もう一人のクウガの冒険   作:拙作製造機

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最後はやはり平成と昭和にまたがったライダーにして、最強の呼び声高い存在。クウガとはどこか似ている部分や近しい設定などがあるライダーです。


仮面ライダー、世界を超える!

 大ショッカーの残党でありスーパーショッカーの残党でもある怪人軍団。それをディケイドやキバーラと共に追い駆け、遂にクウガこと小野寺ユウスケはその最後の一体であるグランザイラスと対峙していた。再生怪人達をディエンドとキバーラが引き受け、ここまでの道を切り開いてくれたのだ。

 

「やっと長かった鬼ごっこも終わりか」

「みたいだな。士、決めるぞ!」

「ふんっ! 貴様ら雑魚に負ける俺様ではない!」

 

 まるで恐竜のような顔をした機械怪人。それがグランザイラスであった。それを前にディケイドとクウガは同時に跳び上がって蹴りの体勢へ移行する。ディメンジョンキックとマイティキックによる、ダブルライダーキックであった。それを見ても、怯えるどころか悠々と迎え撃つグランザイラス。その腹部へ二人の必殺キックが炸裂する―――が、地に倒れたのはディケイドとクウガの方であった。

 

「な、何て硬さだ……っ!」

「見かけ通りの硬さバカみたいだな……」

「それで終わりか? 大した事のない奴らだ」

「こいつ……言わせておけば!」

 

 ディケイドはケータッチと呼ばれる強化アイテムを取り出し、その力を解放する。それによりその姿がコンプリートフォームと呼ばれるものへと変化した。

 

「ほう、中々変わった事が出来る奴だ。RXのようなものか」

「これは単なる変化じゃない。強化形態ってやつだ。その力を見せてやる!」

”KABUTO”

 

 ディケイドがケータッチを操作すると音声が流れる。それをまるで余興を眺めるようにグランザイラスは見つめていた。クウガはそんな相手に内心で疑問を浮かべる。ディケイドの能力を知らないにせよ、強力な攻撃を受けるかもしれないのだ。なのに何故少しも防ぐ事や逃げる事をしないのか。その理由が気になっていた。それと、もう一つ。グランザイラスが口にしたある名詞である。

 

(RXって言ってたな。じゃ、こいつはあの世界出身なのか? それにしては、どこか雰囲気が違う気がする……)

 

 かつて訪れたRXの世界。そこで彼が見たのは、自称怪魔ロボット最強の戦士であったシュバリアンであった。その容姿はいかにもなロボットであったため、グランザイラスと共通点が見当たらなかったのである。それもそのはず。グランザイラスはクライシス皇帝が直々に送り込んだ文字通り最強の怪人であり、RXだけでなく十人ライダーさえ追い詰めた存在だったのだから。

 

”KAMEN RIDE HYPER”

 

 音声と同時にディケイドの横に仮面ライダーカブトの最強形態であるハイパーカブトが出現する。

 

「成程、別のライダーの力を借りるのか」

「それだけじゃない。俺の力も同時にぶつけてやれるんだ。その余裕もここまでだっ!」

 

 そう叫ぶディケイドの手には、カブトのマークが表示されたカードが握られていた。カブトのファイナルアタックライドカードである。それを腰のディケイドライバーへ挿入し、一度だけそれを叩いた。

 

”FINAL ATTACK RIDE KAKAKABUTO”

 

 手にしたライドブッカーとパーフェクトゼクターを構え、グランザイラス目掛けてディケイドとカブトが同時に振り下ろした。マキシマムハイパータイフーンと呼ばれる攻撃の模倣である。その攻撃がグランザイラスへ直撃した―――かに見えた。だが、その二つの斬撃はその体を斬り付ける事なく止められていた。

 

「なっ!?」

 

 グランザイラスの手によって。

 

「それで倒されるとは思わんが、念には念を入れておくとしよう。褒めてやるぞ、ディケイド。この俺様に防がせようと思わせただけでも大したものだ」

「こいつ、減らず口をっ!」

「さて、面白い見世物の礼だ。これでも受け取れっ!」

 

 そう言うなり、グランザイラスは口を大きく開けて火炎を放射した。超高温の火炎がディケイドを襲い、その威力に大きく吹き飛ばされ、ディケイドは地面に叩きつけられると同時に変身が解除されてしまう。更に運悪くディケイドライバーがグランザイラスの方へ転がってしまったのだ。

 

「士っ!?」

「ぐっ……こ、このトリケラ野郎……」

「ほぉ、まだ生きているか。しぶとさだけはあるようだな」

 

 何とか起き上がろうとする士を見て、グランザイラスが追撃を加えようとしている。そう判断したクウガは咄嗟にその攻撃の射線上へ飛び出した。

 

「超変身っ!」

「むっ?」

 

 タイタンフォームとなってグランザイラスの放った怪光線を受け止めるクウガであったが、さしもの紫の鎧もその攻撃力には無力に等しかった。吹き飛ばされる事はなかったものの、その場を大きな爆発が包み、その炎が消えた時にはユウスケがゆっくりと前のめりに倒れようとしていたのだ。

 

「ユウスケっ!」

「クウガとやらもこの程度か。どうやらお前達にやられた奴らが弱すぎたらしい。やはり俺様さえいれば、どんなライダーが相手でも負ける事などないのだ」

 

 その言葉に、今にも崩れ落ちそうなユウスケの体が踏み止まった。彼は思い出したのだ。あの出会ったライダー達を。もう一人のクウガにもう一人のアギト、ギルスにG3-Xといったディケイドさえ出会った事のないライダー達の姿を。その彼らを馬鹿にされた気がして、ユウスケは膝を屈する事はしたくなかったのだ。

 

「……ことはない」

「ん?」

「そんなことはない……」

「死にぞこないが何か言っているな。遺言か?」

「っ!」

 

 煽る言葉にユウスケが背筋を伸ばすかのように顔を上げ、毅然とした表情でグランザイラスを睨み付ける。だが、その眼光にもグランザイラスは微動だにしない。

 

「そんな事はないっ! お前なんかに、お前なんかにライダーは絶対負けないっ!」

「はっはっはっ! 威勢だけはいいなクウガとやら。ならば、どうやって俺様を倒す? ディケイドとの同時攻撃も、奴の切り札も、そしてお前の攻撃さえも俺様には通用せんぞ」

「やってみなくちゃ……分かんないだろ!」

「ユウスケっ!? お前、まさかっ!」

「士、そこで見てろ。俺の、変身っ!」

 

 叫びと共にユウスケの体が闇に包まれていく。それが消えた時、そこには黒い体に黒い目のライジングアルティメットとなったクウガが立っていた。その威容にグランザイラスも感嘆の声を漏らした。感じ取ったのだ。目の前の相手は自分達と近しい存在であると。

 

「面白いな、クウガ。その体色、まるでRXのようだ。どうやら俺様は黒いライダーと奇妙な縁があるらしい」

「行くぞ……っ!」

 

 そこからは壮絶な戦いが繰り広げられた。ライジングアルティメットの力を出し切るように戦うクウガ。それにグランザイラスは一歩も引けを取らなかったのである。超絶な力と力のぶつかり合い。それでも、状況は次第に、僅かではあるがクウガ優勢となっていく。アマダムは意思に応じて力を与える。士を、全ての人達の笑顔を守りたい。その思いで戦うユウスケへ、霊石が応えた結果である。あの五代さえ成し遂げていないクウガのもう一つの姿。その力が今、最強の怪人を超えたのだ。

 

「あぁぁぁぁぁっ!」

「グヌッ!?」

 

 クウガの拳がグランザイラスの腹部へ叩き込まれる。その威力に初めて苦痛に呻く声を上げたグランザイラスへ、更なる追撃として蹴りが放たれた。その重々しい一撃に遂にグランザイラスの体が浮き上がり大きく飛ばされる。

 

「これで……終わりだ」

 

 すぐに立ち上がれないグランザイラスを見て、クウガがゆっくりと蹴る前の体勢へ構えていく。と、その時だった。

 

―――クウガ、本当にグランザイラスを倒すつもりか?

