「へぇ、君もユウスケって言うんだ」
「はい、まさか五代さんも同じ名前なんて……」
「いやぁ、偶然ってあるもんだね」
たき火を囲んで話す二人の青年。一人は五代雄介と言う名の冒険者。もう一人は小野寺ユウスケと言う名の、ある意味冒険者。彼らの出会いは今から数時間ほど前まで遡る。
この日、五代はキューバのどこまでも続く青空の下を歩いていた。先程見た現地の子供達の笑顔を思い浮かべながら。一年にも渡る戦い。その心の傷を癒すべく彼は元々の本道である冒険へ戻ったのだ。と、そんな彼の目の前に突然灰色のオーロラが出現した。
「えっ? オーロラ……?」
本来ならば赤道の国では有り得ない現象に目を何度も瞬かせ、五代はその奇妙なオーロラを見つめた。すると、そこから一人の青年が姿を見せるや五代の前に倒れ込んだ。
「っ?! 大丈夫ですか!」
慌てて駆け寄り青年の体を抱き起す五代の目の前で、オーロラは瞬く間に消えた。まるでそこに何も無かったかのように、現れた時と同様に忽然と。
「……一体何なんだ、今の」
胸騒ぎを感じる。それも、良くない感じの。それは、彼がもう二度と感じたくないと思った類の感覚。争う事が嫌いな彼が、それをせねばならなくなった原因から感じるものと近い予感。だけども、そんな事よりも今は青年の方が大切だ。そう思い直して五代は青年を見つめる。格好は日本であればそう珍しい感じではないもので、顔立ちなどもアジア系であった。ただ、その顔に小さい傷が、それも最近出来たばかりであろうものがあるのが五代には気になった。
「さっきのオーロラと関係あるのかな?」
とにかく今はこの青年を介抱しなくては。そう思って五代は青年の体を抱き抱えて日陰へと運ぶ。そのまま彼は眠り続け、五代がたき火を起こした辺りで目を覚まして自己紹介の流れとなったのだ。
「で、早速なんだけどさ小野寺君」
「はい」
「えっと、答えにくいならいいんだけどさ。あのオーロラみたいなの、何?」
「……その、何と言ったらいいか」
「無理ならいいんだ。何て言うかさ、あれからあまり良くない感じしたから気になっちゃって」
五代のその一言にユウスケは困ったように頭を掻いた。それからは、教えたいけど教えちゃいけないという空気が伝わってくる。間違いなく厄介事なのだろう。そう思って五代は話題を変える事にした。
「それにしても、小野寺君っていくつ?」
「え?」
「いや、最初見つけた時に頬に傷があったんだけど今は綺麗になくなってるから。いや、若いなぁって」
「そ、そんな事ないですよ。そういう五代さんはおいくつなんです?」
「俺? う~ん……いくつに見える?」
「ちょ、それって普通女性がやる返しでしょ!」
和やかな雰囲気のまま会話は進む。互いの簡単な紹介に始まり、家族構成や職業などを話題に二人は言葉を交わす。と、そこで五代が何か思い出したように懐を探った。
「どうしたんですか?」
「うん、これ。良かったら」
「……名刺?」
差し出された名刺を受け取り、ユウスケはそこに書いてある文字を音読する。
「夢を追う男……2000の技を持つ男……五代雄介」
「そう。よろしくっ!」
拳を突き出し親指を立てる五代。そのサムズアップに何とも言えない爽やかさを感じ、ユウスケは小さく笑う。
「五代さんって面白い人ですね。俺、こんな名刺初めて見ました」
「だろうね。普通は役職とか連絡先とかを印刷するから」
「ですよ。俺も以前見た事あるのはそんな感じでした」
ユウスケの頭に浮かぶあの龍騎の世界で見せられた名刺。それに比べると五代のはかなりユーモアに長けている。だが、だからこそ五代の人柄が良く分かるとも言え、ユウスケは名刺を大事に懐へしまう。
「で、2000の技ってどういう事です?」
「えっと、例えばバク宙とか折り紙とかかな?」
「ああ、特技」
「そうそう。小さな事から割と大きな事まであって、それがやっと去年2000番までなったんだ」
「え? 待ってください五代さん。今の名刺って、いつ頃から作ってるんですか?」
「そうだなぁ……大学を卒業した後からだからもう二年前?」
