もう一人のクウガの冒険   作:拙作製造機

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最終回で少し語られた存在とユウスケの話。とある事情で変身出来ない彼と、とある事情で変身しない事にしている彼。その似てるようで違う二人の話で完全に今作を終えようと思います。いわば、特別編ですかね? 蛇足感は否めませんが……(汗


一号から一号へ

「そろそろ閉めるかな」

 

 時刻は午後十一時を過ぎ、もう数分で日付が変わろうとしていた。ユウスケが営む屋台も客足が途絶えており、片付け作業に入ろうという状況である。と、そんな時エグゾーストノートが響き渡ると同時に一陣の風が吹いた。それに意識を向ける事なくユウスケが閉店作業に取り掛かろうとした時、一人の男が屋台から少し離れた場所へバイクを止める。そして、その人物はゆっくりと屋台へ向かって近付いていた。

 

「まだやっているかね?」

「あ、はい。といってももう料理の方は無理ですけど」

「いやぁ、構わない。何か飲みたかったんだが、かと言って自販機じゃ味気ないと思っていたところに珍しいものを見つけたんでね。フレンチの屋台とはなぁ」

 

 ユウスケが振り返った先には、年齢にして齢五十は過ぎているだろう、体格のいい男性が立っていた。だが、その笑顔はとても優しく、漂う雰囲気も穏やかだ。ユウスケは閉めようとしていた気持ちを一旦忘れ、再び店員としての気持ちへ切り替えた。

 

「そうですか。一応ドリンクメニューはそちらに」

「ふむ……グラスワインでも、と言いたいところだが……」

「だが?」

「生憎運転しなければならないんだ。バイクでは運転代行も難しいからね」

 

 そう答えて男性は止めてあるバイクを見やる。つられてユウスケも男性の見ている方を見た。そこにあったバイクは、ユウスケにはかなり古い物に見えた。それもかなり使い込んでいるように。

 

「……結構年季の入ったバイクですね」

「ああ、俺が若い頃から乗っているものだ。かれこれ三十年以上になる。昔はあれと共に色んな場所を駆け抜けたもんさ」

「へぇ、大事にされてるんですね」

「まあ、俺の戦友みたいなものだからな。命を預けてきた存在だ」

 

 その噛み締めるような言い方に内心で首を傾げつつ、レーサーだったのかもしれないと納得し、ユウスケは話を戻す事にした。

 

「成程。それで、飲み物はどうします?」

「おお、そうだったな。なら……コーヒーを、ホットで」

「かしこまりました」

 

 笑顔で受け答え、ユウスケはインスタントコーヒーを準備する。それを見つめながら男性はどこか見極めるような眼差しをユウスケへ向けていた。それに気付く事なくユウスケはコーヒーを注ぎ終わると、静かに男性の前へソーサーに乗せたカップを置いた。

 

「どうぞ。砂糖とフレッシュはどうなさいますか?」

「いや、大丈夫だ」

「そうですか。では、ごゆっくり」

 

 丁寧に一礼して片付けられる事だけやろうと屋台へ戻ろうとしたユウスケだったが、そんな彼の背中へ男性がコーヒーを見つめたままこう切り出した。

 

「どうやら本当に君もライダーのようだな」

「え……?」

 

 思わず足を止めて振り返ったユウスケと男性の視線が交差する。そして驚きを見せるユウスケへ男性は微かに笑みを浮かべた。

 

「驚かせてすまない。光太郎君から君の事を聞いてね。それで直接自分の目で確かめにきたんだ。君が、本当にライダーなのかと」

「光太郎さんに……ということは……?」

「ああ。俺の名は、本郷猛。またの名を、仮面ライダー」

 

 その言葉がユウスケに持つ意味は、猛が考えている以上に重かった。始まりの仮面ライダー。一号と後に呼ばれる事となった男が目の前にいる。そう思ったユウスケは、ふとある事を思い出した。光太郎の言っていたアギト以外のライダーとは彼の事ではないのかと。

 

「あ、あのっ!」

「何かな?」

「こ、光太郎さんが言ってました。この日本を守るライダーは、アギト以外にもう一人いるって。それって」

「ああ、俺の事だ」

「やっぱり……でも、どうして?」

「君は、どういう相手と戦ってきたのかは知らない。だが、俺は、俺達は組織を作って動く悪と戦ってきた。奴らは、人の暮らしに入り込み、時には仲間を装い、人々の笑顔を、未来を破壊しようとしてきた。これまでは俺達も大事になる前に阻止出来た。しかし、いつ奴らのような存在がまた現れるか分からない。そして、そういう存在が国の上層部へ入り込んだらどうするか。そう考えた時、俺は決断した。ならば俺だけでも、この国を、故郷を守る事を。ライダーとしてではなく、人として」