「っ?! 誰だ!?」

 

 突然響き渡る謎の声。クウガは周囲を見渡したが、どこにも誰の姿もなかった。と、そこで士が何かに気付いて這いずりながら動き出した。それはクウガにもグランザイラスにも気付かれる事はなかった。クウガは謎の声へ、グランザイラスは受けたダメージにもがいていたからだ。

 

―――グランザイラスの内部には、水爆を超える強力な爆弾が内蔵されている。

「何だって!?」

―――倒せば、お前だけでなくディケイドもただではすまんぞ。無論、あとの二人もだ。

「っ! 夏海ちゃんと海東さん……」

 

 脳裏に過ぎる二人の仲間の姿。すると、クウガの体が大きく横へ弾き飛ばされた。瞬間、先程までクウガのいた場所に大きな爆発が起きる。グランザイラスの怪光線だった。

 

「おのれ、ディケイド!」

「ぼさっとするなっ!」

「士……」

 

 クウガを助けたのはディケイドだった。クウガの奮戦により、グランザイラスが追い詰められた事でディケイドライバーを取り戻せたのだ。

 

「あいつを倒さないとどちらにしろ夏みかん達も不味い! やるしかないんだ!」

「…………そうだな」

「相談は終わったか? 今度は先程のようにはいかんぞ!」

「来るぞっ!」

「ああっ!」

 

 反撃を開始するグランザイラスに対し、ディケイドとクウガは優勢のまま戦闘を再開する。だが、謎の声が告げた内容が脳裏をちらつき、ここぞと言う時の攻撃を迷わせてしまう。そんな隙を見逃すグランザイラスではない。結果、二人はそのダメージを増やし、状況も優勢から劣勢へと変わろうとしていた。このままでは不味い。そう判断したユウスケはある賭けに出る。

 

「士、お前は夏海ちゃん達と合流して少しでも遠くへ離れろ」

「は? お前、何言ってるんだ!」

「いいからっ! あいつを倒せて、しかも今後いなくても構わないのは俺の方だ」

「っ! ユウスケ、お前自分が何言ってるのか分かってるのかっ!」

「分かってるよっ! ……俺の世界は、翔一さん達が、アギト達が守ってくれる。なら、今後こいつらみたいな奴らが現れた時、止められるのは誰だ? お前だよ士。仮面ライダーディケイドだけがそれを出来るんだ」

「ユウスケ……」

 

 士は返す言葉がなかった。このまま倒せば全滅だ。しかも、それは今後のもしもを考えれば最悪の結末。だからこそ、ユウスケは、仮面ライダークウガはそれを避けようとしているのだ。自分が犠牲になる事で。

 平行世界を渡り歩ける力を持つディケイド。それを残し、後の悪の出現に備えてくれと想いを託しているのだ。そこに士はライダーらしさを見た。いつの時も、すべてはみんなの笑顔のために。今、彼を動かしているのはその信念だった。

 

「心配するなよ。俺だって死ぬつもりはないさ。たまには俺にかっこいいとこ譲ってくれ。な?」

「……絶対死ぬなよ。もし死んだら許さないからな」

 

 言い放つなり、ディケイドはその場から走り去る。その背中を見送り、クウガは小さく呟いた。

 

「死んだら許さない、か……。素直じゃないよな、相変わらず」

 

 だからこそ本音が分かり易いとも言える。クウガは一度だけ深呼吸をすると、顔を前へ向けた。そしてそのまま走り出す。グランザイラスの火炎を、怪光線を避ける事もせず、一心不乱に走る。走る。走る。走るっ!

 

「っ!」

 

 痛む体で空高く跳び上がり、尚も攻撃を続けるグランザイラスへクウガは上空で手を付き出した。その瞬間、グランザイラスが炎に包まれる。パイロキネシスと呼ばれる超能力。それをアルティメット及びライジングアルティメットとなったクウガは使用出来るのだ。その超高熱火炎にもがくグランザイラス目掛け、クウガは蹴りの体勢へ突っ込んでいく。

 

「おりゃあぁぁぁぁぁっ!」

「死ねっ! クウガァァァァァァッ!」

 

 最後の足掻きとばかりに放たれた鋭く尖った手による攻撃。それを打ち砕きながらクウガのライダーキックが炸裂する。そして、そこから注ぎ込まれた封印エネルギーと破壊力がグランザイラスの内部へ流れ込み、一瞬の静寂を作り出す。

 

(士、後は頼んだ……)

 

 ユウスケの心の声を合図にしたかのように、直後凄まじい轟音と共に大爆発を起こすグランザイラス。そしてその閃光がクウガの体を包み込んだ瞬間、アマダムが不思議な光を放った。それが、ユウスケの覚えている最後の光景だった……。

 

 

 

「平和だなぁ」

 

 そう噛み締めるように呟いて、白い服の青年は周囲を見回した。そこは公園であり、休日ともあって、大勢の人達がいた。遊具で遊ぶ子供達を優しく見つめる夫婦や、ベンチに腰掛け微笑みながら語らう老人達。そして、サッカーボールを夢中になって追い駆ける少年達など、平和そのものの光景が広がっている。それらは、ほんの数か月前までは見られなかったものであった。

 クライシス帝国。そう呼ばれる侵略者集団がこの地球を襲っていたからである。その侵攻に敢然と立ち向かったヒーローがいたが、その健闘も空しく、ある怪人の撃破と引き換えに首都東京は大きな被害を受け、つい最近になってようやく復興が完了したのだ。

 

「……これを二度と失わせちゃいけないんだ」

 

 青年は、旅の途中であった。その旅は、自然と人間の調和を目指す旅。分かり易く言えば環境保護の旅であった。彼は周囲の光景を心に刻み付け、その場から立ち去る。その進む先には一台のバイクがあった。それにかけてあったヘルメットを手に取り、青年は一度だけ空を見上げた。そこには澄み切った青空と白い雲、そして眩しい太陽があった。だが、その太陽に少しだけ雲がかかる。その翳りを見て、彼は無意識に呟いた。

 

「嫌な予感がする……」

 

 それは、彼がかつて察知してきたものに近い感覚。世界へ忍び寄る邪悪の魔の手。その息吹に、胎動に、青年の中へ駆け巡った感覚はよく似ていた。次の瞬間には、彼はヘルメットをかぶり、バイクへ跨ってアクセルを解き放っていた。その様はまさに疾風。街を駆け抜ける一陣の風である。何かに導かれるまま、青年はある場所まで向かった。そこは、彼にとって忘れる事の出来ない場所の一つ。一軒の空き家である。

 

「……どうしてここに」

 

 その家にかつて掛かっていた表札は佐原。青年が心身ともにボロボロになった後、身を寄せた家族の住んでいた家であった。今は無人であり、人が住んでいる息吹は失せている。家主夫妻は帰らぬ人となり、その子供達は知り合いの少女に引き取られてしまったためであった。

 

「おじさん……おばさん……。しげるくんにひとみちゃんも元気だろうか……?」

 

 口をついて出て来るのは、彼にとって忘れられない者達の名。そう、彼こそ世界を二度に渡って守り抜いた漆黒のヒーロー、仮面ライダーBLACK RXこと南光太郎である。

 彼はそのままかつての住まいを眺めていたが、ふとドアが開いている事に気付いた。既に無人となり、空き家になったとはいえ、ドアを施錠していないはずはない。どうして鍵が開いているのか。何者かが侵入しているかもしれない。そう考え、彼は小さく呟いた。

 

「……確かめてみるか」

 

 猫や犬かもしれないが、万一人間であれば問題だ。警察を呼ぶよりも、光太郎は自分が確かめる事を選んだ。何故なら、そこは彼にとって踏み荒らされたくない場所だったのだ。

 ドアを慎重に開け、静かに中へ入る光太郎。家具などがなくなった室内を見て、在りし日の思い出が甦り、悲しみが彼の心の中で渦巻いた。それでも、それを振り払うかのように視線を動かす。すると、キッチン近くにボロボロの姿となったユウスケが倒れていたのだ。

 

「っ! 君っ! しっかりしろ! 君っ!」

 

 慌てて駆け寄る光太郎だったが、その瞬間、脳裏へ懐かしい声が聞こえた。

 

”光太郎よ……”

「っ!? キングストーン!?」

”その者は、我に近しい物を持っている……”

「何っ!?」

 

 反射的に視線をユウスケへ向ける光太郎。そして、見てしまったのだ。その改造された視力によって、彼の腹部にあるベルトのような装飾品を。

 

「これは……」

”光太郎、気を付けよ。再びこの世に邪悪な影が忍び寄ろうとしている……”

「……邪悪な影。まさか、クライシスの言っていた事が現実になろうとしているのか……」

 

 かつての戦いの際、宿敵であったクライシス皇帝はRXへこう言い残した。

 

―――人間共が地球を汚せば、新たなる怪魔界が生まれ、地球を襲うだろう。全ては、お前達人間共の罪だ……。

 

 呪いのような遺言だが、これを受けたからこそ、光太郎は自然と人間の調和を求めて旅に出たのだ。だが、キングストーンの言葉を信じるのなら、その意味するところは新たな怪魔界の出現しかない。そう光太郎は考えた。そして、それに目の前の青年が関わっているだろう事も。

 

「まずは彼を別の場所へ運ぼう。話は目を覚ましてからでも遅くないはずだ」

 

 こうして光太郎はユウスケをライドロン達を隠している廃倉庫まで運ぶ。そこで彼は知る事になるのだ。未だ悪は潰えていない事を。優しき心に辛すぎる悲しみ。それを目覚めたユウスケから教えられる事になるとは、その時の彼は知る由もなかった……。

 

 

 

 倉庫内には何とも言えない重苦しい空気が流れていた。運び込まれたユウスケは、アマダムの力もあって驚異的な回復を見せたため、光太郎はそこで確信したのだ。彼もまた人ならざる存在へと変わってしまっている事を。それを告げ、更にアクロバッターやライドロンを見せられた事で、ユウスケも目の前の相手がかつて出会った存在と同一人物であると納得し、事情を説明した。そして、光太郎が沈黙したのは彼が最後に戦っていた相手である。

 

「……グランザイラス、再生させられていたのか」

「あの、一つ教えて欲しいんです。貴方は、光太郎さんはRXなんですよね?」

「ああ。でも、俺は君と出会った事はない。それに、どうして俺を見た瞬間驚いたんだい?」

「その、俺が出会った光太郎さんよりも若かったもんで……」

「……なら出会ったのは未来で、なんだろうか? では、やはり未来でクライシスが復活すると、そういう事か」

 

 すれ違いが起こっているが、残念ながらそれを正せる存在はここにはいない。ユウスケは目の前の存在がかつてBLACKでもあった事を知らず、過去のRXの世界へ来てしまったと思っているのだ。光太郎はクライシス皇帝の残した言葉を深読みしてしまっているため、彼の話を自分の世界の事と勘違いしていた。

 

(やはり人は、その欲望のままに自然を破壊してしまうのか……っ!)

