もう一人のクウガの冒険   作:拙作製造機

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彼の旅は続く。次は当然アギトです。それと、独自設定が組み込まれているのでご注意を。


アギトとクウガ

「五代さん、これ五番のです」

「分かりました」

 

 出された二つの皿を両手にし、五代と呼ばれた男がフロアを行く。そしてそこに座っている二人の男性の傍まで行き、まず右手の皿を二人の間に差し出して尋ねる。

 

「季節野菜コースの方は?」

「あっ、はい。僕です」

「そちらはオススメコースでよろしいですか?」

「ああ」

 

 見るからに真面目そうな男性とやや柄が悪い印象を受ける男性の目の前に、美味しそうな匂いをさせる料理が置かれる。その瞬間、揃って笑みを浮かべたのを見て男は笑顔を浮かべて一礼した。

 

「では、ごゆっくりどうぞ」

 

 それは、小野寺ユウスケであった。ユウスケはそのまま店内を軽く見渡してから厨房へ戻る。そこでは一人のコックが洗い物をしていた。

 

「津上さん、それは俺がやりますって」

「いえ、もう今日はお客さん氷川さん達で終わりだし、元々この店は俺一人でやってたんで気にしないでください」

「でも……」

 

 笑顔で振り向いた男性にユウスケは申し訳なさそうな顔を見せる。すると、津上と呼ばれた男性はある場所を指さした。それは店の入口。で、手を回転させる。その意味を理解し、ユウスケは小さく息を吐いて頷くと入口へ向かって歩き出した。ドアを開け、出してあった手書きの黒板メニューを手にし、最後にドアの取っ手にかかったプレートをひっくり返す。

 

「これでよしっと」

 

 何故この店でユウスケが働いているのか。どうして彼が五代と呼ばれているか。それは三日前に遡る。

 

 原子力発電所での戦いを終え、仮面ライダーアギトこと津上翔一は日常へと戻っていた。念願だった店を構え、レストランAGITΩは連日大盛況―――とはいかないまでも、その味と独創的な料理が評判を呼び、少しずつではあるが人気を得始めていた。

 

 そんな最中、翔一が店の後片付けをしているとあのアンノウンを感じた時と同じ感覚が走ったのだ。その意味を即座に理解し、彼はバイクを走らせその感覚の導く場所へと向かった。そこで彼が見たのは、謎の黒い布を被った存在と倒れて気を失っているユウスケだったのだ。

 

―――変身っ!

 

 当然迷う事なくアギトとなり、翔一は文字通りのアンノウンとの戦闘を開始しようとした。だが、何故か相手はアギトを見るなりオーロラを出現させて撤退したのだ。肩透かしを食らったような気分になりながら、翔一は変身を解除してユウスケへ駆け寄り、とりあえず救急車を呼んだのだが……。

 

「記憶喪失?」

「はい。俺、自分が誰か思い出せなくて……」

 

 翌朝意識を取り戻したユウスケへ会いに行った翔一へ告げられたのは、彼にとってなじみ深い言葉だった。結局ユウスケの記憶は戻らず、ただ懐に名刺があり、五代雄介とあった事から翔一は彼を五代さんと呼ぶようになったのだ。そして、当然ながら行く宛がないユウスケを、翔一は自分の店で働かせる事にした。ただ、バイト代は出せないので店での寝泊まりと食事を提供する事を条件に。無論ユウスケが断るはずもなく、こうして現状へと至るのだった。

 

「津上さん、外変えて来ました」

「ありがとうございます」

 

 手書きのメニューを店の隅へ片付け、ユウスケは残り一組となった客を見つめた。氷川と葦原は美味しそうに翔一の料理を食べている。その笑顔にユウスケも笑顔を浮かべ、小さく頷いた。

 

「おっ、今の五代さんの笑顔いいですねぇ。そんな五代さんにはこれをあげましょう」

「え?」

「じゃん! 夜の賄いです。今お二人が食べてる野菜とお肉を使ったポトフで、とっても食べ頃ですよ」

「おおっ、美味そう……」

「掃除の前に食べちゃってください。俺はお二人と少し話す事があるんで」

「分かりました!」

 

 上機嫌でポトフを食べ始めるユウスケを見て笑みを浮かべる翔一だったが、それも氷川達のテーブルへ近付く頃には消えていた。そう、氷川は翔一が呼んだのだが葦原はそうではない。ならどうして彼がこのタイミングで店へ現れたか。それを翔一は察していたのである。

 

「お待たせしました」

「いえ、こちらも楽しませてもらってましたから」

「ああ。美味かった」

「ありがとうございます。それで、早速なんですが」

「あの感覚、だろ?」

 

 葦原の問いかけに翔一が重々しく頷く。それだけでこの三人には分かる事があった。

 

「まさか、またアンノウンですか?」

「かもしれません。少なくとも、あの五代さんを襲っていたのがいます」

「やっぱりか。俺も嫌な予感がしたからな。だからここへ戻って来たんだが……」

「そんな……あれからまったくアギトもアンノウンも現れていないのに……これは不味いですね」

 

 悔しそうな氷川に同意するように頷く翔一と葦原。一時期アギトを危険視し、警視庁はG3システムの攻撃対象に設定しようとしていた事がある。それは色々あって立ち消えになったが、未だに一部人々の中にアギト危険論が根付いているのは事実なのだ。その主な理由が、アンノウンはアギトに呼び寄せられているのではないかというものだった。

 

 これまでアンノウンが狙ってきたのはアギトとなる兆候のあった者達。故にアギトを存在させる事はアンノウンを存在させる事になるのではないかという説だった。当然これには氷川の上司であった小沢が猛反発。アギトが確認される前からアンノウンが動いていた事を理由に、彼らがアギトになるかもしれないという曖昧な理由で人を殺していたかもしれないと反論。そのどちらも明確な証拠を欠く根拠なため、アギト危険論は当分棚上げさせ、G3ユニット並びに今後生まれるであろうGシリーズはあくまで市民を守るために使う事となったのだ。

 

「ここで奴らが現れれば面倒な事になるな」

「はい、しかも俺達が戦うとなると余計に」

「目撃者がいなければ問題ないと思いますが……難しいですね」

 

 アンノウンはその性質上必ず人を襲う。であれば、その相手を助ける事が目撃者を作る事になるからだ。だからといって助けない訳にもいかない。そうなると、この三人の中で一番適任なのは氷川であった。

 

「氷川さん、G3-Xは今?」

「北條さんが管理責任者をしています。装着者も一応あの人ですが、いざとなったら自分に話が来るかもしれません」

「たしか今はあれじゃない奴が稼働してるんだったか」

「はい。G5ですね。性能としてはG3-Xよりも劣りますが、その分使いやすくまた武装面では上です」

「しっかし、まさか尾室さんがその主任とはなぁ」

 

