得られない情報も入るかもしれないのだ。
学園長は己が元の世界に戻る方法を探すと約束してくれたが、正直言えばあまり宛にはしてない。ならば、元の場所に戻る為、情報を得る為のパイプは自分で築くべきだろうとそうシスイは思っていた。
そして厨房で働き始めて約1時間の時間が過ぎた。
「ほらよ」
そういって、シチューをずいとコック長のマルトーに差し出される。
「えっと、マルトーさん?」
「お前は貴族の嬢ちゃんの使い魔でもあるんだろ? それ食ったら行きな」
つまり、もう上がれということなのだろう。
「ありがとうございます」
「まぁ、なんだ。案外いい働きだったぜ。最初は傭兵上がりが神聖な俺たちの職場に来るっていうから、どんな馬鹿野郎だ、余計なことをしたらただじゃおかねえと思ってたがよ、まあ、なんだ悪くなかったぜ」
そういって40がらみであるこの魔法学園の厨房を取り仕切っている親父は……魔法と貴族嫌いだが、オールド・オスマンによってシスイが魔法の使える傭兵だと事前に説明されていたからだろう、やや複雑そうな顔をしつつもそういってこの新人を労った。
「しかし、『傭兵様』のわりにえらく手馴れてたなあ? お前」
親父の脳裏をよぎるのは、言われたとおりに皿洗いと野菜の皮むきをこなし、かつ手が空くなり忙しそうにしている場所にフォローにいく先ほどまでのシスイの姿だ。悪い働きじゃないというのは世辞でもなんでもなく、実際新人であるにも関らず1,5人前くらいの働きを1人でしていたというのがあった。
「まあ、一人暮らしが長かったので、家事に慣れてますし、昔少しだけ厨房で働いてた時期があったので」
そう苦笑しながら答えるシスイに対し、親父は「そうかそうか」、とやや豪快に笑いながら「昼もちゃんと来いよ」と言って背を向けた。
そして厨房の端に置かれた椅子に座り、厨房で借りたエプロンを脱いで、先ほど渡されたスープを前に手を合わせる。
「いただきます」
ありあわせの材料で作られた賄い食用のシチューは暖かく美味かった。
食事も終わり、シスイは時間まで寝ていると答えた主人を起こし食堂に送る為、朝の女子寮を歩いていた。やがて目的の部屋を見つけ、コンコンと規則正しくノックをして声をかける。
「ルイズ? そろそろ朝食の時間だと思って起こしに来たけど、開けていいか」
「……入っていいわよ」
その許しの声を合図に、質素ながらもアンティーク調の家具に囲まれた彼女の部屋へ足を踏み入れると、もう少し寝ているんじゃないかという予想に反してというべきなのか、ルイズは昨日も座った机と揃いのセットの高価な椅子に腰掛け教科書らしき書物に目を通していた。
それは少女の類まれな美貌と憂い顔もあってか、絵になるほど様になっていた光景で思わず感心したように見とれてしまった。
「何よ?」
そんな男の視線に気づいたのだろう、訝しげに眉を寄せながらルイズは青年に視線を投げかける。
「いや……」
そう答えるが、男のその答えが気に入らなかったのだろう。少女はムッとした顔でパタンと教科書を閉じると言った。
「言いたいことがあるのなら、いったら?」
(それとも、言う価値もないほどわたしの存在は取るに足らないかしら?)
そんな卑屈な考えがルイズの脳裏をよぎるが、まさかそんなことを彼女が思っているとは露知らず、シスイは感心したような声でこう言った。
「ただ、勉強家なんだな、って」
(ええ、勉強ぐらいでしか頑張るものがなかったもの)
そんな毒の篭った、惨めで自分をただ傷つけるだけの八つ当たりじみたことを口に出来るわけもなく、ルイズはただ感情を出来るだけ廃した声で告げた。
「食事に呼びにきたんでしょ、行くわよ」
そうして部屋を出てすぐ、彼女は自分の前を立ちふさがるように出てきた少女に気づいた。
「あら、ルイズ」
そういってそこに立っているのは、長く扇情的な赤い髪に褐色の肌が艶かしい、ルイズよりも2つばかり年上の少女だった。少女、といっても大胆にブラウスのボタンを外して見せている豊満な胸や、気だるげな色っぽい雰囲気といい、清楚で華奢で実年齢よりも幼く見えるルイズとは正反対で、実年齢以上に歳が離れているように見えたわけだが。
「キュルケ」
その少女というより赤毛の美女といったほうがしっくり来る同級生を前に、ルイズはつい嫌そうな声で彼女の名を呼んだ。この目の前の少女は天敵といっていいほど、ルイズにとっては鬼門の存在だ。
なにせ、キュルケ……キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは隣国ゲルマニアからの留学生であり、ルイズの実家であるヴァリエール公爵家とは隣同士の領地に住んでいるツェルプストー辺境伯の娘なのだ。当然、彼女の先祖もルイズの先祖も戦争のたびに真っ先に殺しあってきた間柄であったし、それだけでなくルイズの先祖の恋人の多くがツェルプストー家に奪われてきた過去もあって、余計に気に食わない相手であった。色気たっぷり余裕たっぷりな態度で、学生ながら火のトライアングルメイジであることも忌まわしい。