 

 まだ一年にも満たない旅であるが、それでも光太郎は見てきたのだ。豊かな自然を切り崩し、多くの生命を踏みにじり、己の富と繁栄のみを考えて生きる人の業を。それを何とか止め、防ごうとしている彼ではあったが、怪人との戦いのように簡単にはいかないのが現状であった。

 そうして光太郎が人の愚かさと自身の無力さを噛み締めている中、ユウスケは肝心な事を彼へ教えた。

 

「それで、そいつを追い詰めた時に変な声が聞こえてきて」

「変な声?」

「はい。その、グランザイラスを倒すと内蔵された爆弾が爆発して大変な事になるって」

「……その声は老人のような感じじゃなかった?」

「あ、はい。そんな感じの声でした」

 

 ユウスケの肯定に光太郎は確信した。その声は倒したはずのクライシス皇帝だと。そこから彼らが追い駆けていた怪人軍団を率いていたのも、実はクライシス皇帝なのではないかと予想した彼は、更なる情報を求めてユウスケへ問いかけようとした。その時だ。大きな爆発音が彼らの耳に聞こえてきたのは。

 

「何だ?!」

「外からだ!」

 

 慌てて外へ出た二人が見たのは、倒したはずのグランザイラスだった。しかも、その体には戦いのダメージなど欠片として見当たらなかったのだ。

 

「出たなクライシスっ!」

「南光太郎? まさかまた貴様と会う事になるとはな」

「どうしてお前がここにいる!? あの時、たしかに俺はお前を」

「あの程度で死ぬ俺様ではない。あの爆発さえも俺様を完全に殺す事は出来んのだ」

「そんなはずはない! 現にお前は、あの時内部を俺に傷付けられ、内蔵された爆弾と共に爆発四散したじゃないかっ!」

 

 光太郎の脳裏に甦るグランザイラスの最期。体内へバイオライダーとなって侵入し、爆発の際に水の粒子となって脱出した彼は、その散り際をしっかり覚えていたのだ。

 

「だからこそ、その時の事を踏まえて強化改造されたのだ。今の俺様は不死身となった」

「「不死身っ!?」」

「疑うのなら試してみるか? 言っておくが、簡単にはやられはせんぞ」

 

 その言葉に変身しようとするユウスケだったが、光太郎はそれをせず生身のまま立ち向かっていった。その行動にユウスケは驚きを隠せない。そのまま光太郎はグランザイラスへ蹴りを放ち、格闘戦へ突入していく。その様を見て、ユウスケは息を呑んでいた。怪人と生身で戦える事。苦戦はしているが、圧倒的ではない。それが何を意味するのか。今のユウスケには理解出来なかった。

 

「変身せずに俺様に勝てると思うのか?」

「俺は人のままで足掻く! このままでは敵わないと分かった時、RXとなるっ! 最初からその力を頼りにはしないっ!」

「改造人間のくせに人とは笑わせるっ! 所詮貴様も人間共から見れば化物だ」

「っ!?」

 

 衝撃だった。ユウスケにとってグランザイラスが告げた内容は、それだけの意味を持っていた。改造人間。その言葉の意味をユウスケは正確には知らない。それでも、響きから何となく察したのだ。光太郎が普通の人間ではない事を。彼の変身とは、自分や士などと違い、何かアイテムなどを使ってするものではない事を。

 

「トゥア!」

「効かん」

「くっ……」

「死ね、南光太郎っ!」

 

 グランザイラスの火炎が光太郎を襲う。それを受けて大きく吹き飛ばされる光太郎にユウスケが思わず息を呑んだ。どう考えてもただでは済まないレベルのダメージだ。普通ならば死んでもおかしくない。それでも、光太郎は地面を何度も転がって、起き上がった。しかも、彼の体へ太陽の光が降り注いだ瞬間、その体の傷が瞬時に癒えたのだ。

 

「嘘だろ……?」

「この世に光ある限り、俺は必ず甦る! 何度でもっ!」

「おのれ、しぶとい奴め」

「変身っ!」

 

 右手を太陽へ突き出すように大きく掲げる光太郎が放つ、力ある言葉。そしてユウスケの目の前で彼は流れるような動きで両腕を動かしていく。それが止まった瞬間、彼の瞳に光が生まれ、火花が散り、その輝きが腹部のベルトを目覚めさせる。瞬きさえ出来ない程の速さで、眩い光を放って黒い勇者が現れた。

 

「俺は、太陽の子!」

 

 告げる。全ての邪悪なる者達へ、全ての行きとし生けるものを守る戦士として。自然と文明の使者として。

 

「仮面ライダー、BLACKっ! RXっ!」

 

 その名乗りにユウスケは震えた。初めて聞くものではない。あのRXの世界へ着いた時、最初に聞いている。だが、その時よりも迫力や力強さが違うのだ。それもそのはず。あのRXと違い、このRXはゴルゴムとクライシスという二つの組織との戦いを経験してきた歴戦の勇士なのだから。

 ユウスケが名乗りに身震いする中、RXはグランザイラスを睨み付けるかのように構えた。

 

「幾多もの世界を襲い、人々の暮らしを脅かすクライシス! 俺がいる限り、悪に生きる道はないと思い知れっ!」

「ほざけ! RX、今日が貴様の命日だ!」

「行くぞっ! トゥア!」

 

 空高く跳び上がるRXへグランザイラスの目から怪光線が放たれる。それがRXの腹部へ命中し、そのまま地面へと落下させた。追撃として腕の鋭い角を突き出すグランザイラスだったが、それをRXはその足元へ転がる事でかわし、すかさず腹部へ蹴りを放つ。それにグランザイラスがたじろいた瞬間に立ち上がり、その場で構える。

 

「……っ! 俺も協力しないと!」

 

 我に返ったユウスケは、表情を凛々しくして両手を腹部へかざした。目の前で繰り広げられる戦いの緊迫感と迫力に魅入っていたのである。

 

「変身っ!」

 

 クウガへと変わり、グランザイラスと戦うRXを援護するように彼は飛びかかった。

 

「おりゃ!」

「ふん、効かんぞ」

 

 だが、その顔への打撃はグランザイラスの強靭な皮膚に阻まれ効果を成さない。しかしグランザイラスの注意を少しでも引けただけでも意味はある。

 

「トゥア!」

「グヌッ!」

 

 RXがその隙を見逃すはずもなく、無防備な腹部へ強烈な蹴りを放ったのだ。堪らず呻くグランザイラスへ再度クウガが攻撃をしかける。その顎を蹴り上げたのだ。さすがにこれは効いたのか、グランザイラスが数歩その場から後ずさった。

 

「お、おのれぇ……」

「小野寺君、その姿は……」

「これが俺のもう一つの姿、仮面ライダークウガです」

「クウガ……。よし、行くぞクウガっ!」

「はいっ!」

 

 頷き合って構える二人。共に腹部で輝くのは真紅の輝石。影の月と対になる黒い太陽との名を与えられたRXと、白き闇と対の存在である黒き闇であるクウガ。共にその発祥は古代の超技術である。それを彼らは知らないが、どこか近しい雰囲気は感じ取っていた。ただ、それを表に出す事も余裕もなかったが。

 

「こい、ライダー共っ!」

 

 火炎が、光線が、恐ろしい威力を持った攻撃が二人を襲う。それをRXはロボライダーとなって耐え凌ぎ、クウガはドラゴンフォームとなって避けたかと思えば、バイオライダーが目にも止まらぬ速度で接近するや斬り付け、タイタンフォームの剛力が炸裂する。

 それでもグランザイラスは怯まない。受けた分以上のダメージを返すだけの性能を有していたのだ。バイオライダーへは全身を火球へ変えて応戦し、タイタンフォームへはその鋭い角のような手を以って鎧へヒビをいれた。まさしく最強怪人の名に相応しい力である。

 

「こ、このままじゃやられる……。まさか鎧に亀裂が入るなんて……」

「しっかりしろクウガ! 傷付く事を恐れたら、地球は悪の手に沈む! 俺達が最後の希望なんだ!」

「光太郎さん……」

「俺も、君も、仮面ライダーなんだ。例えどんな相手であっても、それが人々の暮らしを、未来を壊そうとするのなら、必ず立ち上がり立ち向かう。けして諦めちゃいけないんだっ!」

 

 クウガの肩へ手を置いてそう力強く告げると、RXは立ち上がりグランザイラスへ果敢に向かっていく。その背を見つめ、クウガは一度だけ自身の手を見つめた。

 

「けして諦めちゃいけない……」

 

 思い出すのはあのグランザイラスへとどめを刺した際の事。あの時、自分はどこかで諦めていたのではないか。だからちゃんと倒す事が出来なかったのではないか。それを教えてもらうために、自分はここへ来たのではないか。そう考えてクウガは小さく頷くと顔を上げて立ち上がった。

 

「いつでもみんなの笑顔のために戦う。それが、仮面ライダーなんだっ!」

 