 翔一の言葉に氷川も小さく苦笑し、葦原も知っているのだろう同じ表情で頷いた。真面目で良い人間ではあるが、多少気弱なところが玉に傷。そんな男だからだろう。

 

「とにかく、俺は俺で動いてみる。津上、お前はあの男を見張っておけ」

「え?」

「そうですね。あの五代さんという方が狙われていたのなら、再度襲撃してくる恐れがあります」

「……そうですね。分かりました」

 

 そして三人は頷き合い、何か分かったり起きた場合は連絡を取り合う事で合意。こうして氷川と葦原は店を後にし、翔一はユウスケと閉店作業をする事に。厨房の掃除を翔一が、フロアの掃除をユウスケが担当。二人は真面目に掃除道具を手に店内を綺麗にしていく。

 

「あの二人は津上さんの友達なんですか?」

 

 そんな中、ユウスケが尋ねた疑問は翔一に小さなわだかまりを与える事となる。

 

「友達? う~ん……そういうんじゃないなぁ」

「違うんですか? かなり仲良さそうに見えましたよ?」

「いや、仲は悪くないんです。でも、友達って感じじゃないんだよなぁ」

 

 しっくりくる表現が見つからない。そんな風に首を捻る翔一を見て、ユウスケはならばとある表現を出した。

 

「仲間、とか?」

「……それも違う気がするけど、友達よりはそっちかな」

「あらら……」

 

 自分の中でこれと思った表現さえ翔一には刺さらなかったらしい。それに軽く肩を落としながらユウスケは掃除を再開する。その頃、氷川はある人物の元を訪れていた。

 

「珍しいですね。貴方が僕に会いに来るなんて」

「北條さんに相談しておきたい事がありまして」

 

 そう、北條透へ万が一を想定した相談をするために。氷川から話される内容に彼は目を見開き、真剣な表情を浮かべた。三人も懸念した通り、今アンノウンが動き出す事はせっかく消えかかった火を燃え上がらせる事になりかねないからだ。

 

「氷川さん、アギトである彼らが揃ってアンノウンと同じ感覚を察知した。これに間違いないですか?」

「はい、津上さんも葦原さんもそう言っていました」

「……そして襲われていたのが記憶喪失の男性」

「そうです。今は津上さんの店で住み込みのバイトをしています」

「氷川さん、何か気付きませんか?」

「え?」

 

 北條の言いたい事が分からず疑問符を浮かべる氷川へ、彼は少しだけ呆れつつ説明を始めた。

 

「あまりにも類似していませんか? 彼と、アギトである津上翔一のケースと」

「っ!?」

「もしかするとその五代雄介という男もアギトかもしれない。だから狙われた」

「では、やはりアンノウンの狙いは……」

「いえ、まだ断定は出来ません。ですが、仮にそうだとすれば今度は別の問題が出てきます」

「何故他の犠牲者が未だに出ていないか、ですね?」

 

 今度は理解し、北條へ問いかける氷川。それに頷き、北條は新聞を手に取る。そこの一面どころか三面にさえそれらしい記事はない。もし仮にアンノウンが動き出してその犯行を行えば確実にマスコミが騒ぎ出す。もっと言えば、本庁の上が騒ぎ出すだろう。

 

「そうです。であれば、そのアンノウンはアギトを狙っているのではなく……」

「その五代雄介さんを狙っている……」

「そう見るのが現状では一番妥当でしょう。ですが、警護をさせる訳にはいきません」

「分かっています。ですが、津上さんだけでは万が一の際に」

「ええ、それも分かっています。ですので氷川さん、貴方に警護をお願いします」

「は?」

 

 どういう事だと、そう思っての声に北條は楽しげに笑うと腕を組んで顔をそこへ乗せた。

 

「有給が溜まっているでしょう。いい機会です。これを機に全て使ってみたらいいじゃないですか。その間、例の男の警護を自主的にすればいい」

「そ、そうはいいますが」

「有給の方は私の方からも受理するよう言っておきます。貴方はその間、津上さんの店でバイトを装い警護に就く。何かあれば連絡を。最悪の場合はG3-Xを使います」

「……いいのですか?」

「勘違いしないで頂きたい。これは貴方達のためではなく、国民へ余計な不安を与えないための措置です。可能ならば使われる事のない事を願いますよ。管理職になると中々体を動かす事も難しいので」

 

 最後には、暗に氷川に使わせるつもりはないと言い放つと同時に嫌味のような笑みを見せ、北條は立ち上がる。それが面会の終了だと察し、氷川もやや憮然としながら立ち上がると彼の部屋を後にした。

 

―――謎のアンノウン。アギトを狙っているのではないとしたら、その五代雄介とは一体何者だ……?

 

 

 

「きょ、今日からしばらく一緒に働く事になりました氷川誠です。よろしくお願いしますっ!」

「よろしくお願いします」

「五代さん、氷川さんかなり不器用だからフォローお願いしますね」

「っ! だ、大丈夫です。皿洗いぐらい出来ます」

「そうですかぁ? ま、いいです。そういう事だから、五代さんは案内や料理の提供をお願いします。洗い物は全部氷川さんにやってもらうんで」

「はい、分かりました」

「……僕だって好きで不器用になった訳じゃない」

 

 ぶつぶつと小声で何事かを呟く氷川を置いて、翔一はユウスケへそっと耳打ちする。それはこれまで彼が見てきた氷川の不器用さを象徴する話。その内容にユウスケも苦笑いを浮かべ、二人はそっと氷川を見る。

 

「……何ですか?」

「「いえ、別に」」

 

 不思議そうに見つめる氷川へ二人は即座にそう返して動き出す。ある意味で氷川は運が悪いのだろう。この日、レストランAGITΩはかなりの盛況となり、翔一やユウスケは忙しなく動き回る事になった。そう、氷川のフォローが出来ない程に。初勤務であり、それまで飲食での勤務経験などなかった氷川にとって、この盛況はまさしく戦争のようであった。

 

「氷川さん、これもお願いしますっ!」

「分かりましたっ!」

「氷川さん、早めに大皿洗ってくださいね! それと、絶対汚れは落としてください!」

「はいっ!」

「これもお願いします! それとこれもっ!」

「くっ……これぐらい」

「五代さん、これ三番さんのです」

「わっかりました!」

「氷川さん、大皿まだですか? あと、こっちの皿、汚れ残ってますよ」

「それは今からやろうと思っていたんですっ! それにそっちは自分でも分かってましたっ!」

 