その発言にユウスケは呆気に取られ、そして理解した。目の前の男はある意味で行動力の塊であり、とんでもなく楽観的だと。何故なら、普通に考えれば名刺は余程が無ければ変更しない。それを、技の数が増える度に変えていたとなれば、それにかかる費用は意外と馬鹿にならないものである。
「何か士とは違った意味でほっとけない人だなぁ……」
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も」
しかし、ユウスケにも分かっている。五代が悪い人間ではない事は。それどころか、今まで出会ったどんな人間よりも良い人のオーラが漂っているぐらいだった。それも、意識してではなく、もうそれが当然のようなぐらいにまで。
「そうだっ!」
と、そこで五代が急に立ち上がり周囲を見回し始める。一体何があったのかと疑問符を浮かべながらそれを見つめるユウスケ。やがて五代はその手に少し大きめの石を三つ持って彼の前へ戻ってくるや、それを両手で大道芸のように動かした。ジャグリングである。これも五代の技の一つ。それを見てユウスケは悟った。きっと2000の技は、こういう誰かを笑顔に出来る事なのではないかと。
(五代雄介さん、かぁ。俺もこういう風になりたいかも……)
今の光景も、おそらく自分へ見せるためだろう。それを思うと自然と笑みが浮かぶのだ。迷いなく誰かの笑顔のために動く事が出来る。まるで自分が悲しい犠牲の末に気付いた事を最初から心がけているような五代に、ユウスケは尊敬にも似た気持ちを抱いた。
そして五代のジャグリングは終わり、笑顔を見せて一礼したのを合図にユウスケは惜しみない拍手を送った。
「いや、見事ですね。俺も今度練習してみようかな?」
「ありがとう。うん、何ならコツとか教えるよ」
「ホントですか? じゃ……」
五代から石を受け取り、少しだけレクチャーされるユウスケ。それも終わり、いざ練習を始めるも、やはりいきなり上手くはいかない。だけども、そんな彼の事を五代は励ますように笑みを見せ、何度も練習に付き合った。たき火の炎を前に、二人の青年が石を両手に汗を掻く。
「うん、そうそう。おおっ、出来てるよ小野寺君」
「そ、そうですか? ただ、余裕がないですけどね」
「あー、ならもう少し速度を遅くしてみたら?」
「速度……遅く……」
五代のお手本よりも数段速度を落とし、ユウスケのジャグリングはやっと安定した。それに伴い彼の表情にも笑顔が浮かぶ。
「どうです? これならいいですか?」
「うん! 凄くいいよ! 今の小野寺君、いい笑顔してるからっ!」
サムズアップ。それにユウスケも嬉しそうに頷き、石をその手へと握る。
「ありがとうございます。これで夏海ちゃん達、喜んでくれるといいな」
「大丈夫。さっきの笑顔があればきっと喜んでくれるよ」
「笑顔……うん、そうですね」
五代の言いたい事を察し、ユウスケは笑顔で頷いた。まず自分が笑顔でいる事。それが誰かを笑顔にするためには必要不可欠なのだと。二人の間に和やかな空気が流れる。このままこの日は終わる―――かに思えたその時だ。
「「っ?!」」
突如二人の前に灰色のオーロラが出現したのだ。しかも、そこから二人にとっては見覚えのある存在が現れた。それは、バッタ型怪人であるズ・バヅー・バ。その姿を見た瞬間、動いたのはユウスケだった。五代を背中へ押しやって庇うように前へ足を踏み出すと、両手を腹部へとかざしたのだ。
「五代さん、下がって!」
「えっ!? 小野寺君?!」
「変身っ!」
戦う事への拒否感が強い五代と違い、ユウスケは戦う事への躊躇いはない。ユウスケにあるのは自分の力を五代に明かす事への不安だけだが、それも彼の命を守る事を天秤に乗せれば迷いはなかった。五代の見ている前でユウスケの姿が変わっていく。だが、それは赤い体の戦士ではない。白い体の戦士であった。
「「えっ!?」」
共に上げる戸惑いの声。五代は当然ユウスケが変身した事へ。しかし、ユウスケは違った。彼は白い姿へなってしまった事への声だった。彼は知らないのだ。白い体のクウガ―――グローイングフォームは戦士の覚悟が不十分である時や、その力が弱っている時になる姿であると。
「でもやるしかないっ!」