 その視線の先では、グランザイラス相手に苦戦するRXの姿があった。それでも、彼は膝を屈する事なく抗い続けている。その様に勇気づけられ、敬意を込めてクウガは叫んだ。

 

「先輩っ! さっきの銃を貸してくださいっ!」

 

 クウガは考えた。グランザイラスは不死身と言ったが、その再生能力は常時発動するものではない。その証拠に、いまもバイオライダーが付けた傷は煙を上げている。そこから、不死身とは倒した際の再生能力を意味しているのではないかと結論付けたのだ。

 

「分かったっ!」

「ヌッ?」

 

 クウガの声に込められた強い気持ち。それを察してRXはグランザイラスの拘束から液体のようになって抜け出した。そしてそのままグランザイラスの背後へ回り込み、即座に実体化するやその体を機械へ変える。

 

「ロボパンチっ!」

「グオッ!」

「ボルティックシューター!」

「オオッ!?」

 

 両腕から放たれる強力なパンチにふらつき、追撃として放たれるハイブリッドエネルギーの弾丸がグランザイラスを襲う。そして、その連撃に怯んだ瞬間、ロボライダーは手にしたボルティックシューターをクウガへ投げ渡した。

 

「クウガっ!」

「っと、ありがとうございます! 超変身っ!」

 

 ペガサスフォームへ超変身したクウガの手により、ボルティックシューターがペガサスボウガンへ姿を変える。それを見たロボライダーはクウガの考えを瞬時に理解し、グランザイラスを背後から羽交い絞めにした。

 

「クウガ、今だ!」

「……いけっ!」

「ガァァァァァッ! お、俺様の目が……」

 

 ブラストペガサスがグランザイラスの右目を直撃。それにより、グランザイラスの口から始めて痛みに呻く声が上がる。ここだ。そう判断したクウガは手にしたペガサスボウガンをロボライダーへと投げ返し、姿をマイティフォームへと戻す。ロボライダーはグランザイラスから距離を取るように転がりながら、投げ返されたペガサスボウガンを受け取ると、そのまま痛みに呻くグランサイラスの左目を狙って構えた。

 

「ハードショットっ!」

「ギャアァァァァァッ!」

「やった! これであいつの両目を塞いだ!」

 

 収束された高密度のハイブリッドエネルギーを撃ち出すロボライダーの必殺技が炸裂し、グランザイラスが遂に膝をついた。ロボライダーはそこで姿をRXへ戻す。そしてとどめを刺そうと光子剣リボルケインを取り出そうとした、まさにその時であった。

 

―――RX、本当に良いのか? グランザイラスの爆弾は再度内蔵されておる。折角復興した街を瓦礫の山に変えたくはなかろう?

「っ! その声、やはりクライシス皇帝!」

―――そのような名で呼ばれた事もあったな。今の私はクライシス皇帝ではない。

「何っ!?」

「どこにいる! 姿を見せろ!」

―――はっはっは……。そうしてやりたいが、今の私は貴様達とは違う世界にいる。姿を見せてやる事は出来ん。

 

 その声は、クライシス皇帝であり、ゴルゴム以外の全ての組織を束ねてきたモノの声であった。古くはショッカーから始まる悪の組織。それら全てを立ち上げ、裏から操って来た存在。その名を、大首領。

 

「違う世界……では、やはり平行世界の支配を目論んでいるのか」

「っ! 先輩、グランザイラスが逃げます!」

 

 クウガが指さす方へRXが視線を向けると、グランザイラスの背後に灰色のオーロラが出現していた。そこへ両目を失ったグランザイラスが逃げ込むように下がっていく。

 

「あれは一体……」

「平行世界への扉みたいなものです! 俺達も追いましょう!」

「よしっ!」

 

 グランザイラスがオーロラへ入った後を追うように、クウガとRXもオーロラへ飛び込んだ。そして、その抜けた先は、不気味な空間が広がっていた。どこかの施設のようで、頭上には大小様々なパイプが通っていて、周囲は不気味な生物のような印象を受ける壁となっている。

 

「……ここは一体……」

「先輩、あれっ!」

「あれは……」

 

 二人の視線の先にあったのは、一枚の大きな扉。そこにはショッカーのエンブレムが刻まれていた。更に、そこからは何者も寄せ付けないような威圧感が放たれている。間違いなくグランザイラスはここにいる。そう確信し、二人のライダーは互いを見合うと静かに頷き合った。

 

「トゥア!」

「はっ!」

 

 力強く繰り出された二つの右足が重々しい扉を蹴破った。その中に広がっていた光景に、クウガは思わず絶句する。そこには、いくつものカプセルが存在し、中には明らかに改造途中の怪人達がいた。その一番奥を目指すようにグランザイラスがふらふらと歩いている。

 

「クウガ、行くぞ!」

「っ! はいっ!」

 

 少しだけ周囲の光景を眺めたRXは即座に優先順位を把握した。今はグランザイラスを倒す方が先であり、周囲の怪人については後回しで構わないと判断したのだ。急いで駆け出す二人。その視線の先では、グランザイラスが何も入っていないカプセルへもたれるように背を預けていた。

 

「だ、大首領、頼む。もう一度俺様を再生してくれ。今度こそクウガをRX諸共殺してみせる」

『ダメだ。お前は既に一度失敗し、今回二度目の失敗をした。最強怪人との自負があるのなら、その状態でも奴らを血祭りにあげてみせよ』

 

 突き放す言葉。それにグランザイラスも覚悟を決めたのか、迫りくる二人に対して身構えた。それに応じるように、二人もその場で足を止め身構える。

 

「クウガ、ここで奴を倒してしまうぞ」

「えっ……?」

「ここなら犠牲者は出ない。それに、奴らの野望を打ち砕く事にもなる」

「野望……。この怪人達ですね」

「ああ、ここを野放しには出来ない。グランザイラスの爆発と共に破壊するんだ!」

「……はいっ!」

 

 RXの考えと気持ちを理解し、クウガは意を決して頷いた。それは、あのディケイドへ後を託した時とは違う気持ち。何があっても絶対に生きる事を諦めない決意だ。RXも同じ想いのはず。そう信じてクウガはその場から跳んだ。RXもそれに続くように動き出す。

 グランザイラスの視覚は封じたが、まだ聴覚は残っている。故にクウガの動きとは逆に、RXは音を大きく立てるよう、走る事を選んだのだ。

 

「そこだ!」

「ぐあっ!」

 

 聴覚を頼りに放つ火炎放射がRXを直撃する。しかし、それを喜ぶ間もなくグランザイラスの後頭部へクウガの飛び蹴りが決まった。だが、その蹴り足をグランザイラスの手がしっかりと掴んでいたのだ。

 

「なっ!?」

「図に乗るなぁ!」

 

 至近距離で浴びせられる超高熱火炎。その威力にクウガの体が燃え上がる。このままでは変身も解けて死んでしまう。そう思った瞬間、クウガはあの姿への超変身を決意する。

 

「超変身っ!」

 

 全身の炎を弾き飛ばし、ライジングアルティメットとなったクウガは、お返しとばかりにグランザイラスを炎で包んだ。その光景を見つめ、RXは息を呑んでいた。クウガの姿がどこかかつての自分を思い起こさせたからである。黒い体に赤い輝石を中央に配したベルト。それは、まさしく暗黒結社ゴルゴムの世紀王と呼ばれた頃の彼に似ていたのだ。

 

(まさか、クウガの本来の色は黒なのか? ……っ!? では、さっきの三色は俺に起きた変化と同じ!?)

 

 ボルティックシューターをペガサスボウガンへ変えた事。頑丈そうな鎧を身に纏った姿と水を想像させるような青い姿。それをRXはロボライダーやバイオライダーの変化と考えたのだ。キングストーンが告げた言葉もそれに拍車をかけた。クウガの腹部にある輝石はキングストーンと似ているとの、あの言葉を。

 

「おおりゃっ!」

「ガアァァッ!」

 

 RXの目の前で展開されるクウガとグランザイラスの激しい格闘戦。互いの拳を受けながら、一歩も引かないクウガとグランザイラスだったが、僅かに押されているのは以前と違いクウガの方だった。理由は一つ。手負いの獣は恐ろしいという事だ。死に物狂いで襲い掛かるグランザイラスは、かつての頃よりも鬼気迫るものがあった。あの頃は余裕を失う事もほとんどなく、唯一狼狽えたのはバイオライダーの体内への侵入を許した時ぐらいだ。

 RXさえクウガを圧倒しようとするグランザイラスに恐怖を抱いた。だが、それでも彼は痛む体で立ち上がる。今まで彼は後輩だった。十人の先輩を知り、その頼もしさに助けられる側であった。しかし、今や彼は先輩となったのだ。他ならぬクウガにそう呼ばれた事で。

 

「ぐっ……」

「捕まえたぞクウガ! このまま首をへし折ってくれる……ッ!」

「っ! トゥア!」

 

 首を捕まえ身動きの取れなくなったクウガを絞殺しようとするグランザイラス。それを見てRXは躊躇う事なく跳び上がった。痛みさえ忘れ、ただ目の前の後輩を助けようと後ろ宙返りからの両脚蹴りを放つ。

 

「RX! キックっ!」

「何!?」

 

 クウガを締め上げている手を見事に蹴り飛ばし、グランザイラスがよろめいた。着地したRXは咳き込むクウガへ駆け寄ると、その視覚機能を使いダメージを調べ上げた。

 