 翔一の性格が分かってきた今でも、氷川のこういうところは直っていない。それは翔一にも言えるのでどっちもどっちだろう。以前であれば、更に翔一が無意識で煽るような行動をとり、氷川が「どうせ皿洗いなんてこうすればキレイになるんですっ!」と言い出して酷い結末になった事だろう。

 

「氷川さん、笑顔。笑顔忘れたらダメですよ。ここはレストランで食事を楽しむ場所なんですから。津上さんも氷川さんは俺がフォローしますから、料理、よろしくお願いします」

 

 だが、今はここにユウスケがいる。誰かを笑顔にするために大事な事を教わったユウスケが。彼の笑顔の言葉に翔一も氷川も互いに申し訳なさそうな顔を見せた。分かったのだ。忙しさのあまり気分が荒んでいた事を。

 

「すみません津上さん。僕の作業が遅いものですから」

「いや、俺の方こそすみません。気付かない内に苛々してたみたいです」

 

 そんな風に謝り合う二人を見てユウスケは笑顔で頷いてサムズアップ。こうして何とかこの日は無事に営業終了。今は人のいなくなった店内で三人だけの夜食タイム。

 

「どうですか? 開発中の料理なんですけど」

「美味いですよ。ただ……」

「ええ、美味しいです。ただ……」

「何ですか?」

 

 揃って味には太鼓判を押すものの、その料理を見つめて苦い顔。

 

「「ちょっと色が食欲を損ねてます」」

「ダメかなぁ……青汁をイメージしたんですけど」

 

 濃い緑色のスープ。野菜の旨味と鶏ガラでも使ったのか濃厚な肉の旨味もあるのだが、如何せん色が鮮やかではなく濁っている。これでは駄目だろう。そうユウスケも氷川も感じていた。そこからはスープを食べながらどうすればいいかの意見会。まず材料の見直しをとユウスケが提案し、氷川は何か彩りを後から加える事を提案する。翔一はそれを参考にまた作り直してみると返して残す事は掃除だけとなった。

 

 ユウスケに店外清掃を頼み、翔一と氷川は軽い情報交換を行う事にした。

 

「じゃ、やっぱりあいつの狙いは……」

「ええ、五代さんではないかと僕も北條さんも睨んでいます」

「……葦原さんにも教えた方がいいかもしれませんね」

「そうですね。アギトを見て逃げた事から考えて、相手はかなり慎重に彼を狙っている可能性が高いです」

「分かりました。なら、俺から連絡を」

「お願いします。僕は明日念のために不可解な殺人が起きていないか確認してきますので」

 

 頷き合って掃除へ戻る二人。丁度それを合図にしたかのようにユウスケが店内へ戻ってくる。手書きのメニューを隅へ置いた彼は、氷川の手際を見て苦笑すると笑みを浮かべてその手伝いを始めた。

 

「手伝いますよ」

「いや、これは僕の仕事ですから」

「違いますよ氷川さん。これは、この店の仕事でみんなの仕事です。助け合っていきましょう」

「……五代さん」

「俺モップかけるんで、集めたゴミ塵取りで捨ててもらっていいですか?」

「はいっ!」

 

 ユウスケの表現に感銘を受けたような氷川は、彼の厚意に感謝するように頷いて動き出す。その様子を見て翔一は思うのだ。ユウスケのような存在をムードメーカーと言うのだろうと。そう思う彼もそういう存在だと知らぬままに……。

 

 それから数日、謎の存在は出現せず、ただただ時が流れた。予想通り他の不可解殺人もなく、そういう意味では北條は安堵していたのだが、別の意味では焦ってもいた。

 

(このままでは謎のアンノウンが潜伏し続ける。それがいつ例の男から別のアギトになるかもしれない存在へ狙いを変えるか分からない以上、決断する時が来たのかもしれない……)

 

 彼としてもアギト危険論を再燃させたくはないのだ。事実として、今確認されているアギトは世界を、人類を守るために戦ったのだ。アギトが危険なのではなく、危険な人物へその力が発現する事を危険視しなければならない。そう北條は考えていた。だから彼は参考意見を求める事にした。ある意味で彼が唯一頼りに出来る存在かもしれない相手へ。携帯である番号を入力する北條。わざわざメモリーではなく手打ちな辺りに彼の相手への距離感が分かる。それでも暗記する程なのだから嫌いではないのだろう。

 

「…………もしもし。そんな嫌そうな声を出さないでください。こちらも同じ心境です。ですから、分かって頂けますね。どうしてこちらが貴方へ連絡するか」

『それだけ厄介事って事かしらね。で、用件は?』

「アンノウンが再び確認されました。しかも、そのアンノウンはある一人の人物だけを狙っている」

『中々興味を引く内容だわ。その人物はアギト?』

「現時点では分かりませんが、そのアンノウンはアギトを見て逃げたそうです」

『……初めての事例か。それだけ慎重と見るべきかしら?』

「私はそう見ています。その狙われている人物は、現在津上翔一のレストランで住み込みのアルバイトをしているんですよ。記憶喪失となって、ね」

 

 間違いなくそこで電話の相手が息を呑んだ。彼女も気付いたのだ。その人物と津上翔一の共通点に。

 

「氷川さんの話では、ここ数日の間で動きはありません。ですが、こうなると逆に不安にもなります」

『狙いを変えるかもしれない』

「そうです。だから貴女の意見を聞かせてもらおうと思いまして」

『ふんっ、よく言うわね。もう自分の中で答えを出しておいて』

 

 相手の言葉に北條は知らず笑みを浮かべる。やはり彼女は優秀だと思ったのだ。それを知った上で彼女はきっと意見を出すだろう。それはきっと自分が予想している方向だ。そう信じて北條は返事を待った。

 

『……囮は反対よ。アギトかもしれないと言っても、その人物は一般市民。なら、危険に晒す訳にはいかないわ』

「さすがです、小沢さん。警官でなくなってもその人としての信念は変わらないようで」

『切るわ』

「待ってください。なら、囮以外でどうするべきだと思いますか?」

『あんたと意見が同じって辺りは嫌気が差すけど、まあいいわ。狙いがその人物であり、アギトを避けている以上津上翔一の傍にいる限り動きはないでしょう』

「では……」

『今の警察にはアギトに負けない存在がいる。それを頼るしかないわ』

 

 その答えに北條は頷き、どこか満足そうに笑みを浮かべながら告げた。

 

「ご協力感謝しますよ、小沢先生」

『教授と呼びなさい』

 

 そこで通話は切れた。続いて北條はメモリーからある人物を探しだし、その番号へ電話を掛ける。

 

『はい?』

「私です。折り入って相談がありますので、出来れば明日会って頂けますか?」

『じ、自分とでありますか?』

 

 相手の理解出来ないと言わんばかりの声へ北條ははっきりとした声で返す。

 

