「腹…減った」
僕の起きての第一声はそれだった。
ここは以前にもお世話になったアースラの医務室。
一応、僕は犯罪者のはずなんだけど、監視とかなくていいのかな?
「とりあえず、食堂に行くか」
空腹はしんどい。よくよく思い出せば最後に食べたのは今日の朝ご飯だ。普通に過ごしていたってお腹が減るのに、あんなに派手な戦闘をしたんだそりゃお腹も減るよ。
そういや、地球はクリスマスで七面鳥とかチキンを大体の人が食べるけれど、管理局のある世界はどうなんだろ? 後でクロノにでも聞いてみるか…。
僕が食堂に行くと、丁度クロノが食事をしていた。
クロノは食堂に来た僕を見つけたらしく、
「食事がてら君の話を聞こう」
と言ってきた。
「別に良いけど、その前に何か食べさせて。今日は朝に食べたっきりだからさ」
「どういう生活をしていたんだ、君は」
「いや、こんなほとんど食べてないのは2,3日体調を崩していたからだから。普段はちゃんと生活してるよ」
「そんな状態で、あんな大魔法を使ったのか?」
「もう体調の方はほとんど回復してたから大丈夫。まあ、あれを使わないと無理だと思ったから使っただけだけどね。多分だけど、たとえどんだけ体調が悪くても使ったとは思うけどね」
「…ジュエルシードの時も思ったのだが、君は戦闘中の判断は的確だが、あまりにも無鉄砲すぎないか? 気絶をするほど、魔法を使うなど…」
「それは僕もそう思うけどさ。でも、やらなきゃいけない時に全力を尽くさず失敗するのって嫌じゃん。そんな事を思わないために僕は全力で戦っただけだよ」
「まあ、普段からではなく、強大な相手の時だけだから、小言はこの辺にしよう。…しかし、今回のようなカードリッジの乱用は体への負担が大きいぞ」
「うん、自分で使って身に染みた。これは、なのはやフェイトに言うべきだね。安全な技術が確立されるまで、彼女たちの体が出来上がるまで、使用制限を掛けないと」
「使用者としてどうだ? 管理局では、カードリッジシステムの使用者はいないから運用法も手探りの状態だ。協力して欲しい」
クロノはそう言った。って言うか、あの二人そんな危ない物に手を出したのかよ…。
いやその前に、二人がカードリッジシステムが管理局にある事を何処で知ったのか?
「別に良いけど、一つ聞いても良い?」
「ああ」
「なのはとフェイトのデバイスにカードリッジシステムが付けられてたのは何で?」
「守護騎士に勝つために彼女たちのデバイスがそう選択したんだ」
インテリジェンスデバイスって凄い…。
「で、カードリッジシステムの使った感じだったよね。戦闘においてはあれば便利なんてレベルじゃない。あるのと無いのとでは戦力の差が全然違う。カードリッジがあれば、威力の増強、魔法行使の高速化、不使用時以上の魔力の大量使用。ホント、戦いの中で生まれた技術って感じ。ただ、体への反動もかなりのもので、体の出来上がった大人ならともかく、僕達子供にはかなりの負担がある。だから。一回の作戦での使用量の制限と、短い期間での連続使用の制限、いやこっちは禁止かな。それから十分な休息。これは絶対必須だね。後は、ちゃんとメディカルチェックを受けるかな。まあ、シグナム達の協力で着けた僕のは多分なのは達のよりはましだと思うけど」
「今回の事件が終わって守護騎士達は古代ベルカ関係の魔法の調査に協力する事になった」
「…それは、管理局の判断?」
「ああ、守護騎士達がしてきたことは重罪だが、今回の件で破壊不可能とまで言われた闇の書の再生を止める事が出来たのと、それに守護騎士達が協力をした事、それにさっき言った古代ベルカの魔法の研究調査の協力でかなり罪は軽減出来た」
「具体的には?」