「ライダーとしてではなく……」

「ああ。そして、今は有難い事に警察の上の地位に就く事が出来ている」

 

 そこまで告げて猛はコーヒーへ手を伸ばした。彼は光太郎から聞いていたのだ。クライシスが行った情報操作により、一時的に指名手配犯とされた時の事を。守るべき人々を敵にされ、抵抗する事が出来ない厄介さと恐ろしさを。その時は情報操作だったので怪人を倒した事で全ては無事終わったが、これが政府要人や警察幹部などに化けた存在によって引き起こされた事件であれば、簡単に解決とはいかなかったと猛は察したのだ。

 故に、彼は幾度も組織が重要視してきた地である故郷日本を守るため、その明晰な頭脳とこれまでの戦いで得られた判断力に変えられてしまった身体能力を駆使し、遂に警視総監まで上り詰めたのだから。

 

「あの、本郷さんはこれからどうするんですか?」

「それはむしろ君に聞いてみたい。俺は、もうそこまで長くは戦えないんだ」

「え? どういう事ですか?」

「……俺が改造されたのは今から三十年以上前だ。そこから俺はショッカーを始めとする幾多もの悪の組織と戦ってきた。強化改造を受けたのでさえ同じぐらい昔の事だ。俺の後輩の友人に機械工学に精通している天才がいるんだが、彼曰くもう俺の体は限界だそうだ」

「限界?」

「単純に言えば、経年劣化に近いらしい。いくら改造人間とはいえ、寄る年波には勝てないとでも言うのかな。今は変身しないようにしているんだ」

「その、限界を超えないように?」

「それもある。だが、一番はこの国の人々のためだ」

 

 猛の発言にユウスケは首を傾げた。何故変身しない事がこの国の人々のためなのだろうと。その疑問は猛にも想定内だったのだろう。彼は真剣な表情のまま語り出した。

 

「第四号にアギト。これらの存在は人々に認知され、人類の味方と思われている。中には未確認やアンノウンの敵対者なだけであって、必ずしも人類の味方ではないと言う者達もいるが、これまでの結果を見れば好意的に見る者の方が多い」

「はい」

「だからこそ、俺達は人々の前に姿を見せるべきではないんだ。その意味を、君なら分かってくれると思う」

「……頼り始めてしまうから、ですか?」

「そうだ。人は強い心を持てる反面、頼れる存在が出来ると弱くなる人達も多い。実際、この国は一度強大な悪に屈した時、大勢の人達がそれに従い荒れてしまった事があるそうだ。仮面ライダーという、悪に対抗する存在がいると、そう誰もが知るのは良くない。俺達は、いるかいないか分からないぐらいの、そうだな……都市伝説のようなぐらいで丁度いい」

 

 その言葉はユウスケに浅からぬ衝撃を与えた。仮面ライダーである事を隠す事なく幾多もの世界を歩いた存在を知っているからだろう。だが、本来ならば猛のような在り方こそがライダーであった。人知れず世界の、人々の平和のために戦う。そんな日陰者の生き方が仮面ライダーであったのだから。

 

「その、それでいいんですか? 何て言うか、報われなさ過ぎません?」

「そんな事はないさ。俺は、俺達は十分報われている。今もこの世界は人類の意思で物事が決められている。強大な力に支配されている訳じゃない。例え、人々の意思で滅びへ向かうとしても、それは俺達一人一人が良い結果へ導けなかっただけだ。誰かの言いなりになって滅ぶ不幸と、自分達の意思で滅ぶ不幸。どちらが自由かと言われれば、俺は間違いなく後者と断言する」

「自由……」

 

 ズシリと、何かとても重いものが両肩にのしかかった気がユウスケはした。今まで意識してこなかったが、自分がクウガとして戦っていた時にもし死んでいたのなら、失われるのはそれだったと気付いて。平和にするのも、正義を謳うのも、自由であればこそ。人々が自らの事を自らで決められる世界である事。それを仮面ライダー達は守ってきたのか。そう思ってユウスケは拳を握る。

 

 そんな彼に気付いたのか、猛はどこか嬉しそうに笑みを浮かべて頷いた。

 

「そうだ。俺達は人類の自由のために戦っている。正義じゃない。俺達が守るべきは自由なんだ。そのために、俺達はこれまで戦い続けてきた。どんな危険にも、怪人にも、この命を賭けて立ち向かってな。君もそうじゃなかったのか? 守りたいものや失いたくないもの。それらを胸に戦いへ身を投じたはずだ」

「……俺は、最初はどこか軽い気持ちでした。手に入れた力ではしゃぐ子供。そんな感じだったんです。だけど、それを変えてくれる人と出会いました。その力に道を示してくれた人がいました。俺は、その人の笑顔のために戦おうと決めたんです」