―――ええ、そうです。お願いしますよ、尾室主任。

 

 

 

 店の開店準備に取りかかろうとするユウスケは、自分以外いない店内に気付いて時計を見た。普段ならばここにいるはずの存在が来る時間を過ぎているのだ。

 

「今日は氷川さんお休みですかね?」

「あー、どうもそうみたいです。急用が出来たって連絡が」

「そっか。まぁ、ここ連日頑張ってましたし休んでもらいましょう」

 

 二人してこの数日間の氷川の仕事ぶりを思い出し、苦笑し合う。不器用なところがある彼だが、真面目なので何事も全力で取り組む。その結果、無駄な力が入ってしまいミスに繋がる事も少なくなかったのだ。何か起こす度にユウスケや翔一がフォローに入り、二日前など客として来ていた葦原が見かねて洗い物を代わってしまった程だ。

 

「ま、それに今日は予約のお客さんもいないし二人で余裕でしょ」

「ですね」

 

 こうして開店に向けて動き出す翔一とユウスケ。一方、氷川は汗だくになりながら肩で息をしていた。

 

「あっちゃぁ……やっぱり体力落ちてますね」

「仕方ないでしょう。あれから一年以上経っていますし」

 

 そんな彼を見つめるのは北條と尾室の二人。場所は警視庁内の道場。そこで氷川はG5ユニットの装着員候補達と訓練に励んでいたのだ。それは北條からの頼み。いざという時のために氷川を全盛期近くまで戻して欲しい。それが相談の内容だった。

 

「でも、おかげで部下達も張り切ってますよ」

「そのようですね。氷川さん、後輩に情けないところをいつまで見せるつもりですか。アンノウンと戦い抜いた人間の実力はその程度ですか?」

「っ! まだ……まだやれますっ!」

 

 自棄のような声にも信念のようなものが感じられ、尾室と北條は小さく息を吐いて頷いた。それを合図に再び乱取りが始まる。へろへろになりながらも懸命に足掻く氷川に、人間ならではの泥臭さを見て二人は頷く。これなら最悪の時も何とかなるだろうと。それから数時間後、レストランAGITΩは無事閉店時間を迎え、翔一作の賄いをユウスケが食べていた。

 

「これ、大分変りましたね。スープパスタですか」

「ええ。彩りと言われたんで、トマトの赤をメインにホウレンソウの緑の二色にしてみたんです。そうなるとスープだけじゃ弱いかなって」

「うん、酸味と甘味があるトマトスープと優しい味のホウレンソウのパスタがベストマッチって感じですよ」

「そうですか。でも、何か足らないんだよなぁ……」

 

 美味しいと笑顔を見せるユウスケだったが、翔一はまだ何か不服らしい。そのまま彼はユウスケが食べている間も頭を捻り続ける。結局その答えは出せず、二人は閉店作業を始めた。いつもであればここでシャワーを交代で浴びて眠るのだが、翔一は厨房の奥でコンロを見つめたままで椅子に座って腕を組んでいた。

 

「津上さん、どうしたんですか? もうこっち終わりましたけど」

「あっ、五代さん。俺、ちょっとあのメニューの事考えたいんで先休んでくれていいですよ」

「そうですか。じゃ、お先にシャワー借ります。津上さん、あまり根詰め過ぎないでくださいよ?」

「ええ、分かってます。じゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 

 こうして翔一と別れ、階段を上がって二階の住居へ行こうとしたユウスケだったが、ふと入口の札を返し忘れた事を思い出した。

 

(おっといけないいけない。シャワー浴びたら湯冷めするかもだし、今の内にやっておくか)

 

 翔一は厨房の奥にいるので静かに開けて締めれば気付かれないはずだ。そう思ってユウスケは慎重に入口のドアを開け、顔を覗かせて札をひっくり返してCLOSE表示にした。

 

「これでよしっと……ん?」

 

 その時、彼の視界に不気味な影が映った。それは一瞬ではあったが、彼の記憶に深く刻まれた相手。あの夜、翔一が駆けつけるまでユウスケと対峙していた存在である。それを認識した瞬間、ユウスケはその後を追っていた。そうしなければいけないような気がしたからだ。あれを放っておいてはいけない。そう自分の知らない自分が言っているような気がしたのだ。

 

 辿り着いたのは、夜の公園。周囲は何もなくただ木々が数本あるだけ。

 

「出てこいっ! いるのは分かってるんだっ!」

「……アギトに並ぶ存在。今度こそ、その力消滅させる」

 

 突然聞こえた声にユウスケが視線を動かす。空を見上げると、そこにあの黒い布を被った存在が浮かんでいた。そして、それは片手を突き出すとユウスケへ衝撃波を放つ。それが彼の体を大きく吹き飛ばした。地面に叩き付けられながら、ユウスケは何とか立ち上がると両手を握り締める。

 

「何だ……? 何か大事な事を忘れてるような……でも」

「しぶといな」

 

 自分自身へ苛立つユウスケを見てアンノウンは再度攻撃を仕掛けようとする。が、その耳に聞こえてくる音がある。それはバイクの駆動音。それが何を意味するのか理解したのか、アンノウンは音のする方へ顔を向けた。

 

「アギト……」

 

 そこにはマシントルネイダーを駆り、その場へ接近する金色の体をしたアギトの姿があった。このままでは戦闘になる。そう判断し逃げようとするアンノウンだったが、オーロラを出現させようとした瞬間にその体へユウスケが体当たりを仕掛けて転倒させる。

 

「逃がすかっ!」

「クッ……」

 

 その間にアギトが到着。マシントルネイダーから降り立つとすぐさまユウスケを助けようとアンノウンへ迫った。

 

「はっ!」

「ヌッ!」

 

 繰り出された拳をかわし、ユウスケから距離を取るアンノウン。だが、ユウスケはそのアギトの姿を見て頭を押さえた。

 

「何だ……? 俺はこの存在を知ってる……? どうして?」

 

 困惑するユウスケを余所にアギトとアンノウンは戦闘を開始していた。繰り出される拳や蹴りをかわし、時には手から出現させる透明なバリアで防ぎながら、アギトに一撃たりとも攻撃を当てさせないアンノウン。と、そこへ聞こえてくるサイレンの音。

 

「津上さんっ! 遅くなりましたっ!」

 

 それはガードチェイサーに乗った青い体のG3-Xだった。翔一からの連絡を受けた氷川が北條へ報告、それを受けた彼があくまでも非常時を見越した訓練であると誤魔化した上で上層部を説得。こうしてGトレーラーが久しぶりにその車体を動かしたのだ。

 

『氷川さん、くれぐれも派手にやりすぎないでくださいよ?』

「分かっています」

『では、GM-01アクティブ。発砲を許可します』

「了解っ!」

 

