水底のカタルシス―艦隊これくしょん異聞録   作:憲兵隊長J

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第壱話:1942年・マダン島沖ニテ。

「………こちら旗艦天龍、現在マダン港付近を航行中………護国丸は被弾、沈没には至らず、しかし航行は難………」

(……ったく、これだから輸送船は。)

旗艦-天龍は、自身の通信室で通信兵が戦況を本営に打電する様子を何の気無しに聴いていた。………まぁ、『巡洋艦』である自身の内部で通信してるのだから、否が応でも聞こえてしまうのだけれど。

(………しかし、輸送部隊の護衛、か。)

本音を言えば、こんな任務は大嫌い。自分は、世界水準越えの軽巡洋艦として生まれて来た。じゃあ、軽巡洋艦の仕事と言えば………もちろん、戦うこと。それなのに、「旧式艦だから」とか、「時代は航空戦、空母や戦艦が主流だ」とか………俺の実力を、認めようとしない。そりゃ、俺は『軽巡の元祖』だから、当然最も古い艦と言うことになる。........................だからと言って、戦えないわけじゃない。むしろ戦いたい。………なのに、実戦部隊じゃなくて、こんな二級とも言える任務………

寄港したドックで、傷ついたまま放置される他の艦(フネ)を何度も見てきた。................いつかは、自分もあの中に、混ざるのだろう、か................。

「こちら電(いなづま)、敵艦の反応有り………........潜水艦です!!!」

俄に後続の駆逐艦から通信が入る。続いて、左後方からポコッという音がする。

(やばい、潜望鏡………来るっ!!!)

そう思った瞬間、左舷後方に強烈な痛みが走る。

(魚雷………ヤバいっ、側壁に穴がっ)

そう感じる間もなく、二本目が横腹に突き刺さる。

(……くそっ、敵は……どこだ……)

その時、艦内から通信が放たれた。

「……こちら旗艦天龍、今より旗艦を駆逐艦磯波に移す……総員、退艦せよ………荒潮、乗員の救助求む……」

(………それって!?)

そう、それは、........................俺の戦線離脱を伝える通信だった。

(待てよ……俺はまだ戦える……戦線離脱させるなっ!!!!)

脇腹の傷から海水が身体の中に流れ込んで来て、どんどん見える景色が低くなる。誰だかわからないけど、駆逐艦が横に着いて、海に飛び込んだ乗員達を拾い上げていく。それを横目に見ながら、視界がどんどん暗くなっていく。

(まだ………戦える………誰か……引き揚げてくれ………俺は……天龍型1番艦……天龍だ………誰か………)

気がつけば、目に入るものは何も無くなって、ただ暗闇だけが広がっていた。

(ダメ……なのか……………龍田、悪ぃ、先に………逝くぜ………)

そして、その身は水底に誘われた。

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