迫ってくる怪人と背後の五代を見て、ユウスケは拳を握り締める。一方、五代は目の前の光景に目を疑っていた。何しろクウガがいるのだ。それも、グロンギ怪人と戦っている。
「どういう事……?」
理解出来ないままで立ち尽くす五代。その間もユウスケは懸命に怪人へと拳を、脚を繰り出していた。だが、それは相手にとってはそこまでダメージとならない程度の威力しかない。ズ・バヅー・バは青のクウガのパンチを平然と受け止めるぐらいの打たれ強さはあるのだ。
「くっ……パンチもキックも通じない……っ!」
「ゾンデギゾバ? クウガ」
「ぐっ!」
馬鹿にされていると感じ取ると同時に、ユウスケの首が強い力で締め付けられる。その光景に五代は息を呑んだ。今、ユウスケが相手にしている未確認はどうやって人を殺していたかを思い出して。このままではユウスケが危ない。そう思った五代は、弾かれるように走り出す。
「小野寺君っ!」
その声にユウスケが五代を見て絞り出すように告げた。逃げてくださいと。その瞬間、五代の気持ちは決まった。ユウスケがやったように、その腹部へ両手をかざしたのだ。出現するベルト状の装飾品。だが、ユウスケには見えた。その中心部分に亀裂のようなものがある事を。
「変身っ!」
ユウスケの見ている前で五代の姿が変わる。だがそれも彼と同じ白い姿。それでも走り込んで体ごとぶつかる事でユウスケを助ける事には成功する。
「大丈夫? 小野寺君」
「……な、何とか」
「クウガグ……ズダシ?」
クウガに駆け寄るクウガを見て、怪人は不思議そうに首を傾げる。だが、それでも構わないと踏んだのだろう。その場から高く跳び上がったのだ。それに気付いて五代は上を向いて警戒する。そしてその視界が急降下してくるズ・バヅー・バを捉えた。その瞬間、五代は大地を蹴った。
「うおりゃっ!」
「グッ……」
カウンターとして蹴りを放つ五代。ユウスケと違い、彼は一年を通してグロンギ怪人と戦ってきた。その経験値と知識量の差がここにあった。彼は戦った相手の事を覚えている。それは、忘れたくても忘れられないためだ。自分が殺してきた相手。いくら人間に害するとはいっても、その本質は古代人なのだから。心優しい五代にとって、あの戦いの日々は忘れてはいけないし忘れる事も出来ないものだった。
威力は低いとはいえ、落下速度と合わせてのグローイングキックにズ・バヅー・バも無傷とはいかず、その蹴られた場所に封印の文字が掠れるように浮かび上がる。それを見て内心で驚くユウスケとズ・バヅー・バ。一方の五代はそれにかつてのある記憶を思い出し、ならばとばかりに頷いて構える。が、走り出す前にズ・バヅー・バはそこから跳び上がると、そのままどこかへ逃げて行った。一向に姿を見せない事で五代もようやくその事に気付いて息を吐いた。
「……逃げたのか」
「五代さん、どうして貴方もクウガに?」
その呟きと共に姿が戻る。だが、そんな彼へ当然のようにユウスケが近寄り問いかけた。
「それは俺も聞きたいかな。クウガのベルトが二つあるはずないと思うし、そもそもさっきの未確認も俺がちゃんと……倒したはずだからさ」
「……分かりました。俺の知ってる事をお話しします」
「うん、なら俺も知ってる事を話すよ」
そこで互いはそれぞれのクウガになった経緯を話す。ベルトに呼ばれた気がした五代と、ベルトを与えられたユウスケ。その違いに二人は驚き、また納得していた。五代は白い体になった理由を察していたが、ユウスケが察していなかった事にも。彼らの大きな違いは古代文字を翻訳する存在の有無だったのだ。
「そっか。五代さんはそこまでクウガの事を知ってるんですね」
「桜子さんのおかげだけどね。だけど、それを知らなくても超変身や武器の事を分かった小野寺君も凄いよ。俺、さっきの奴に一度青で挑んで負けちゃったんだ」
「え? 負けたんですか?」
「うん。その時はまだ姿を変えられる事も知らなくて、もっと高く跳べたらいいのにってそう思った時に勝手に変わったんだ。だから棒で戦うとかも知らなくてさ」
「……でも、最後は勝った。それはやっぱり?」
「そう。その時は桜子さんのおかげ。だけど、最終的に未確認に勝てたのは桜子さんだけじゃない。一条さんや榎田さん、杉田さんや桜井さん達みんながいてくれたからかな。俺一人じゃ、きっと途中で終わってた」