 尾室の声に元気よく返事を返し、G3-XはGM-01を手に駆け出した。その射撃を残る片手で展開するバリアで防ぐアンノウン。そこでG3-Xは内心で首を傾げた。どこかで似たような相手と戦った気がしたのだ。

 

「尾室さん、あのアンノウンに似た存在を覚えていませんか?」

『ええっ?! そう言われてもなぁ……』

 

 突然の問いかけに記憶を探る尾室だったが、残念ながらその中に該当する存在を見つけ出す事は出来なかった。その間もアギトとG3-Xを相手にアンノウンは優位を保ち続けた。その展開するバリアはいかなる攻撃も寄せ付けないような強度を誇ったのだ。

 

「このままじゃ……っ!」

「これでダメなら……」

 

 現状を打開するためにアギトとG3-Xがそれぞれ動く。アギトは腰のベルトの横を叩いて姿を真紅へと変え、G3-Xはガードチェイサーへ駆け寄り、タンク右側にあるGG-02を手にした。

 

「はあっ!」

「フンッ!」

 

 フレイムフォームとなったアギトはベルトから専用武器であるフレイムセイバーを取り出し、それを持ってバリアへ斬り付ける。同時にG3-XもGG-02をGM-01へ装着させた。

 

「尾室さんっ!」

『GG-02アクティブ!』

「これならどうだっ!」

「効かぬ!」

 

 二人の攻撃をアンノウンのバリアが防ぐ。その様子を見つめユウスケはぼんやりとだが何かを思い出しつつあった。G3-Xの姿とアギトの姿。それを自分は間近で見た事があると。それがどこでだったかは思い出せない。そのもどかしさにユウスケが頭を押さえて蹲る中、更なるライダーがそこへ現れた。

 

「があっ!」

「何だと?」

 

 後方から襲い掛かるのは緑の体のギルス。その踵から伸びるヒールクロウがアンノウンへと突き刺さる。

 

「うがぁぁぁぁっ!」

「グヌッ!?」

 

 雄叫びと共に蹴り飛ばすように回転して着地するギルス。すると、アンノウンの姿が変化していく。黒い布は消滅し、そこにはクジラを思わせる怪人が立っていた。

 

「「「っ?!」」」

 

 それは三人にとって忘れる事の出来ない存在だった。水のエル。かつて彼らを最後まで苦しめた強敵中の強敵である。

 

「アギト、ギルス、そして人間。どこまでも邪魔をするのか……」

「どうしてお前が生きている!? あの時、たしかにお前は倒したはずだ!」

 

 G3-Xの言葉に水のエルは頷いた。それは己の死を肯定している。

 

「そうだ。だが、消滅した私をある存在が再生させたのだ。全てのアギトを、全ての人間を滅ぼすために」

「ある存在?」

「一体それは何だ! あの黒服の男か!」

「違う。あの方は最早この世に現れないだろう。私を再生させたのは別の存在だ」

 

 その発言の持つ意味は三人にとっても、そして尾室にとっても重い物だった。アンノウン以上の存在の示唆。それが意味するのは、あの頃よりも恐ろしい事件が起きる事だ。そんな事は見逃せない。三人のライダーはそれぞれ拳を握る。だが、その瞬間水のエルが動いた。その両手を合わせたかと思うと、それを放してアギトとギルスへ突き出すように動かしたのだ。その手からは闇のような波動が放たれ、それがアギトとギルスのベルトの中心にある賢者の石を包む。

 

「なんだ!?」

「これは……?」

「大丈夫ですか、二人共!」

 

 特に何かダメージを受けた訳ではない。それを確かめ内心首を傾げるアギトとギルスだったが、G3-Xへ心配させないように頷いて構えた。それを水のエルが不気味に見つめる。そして、すぐにその行動の意味を二人は知る事となる。

 

 水のエルの二股の槍がフレイムセイバーを受け止め、ギルスの攻撃も片手のバリアで防がれる。G3-Xの射撃は一向に効果を出せず、誰一人として有効打を与える事が出来ないでいた。この現状を打破するため、アギトとギルスはそれぞれ秘められた力を解放しようとした。だが……。

 

「「っ?!」」

 

 気付いたのだ。それが出来ない事に。そしてその原因もすぐに理解した。自分達のベルトを包む黒い闇。それが彼らの光を封じているのだと。

 

「どうしたんですか!?」

「津上、これは……」

「ええ、このままでやるしかないみたいです」

 

 二人の変身の時間を作るため奮戦していたG3-Xだったが、そのダメージは次第に大きくなり始めていた。元々人の手によって創られたG3-Xはアギトやギルスと違い進化出来ない。しかも、装着者である氷川はあの最後の戦い以降一年以上も実戦から遠ざかり、体力作りなどの訓練も行っていなかった。それ故、三人の中では一番衰えていたと言える。

 

「ぐっ! まだまだっ!」

『胸部ダメージが30%を超えました! 氷川さん、気を付けてっ!』

 

 尾室の心配そうな声に返す余裕さえなく、G3-Xはその手にしたGK-06と呼ばれる電磁ナイフで水のエルを追い払うように戦う。そこへ超変身を諦めたアギトとギルスが舞い戻るも、やはり謎の強化を遂げた水のエルには劣勢を強いられる事になった。そもそも攻撃力重視のフレイムフォームでさえ攻撃が通用しない以上、それを超えるには、現状ではG3-Xの最大の武器であるGX-05と呼ばれるガトリングのランチャーモードしか望みはない。

 

「津上さん! 葦原さん! 少しだけ頼みますっ!」

 

 水のエルと戦う二人を置いてG3-Xはガードチェイサーからアタッシュケースのような物を取り出した。そして、そのナンバーパネルを1・3・2と入力する。すると解除しますとの機械音声と共にそれが銃火器へと変化する。

 

「これなら……」

 

 GM-01のスコープを上部に取り付け、側面にはその本体を取り付けると同時に後部からロケット弾頭を取り出し、それを装填する。準備が出来たのを確認し、G3-Xは水のエルと戦う二人を見つめた。思い出していたのだ。以前同じ攻撃を放った時、水のエルに通用しなかった事を。普通に撃ってもダメだ。そう思った彼は、ならばとそのまま走り出した。

 

『ちょっ?! 氷川さん!?』

「接射しますっ! 以前、あのアンノウンはこの攻撃を跳ね返しました!」

 

 己へのダメージを無視した発想だ。それだけ彼にとってはこの戦いを勝利したいとの気持ちが強いのだ。まるで特攻するような雰囲気で駆け寄るG3-Xを見てアギトとギルスは息を呑んだ。

 

