「ここは…僕の家?」
目を覚ました僕の前に広がる光景は、数か月前なら見慣れた、今なら久しぶりに見る、海鳴の街のある、僕の家の僕の部屋だった。
「どういう事だ…?」
色々、訳が分からない。どうして、僕が僕の家のベッドで寝ているのか? どうして夜だったのに、今が朝なのか? クリスマス、つまりは冬だったのにどうして春の陽気(カレンダーを見ると4月だった)が感じられる位暖かいのか?
そして、どうして僕の体が前世の、つまり高校生の体なのか?
「意味分かんねえ…」
僕はそう呟いた。
「八雲ー、朝よ」
下から声がする。声? この家には僕一人のはずだ。でも、あの声…。まさか!
僕は着替えて下に駆け降りた。
そこには、
「おはよう。八雲」
エプロンをつけて、朝ご飯を準備をしている母さんと、
「おう、起きたか。八雲」
コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる父さんがいた。
「父さん…、母さん…」
「どうした八雲。突然そんな声出して」
「いや、昨日の夜読んでいた本の内容を思い出してさ」
「そうか、そんなに感動する作品だったのか」
「うん」
僕達は朝食を食べた。まさか、父さんたちとまた一緒にご飯を食べる時間が来るなんてね。
久しぶりに食べた母さんの御飯は美味しかった。僕もそれなりに出来るとは思っていたんだけど、やっぱり母さんには勝てないな。
僕は父さんたちに高校生の姿を見せた事は無かった。だって、父さんたちは僕が小学生の時に死んだのだから。
「ゆっくりしていていいの? もうすぐ…」
母さんの言葉がインターホンで遮られる。
「噂をすれば。ほら、早く行きなさい。今日はあの子とデートなんでしょ?」
そう言って僕は玄関へ押し出されていった。
玄関に行くと、そこには茶色っぽい髪の毛のショートヘアーの女の子が立っていた。
「おはよう、八雲君」
関西弁のイントネーションが僕的に心地良い。
「うん…。おはよう、はやて」
初めて見る、高校生の姿のはやてはとても綺麗だった。僕の知っているはやては可愛かったけど、こういう感じで成長するんだな。
「どうしたん? 何か変やよ、今日の八雲君」
「そうなのよー、朝から少し変なのよ」
「あっ、おはようございます。おばさん」
「おはよう、はやてちゃん」
…仲良いなー。
でも、このままだと二人になんか言われそうだし…逃げるか。
「じゃあ、行ってきます。母さん」
僕ははやての手を引いて駆け出した。
「どうしたん? 突然走り出して」
「いや、ゴメン。戦略的撤退を」
「ふーん…。まあ、いいわ。それより、私の服どう?」
そう言われたので、さっきまで気にしてなかったはやての服装に注目する。
今日のはやての服装は、白いワンピースに薄いピンク色の薄手のカーディガンという春っぽい服装だ。
まあ、ファッションはさっぱりだからよく分からないけど。
「似合ってる。凄い可愛いよ」
「八雲君、いつも褒めてくれるなー。何、適当なん?」
ずいと、僕の方に身を寄せるはやて。少し怒っている。それに、何かいい匂いするし…。ってそうじゃなくて。
「適当じゃないよ。よっぽどのものじゃない限り、僕は多分はやてに似合ってるとか、可愛いしか言わないと思うよ。惚れてるんだしさ」
「そ、そうか…」
顔を赤くして、僕に寄せていた体を少し離すはやて。
「や、八雲君も似合っとるよ」
「ありがとう」
「うーん、何か私だけ恥ずかしくてズルいわ…。よし、こうなったら!」
そう言ってはやては僕の腕に抱き着いて来た。…っていうか、僕の腕にははやての胸の感覚が!