「……どうやら大丈夫のようだな」

「ごほっ……助かりました」

「俺の方こそ助かった。立てるか?」

「はい、何とか」

「よし。なら、今度こそ終わらせるぞ!」

「はいっ!」

 

 傷だらけの体で凛々しく構える二人の仮面ライダー。すると、そこへ灰色のオーロラが出現する。だが、何も出てこない。警戒する二人へ、再び大首領の声が響いたのはそんな時だった。

 

『聞けクウガよ。その先ではお前の仲間達が戦っている』

「何だって?」

『グランザイラス程ではないが、大怪人が三体と言えばRXにはその意味と恐ろしさが分かるだろう』

「っ!? ゴルゴムの三神官かっ!」

「先輩、それって」

「クウガ、ここは俺に任せて君は仲間の元へ行け! ダロムは超能力、バラオムは怪力、ビシュムは飛行能力を有している強力な怪人だ。三体同時に襲われれば無事では済まない」

「でもっ!」

「心配するな。さっきも言ったはずだ。この世に光ある限り、俺は必ず甦ると」

 

 その言い聞かせるような声にクウガは何も言えなくなってしまった。伝わったのだ。自分がディケイドへやった事と同じだと。違いがあるとすれば、RXはクウガと違い、本当に光ある限り立ち上がる事だろう。故にクウガは決断した。あの時の自分が望んだように、RXの望む道を行く事を。

 

「先輩、また……また必ず会いましょう! 未来で!」

「ああ、必ずだ!」

 

 サムズアップ。それをRXへ贈り、クウガはオーロラへと駆けだした。その背を見送る事なく、RXはグランザイラスへ向き直る。

 

「クウガ、君の未来へ繋がるように、今日を俺が守ってみせる!」

 

 そして彼は右手を前へ出して叫ぶ。

 

「リボルケインっ!」

 

 ベルトであるサンライザーの左側から出現するRX最強にして最大の武器。その柄を左手で握り、素早く引き抜きながら右手へと持ち換える。未だふらつくグランザイラスを見つめ、RXはその場でしゃがみ、地面を右手で叩くと空高く跳び上がった。

 そのまま手にしたリボルケインをグランザイラスの腹部へ突き刺すRX。だが、グランザイラスもただでは終わらない。RXの突き刺したリボルケインを引き抜こうとしたのだ。

 

「こ、こんなものでぇぇぇぇ!!」

「っ! トゥアっ!」

「ガハッ!」

 

 両手で押し込んでいたリボルケインから、一瞬だけ左手を放して拳を握り突き出されるRXパンチ。その威力にグランザイラスの顔が大きく揺れる。そして、ダメ押しとばかりに力強く押し込まれるリボルケイン。そのエネルギーがグランザイラスの内部へ注ぎこまれる。初戦では突き刺される前に止めたグランザイラスだったが、それは裏を返せば突き刺された場合は負けるという恐怖心の表れでもあったのだろう。

 

「あ、RX……これで勝ったと思うな。俺様が倒れても、いつの日か必ず新しい怪人が現れ、お前や人間共を襲うだろう」

「例えそうだとしても、闇あるところに光はある。人々の心に光ある限り、俺は、俺達は必ず現れる。正義の系譜に終わりはないっ!」

 

 言葉と共にグランザイラスからリボルケインを引き抜くRX。そのまま彼は全身で自身の名を描くように動いて行く。その背後では、全身から火花を吹き出しながらグランザイラスがゆっくりとRXへと歩みを進めていた。だが、それもRXがその動きを止めた瞬間、それを合図にしたかのように止まり、同時に大爆発を起こした。その爆発は全てを巻き込みながら広がる。その炎に包まれながら、RXはクウガへ願った。

 

―――クウガ、必ずまた会おう。

 

 そのクウガはオーロラを抜けた先で思わぬ苦戦を受けていた。ゴルゴムの三大怪人は、ディケイド達がそれぞれ一体ずつ相手する事で何とか五分の戦いを繰り広げていたのだが、クウガが合流すると同時に新しい怪人が姿を見せたのだ。それは、おぞましい体をしたライダーのような怪人。ここに一号やV3、RXかアギトがいればその正体を理解出来ただろう。そう、それは邪眼と呼ばれた存在だったのだ。

 

「こいつ、意思がないのか?」

 

 現れてから一度として声を発しない邪眼に、クウガは戸惑いを隠せない。何故なら、その割には殺意だけは感じるからだ。こちらに対する明確な殺意。それをはっきりと感じさせる割に、邪眼本体からは何の意思らしきものを感じないという矛盾。それがクウガを惑わせていた。

 

「っ! それでも!」

 

 邪眼の拳へ自分の拳をぶつけるクウガ。ライジングアルティメットでさえ互角がやっと。それが邪眼第二形態の恐ろしさであった。ただ、それもクウガが万全の状態であれば別だろう。今の彼はグランザイラスとの連戦のダメージと疲労を負っていたのだから。

 

「お前なんかに負けるかぁぁぁぁっ!」

 

 クウガの右足と邪眼の右足が交差する。が、突然その力が増してクウガを蹴り飛ばした。大きな音を立て地面へ叩きつけられるクウガ。その瞬間、邪眼が初めて口を開いた。

 

「やっと馴染んだか。少々骨の折れる体だった」

「っ! その声、あの時の!」

「クウガ、貴様とRXのおかげで我が得るはずだった体が失われてしまった。まぁ、次元の狭間を彷徨っていたこいつを見つけて事なきを得たが……」

「次元の狭間……」

「RXもあの爆発では生きていまい。後は貴様だけだ」

「そんなはずはない! あの人は、RXは絶対に生きてる!」

 

 クウガへ向かって悠然と歩き出す邪眼、いや大首領。その威圧感に怯みそうな自分を奮起させ、クウガは拳を握って走り出した。そしてその勢いを乗せたままパンチを繰り出す。その拳を大首領は造作もなく受け流し、お返しとばかりに裏拳を叩き込んだ。

 

「がっ!」

「どうした? まだ始まったばかりだぞ?」

「くっ、このぉ!」

 

 ならばとばかりにクウガが蹴り上げた足も、紙一重の見切りで避けられ、逆に反撃のハイキックを喰らってしまう。邪眼の体を完全に乗っ取り、大首領はクウガを翻弄していた。例え万全であったとしても、苦戦は免れないだろう存在として。

 

「こうなったら……これで!」

「ぬっ……」

 

 大首領を包む高熱の炎。それに動じる事なく、大首領はそのままクウガへと襲い掛かった。これに驚いたのはクウガである。怯む事も苦しむ事さえなく、大首領は燃え盛る炎を纏うように攻撃を繰り出してきたのだ。

 

「な、何て奴だ!」

「面白い力だが、その程度では我は倒せん。もっと我を愉しませてみろ」

「楽しむ? お前は戦いを楽しんでいるのかっ!」

「何がおかしい? 貴様ら人間もよくやるだろう。自分達よりも力のない存在を弄び、蹂躙する。太古の頃より続いてきた人間の業ではないか」

「今はそうじゃない人達だっている! 自然を大切にし、平和を愛する人達が」

「本当にそれを貫ける者がどれだけいる? 自らが危険になった時も、命を奪われる時になっても、それを貫ける者が半分もいればよいが……どうだ?」

 

 クウガの叫びを遮り、大首領が告げた言葉。その意味にクウガは反論出来なかった。彼も知っている。人はそこまで強くないと。中にはいるだろう。だが、全体の半分を超えるかと聞かれれば、首を縦には振れないのが現実だった。

 

(いざとなったら屈してしまう。そんな人ばかりじゃないのは分かってる。だけど……だけど……)

 

 ユウスケも士達と様々な世界を見てきた。そこで人の醜い面や弱い面を見ている。更に悲しい事に、そういう人間の方が多い事も知っているのだ。世界は綺麗事では回らない。そう、嫌と言う程、彼も知っていた。

 

「我はそれこそ貴様ら人間が古代と呼ぶ頃から知っている。だからこそ断言出来るぞ。人間は何も変わっていない。いや、むしろ悪化している。自然を壊し、動物を弄び、植物を踏みにじる。我が初めてこの星に降り立った時はそうではなかったからな」

 

 クウガの握っていた拳からゆっくりと力が抜けていく。古代文明は自然と共にあった。それを彼もおぼろげではあるが知っていた。故に大首領の言葉に納得してしまったのだ。人類は時代を重ねるにつれ、その性質を悪化させているのだと。

 

「クウガ、そんな人間を守ってどうする? あやつらは貴様の事も平和とやらが来れば、その恩も活躍も忘れ恐怖し遠ざけるだろう。更には、貴様の大切な者達さえ同じ目に遭わせるやもしれん」

「それは……」

「貴様と似た存在である仮面ライダー達は、それを知っていたから正体を隠して姿を消すのだ。貴様も同じ事をするのか? 自分勝手に他の生命を食い潰し、荒らし回る者達を命懸けで守り、全てが終われば傷付いた体のままどこへとも分からぬ旅へ出る。それが貴様の望みか? 夢とやらか?」

 

 クウガの、ユウスケの心を突き刺す言葉の刃。赤かったはずのクウガの目が、ゆっくりと黒ずんでいく。それに気付いたディケイドが叫んだ。

 

「ユウスケっ! ダメだ! そいつの言葉に耳を貸すんじゃないっ! お前がお前じゃなくなるぞ!」

「よそ見をしている場合か? シャオォォォォッ!」

「しまった!」

 

 ダロムの超能力がディケイドを大きく吹き飛ばす。他にもバラオムの怪力にディエンドが、ビシュムの竜巻攻撃にキバーラがそれぞれ苦しめられていた。最早クウガへ声を届けられる存在はいない―――はずだった。

 

『クウガ……聞こえるかクウガ』

「っ!? RX!?」

「む?」

『聞こえるかクウガ。聞こえるなら、意識を腹部の石に集中するんだ』

「意識を……アマダムに……」

 

 聞こえてきた声に導かれ、クウガは意識をアマダムへと集中する。その瞬間、はっきりとRXの声が聞こえてきたのだ。

 

『クウガ、こちらは無事だ。奴らのアジトも爆発と共に消滅した』

(そうですか。こっちはあの声の存在が不気味な体を持って現れました)

『不気味な体?』

(はい、その……おどろおどろしい感じでライダーみたいな見た目の、ああ顔に一つ目がついてます)

『っ!? まさか、そいつは紫色の電撃を放ってこないか?』

(はい! 知ってるんですか?)