「氷川さんっ! 無茶です!」

「止めろっ! お前もタダじゃ済まないぞ!」

「覚悟の上ですっ! こいつはそれぐらいしないと倒せませんっ!」

 

 その答えにアギトとギルスは水のエルの両手を抑え込む。それが何を意味するのかを悟り、G3-Xは微かに速度を落としそうになるも、そのまま水のエルへと迫った。そしてその眼前に立ち、弾頭を突き付けるようにしてトリガーを引いた。

 

「喰らえっ!」

「オオッ!?」

 

 巻き起こる爆発。そして転がるようにしながら変身が解けるアギトとギルス。G3-Xは反動と爆発で後ろへ大きく吹き飛ばされた。その体中から火花を散らしながら。その光景を見てユウスケはある光景を思い出した。それは彼がG3-Xを装着して同じようにダメージを受けている記憶。セピア色のそれに、彼は自分の手を見つめた。

 

「何だ……? もう少し……もう少しで何か思い出せそうなんだ……」

 

 ユウスケの目の前では、それぞれにダメージを負った三人が燃え上がる炎を見つめていた。

 

「……手応えはあったか?」

「わ、分かりません。ただ、無傷とはいかないはずです……」

「そうじゃないと困りますね……」

 

 どこかで祈るような気持ちで炎を見つめる三人だったが、その炎が突然消える。まるで大量の水で消火されたように。そこには、片手で腹部を抑えながらもう片手を突き出すようにしている水のエルがいた。

 

「お、おのれぇ……小癪な真似を……」

「どうやら延長戦のようだな」

「ですね」

「分かりました」

 

 ふらふらと立ち上がる三人だが、見るからに体力が限界だった。それでも、翔一と葦原はそれぞれ構える。

 

「「変身っ!」」

 

 だが、声とは裏腹に二人の姿は変わらない。先程の黒い闇が完全にアギトの光を抑え込んでいたのだ。

 

「津上さん? 葦原さんも……」

「変身出来ない……」

「くっ、さっきの黒いやつのせいか」

「っ! なら、お二人は下がってください! ここは僕が引き受けますっ!」

 

 ボロボロの状態でG3-Xが二人の前へ出る。そのままG3-Xは水のエルへと単身立ち向かう。その姿を見つめ、悔しそうに拳を握り締める葦原。翔一は孤軍奮闘するG3-Xを見つめ、悔しさの呟きを漏らす。

 

―――せっかく仮面ライダーになったのに、これじゃあの緑のアギト達に合わせる顔がないじゃないか……っ!

 

 その単語が、ユウスケの中で弾けた。仮面ライダー。その言葉が一気に彼の失われていた記憶を取り戻させる。そう、彼はあの水のエルと戦い、以前と同じくオーロラへ無理矢理連れ込まれてこの世界へやってきた。そしてその不思議な力でアマダムの力を全て奪われる手前でアギトによって救われたのだ。そのため、彼は記憶という力を失っていた。

 

「仮面ライダー……そうだ、そうだよ。思い出した」

 

 凛々しい表情になり、ユウスケは翔一と葦原の前に出る。

 

「おい、何するつもりだ?」

「危ないですよ、五代さん!」

「大丈夫です。あと、俺、ホントは五代じゃないんです。ユウスケは同じなんですけどね」

「「え(は)?」

 

 笑みを見せて答えたユウスケに二人が揃って疑問を浮かべる。それに構わずユウスケは両手を腹部へかざす。するとそこへアークルと呼ばれるベルトが出現した。思わず息を呑む二人。

 

「あんな奴のために、この世界の涙は見たくない。だから……見ててください」

 

 低く唸る重低音。それがまるで翔一と葦原の腹へ響いてくる。共鳴しているようだ。そんな風にも感じながら二人はユウスケを見つめた。

 

―――俺の……変身っ!

 

 叫びが彼を変えていく。真紅の鎧が彼の体を覆い、真紅の瞳が闇夜に輝く。その姿を見て翔一も葦原も言葉が無かった。何故ならそれは昔新聞やテレビを騒がせた存在だったからだ。

 

 変身を終えたクウガは、一度だけ後ろを見るとそのまま駆け出した。

 

「……おい、あれって」

「第四号、ですよね?」

「本当にいたのかよ……」

「だから狙われたのか、五代さん……」

 

 納得する二人の前では、クウガに助けられた事でG3-Xが驚いていた。当然、その視覚を通して現場を見ている尾室さえも。

 

「『だ、第四号!?』」

「違いますっ! 今の俺はクウガ、仮面ライダークウガです!」

「仮面ライダークウガ……?」

 

 水のエルを迎え撃ち、拳を繰り出すクウガ。その姿を見てG3-Xは拳を握ると一緒になって突き出した。

 

「「このっ!」」

「ガッ!」

 

 そのダブルパンチが水のエルをよろめかせる。それに手応えを感じるも、即座に水のエルが手から衝撃波を放って反撃する。それが二人を吹き飛ばした。すぐに立ち上がるクウガに対し、ダメージの蓄積からG3-Xは立ち上がる事が出来ない。しかも、そのバッテリーも残量が底を尽き始めたので余計に負担が氷川へのしかかっていたのだ。

 

『氷川さん、もう無理です! 撤退してくださいっ!』

「だ、ダメです……第四号が、クウガが戦ってくれるとはいえ、他に戦えるのは今は僕しか、G3-Xしかいないんです……。ここで退く訳にはいきません……っ!」

『氷川さんっ! 気持ちは分かりますけどもうバッテリーが』

 

 尾室が現実を突き付け氷川を下がらせようとした時だった。その耳にサイレンの音が聞こえてきたのは。見れば、白バイであるトライチェイサー2000Aに乗ってG3MILDが現れたのだ。突然の乱入者に驚くG3-XへG3MILDは背後へ回ると、その背中のバッテリーパックを外して自分の物と取り換えた。

 

「これで戦えるでしょう」

「北條さん……」

「上を説き伏せるのに時間を食いました。てっきりもう終わったと思っていたのですが……」

「ありがとうございますっ! 僕はクウガの援護に向かいますので!」

 

 嫌味を言い終わる前に走り出すG3-Xを見送り、G3MILDは大きくため息を吐いた。

 

「未確認生命体第四号……そうか。それがアンノウンの狙いだったのか」

 

 残りバッテリー残量はもう戦闘出来る量ではない。それを少しだけ悔しく思いながら、彼はどこかでこう思っていた。

 

―――あのG4に対しても戦い抜いた彼だからこそ、G3-Xは強いのかもしれませんね。

 

 その見つめる先では、クウガを羽交い絞めしていた水のエルへ渾身の飛び蹴りを叩き込むG3-Xの姿があった。諦める事無く戦うG3-Xと、長きに渡る空白の時間を超えて現れたクウガ。その姿を見て翔一と葦原はある熱を感じていた。