「…所在地認証と魔力制限、後、管理局の仕事への従事だ。ただ、武装隊ではなく、人事部所属になるから、そこまで忙しくはならないはずだ」
「かなり甘くない?」
僕達のしてきた事から考えれば無罪と言ってもいいほどだと思う。
「艦長の判断だ。それに、それほど闇の書が恐ろしかったという事だ。正直、人的被害無しでの解決は奇跡だ」
「…で、僕の処遇は?」
「守護騎士達と同じだ。君の場合はなのはやフェイト、はやてと同じで嘱託魔導師となるが…」
「嘱託魔導師って?」
「字のままの意味だ。管理局から仕事を嘱託された魔導師。準局員とでもいうべきか」
なるほどね。そういや、誰が言ったかまでは覚えていないけど、管理局のある世界は仕事に就く年齢が結構低いらしい。
だから、子どもの嘱託魔導師もたまにいるらしいし、数はかなり少ないが、子供の管理局員も居るらしい。ていうか、クロノ14だしね。
「って、ちょっと待てクロノ! 何ではやてが嘱託魔導師になってんだ」
「彼女の意思だ。今は海鳴で休んでいるが、休む前に守護騎士達と罪を一緒に償うと言っていたのでこうさせてもらった」
「そっか。後で謝らないと…」
彼女の為だったとはいえ、結果的に僕達ははやての人生の進む先を決めてしまった。
「もちろん、彼女のリハビリが優先だ。彼女に無理はさせない。僕が約束する」
「ありがとうクロノ。その言葉だけで十分だよ」
初めて会った時は固い奴だなと思ったけど、話してみると凄い良い奴だと思う。
「そういや、僕が海鳴に戻っても大丈夫?」
「構わないが…」
「良かった。闇の書の事が解決したし、丁度クリスマスだから、パーティーでもしようかなと思ったんだ。クロノもどう?」
「ふむ、時間が出来たら寄らせてもらおう」
「じゃあ、連絡入れるよ。えーっとメンバーははやて、なのは、フェイト、ユーノ、アリサやすずか、アリシアにプレシアさんにリンディさんにエイミィさん、守護騎士の皆に…そうだ、リインフォースも」
「…八雲、少し良いか」
「ん? どったのクロノ。そんな重い口調になって」
「僕の話を落ち着いて聞いてほしい。実は…」
クロノの話は僕には信じたくない言葉だった。何だよそれ…。どうして、リインフォースが消えなきゃならないんだよ…。
「…ユーノは何処に居る」
「行く気か」
「うん。認めたくないけど、リインフォースが決めた事なんだろ? 僕が納得していなくても受け入れないといけないと思う。僕個人としては、こんなの認めたくないし受け入れたくもないけどね。ただ、僕はその現場に立ち会わないといけないと思う」
「分かった。…ユーノ、話は聞いていたな」
『もちろん。八雲、転送の用意は出来てる。いつでも良いよ』
そう念話を送って来たユーノ。全く良い仕事するね、二人とも。
「ありがとうクロノ、ユーノ。お礼に美味しい料理ごちそうするよ」
『八雲の料理は絶品だから楽しみだよ』
「僕も話には聞いていたから楽しみにしている」
「まあ、期待しててよ、お二人さん」
僕は二人にそう言ってアースラを後にした。
転移した場所は海鳴の街の郊外にある小高い丘だった。
海鳴の街は雪化粧。普段なら感想のひとつでも出そうだけど、今はそういう場合じゃない。
「すぐそばで、魔力反応。恐らく、リインフォースの破壊の儀式でしょう」
「てことは間に合ったんだな」
僕は走り出した。
少し行くと、魔法陣の中に立つリインフォースとデバイスを構えたなのはとフェイト、そして見守る守護騎士達が居た。
「どうやら、間に合ったみたいだね」
「八雲君!? 起きて大丈夫なの?」
僕の姿を確認したなのはが驚きの声を上げる。
まあ、数時間前にぶっ倒れた人間が居るんだから仕方ないか。