ルイズとはまさにいろんな意味で正反対の相手なのである。
「おはよう、それにしてもまさかその後ろに控えている彼が例のあなたの使い魔なわけ?」
その言葉に思わず今朝見た光景を思い出して、ギリッと胸が締め付けられるような思いを感じつつ、けれどルイズは感情を抑えた声で答えた。
「おはよう。……ええ、そうよ。それが何?」
「あっはっは! 本当に人間なのね、すごいじゃない、ゼロのルイズ!」
「……」
なんとでもいえばいい。そんな気分で無言を貫くルイズに気づいていないかのようにキュルケは楽しげに言う。
「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。フレイム、出ておいで」
そういってキュルケの部屋から出てきたのはトラほどの大きさはありそうな火トカゲだった。尻尾が燃え盛る炎になっており、その登場により周囲に熱気がムンと広がる。
「ほう、火トカゲか、これはすごいな……」
思わず、感心したような声でシスイは言葉を漏らす。
当然だが今生の人生でも前世においても彼が
自分の使い魔を褒められて気分がよくなったのだろう。キュルケは機嫌よく笑いながら「そうよ、こうまで鮮やかな大きな炎の尻尾は火竜山脈のサラマンダーに違いないわ。好事家に見せたら値段なんかつかないブランドものに違いないわー。あたしの属性にピッタリ」とそう嬉しそうに告げた。
「あんた、『火』属性だもんね」
ルイズは苛立たしげにそう答える。その言葉に、へえ、そうなのか、とシスイは思いながら、そういえば小説「ゼロの使い魔」にも赤毛の火使いの子がいたような気がしたけど、この子がそうなのかなあとボンヤリ考えた。くどいようだがゼロの使い魔という小説の内容について彼が覚えていることは少ない為、出ていたとしても彼女のことは覚えてなかった。
「ええ、微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。あなたと違ってね?」
そういってキュルケは余裕の態度で胸を張った。
が……いつもならここで胸を張り返したい睨み返したりするルイズが、今日に限っては何故かそれすらせずに不気味なほど沈黙している。
「どうしたのよ、あなたらしくない」
これじゃあ張り合い甲斐がないじゃないといわんばかりに困惑しながらそう言葉を漏らすと、キュルケはやがて気持ちを取り直してチラリとルイズの後ろに控える男のほうへと視線を向ける。
「あなた、お名前は?」
「うちはシスイ。うちはは一族名だからシスイと覚えて貰ったらそれでいい」
しかし彼女の色気たっぷりの流し目を受けながら、シスイは全く動じるでもなく、ただにこやかにそう自己紹介を返した。
「ふぅん? 変わった名前。でもよく見ると結構イイ男ね。ね、ルイズに愛想を尽かしたらあたしの元にいらっしゃいな。ヴァリエールよりずっと良い待遇で雇ってあげるわ」
「悪いけど、既にオレは彼女に誓った身だ。お気持ちだけいただいておくよ、ミス……」
「キュルケよ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー」
「そっか、ミス・ツェルプストー。悪いな」
キュルケはそういって少しだけすまなさそうに謝るこの一見ただの平民に見える男に対し、少しだけ興味を持ち始めていた。正確には好奇心、といったほうがいいのかもしれない。
(へえ……あたしになびかないなんてね)
彼女は自分のプロポーションにも美貌にも自信を持っている。たいてい男の子は自分を前にすればその大きな胸の谷間やミニスカートから覗く太ももに釘付けになるものだ。それは平民貴族関係なく。しかしこの男はそうなっていないようだ。
そんな風にシスイを観察しているキュルケを前に、ルイズの不機嫌そうな声が終わりを促した。
「そんな女に挨拶なんて結構よ。ほら、行くわよ」
「……あ、ああ」
そういって、むんずとルイズはシスイの腕を掴み、食堂に向かって歩を進める。それに従い青年は抵抗するでもなく彼女に掴まれるままついていった。
そんな2人をやや呆気にとられながらキュルケは見送る。
とんだデコボココンビだが、案外上手くいっているみたいだ。ルイズの性格ならもうちょっとギスギスしててもおかしくないんじゃないかと思ってたので、意外といえば意外だ。
……それにしても、噂では傭兵だの暗殺者だのといわれてた男だったが、そうは見えなかったなと思いつつ、少しだけ先ほどのことを回想する。
(面白いことになりそうじゃない)
そんな自身の予感に、キュルケは妖艶に笑みながら、足取り軽く彼女もまた食堂へと向かった。
続く