 

「葦原さん、何か感じませんか?」

「ああ、感じる。この感じは……あの頃、あの子からもらった温かさに似ている」

「これは、あの発電所の時と同じだ……」

 

 静かに二人の腹部から光が現れ始める。アギトの光は進化の光。それは絶望の闇に諦める事無く抗う事で強くなる輝き。翔一も葦原も直感でそれを悟ったのだろう。力強く頷くと、互いへ視線を向けた。

 

「出来るまで何度でも……」

「やってやるかっ!」

 

 もう一度変身するための構えを取る二人。

 

「「変身っ!」」

 

 何も起きない。少なくても表面上は。それでも微かに風が動いたような気が二人にはした。

 

「「変……身っ!」」

 

 更に力を入れて、想いを込めて行う。すると微かに光が生じるもすぐに闇に飲み込まれる。だが、光が見えた事が大切なのだ。故に二人は確信めいたものを感じながら深呼吸。次で変身してみせる。そんな気持ちを込めるように、翔一は左手を腰に当て右手をゆっくりと前へ動かしていく。葦原も両腕を交差させて目を閉じる。

 

「「変身……っ!」」

 

 ベルトを叩く翔一と交差した腕を一気に腰へと動かす葦原。その瞬間、二人から眩いばかりの光が放たれる。それがベルトを覆っていた闇を消し飛ばし、水のエルを怯ませる。

 

「こ、これは……プロメテの……」

「津上さん……葦原さん……」

「凄い……これがこの世界の仮面ライダーの光」

 

 光が収まると、そこにはギルスとアギトが立っていた。その姿を見てクウガとG3-Xが傍へと駆け寄った。

 

「五代さんも仮面ライダーだったんですね」

「だから俺は五代じゃ……まあいいか。ええ、そうです。俺も仮面ライダークウガです」

「仮面ライダー、か。あの発電所で津上が出会ったっていうあの?」

「よく分かりませんが、これならあのアンノウンにも勝てますっ!」

 

 G3-Xの言葉に頷き合い、彼らはその場で構えた。その威容に息を呑む水のエル。相手の反応を見て四人は同時に動き出す。この勢いを無くしてはいけないと理解したのだ。一気呵成に攻め立て倒す。真っ先に動いたのはクウガ。体を紫に変え、水のエルへと迫ったのだ。

 

「ヌウッ!」

「くっ……」

 

 放たれた衝撃波を鎧で受け流し、クウガは耐え切って見せる。それを見てアギトも動き出す。ベルトの横を叩き、その体を青へ変化させたのだ。そのままベルトへ手を回しストームハルバードと呼ばれる長刀を手にし、駆け出したのだ。それに呼応するようにギルスも走り出し、二人は同時に左右から襲い掛かった。

 

「はぁっ!」

「があっ!」

 

 鋭い一撃が水のエルを襲うも、それは辛うじて両手のバリアが防ぐ。しかし、それは裏を返せば両手が塞がる事を意味する。無防備な胴体へGM-01による攻撃が行われる。その連射に水のエルが少しだけ息を漏らす。

 

「そんなもので私は」

「おりゃあっ!」

 

 水のエルの言葉を遮ったのは、GK-06を拾ってタイタンソードを作り出したクウガによる一撃だった。カラミティタイタンが水のエルを貫く。本来であれば封印エネルギーはアンノウンへ効果を持たない。だが、再生された水のエルはその効果が発生していた。

 

「グヌ……こ、これは……」

「効いてるっ!」

「五代さん、どいてくださいっ!」

 

 聞こえてきた声にクウガが素早く離れ、それと入れ替わりに、フレイムフォームへと超変身していたアギトのフレイムセイバーがその鍔の部分を展開させて水のエルを斬り付ける。

 

「はあっ!」

「ガハッ!」

 

 必殺のセイバースラッシュが炸裂し、水のエルが堪らず後ずさると、そこを狙ったかのようにギルスが襲いかかった。触手状の鞭であるギルスフィーラーをヌンチャクのように振り回してダメージを加速させたのだ。

 

「葦原さんっ! 後ろへ回ってくださいっ!」

 

 ギルスが指示通りに水のエルの背後へ回った瞬間、G3-Xの射撃が行われる。前後で挟み撃ちにして水のエルへダメージを与えていく二人だったが、GM-01の弾が遂に無くなってしまう。慌てて替えのマガジンを取り出そうとするG3-Xへ、クウガが素早く駆け寄りその手からGM-01を取ってしまった。

 

「えっ?!」

「少しだけ貸してください!」

 

 言うやクウガの姿が紫から緑へ変わる。そしてGM-01もペガサスボウガンへと変化したのだ。それに驚くG3-Xとアギト。その見ている目の前でクウガはペガサスボウガンの後部にある箇所を思い切り引き伸ばして、水のエルの槍を持つ手を狙って引き金を引いた。放たれた空気弾―――ブラストペガサスが見事に水のエルから槍を手放させる事に成功する。

 

「これ、返します」

「あ、はい」

「五代さん、次で終わりにしましょうっ!」

「だから……はぁ、分かりましたっ!」

 

 アギトの天然さに諦め、クウガは返事を返すやその場で構えた。ギルスもそれを見て右足の踵のヒールクロウを鋭く伸ばす。G3-XもGG-02を再び装着してその時に備える。

 

「はあぁぁぁぁぁ……」

 

 アギトの声に呼応し、その角であるグランドホーンが展開する。足元へアギトの紋章が出現し、それが回転しながらアギトの右足へと収束していくやクウガが走り出す。同時にギルスは右足を高く上げて水のエルの右肩へとヒールクロウを突き立てた。

 

「がああああああっ!」

 

 雄叫びと共に力強く水のエルを蹴り飛ばしてギルスは空中へと舞い上がる。それを合図にクウガが、アギトが跳び上がる。ギルスの攻撃で大きく体勢を崩した水のエルへ向かってクウガとアギトが揃って蹴りの姿勢へと移行していく。

 

「うおりゃあっ!」

「はっ!」

 

 クウガとアギトによるライダーダブルキック。それに今度は背後へと大きく飛ばされる水のエルへ、ダメ押しとばかりにG3-XがGG-02を発射した。

 

「とどめだっ!」

「っ!?」

 

 更なる攻撃で激しく地面へ叩きつけられると同時に、光の輪が浮かび上がって水のエルは爆発四散した。断末魔さえ上げる事も出来ずに。その爆発の名残を見つめながら変身を解除していくクウガ達。G3-Xもその頭部を外していた。

 