「大丈夫。心配ないって。それより、僕はリインフォースに言いたかったのさ。お別れの言葉を」
「ああ、聞こう」
「じゃあ…。僕はまだ、君が消えてしまう事について認めたくないし、納得していない。でも、君がそう決めたのなら、僕はそれを出来る限り受け入れようと思う。…ゴメンな。最後の戦いの時、あんな大口叩いておきながら」
「謝る必要などない。八雲、君と守護騎士、それにそこの二人のおかげで私は最後にとても幸せな時間を送る事が出来た。むしろ礼を言おう」
本当にそれが本心なのかなと思う。彼女は闇の書の中ではやてと守護騎士達の生活を見てきたはずだ。感謝の気持ちはあるだろうけど、それだけじゃない気がする。でも、それについて話している時間は無かった。
「さあ、再開してくれ」
リインフォースがそう言った。
なのはとフェイトは集中し、地面に描かれた魔法陣は輝きを増していく。
「リインフォース!」
僕の後ろからリインフォースを呼ぶ声が。みんながそっちを見ると必死に車いすを動かしてこっちに向かってくるはやてが居た。
「はやてちゃん!」
「はやて!」
「動くな!…儀式が止まる」
はやての元に駆け寄ろうとしたヴィータを止めるリインフォース。
「あかん! 止めて、リインフォース! 止めて! 破壊なんかせんでええ! 私がちゃんと抑える! 大丈夫や、こんなんせんでええ!」
泣きながらそう言うはやて。
「主はやて。良いのです」
「良い事無い! 良い事なんか…なんもあらへん!」
「ずいぶん長い時を生きてきましたが、最後の最後で私はあなたに綺麗な名前と心を頂きました。ほんのわずかな時間でしたが、あなたと共に空を翔け、あなたの力になる事が出来ました。騎士達もあなたの傍に残す事が出来ました。心残りはありません」
「心残りとか、そんなん…」
「ですから、私は笑って逝けます」
「あかん! 私がきっとなんとかする! 暴走なんかさせへんて、約束したやんか!」
「なあ、一つだけ良い?」
「なんですか、八雲」
「僕さ、さっきは出来る限り受け入れるとか言ったけど、早速前言撤回させてもらうよ」
「何故だ」
「だってさ、説得力ないんだもん。何が笑って逝けるだ! そんな悲しい顔してさ。聞かせてよ君の本心って奴をさ」
少しの静寂の後、
「…私だって、主はやてや、守護騎士達と普通に生活したかったさ! しかし、わが身がある限り、常に主に危険が付きまとう。こうするしかないんだ。こうするしか…」
と言った。まるで自分に言い聞かせるかのように…。
「一つ聞くけど、元に戻ったとか、そういう感覚は自分で分かるの?」
「ああ、もちろんだ」
「はやて、君はシグナムやヴィータ、シャマル、ザフィーラ、それにリインフォースと一緒に暮らしたいよな?」
「もちろんや!」
「それじゃあ、これは僕からはやてとリインフォース、守護騎士達へのクリスマスプレゼントにしようかな」
僕はそう言ってセットアップをした。
「八雲君、一体何を?」
「まあ見ててよ、聖夜の奇跡って奴をさ。…聖なる光よ、祝福の風をその呪われた運命から解き放て、レイズデット!」
僕は奇跡を起こすべく、回復した魔力を一つの呪文に注ぎ込み、ありったけのカードリッジを併用する。
そして、丘は僕の魔力光の色である白銀の光に包まれた。
「どう、リインフォース?」
「昔の…改変される前の状態に戻っている。しかも転生機能も無い状態だ」
「なら…?」
「もう、私が消える必要も無い」
「そうか、なら…良かった…」
そこで、僕の意識は途切れた。一日魔力切れで倒れたのは初めてだよね。
書いていて思ったよりも長くなったのでここまで。
次回でA`s編最終回になるかと思います。早いうちにアップするつもりなのでお楽しみに。