噛み締めるような言葉に、ユウスケは自分の手を見つめた。一人では終わっていた。それは、彼にも言えた事だからだ。あのグロンギの大量発生。それはユウスケ一人では止められなかった。大勢ではないが、彼を助けてくれた大切な仲間がいればこその勝利だと分かっているのだ。
「俺も、俺もそうでした。士や姐さんがいたから戦えた」
「あねさん?」
「その、刑事だったんですけど、俺の力を知ってた人で色々と協力してくれてたんです」
「へぇ、俺で言う一条さんか」
「……だけど、未確認の親玉みたいな奴が現れた時、姐さんは……」
悔しそうに拳を握り締めるユウスケを見て五代は悟った。きっと帰らぬ人となったのだろうと。悲痛な表情を浮かべる五代だったが、それに気付いたのかユウスケは微かに寂しそうな、だけど吹っ切るような笑みを浮かべた。
「でも、おかげで俺も成長出来たんです。俺、姐さんの笑顔が見たくて戦ってた。だけど、そんな姐さんから言われたんです。姐さん一人の笑顔のためにそこまで頑張れる俺なら、世界中の人達の笑顔のためならもっと頑張れるって」
その言葉に五代が息を呑んだ。それは、彼の恩師である神崎昭二の教えにも近いものがあったからだ。
「いつでも誰かの笑顔のために頑張る、か……」
「そうです。だから俺は決めたんです。この力は、笑顔を守るために使うって」
決意と誓い。その重さを感じ取り、五代は思った。目の前の青年も、自分とは違う形で己の無力さやふがいなさを噛み締める事があったのだと。そして覚悟を決めたのだ。戦士となって戦う事を。こんな奴らのために、誰かの涙は見たくないと。
(もう一人のクウガ……か。きっと小野寺君もどこかで怖かったんだ。この力で、あんな事をする事が。だから褒めてくれる人と出会って、何とか心を支えてたんだな。俺も、一条さんに言われた事がかなり心に響いたし……)
思い出すのはクウガとして戦い始めて間もない時の言葉。
―――君が戦う力を得たと思うのは勝手だっ! だが、だからと言って君が戦う必要はないっ!
あの言葉に込められた思いを、今の五代ははっきり分かる。あれは、警察官である一条が民間人である自分を案じての言葉だったのだと。故に余計はっきりと覚悟が決まったのだ。そんな風に人を守ろうとする一条や、他の人々を殺させたくないと。
「でも、何でいつもの状態じゃなかったんだろ?」
不意に呟かれた言葉。それに五代の意識が向く。
「多分、小野寺君が万全の状態じゃなかったからじゃない?」
「……かもしれません。正直まだ体が怠い気がして」
「その、小野寺君が別の世界の人だってのはよく分かった。じゃ、どうしてここへ?」
当然の問いかけにユウスケは大きく息を吐いて話し出す。ここへ来る前、彼は仲間であるディケイドと共に未だ生き残る大ショッカーの残党を倒していた。だが、そこで不意を突かれてあのオーロラへぶつけられてしまい、意識を失う瞬間に一か八かで究極の姿へ変身して反撃しようとしたところ、何故かそのままオーロラを通過してしまったのだ。
「多分ですけど、あの黒い姿を怪人と同じって認識したのかもしれません」
「……そっか」
ユウスケの推測に五代は何とも言えない気持ちを抱いた。あの黒い姿の四本角。それが怪人と同じと言われても納得出来てしまったからである。一度きりの、変身。だが、それをユウスケは躊躇いなく出来る。そこを悟り、五代は思うのだ。彼は強いと。五代はユウスケがただ何も考えず戦っている訳ではないと分かっている。だからこそ、強いと感じるのだ。誰かを守るためにあの恐ろしい力を躊躇う事なく使える彼を。
一方、ユウスケも五代の事を強いと感じていた。それは、先程の戦いでの光景。怪人の行動を予測し、それに対し劣る力であっても怯まず立ち向かって撃退した。そこに強さを見たのだ。例え戦う事が嫌いでも、一度やると決めたら中途半端はしない。能力だけに頼らず、己の守りたいもののために戦う姿がユウスケには強さと映っていた。
「……五代さん、あいつ、どうすると思いますか?」
「多分、人を襲うはずだよ。ゲゲルってやつ」
「じゃ、やっぱり」