「何とか倒せましたね」

「ああ、だけど気になる事を言ってたな」

「あのアンノウンを甦らせた存在。一体それは……」

「多分ですけど、それは俺や俺の仲間が戦ってる奴らの先にいるはずです」

 

 ユウスケの言葉に三人が揃って顔を動かす。彼は水のエルが散った場所を見つめ拳を握りしめていた。

 

「色んな平行世界を一つにして支配しようとしてる怪人軍団があるんです。それを相手に俺はディケイドってライダーと一緒に戦ってます。きっとそいつらの親玉が今回の事も関係してるはず」

「……平行世界」

「待ってください。じゃ、貴方はこの世界の人間ではないとでも言うんですか?」

「そうなるだろうな」

「多分そうだと」

 

 規模の大きな話になり、困惑する氷川だったが翔一と葦原は直感で察していた。ユウスケはこの世界ではなく、この時代の人間ではないのだろうと。何故かは分からない。だが、そんな気がしていた。すると、彼らの前に灰色のオーロラが出現する。新しい敵かと思って身構える翔一達だったが、ユウスケだけはどこか息を吐いてそこから出てきた相手へ手を振った。

 

「よっ、士」

「ったく、これで二度目だぞ。どうしてお前ばかり」

「俺はお前と違ってそれが出来ないからじゃないか? にしても、ありがとう。これで帰れる」

「まったく……俺はお前の送迎バスじゃないんだぞ。で、どうする? 残ってもいいぞ」

「……いや、一緒に行くよ」

 

 ユウスケの噛み締めるような返しに、士と呼ばれた青年は微かに笑みを浮かべると踵を返してオーロラの中へ戻っていく。ユウスケもそれを追おうとして、一度だけ翔一達を振り返った。

 

「その、今までお世話になりました。俺、小野寺ユウスケって言います。津上さん、葦原さん、氷川さん、短い間でしたけど、一緒に戦えて嬉しかったです。この世界の事、頼みます」

「五代さん……」

「分かった。こっちは気にするな。お前はお前の戦いを頑張れ」

「ええ、我々の世界は我々で守ります」

 

 寂しそうな顔をする翔一とは違い、葦原と氷川は凛々しい表情で彼へ応える。それに嬉しく思いながら頷き、ユウスケはオーロラへ向かう。その背中へ翔一は意を決して叫んだ。

 

―――小野寺さん、いつかお客さんとして店に来てくださいっ! 待ってますっ!

 

 その言葉への返事は掲げられた右手によるサムズアップ。それに笑顔を浮かべて翔一も頷いた。こうしてこの事件は誰に知られる事なく終わる。第四号の再出現やアンノウンの復活という事実を一部の者達へ印象付けながら……。

 

 

 

「お待たせ~っ」

 

 テーブルに並べられる料理を見つめ、士達は驚きの表情を見せていた。まるでフレンチレストランのコースメニューのようだったからだ。人数分ではないが、取り分けて食べるようにすれば人数分と考えられる量である。

 

「こ、これユウスケが作ったんですか?」

「そうだよ」

「は~っ、大したもんだ。まるでレストランの料理だよ」

「ホ~ント、どれも美味しそうねぇ。……アチッ」

「あー、ちゃんとキバーラ用にも用意してあるって」

 

 言いながらユウスケが小さなカップに入れたスープを渡す。それに満足そうに頷いて栄次郎はスプーンを手にしてキバーラへ飲ませ始めた。

 

「……美味い。おいユウスケ、こんな事をどこで学んだ?」

「この前の時にお世話になってた世界ですよね?」

「うん、俺にこの味を教えてくれたのは……」

 

 どこか微笑みを浮かべてユウスケはこう告げる。

 

―――レストランAGITΩだよ。

 

 その頃、件の場所では三人の人物がテーブルに出された料理を見て感嘆の声を上げていた。そこには、赤のスープに緑のパスタ、ブルーチーズを使ったソースが軽く掛けられている皿と、紫キャベツや赤パプリカを使用したサラダが添えられている。

 

「これが噂の新メニューかい?」

「はい。その名もライダーセットです」

「ライダー? 何でこれでライダーなんだよ。また翔一の謎センスか……」

「太一、そんな言い方をしないの」

「まぁまぁ。とりあえず食べてみてください」

 

 言われるまま料理を食べ始める美杉家の人々。その表情が食べた瞬間、笑顔になる。それに翔一は満足そうに頷き、三人の感想を待った。すると揃って翔一へ顔を向けて笑顔のまま口を開いた。

 

「「「美味しいっ!」」」

「ありがとうございます。ごゆっくりお楽しみください」

 

 嬉しそうにお礼を述べ、翔一はその場で一礼するとテーブルを離れて動き出す。入口にほど近いテーブルには、氷川を始めとした警察関係者が四人座っていた。そこにもライダーセットが置かれている。

 

「何故久しぶりに帰国して、この男と一緒に食事をしなければならないの」

「それはこちらの台詞です。氷川さんが今回の事で慰労会をしたいと言うから仕方なく応じてみれば」

「小沢さんも北條管理官も止めてくださいよ。ほら、まずは食べましょう?」

「尾室さんの言う通りです。ここは食事を楽しむ場所なんですから」

 

 氷川の言葉に二人も思う事があったのだろう。ならばとパスタへ手を付ける。それに尾室と氷川も安堵して同じようにパスタを食べ始めた。そこへ翔一が近寄る。

 

「どうですか? 当店の新メニューは?」

「……中々ね」

「ええ、悪くはないでしょう」

「いや、すっごい美味しいじゃないですか!」

「僕もそう思います。津上さん、あれがこうなるとは思いませんでした」

「ありがとうございます。ごゆっくり食事をお楽しみください」

 

 一礼し厨房へと向かう翔一。するとドアが開き、誰かが来店する。視線を動かせばそこには葦原がいた。

 

「空いてるか?」

「ええ。こちらへどうぞ」

 

 翔一の案内でテーブルに着く葦原。差し出されるメニューを眺め、その目がある部分で止まる。

 

「……ライダーセット一つ」

「かしこまりました」

 

 言う方も言われる方も笑みを浮かべていた。彼らしか知らない意味がそこにあると気付いたからだ。メニューの下に添えてある簡単な説明にはこうあった。

 

―――赤、緑、青をイメージするスープパスタに、赤と紫をイメージするサラダのセットです。

 

 それがアギト、ギルス、G3-Xとクウガを意味している事は、あの戦いを経験した者達しか分からない……。




小野寺クウガの世界はオリジナルアギトの世界へ続いていると自分は勝手に設定しています。そうでなければ五代の戦いは意味を半減させてしまうからです。
士の言った残ってもいいぞはそういう意味です。ここはある意味でユウスケのいるべき世界でもある。そう彼は教えたのです。
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