『そいつは邪眼だ! まさかあの攻撃でも倒し切れていなかったのか……』

(何でも次元の狭間ってとこにいたみたいです。それをあの声が乗っ取ったみたいで)

『そうか。聞いてくれクウガ。おそらく、あの声は俺の先輩ライダー達によると歴代組織の首領だそうだ』

(歴代組織の……)

『ああ。1号からZXと言った俺の先輩ライダー十人を苦しめてきた存在。それが今君達が戦っている相手の正体だ』

 

 あの爆発をバイオライダーとなって切り抜けたRXは、声の言っていた内容を思い出し、念のためと十人ライダーへ通信を使って尋ねてみたのだ。そこで1号からストロンガーまでが告げた岩石大首領の正体と、バダンが復活させようとしていた大首領が同一である事を知り、RXはクウガへの繋ぎを付けようとした。

 だが、改造人間ではないクウガでは彼らと同様の通信は不可能。しかも世界の壁もある。打つ手なし。そう思った時、RXは一つの可能性に賭けたのだ。それはキングストーンとアマダム。二つの輝石の共鳴にも似た通信だ。これが何とか成功した。その理由としては、クウガのアマダムとRXのキングストーンである太陽の石が惹かれ合ったためだ。あのグランザイラスの爆発の際、ユウスケを光太郎所縁の場所へ飛ばしたように。

 

(先輩、俺、自信がないんです。あいつは、太古の昔から人間を見てきた。そんな奴から見ても、今の人類は悪化しているって、そう言われたんです。俺は、それに返す言葉がなかった……)

『クウガ……』

(俺だって、人間みんながそんな人じゃないって知ってます。でも、でも……そういう人達の方が多いって事も知ってるんです)

『……だからと言って、お前は見殺しに出来るのか?』

(え……?)

『悪人だから、酷い人だから。そんな理由でお前は助けを求める人を、失われようとする命を、見捨てる事が出来るのか!』

(っ?!)

 

 その問いかけは、まさしくヒーローが必ず直面するものだった。かつて南光太郎も、形こそ違え、己の良心と向き合う問いかけを迫られた事がある。だからこそ分かるのだ。時には、己の心を押し殺し、大勢の者達の笑顔のために涙を流す必要もある事を。それは、己が手で兄弟のように思っていた親友を殺してしまった彼だからこそ言えるものであった。

 

『小野寺さん、君の気持ちは分かる。だけど、忘れちゃいけないんだ。俺達が情に流され、ライダーではなく人に戻ってしまえば、流れる血や失われる命がある事を……』

(光太郎さん……)

『俺から言える事はそれだけです。後は頼んだぞ、仮面ライダークウガ!』

 

 最後の呼びかけ。その意味と重さを噛み締め、クウガはゆっくりと拳を握り締める。その瞳は再び太陽のような真紅へと戻っていた。

 

「俺、分かったよ。簡単な事だったんだ」

「何?」

 

 クウガはしっかりと大首領へと向き直り、その輝く眼差しで見つめた。

 

「例え全人類がお前の言う通りだとしても、それでも俺は戦う。守り続ける! いつか、きっといつか、みんなが自然や平和を愛する気持ちを強く持ってくれると信じてっ!」

「そんな事が有り得ないとしてもか?」

「ああ! 例え明日が変わらないとしても、今日を守らないとその明日さえなくなる。だから、今日を守って明日を掴む!」

 

 大首領相手に雄々しく構えを取り、クウガは心の底から叫んだ。

 

―――それが、仮面ライダーだっ!

―――ほう……吼えるか、人間よ。

 

 その言葉の力に大首領が息を漏らした。そして、同時に気付いたのだ。

 

(我が……半歩とはいえ退いた……?)

 

 それは彼にとって愉しい事であった。恐怖。その感情を感じさせてくれる相手を、大首領はどこかで求め続けていたのだから。かつてZX相手に抱いた感情。それを再び甦らせたのはRX。そしてクウガであった。

 

「面白い……面白いぞクウガよ。貴様の在り方、認めよう。たしかに貴様は仮面ライダーだ。故に、この手で砕く愉しみが出来た」

「砕かれてたまるかっ! みんなの笑顔のために戦うって、そう俺は姐さんと約束したんだ!」

 

 放たれた電撃をものともせず、クウガは大首領向かって走る。その速度が先程よりも増している事に気付き、一瞬ではあるが大首領の対応が遅れた。結果、クウガの速度を乗せた拳が深々と大首領の体へ突き刺さる。

 

「クフッ……」

「うおりゃっ!」

「ガッ……」

 

 連打を浴びせるクウガに大首領がダメージを負った声を漏らす。それを聞いてか聞かずか、クウガは一心不乱に攻撃を浴びせていく。拳が止められたなら脚を、それも止めるのなら頭を使って。少しでも大首領へダメージを与えようともがき足掻く。その泥臭い戦いは、大首領にとって否応なくある戦いを思い出させるものだった。そう、ZXとの初戦闘である。

 

「いいぞ、クウガ。だがまだ足りぬ。もっと、もっとだ。もっと我を愉しませろ」

「っ! ふざけるなぁぁぁぁぁっ!」

 

 クウガ渾身の一撃が大首領の顔を捉えて揺らした。その衝撃で大首領が大きく吹き飛ばされて地面へと激突する。朦々と立ち上る砂煙。それを睨み付けるようにしてクウガは吼えた。

 

「こんな事の何が楽しいんだ!? 殴って殴られて、傷付けて傷付けられて、こんな事するために俺達は生きてるんじゃないっ!」

 

 その魂の叫びにビシュムと戦っていたキバーラが思わず視線を向ける。

 

「ユウスケ……」

「まったく、彼らしいね」

「ああ。だが、だからこそユウスケだ!」

 

 彼女を強襲しようとしていたビシュムを銃撃が襲い、それに怯んだところを剣閃が煌めいた。キバーラの周囲にはディエンドとディケイドが集まっていた。彼らも感じ取ったのだ。状況が好転しつつあると。故に分散するのではなく合流して対峙するべき。そう考えたため、一番この中で戦い慣れていないキバーラの傍へと近寄ったのだった。

 

「いよいよ観念したか」

「これで終わりだな、ライダー共」

「先程のお返しはさせてもらいます」

「上等だ! ならこっちも本気で行くぞ! 海東! 夏海!」

「やれやれ、でも、僕もやられっぱなしは癪だからねっ!」

「ユウスケに負けていられませんっ!」

 

 刃を片手に走り出すディケイドとキバーラ。それを援護するべく、ディエンドライバーでの射撃を行うディエンド。それに対しダロムが触手から光線を放ち、バラオムが口から火球を吐き出す。ビシュムは上空へと飛び上がり、竜巻を起こそうとしていた。

 

「海東、ケバい蝙蝠は任せた!」

「仕方ないね。引き受けよう」

「夏海、お前はセイウチだ!」

「分かった!」

「俺はあの虫野郎を倒すっ!」

 

 反撃の口火を切るディケイドの斬撃。それがダロムを襲うも、その前に放たれたサイコキネシスにより、ディケイドの体が後ろへと戻される。だが、それさえもディケイドの計算の内だった。すかさずライドブッカーをガンモードへ変えたのだ。

 

「これでも喰らえっ!」

”ATTACK RIDE BLAST”

「ヌオッ! こ、小癪な真似を……」

「何度も同じ手にやられてたまるか!」

 

 そう言い返すやディケイドは一枚のカードを取り出してディケイドライバーへ挿入する。

 

”ATTACK RIDE SLASH”

「その触角を叩き斬ってやるっ!」

「やれるものならやってみろ! カァッ!」

 

 触覚から放たれる光線を跳んでかわし、空中で刃を振り下ろすディケイド。そこから発生した衝撃波が宣言通りにダロムの触覚を切断した。

 

「な、何と……」

「お前の手札は大体分かったからな。カードの使い方なら俺の方が得意だ!」

”FINAL ATTACK RIDE DEDEDECADE”

 

 ディケイドの目の前に等身大のカードらしき影が出現しダロムの前まで並ぶ。それが何を意味するのか、ダロムは知らぬでも警戒した。だが、それが無意味であるとは知る由もなかった。逃げるべきだったのだ。例え無駄だとしても、その技を使われたのなら。