「ダメだよ。小野寺君は体を休めた方がいい。探すのは俺がやる」
「でも……」
戦う事が嫌いな五代にそれをさせるのは忍びない。そんな気持ちが声と表情に出ていた。五代はそんなユウスケに笑みを返し、立ち上がると変身する。それは緑の姿。その超感覚でズ・バヅー・バの居所を探ろうというのである。だが、それらしい音は聞こえない。ならばと、五代はその全身へ電撃を纏う。
「え……そんなん出来るんですか、五代さん」
ライジングフォームに驚きを隠せないユウスケを無視するように、五代はその神経を研ぎ澄ませる。すると、その耳が確かにズ・バヅー・バの声を拾った。
―――ヅギボゴボロギデジャス……。
その声が聞こえた方向へ顔を動かし、五代は変身を解いた。ユウスケもその意味する事を察して同じ方を向く。
「あっちにいるんですね」
「うん、どうもさっきのダメージを癒してるみたい」
「何で人を襲ってないんだろ?」
「夜だからじゃない? 夜目が利かないんだと思うよ」
「そっか。あいつ、見るからに虫っぽかった」
そこでならば明け方を待たずに戦うべきと五代は判断するが、ユウスケはならば仮眠を互いにとって明け方近くまで休むべきと主張した。そこには、互いに相手への配慮がある。今後も戦う事になるだろうユウスケを休ませたい五代と、戦う事が嫌いな五代だけにそれをさせたくないユウスケというものだ。
「分かった。じゃ、仮眠を取り合おう。先に俺が寝ていい? その方が小野寺君もいいでしょ?」
「抜け駆けされないからって? ああ、そういう事か」
こうして五代が先に仮眠を取り、その二時間後にユウスケが仮眠を取る事になった。火の番をしながらぼんやりと星を眺めるユウスケ。初めて見る海外の星空は、とても綺麗で吸い込まれそうな程だった。五代を起こすまで彼はただ星空を眺める。
「……俺が来たからあいつも来たんだよな、きっと」
そのおかげで五代というもう一人のクウガに会う事が出来た。だけど、それはユウスケにとっては良き出会いでも、五代にとってはそうじゃないと彼は考えている。この世界は五代の活躍もあって平和になったのだ。そこへ自分が来たせいで再び怪人が現れてしまった。それをユウスケは申し訳なく思っていたのだから。
「そっか。これが士の気持ちなのかも……いや違うか」
世界の破壊者と呼ばれた仲間の心境かと、そう思うもそこまで繊細な奴じゃないと思い直してユウスケは笑う。だが、こうも思っていた。これに近い気持ちを以前の彼は感じていたんだろうと。俺様な性格ではあるが、その根底には不器用な優しさがある事をユウスケは知っているのだ。
やがて時間となり、ユウスケは五代を起こして眠りに着く。それを見届け、五代は小さく笑みを浮かべるも、それを少しだけ曇らせた。
―――ごめんね、小野寺君。
申し訳なさそうに呟き、五代はそっとその場から離れる。向かうはズ・バヅー・バのいる方向。彼は呟きを聞き取り、直感で感じ取っていたのだ。あの怪人が狙っているのは人間ではなくクウガであり、おそらくユウスケの方だと。だから敢えて先に自分が寝たのだ。ユウスケを安心させるのと、自分の体力を少しでも回復するために。
これが本当に最後の戦いとなる自分と違い、ユウスケはこれからもクウガとして戦い続ける事になる。なら、少しぐらいは休ませてやりたい。それが五代の気持ちだった。
「人気の無いここでなら、金の力も使える。何があっても大丈夫なはずだ」
自分へ言い聞かせるように呟いて五代は闇の中を走る。ある程度移動した辺りで緑へと変身し、周囲を探っては変身を解いて移動する。それを三回程繰り返したところで遂に五代は怪人のものらしき鼓動を聞き取った。
「……いた」
音の聞こえる方へ目を向け、視覚を研ぎ澄ませると洞窟らしき場所で眠るズ・バヅー・バが見えたのだ。すぐに赤へと戻し、五代は慎重に近付いて行く。不意打ちのようで正直気が引けるが、犠牲者を出すかもしれない以上仕方ないと割り切り、五代は洞窟へと足を踏み入れた。が、その時、窪みに溜まっていた海水へ足を入れてしまう。
「「っ!?」」
その水音で同時に反応するクウガとズ・バヅー・バ。
「ゾグギデボボガ!?」
「こうなったらっ!」