ゆったり目の服を着ていたので気付かなかったけど、ちゃんと出る所は出て引っ込む所は引っ込んでる。
「ちょっ、はやて!? 当たってるって!」
「ふふーん、当ててんのや」
「いやいや、そうじゃなくて」
「何? 嫌なん?」
「いや、全然嫌じゃないけど」
「なら、良いやん。それじゃあ、行こ」
僕ははやてに引っ張られて、歩き出す。横から見えたはやての顔は赤かった。でも、それは多分僕も同じだろう。
それから買い物して、ご飯食べて、色々見て回った。今は公園のベンチに座ってのんびりしている。
もちろん、お金は全部僕が出した。
どうやら、僕はバイトをがっつりしていたみたいで、お金は結構あった。
歩きながら、はやての話でこの世界の僕達が大体どうなっているかが分かった。
まず、僕とはやて、それになのは、フェイト、アリシア、アリサ、すずかは同じ高校の同じクラスらしい。
はやては今、守護騎士達と普通に暮らしている。
皆普通に、幸せに暮らしている。
「良い世界だな…」
「ん? 何か言った?」
「ううん、独り言。気にしないで」
「そう言われると、気になるわ―」
「喉乾いてるだろ。ジュース買ってくるから待ってて」
そう言って僕は席を立った。
僕ははやてから離れて、叢雲を取り出した。
『叢雲、神様と連絡取れる?』
『どうしたの、八雲君?』
『これは、僕の望む夢の世界なんですよね』
『そうだよ。君が望む、理想の世界だよ』
『そっか…』
どこかで僕は父さんと母さんと会いたかったのかな…。この事は自分の中でけりを付けたつもりだったんだけど。
『それで、八雲君はどうするの?』
『どうする…か』
なんか最近、かなり重要な選択をさせられている気がする。
『そんなの決まってる。でも、やりたい事をやってからかな』
『そっか、がんばってね』
神様がそう言って、通信を切った。僕ははやての所に戻っていった。
「はやて、ゴメン。用事できた」
僕は全力で謝りながら、そう言った。
「せっかくのデートやのに…」
「本当にゴメン」
「…いいよ。八雲君がそう言うなら、なんかあるんやろ?」
「うん」
「それなら、ええよ。その代わり、また今度、埋め合わせしてもらうからな」
「…お手柔らかに頼むよ」
そう言って僕は家に向かって走った。
「ゴメンな」
この言葉ははやてに届いていないと思いたい。
僕は息を整えてから、家に入った。
「ただいま」
「あらどうしたの?」
「八雲、どうしたんだ」
良かった。二人とも家に居てくれた。
「いや、忘れ物に気が付いて取りに戻ってきた」
「なら、早く戻らないと」
「うん。じゃあ…父さん、母さん」
「何だ?」
「どうしたの?」
「僕を二人の子供に生んでくれてありがとう。僕は幸せだよ」
僕は言いたかった事を言った。親孝行とかは時間が無くて出来ない。せめて感謝の言葉を伝えたかった。たとえ、僕の夢の世界だとしても。
「どうしたんだ、一体?」
「いや、なんとなく言いたくなって」
「私達も幸せよ。八雲」
「そっか…。そんじゃあ、行ってくる」
僕は再び家を出た。この温かい家に帰ってくる事はもう無い。
「叢雲、行くよ」
「イエス、マスター」
僕は騎士甲冑に身を包み、剣に魔力を込める。それによって剣は大きく輝く。
「五年越しで言えた言葉だったけど、これで僕はようやく進める。前世の思い、今の思い、それを融合させて、ようやく僕の未来は生まれる。これで切り開く! 義憐聖霊斬!」
そして、世界は光に包まれた。
これまた、きりの良い所で。
次は全員の全力全開のシーンです。
術技紹介
義憐聖霊斬
本来は連撃の後、魔力付与の斬撃を叩き込む技なのだが、今回は結界魔法、幻術の解除がメインだったので最後の一撃のみを使った。
「どこかで使いたかったんだよねー。やっぱりさ」