「……そうか。笑顔、か」

「はい。そして、その人はある事情で戦う事を躊躇う俺へこう言ってくれたんです。自分一人の笑顔のために頑張れる俺なら、世界中の人達の笑顔のためにならどれだけでも頑張れるって」

 

 噛み締める声。何かを思い出して弔うような表情。それに気付いて猛は言葉を失う。感じたのだ。目の前のユウスケからも、歴代ライダーが体験してしまった大きな喪失を経ている事を。どう声をかければいいのか。そう逡巡する猛へ、ユウスケは悲しくも優しい笑みを浮かべて彼へ顔を向ける。

 

「きっと、あの時俺は仮面ライダーにやっとなれたんだと思います。いや、入口に立てたのかな? 本当にそうなれたのは、光太郎さんにある事を教えてもらった時かもしれない」

「光太郎君に?」

「……どんな時も諦めない事。その大切さを、あの人に教えてもらいました。言葉と、行動で」

 

 強力なグランザイラス相手に体の傷を恐れず何度も立ち上がり、必ず立ち向かっていった姿を思い返してユウスケはそう締め括った。あれがあればこそ、その後の大首領との戦いに勝利出来たのだと、そう確信しているのだ。

 

「……だからこそ、君は変身能力を失っても構わないと戦った。その対価にみんなの笑顔が守れるならと」

「はい」

 

 一点の曇りもない返事に猛は頷く。そして残っていたコーヒーを全て飲み干した。

 

「最後に一つだけ覚えておいてくれ。RXは君の変身能力は必要とされた時に戻ると言ったそうだが、それを必ずしも悪い事とは取らないで欲しい」

「え?」

「君の力は、いや仮面ライダーの力は何も壊したり倒すためだけに使うものじゃないはずだ。誰かの命を助けたり、あるいは救う事だって出来る。そういう意味で必要とされる時だってあるはずだ」

「災害や事故での人命救助……ですか?」

「その可能性もあるという事さ。君の目の前で失われそうな命が、未来が、笑顔がある。そんな時、君の眠った力は必要とされるはずだ。他ならぬ君自身に」

「俺自身が……」

 

 両手を見つめるユウスケ。今までは変身出来ないままでいいと、そう思ってきた。だけど、そう考えれば変身出来た方がいいと思ったのだ。と、そこで彼も気付く。クウガの力をどう使うか。怪人を倒すための破壊として使うのか。誰かを助けるための守護として使うのか。それらを決められるのも自由なのだと。

 

「本郷さん、ありがとうございました。俺、これからも仮面ライダーとして頑張ります。俺の出来る事を、精一杯続ける事で」

「ああ、そうしてくれ。俺も、君と同じように頑張る事にする」

 

 そこで二人は互いを見つめ合って頷く。

 

「「みんなの笑顔のために」」

 

 そして猛は席を立ち上がり、ユウスケへ右手を差し出した。ユウスケもそれが何を意図してかを察し、右手を差し出して二人は握手をする。

 

「また機会があれば会おう」

「はい。先輩もお元気で」

 

 互いに笑顔を向け合い、約束を交わす二人。だが、猛がコーヒー代を出そうとするとユウスケがそれをやんわりと止めた。

 

「ツケにしておきます。いつか払いに来てください」

「……そういう事か。分かった。必ず返しに来る」

「はい、お待ちしてます」

 

 深夜の街に猛の足音が響く。その後ろ姿を見送り続けるユウスケへ、彼は背中越しに告げた。

 

―――俺とした事が君の名を聞くのを忘れていた。教えてくれないか?

―――俺は、三つの技を持つ男。夢を見る男。小野寺ユウスケです。

 

 その名乗りに猛は小さく笑みを零すと、力強く頷いて振り返った。

 

「夢を見る男、か。いい響きだ。俺もそうありたいな。ではな、ユウスケ君」

「はいっ!」

 

 最後にとびきりの笑顔を見せ、猛はバイクに乗って去って行く。その姿が見えなくなるまでユウスケはその場で見送った。空へ吸い込まれていくような独特のエグゾーストノートを聞きながら。

 

 

 

 だが、彼らの願いも虚しく、その後も世界は度々危機に見舞われた。だけども、それは人々が知る事がなく回避されていく。仮面ライダーと呼ばれる者達によって。その都市伝説の中には、赤い輝石を中央に配したベルトを付けた赤い体で赤い目の存在もいたとか。

 

 こうして、再びクウガも都市伝説として姿を残す。それをとある高校生達が知る事になるのは、それから十年以上の時間が必要となるのだった……。




と言う訳で、自分としては平成二期シリーズは昭和ライダー達が守り抜いてきた世界の続きではないかと締め括りました。最後の部分は、フォーゼを見て頂ければ分かるかと。

読んで頂きありがとうございました。
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