動揺するズ・バヅー・バと気持ちを切り替え拳を握る五代。繰り出される拳を受け、後ろへたたらを踏むズ・バヅー・バだったが、そのまま後方へ逃げ去るように跳んだ。高くではなく遠くへ飛ぶように。それを見て五代も青へと変わって追い駆ける。遮蔽物のない浜辺で対峙する五代と怪人。
「武器になりそうな物……ないか」
それとなく周囲を探すも、棒のような物さえなかった。だが、遮蔽物のないここでは青の姿でなければ追い駆ける事は出来ないため、五代は姿を赤にする事は出来なかった。どうやら相手もそれを分かっているのだろう。どこか余裕さえ感じさせるように首を鳴らした。
「ラゲンジョグビザギバンゾ!」
「青のままでやるしかないっ!」
こうして五代が本格的に戦闘を開始した頃、ユウスケは肌寒さを感じて目を覚ましていた。
「あれ……? 火が消えてる……?」
眠い目を擦りながらたき火があったところを見れば、そこには燃えて炭となった薪だけがあった。そこにいるべき五代はいない。最初は用を足しているかと思ったユウスケだったが、だからと言って火が消える程離れるはずはないと気付き、一気に意識が覚醒した。
「結局抜け駆けじゃないかっ! 士よりも厄介だな、五代さん!」
親切で優しいからこそ信じてしまった。走りながらユウスケは五代の真意を悟っていた。気を遣ってくれたのだろうと。だからこそ、せめて一緒に戦わせて欲しかったのだ。
(ゆっくりとだけど明るくなってきてる……。出来れば夜が明けきる前にあいつを倒したい)
無いと思いたいが誰かに見られたら問題になりかねないのだ。何せ、この世界にはもう未確認生命体は存在し得ないはずなのだから。だからこそユウスケは知られずに今回の事を終わらせたかった。そして、それはきっとあの男も同じ想いだろうと。
―――待っててくださいよ、五代さんっ!
何かが大きく吹き飛ばされて地面へ叩きつけられる。その体は何度か転がり、やっと動きを止めた。よろよろと起き上がる相手へ、空から下り立った存在はその両手を動かして構えを取った。
「バ、バンザゴボヂバサザ!?」
「あの時は金の力が無かったけど……今ならこいつぐらいは青でやれるみたいだ」
ライジングドラゴンとなった五代は、確信めいたものを感じていた。武器がないのでとどめを刺せるまで弱らせないといけないが、それも難しくないだろうと。そう思って五代は更なる攻撃をしようとした。だが、その時だった。急に全身から力が抜けていくのを感じ五代はその場へ膝をついた。
「な、何だ? 力が……抜ける……?」
その体もライジングドラゴンから普通のドラゴンフォームへと戻っていく。まるで金の力が抜けていくように。それは、あのン・ダグバ・ゼバとの最後の戦いが影響していた。元々金の力は黒の四本角のクウガの力が部分的に解禁されたもの。その制御はアマダムへの負担も大きい。だが、今のアマダムはあの戦いでの損傷によりその力が弱っている。そのため、金の力も従来と同じ三十秒がやっとだったのだ。しかし、それを五代が知るはずもない。彼はずっと金でいけると思っていたのだから。
「……戻った」
「ジョブババサンガ……っ!」
「っ!? 来るっ!」
立場が一転してしまった。追い詰めるはずの五代は怪人によって追い詰められ始めてしまう。アマダムが疲弊してしまったせいで、彼自身も強い疲労感に襲われていたのだ。これがユウスケであれば、そもそもこうはなっていなかっただろう。彼はライジングフォームを使えない。つまり、五代がこれまで得た経験値こそが今回裏目に出てしまったのだ。
ズ・バヅー・バが五代をなぶるように攻撃していく。反撃をかわし、あるいは受け流して。打撃力の落ちた今の状態では、ドラゴンロッドがない以上有効打を与えるのは難しい。翻弄されながら、五代は考えた。どうにかして反撃する方法を。
「不味い……このままじゃ……やられるっ!」
「ゴボデギドバクウガ。フンッ……ボセデドゾレザ」
跳び上がってからの落下攻撃を決めようとするズ・バヅー・バ。その動きを見て五代は一か八かの行動に出る。その場から跳び上がり、ズ・バヅー・バを追い駆けたのだ。
「バンザド? バビゾグスズロシザ?」
「ここだっ! 超変身っ!」