 

「はっ!」

「押し返してくれるっ! シャオォォォォォッ!」

 

 全力のサイコキネシス。だが、それさえもディメンジョンキックを放つディケイドを押し返す事は出来ない。両手を伸ばして力を放つダロムを、ディケイドの蹴りが直撃したのは言うまでもない。

 

「こ、こんな事がぁぁぁぁぁっ!」

 

 断末魔の叫びを残し、ダロムは白い煙を残して消える。同じようにバラオムとビシュムも、キバーラとディエンドによって倒されていた。三人の視線はあるライダーへと注がれていた。

 

 真っ赤な目に黒い体。ライジングアルティメットフォームのクウガは、大首領の謎の余裕を気にもせず、ただただ戦っていた。今日を生きる人たちのため、明日生まれ来る生命のため、そしてみんなの笑顔のためにと。

 

「あああああっ!」

「ガッ! クフゥ、今のは効いたぞ。これは礼だ」

「ぐふっ! っ! まだまだぁぁぁぁっ!」」

 

 互いに足を止め、拳を、蹴りを、攻撃を打ち合うのみ。苦しみながら、悲しみながら、必死に攻撃するクウガ。それに対し、愉しみながら、嗤いながら、余裕で攻撃する大首領。相反する両者の戦いは、既に技も何もない。ただの殴り合いでしかなくなっていた。

 凄絶な光景にディケイド達は思わず息を呑む。クウガからは血さえ流れ始めているのだ。対する大首領も緑色の血液を流しながら攻撃を繰り出している。状況は五分。だが、僅かにクウガが不利と三人は見ていた。かといって割って入る事は難しいとも彼らは理解している。ライジングアルティメットは激情態と呼ばれる状態となったディケイドでようやく五分なのだ。コンプリートフォームでは、今のライジングアルティメットを僅かに押す事の出来る大首領は相手に出来ない。そして、それはディエンドとキバーラも同じ事が言えた。

 

「士君、どうするんですか!? このままじゃユウスケが……」

「彼は死ぬかもしれないね」

「っ! 士君っ!」

「あいつは、絶対死なない」

「「は?」」

「あの爆発の中心部にいても、こうして帰ってきたんだ。なら、俺はあいつを信じる。あいつを信じて、もしもに備えるだけだ」

 

 そう言ってディケイドはケータッチを手にした。それを見てディエンドも、仕方なく自身のケータッチを手にしてため息を吐いた。もしもとは、クウガが危なくなった時。その時は例えどうなろうと割って入る。そのディケイドの考えを察したのだ。それに付き合おうとする辺り、ディエンドも根は悪人ではないのだろう。キバーラはそんな彼らに小さく笑みを零して視線をクウガへ戻す。

 

「ユウスケ……頑張ってください」

 

 キバーラの視線の先では、大首領との殴り合いで上体を揺らしながらも、懸命に耐え凌ぎながら拳を突き出すクウガの姿があった。

 

「ぐっ……」

(不味い……意識が朦朧とし始めた。血、流れてるからなぁ……)

 

 一瞬視界がぼやけたのを自覚し、クウガはどこか他人事のようにそんな事を考えていた。どれだけ殴り合ったのかさえ分からない程、拳を、蹴りを繰り出した。と、そこでユウスケはふと思い出す事があった。何のために自分は戦っているのかだ。自分はみんなの笑顔のために戦っていたはずだ。しかし、気付けばそれを忘れ、ただ目の前の相手を倒す事だけを考えていた。その事に思い至り、クウガは全身から力を抜いた。

 

「……気に入らんな」

 

 クウガの様子が変わった事に気付き、大首領は不機嫌そうな声を放つ。いや、実際不機嫌なのだろう。声には明らかな苛立ちが含まれていた。

 

「何故殺意を消す? 何故闘争心を鎮める? まだ戦いは終わっていないというのに」

「思い出したんだ。俺は、俺は怪人じゃない。仮面ライダーなんだ。殺し合いに応じるんじゃなく、相手を倒す事にこだわるんでもない。俺は、俺達は守るために戦うんだ」

「寝惚けた事を。同じ事ではないか」

「違う。守るために怪人を倒す事と、相手を殺そうとして怪人を倒す事は似てるようで違う」

「……興醒めだクウガ。お前は我を愉しませてくれると思ったのだが、どうやら見当違いだったようだ」

 

 その言葉にクウガがした事は、姿をマイティへ戻す事だった。それに大首領は無言で手を動かし電撃を放つ。その紫の電撃がクウガを襲うが、その攻撃を見て彼はあろう事か自分からそれに当たりに行ったのだ。

 

「「「っ!?」」」

「気でも狂ったか。それとも、最早死にたくなったのか?」

 

 ディケイド達が息を呑む中、大首領は面白げもないように呟いた。電撃に身を焼かれるクウガ。だが、そこで大首領は気付いた。電撃が少しずつ弱くなっている事に。そして、それが彼の中にある記憶を呼び起こす。同じように電撃を浴びながら、その前よりも強さを増したZXを。

 

「……まさか」

 

 興味を戻してクウガを見つめる大首領。すると、その瞬間、クウガが電撃を弾き飛ばした。それどころか、クウガの体が変化を起こしていた。

 

「ほう、また新しい姿か。中々愉しませてくれるなクウガ」

「……これは俺の力じゃない。もう一人のクウガが、先輩が教えてくれた姿だ」

 

 ライジングマイティフォームとなったクウガは、ゆっくりと蹴り出す前の構えを取った。それを見ても、大首領は動こうとしない。様子見をしているのだ。何をクウガがしようとしているのか。それを見て見たいと、そう考えて。

 クウガはそれを知ってか知らずか、そのままその場から力強く地面を蹴って跳び上がった。そして回転もせず、大首領目掛けて蹴りを放つ。

 

「はぁっ!」

「ヌッ!」

 

 まるでアギトのライダーキックのように放たれた蹴りは、大首領を五メートル程後ろへ下がらせる。その胴体に、封印を意味する古代文字を刻み付けて。

 

「……成程。やはり我にとって、貴様は天敵かもしれんなクウガ」

 

 大首領の言葉にも反応せず、クウガは深呼吸をすると後方へ足早に下がる。そして再び先程と同じ構えを取った。その瞬間、クウガの体色が赤から黒へと変わり、左足にも装飾品が出現する。二つのマイティアンクレットと黒い体。そう、アメイジングマイティフォームと呼ばれる姿である。

 ユウスケは考えたのだ。ライジングアルティメットフォームは、仮面ライダーとしての在り方ではない。究極の闇となるかもしれないあれは、怪人と同じものだ。だから、使わないと決めて超変身を解いた。だが、通常では大首領に敵わない。そう思った時、思い出したのが五代の超変身であるライジングフォームだった。まるで電撃を体中へ走らせる変化の仕方を思い出し、ユウスケは賭けに出たのだ。大首領の電撃を利用するという、一か八かの賭けに。

 

(仮面ライダーのままで、あの力に近いものを。怪人にならず、ライダーとして最後まで戦わないと……)

 

 そこで思い出すのは、旅で出会った多くのライダー達の姿。誰もが人間として、人間であろうとして戦っていた。その想いを胸に、ユウスケは走り出す。真っ赤な目と黒一色の体。それがまるでRXのかつての姿のようだった。両足に熱を感じる事に気付き、クウガはある技を思い出す。両脚で怪人を蹴り飛ばす先輩の攻撃。それが今の自分なら出来るかもしれないと。そう思うのと地面を蹴って跳び上がるのは同時だった。

 

「今度は受けてやる訳にはいかんな」

 

 しかし、大首領はそんなクウガを迎撃するべく、両手に凄まじい程の電撃を収束させていた。それを受ければクウガといえどもひとたまりもない。けれど、その攻撃がクウガへ放たれる事はなかった。大首領目掛けて三つの攻撃が放たれたからである。

 

「ユウスケはやらせませんっ!」

「油断大敵、ってね!」

「俺達を忘れるとは間抜けな奴だっ!」

 

 キバアロー、ディメンジョンシュート、鬼神覚醒による同時攻撃。それを迎撃するために大首領がその攻撃を使ったからである。

 

「そうだったな。クウガは一人ではなかったか。貴様ら仮面ライダーは群れる事が多いのを失念していた」

「そうだ! ライダーだけじゃない! 人間だってそうだ! 弱いからこそ支え合い、助け合って生きていく! それを人はこう呼ぶんだ! 絆、となっ!」

「絆……?」

 

 ディケイドの告げた単語を訝しむように呟く大首領。そこへ聞こえてくる雄々しい雄叫びがあった。

 

「ライダァァァァァキィィィィィックっ!!」

 

 前転宙返りから捻りを加えて繰り出される両足でのライジングマイティキック。それがアメイジングマイティフォームの必殺技である。それがディケイド達の攻撃を受け止めていた大首領目掛けて放たれた。その攻撃に大首領は無意識の内に電撃を横薙ぎにしてクウガを迎撃する。それは、大首領の中に微かに生まれた恐怖がさせた行動であった。

 だが、その電撃はクウガの蹴り足に弾かれる。更に遮っていた電撃が無くなった事で、ディケイド達の攻撃も大首領へと殺到したのだ。前と横から大ダメージを与えられ、周囲を砂塵が舞う。

 