先に跳び上がったズ・バヅー・バが落下に入るのに若干遅れる形で五代が跳躍の頂点へ届く。そこでその体が赤へ変わり、迫ってくるズ・バヅー・バへ蹴りを放った。それが何とかその左足を捉えるも、そのままズ・バヅー・バの右足が五代の体を直撃する。
互いに小さくないダメージを受けながら落下する二人。だが、何とか体勢を整えて着地するズ・バヅー・バと、それが出来ずに地面へ叩きつけられる五代という差はあった。
「ガジバラベゾォォォォォ!」
左足に浮かぶ封印の文字を気合で搔き消すズ・バヅー・バだったが、その瞬間その場へ膝をついた。カウンター気味のマイティキックは、若干ではあるが通常よりも威力を増していたためだ。
「ぐっ……」
何とか立ち上がろうとする五代だったが、落下によるダメージと蹴りによるダメージは深く彼を傷付けていた。かつてのズ・バヅー・バとの初戦で受けたダメージにも近い痛みを感じ、五代は懐かしさを覚えながらもその意識はどうやって相手を倒すかへ向いていた。
(どうする? さっきの手はもう使えない。きっとトドメは俺を掴んで上空から落とす攻撃だ。そうなったらゴウラムのない今は助かりようがないし……)
密着される事にもなる以上、蹴りを当てる事も難しい。そこまで考えたところで、五代は首を掴まれて無理矢理起こされた。
「ボンゾボゴボソギデジャスッ!」
「ううっ……」
ゆっくりと遠のく意識。苦しくなる呼吸。遂に五代の変身が解けてしまう。それを見てズ・バヅー・バは嬉しそうに笑った。勝利を確信したのだろう。
「ボセゼゴバシザ」
「させるかぁぁぁぁっ!」
「バビ? ガッ!」
聞こえてきた声に振り向いたズ・バヅー・バの顔へ叩き込まれる飛び蹴り。それによって五代から手を離してよろめくズ・バヅー・バ。咳き込む五代を守るように動き、ユウスケはズ・バヅー・バを睨んだ。
「ビガラザ……ログジドシンクウガ!」
「お、小野寺君……」
「水臭いですよ五代さん。何で一人で戦ってるんですか」
「……ごめん。でも、助かったよ。ありがとう」
サムズアップ。それにユウスケも笑顔でそれを返す。だがそれもすぐに消し、凛々しい表情でズ・バヅー・バを見つめる。その気迫に相手が僅かに後ずさり、五代は頼もしさを感じて立ち上がる。
「五代さん、まだ戦えますか?」
「……うん、やれるよ」
「なら……っ!」
「分かったっ!」
腹部へ両手をかざすユウスケ。同じように五代も両手を動かす。
「っ?!」
ズ・バヅー・バの目の前で奇跡が実現していた。二つのアークル。それが輝きを放ち、低い待機音のようなものを響かせる。それはさながら鼓動。現代に甦ったヒーローを呼ぶ声。伝説を塗り替える者を待ち望む、世界の声。
「「変身っ!」」
そして、今、そのヒーローが熱く甦った。その風が霊石を光らせ、輝きを回し、唸りを上げる。二人の青年は姿を変え、強く在るための鎧を纏う。全身へ漲る誇りの
―――邪悪なる者あらば、希望の霊石を身につけ、炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり。
古代の碑文に記された通り、二人のクウガはまさしく邪悪を打ち倒すべくここに復活した。その並び立つ姿に、ズ・バヅー・バは恐怖を覚えた。当然だ。揃って構えるその雰囲気は、どちらも負けないと確信している。何故なら、初めてだったからだ。五代にとってもユウスケにとっても、自分と同じクウガと肩を並べて戦える日が来るなど思っていなかったのだから。
「小野寺君、行くよ!」
「はい、五代さんっ!」
頷き合って走り出す二人。それに怯えながらも、ズ・バヅー・バはまだ諦めないのか雄介クウガの方へ飛びかかる。先程追い詰めたからだろう。
「ギベッ! クウガァァァァッ!」
「超変身っ!」
だが、その恐怖からの攻撃は紫の姿となったクウガには通用しない。逆に堅牢な鎧に阻まれ、ダメージを負ったぐらいだ。地面へ落下して転がるズ・バヅー・バへ、小野寺クウガが殴りかかる。
「このっ!」
「ガハッ!」
その渾身のパンチは見事にズ・バヅー・バの顔面を捉え、痛手を負わせる事に成功する。何とかして立ち上がるズ・バヅー・バだったが、そこへマイティとタイタンのダブルパンチが叩き込まれた。