「やったか?」

「さすがにあれで倒せてないとは思いたくないね」

「大丈夫。今のユウスケならきっと……」

 

 ゆっくりと視界が晴れていく。するとそこには、全身から緑色の血液を流しながらも立っている大首領の姿があった。その足元には、傷だらけのユウスケが倒れている。それを認識し、ディケイド達は思わず息を呑んだ。

 

「今のは驚いた。ああ、初めての感覚だった。褒めてやろう、ディケイド、ディエンド、キバーラ、そしてクウガ。貴様らは我によく抗い、非常に愉しませてくれた。褒美だ。すぐにクウガの後を追わせてやろう」

「……来るよ、士」

「ああ、みたいだなっ!」

「ユウスケの分まで戦いましょう!」

 

 悠然と腕を動かす大首領に対して身構えるディケイド達。と、その時である。

 

―――酷いな、夏海ちゃん……。まだ生きてるから……。

 

 聞こえてきた声に全員の視線が動く。そこには、ゆっくりと体を起こそうとするユウスケの姿があった。額や腕から血を流しながら、ふらふらと立ち上がるユウスケ。その姿に誰も何も言葉を発さない。聞こえるのだ。まだ終わっていないという、ユウスケの心の声が。最後まで自分にやらせてくれという、その願いが。

 

「まだ戦うか。その在り様、あの仮面ライダー共と同じだ。息の根を止めるまで、お前も抗い続けるつもりか」

「悪いけど、息の根を止められるつもりはない。みんなの笑顔を守るって約束を果たすまでは」

「……戯言を」

「かもしれない。だからこそ、本物にしたいんだ」

 

 静かにだが、はっきりと言い切ってユウスケは両手を腹部へかざす。そこから素早く腕を動かし、左腕を腰に、右腕をナナメ前に突き出すようにしてから、ゆっくりと動かしていく。周囲に響く重低音。全ての音が、消えていた。聞こえるのは、アークルが発する鼓動のみ。

 

「変身っ!」

 

 瞬間、空間が爆ぜるように風が動いた。風を切るような音が鳴り響き、ユウスケの体を変えていく。それと同時に彼はその場から走り出していた。足が、腕が、体が、純白の色で染められるように変化していく。そのまま彼は跳び上がり、回転しながら大首領へと向かっていく。

 

「おりゃあぁぁぁぁぁっ!」

 

 叫びと共に顔が変わり、グローイングフォームとなったクウガは大首領へ蹴りを決めた。

 

「……情けない威力だ。その程度で我を倒せると思っているのか?」

「これだけじゃ、無理かもしれない。だけど……」

「だけど?」

「自分の腹をちゃんと見て見ろよ」

 

 クウガの言葉通り、大首領が視線を腹部へ向ける。するとそこには、三つの封印を意味する古代文字がくっきりと現れていた。

 

「何だと?」

「あの時、俺は確かにお前を蹴った。その時、しっかり叩き込んだんだ。邪悪な者を封印する文字を。鎮める。そういう意味の文字らしいぜ、それ。でも、どうやらその怪人はお前自身じゃないから届かなかったんだ。それを今の一撃で届かせた」

「我に? ……む」

 

 大首領が小さく声を発したかと思うと、何もないはずの空間にも封印を意味する古代文字が浮き上がる。それは、邪眼の頭上。

 

「先輩が、RXが教えてくれたよ。お前は倒す事の出来ない存在だって。だからこそ、封じ込めるぐらいしか手がないって事も」

「ま、まさか……これは……」

「どうして俺を散々お前達が狙ってきたかようやく分かった。士と、ディケイドと一緒にいる俺が万が一にもあんたと出会って、あの黒い四本角にならず戦ったら。それを危惧してたんだ」

「馬鹿な……この我が……人間に、仮面ライダーにまた敗れると言うのか? あの牢獄と似たような状態に、我を閉じ込めると、そんな事が……」

 

 おぼろげに空中に出現する金色の仮面ライダーらしき幻影。それが苦しんでいるかのように動き、ディケイド達は言葉がない。悪の組織の大首領が仮面ライダーそっくりだったのだから。だが、そんな状況下で一人クウガだけは異なる動きを見せていた。

 大首領から距離を取り、もう一度両手を腹部へかざしていたのだ。それは、再度の変身。今の彼は、身体の疲れからグローイングフォームとなっている。しかし、彼は知っている。アマダムは人の意思に応じて力を与える事を。だからこそ、彼は、小野寺ユウスケは心から願う。

 

「これで変身出来なくなっても構わない。だから、だから……もう一撃だけでいい! あの力を使わせてくれっ!」

 

 その声にアマダムが応えるように光を放つ。その輝きに小さく頷き、クウガは叫んだ。

 

「超変身っ!」

 

 ライジングアルティメットフォームの体となったクウガであったが、その顔だけは従来のままだった。ユウスケのライダーとして、人間として在りたいとの気持ちが起こした奇跡であった。

 その場から走り出すクウガ。その右足が今までにない熱を持つ。それは、邪悪を許さぬ熱さ。暗黒を焼き尽くす炎。それを右足に宿し、クウガは力強く大地を蹴り、空へと跳んだ。

 

「これで最後だっ! 大首領っ!」

 

 眼下に見える大首領の幻影にそう叫び、クウガはライダーキックの体勢へ移行する。

 

「認めぬ……こんな事は認めぬ……」

「ライダーキックっ!」

 

 幻影へ叩き込まれる膨大な封印エネルギー。それが幻影から邪眼へも流れ込んで崩壊を導く。そして、邪眼の爆発と共に幻影も消滅し、全ては終わりを告げたのだった……。

 

 

 

 それから数か月後、一軒の小さな屋台で働くユウスケの姿があった。あの戦いの後、本当に力を失ったようにアマダムが輝きを無くし、クウガへ変身出来なくなった彼は士達に別れを告げ、自身の元々居た世界へ帰ってきていたのだ。

 

「……よし、こんなもんかな」

 

 その屋台は、彼が経営する移動型店舗。メインはあの翔一から勝手に教わった料理だ。それと、客寄せには五代直伝のジャグリング。その甲斐もあってか、大繁盛には程遠いが、赤字を出さずにするぐらいには客足を得ていた。

 スープの味を確認しユウスケが頷いていると、その背後に人の気配が生まれた。

 

「もうやってるかな?」

 

 まだ開店時間には少しだけ早いが、折角の来客を逃す手はない。そう判断し、ユウスケは笑顔を浮かべて振り返った。

 

「はい、やって……」

 

 だが、その笑顔が振り返った瞬間驚きに変わる。そこには、彼にとって忘れられない人物が立っていたのだ。

 

「こ、光太郎さん……」

「やぁ、久しぶり。元気そうで安心したよ」

 

 光太郎は笑顔でそう言うと、近くにあったパイプ椅子へ腰掛けた。そして屋台を眺めて小さく頷く。

 

「あの、どうしてここが?」

「何となくかな? 勘ってやつだよ」

 

 どこか照れくさそうに笑い、光太郎は思い出すかのように語り始めた。

 

「あの戦いの後、俺は旅に戻った。だけど、クウガというライダーの話も、それに関連する組織の事も、一度として聞く事がなかったんだ。そしてある時、日本で怪しい事件が起きた。未確認生命体という怪人達の出現だ」

「それで俺を?」

「ああ。第四号と呼ばれる未確認を見て、俺はやっと分かったんだ。まだ君はライダーになっていなかったんだと。クウガとは、改造人間ではないんだとね。だから、余計君と出会おうと思った。だが、未確認がいるのが日本だけとは限らない。そう考えた先輩達は、世界各地でそれらしい動きがないか警戒する事にした。俺もそうだ」

「そうだったんだ……」

 

 明かされた自分だけが未確認と戦っていた裏側。歴代ライダー達は日本をクウガに任せ、他の国で人知れず平和のために動いていたのだ。それを知り、ユウスケは自分の事を話した。大首領と戦い、封印出来た事。もう変身出来ない事を。それを聞いて光太郎はしばらく無言だったが、やがて真剣な表情を浮かべてユウスケを見つめた。

 

「君の変身能力は、時が来れば戻るはずだ」

「時が来れば?」

「出来ればない事を願うけどね。仮面ライダークウガの力が必要とされれば、また君はその力を取り戻すだろう」

「……クウガが、必要とされれば」

「まぁ、ないと思うよ。俺や、先輩達がいるし、今じゃGシリーズなんて物もある。それに、この国にはアギトに、もう一人ライダーがいるからね」

「もう一人?」

「そう、もう一人」

 

 光太郎の言葉にユウスケは考え、すぐに理解した。ギルスの事を言っているのだと考えたのだ。こうして光太郎はユウスケと握手し、またいつかの再会を約束して別れた。その背を見送り、ユウスケは空を見上げた。

 

「……クウガが必要ない世界でありますように」

 

 その心からの祈りにも似た呟きは、澄み渡る青空へと吸い込まれるように消える。小野寺ユウスケ。彼の力が再び必要になったかどうかは、誰も知らない……。




これにて終了。最後だけ無茶苦茶かもしれませんが、どうか青空のように広い心でお許しを。
それと、光太郎の言ったもう一人とはギルスではありません。アギトの映画を見た方なら、その本当の意味を分かってくれるはず。

では、最後まで読んで頂きありがとうございました。拙作製造機の次回作に、過度な期待はしないでください。
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