「「おりゃっ!」」
「ガッ……」
大きく吹き飛ばされるズ・バヅー・バを見て、二人は勝機を悟る。決めるならここだ。その気持ちを感じ取り五代の姿が赤へと変わる。そしてゆっくりと水平線から朝日が昇り始めたの合図にするように、日差しを浴びながら二人のクウガが揃って走り出す。互いの右足が熱を持ち、それぞれへ告げていた。これでとどめだと。ふらふらと立ち上がるズ・バヅー・バを目指して二人は走る。走る。走る。
「「っ!」」
合図をした訳でもない。互いを見た訳でもない。それでも、その跳躍は同時だった。一瞬だけ互いを見たクウガだったが、そのまま回転して蹴りの姿勢へと移行していく。
「「うおりゃあっ!」」
直撃するダブルマイティキック。その威力でズ・バヅー・バは大きく吹き飛び、砂浜へ叩きつけられたと同時に爆発を起こす。二つの封印エネルギーに耐えきれなかったのだ。それを見届け、二人のクウガは朝日を浴びながら向き合う。
と、小野寺クウガが右手を動かし親指を立てた。それに小さく驚くと雄介クウガもそれを返す。その二人のヒーローを水平線から顔を出した太陽だけが見つめていた……。
静かに波を寄せる浜辺。そこに二人の青年が立っていた。互いを見つめ合うようにしている二人だが、それぞれの見ている光景には一つだけ明確な違いがあった。
「じゃ、短い間でしたけどお世話になりました」
「こっちこそ。色々と助かったよ」
ユウスケの後ろには灰色のオーロラが出現している。先程トイカメラを首から下げた青年が現れ、ユウスケを捜していたと告げるやそれを出現させて中へと戻って行ったのだ。
「五代さん」
「何?」
「その、俺も負けませんから」
「…………うん、俺も負けないよ」
噛み締めるような五代の声にユウスケは嬉しそうに頷き、背を向ける事なくオーロラへと入っていく。それを手も振らず、五代は見送った。やがてユウスケの姿は見えなくなり、オーロラも消える。そこにはまるで最初から何もなかったかのような光景が広がっていた。
「もう一人のクウガ、か。これはさすがに誰にも話せないかな?」
どこか残念そうに呟き、その場を離れようとして、五代はあるものに気付いて視線を動かす。そこには、ユウスケの足跡が残っていた。だけど、それもゆっくりと薄れていく。波がそれを静かに消していくのだ。どこかそれが、ユウスケの足跡をこの世界に残すまいとしているようにも思え、五代は海へ向くと叫んだ。それは彼から教えてもらったある言葉。
―――ありがと~うっ! 仮面ライダークウガ~っ!!
青空に響く感謝の言葉。白い雲と眩しい太陽。それを見つめ、五代は笑顔を見せた。
「仮面ライダークウガ。うん、よりかっこよくなったな」
嬉しそうに呟いて、彼はその場から走り出した。歩いても走っても目指す場所には辿り着く。だが、今は走りたい気分だったのだ。昨日の事も明日の事も、いつか必ず口笛になる。それと同じで今日の事もその内懐かしい思い出となるだろう。そうなった時、叶うのならそれを彼と語らいたい。その時には、彼も戦いの旅を終え一人の名もなき青年になっている事を願って。
その頃、ユウスケは光写真館の面々にあるものを見せて拍手喝采を浴びていた。両手にやかんやボウルなどを持って回すジャグリングである。
「ほいっと。どう? 俺の新しい特技」
「すごいすごい! ユウスケ、一体いつの間にそんな特技を身に着けたんですか?」
「いやぁ、中々のもんだ。大道芸で昔よく見たもんだよ」
「ま、お前にしちゃ上出来なんじゃないか?」
「私は素直に感心するわよ? ね、ユウスケ。それ、誰に教えてもらったの?」
キバーラの問いかけにユウスケは一瞬どう答えようか迷って、そして心からの笑顔でこう返した。
―――仮面ライダークウガだよ。
この日以降、小野寺ユウスケは自己紹介の際にこういうようになる。3つの技を持つ男、夢を見る男、小野寺ユウスケと。それが何を意識してかは、彼と一枚の名刺だけが知っている……。
やはりクウガとしては五代が先輩なのでね。だけど小野寺の方はそうなると現行ライダー。つまり、シメる方です。
……何でアギトの世界でクウガに変身させなかったんだよぉ東映さん。