第十九話 チョコの味は…
闇の書事件が終わって二か月と少し経った。
結局クリスマスパーティーははやてが病院に戻らないといけなかったから、出来なかった。
その後も色々な事があったけど、僕は今までの日常に戻ってきた。
そんな冬の週末のある日、
「八雲君、明日朝からなのはちゃんの家行くんやけど、なのはちゃん達がお昼すぎに来てやって」
夕飯の片付けをし終わってのんびりしていた僕に、はやてがそう言ってきた。
今、この家には僕とはやてしかいない。他の皆は管理局の仕事中だ。
「分かったけど、別に特に用事もないから、僕も一緒に行こうか?」
明日は管理局の仕事も無い。時間に余裕がかなりあるのだ。
「いやいや、大丈夫やよ。最近八雲君少しお仕事忙しかったし、休みの日の朝くらいはゆっくりしてて」
たしかに最近仕事が多かった。でも、体力にはそれなりに自信あるし、特に問題は無かった。むしろ、はやてと一緒の時間が少ない方が辛かった。だから、少しでも一緒に居たかったんだけど…はやてにもはやての交友関係があるんだし仕方ないか。
「分かった。そんじゃ、明日お昼を翠屋で食べてから行こうかな?」
「そうしてくれると嬉しいよ。何があるかは明日のお楽しみや」
「楽しみにしてるよ、はやて。…さて、そろそろ寝るか」
「そうやね。夜更かしして、クロノ君みたいになるのは嫌やもんな~」
「たしかにそうだけど、それをクロノの前で言ってやるなよ。気にしていたし」
「分ってるよ。それじゃお休み、八雲君」
「お休み、はやて」
僕達は軽くお休みのキスをしてお互いの寝室に向かった。
この事がひょんな事から皆にばれて、「バカップルが!」と言われた。今も言われてる。多分何年経っても言われるんだろうなあ。まあ、良いけど。
寝室で寝転がりながら、僕は考え事をし始めた。
「明日って、何かあったっけ?」
壁に掛けてあるカレンダーを確認すると、明日の日付が2月14日だという事に気が付いた。
つまり…バレンタインですね、分かります。という事は、僕も彼女がいるからチョコもらえるんじゃないんですか? たとえ、製菓会社の策略でも、もらえる方は嬉しいんですよ!
明日が凄い楽しみになって来た。しかし、ただ貰うだけってのはなあ…。
翌日、はやては迎えに来たすずかと一緒になのはの家に向かった。
僕は朝食の片付けをして、昼食のための簡単な物を用意している。
シグナム達守護騎士は昨日の夜遅くに帰って来たらしく、まだ休んでいる。僕が居る間に起きるかも分からないから、いつ起きてきてもいいように今、用意をしているのだ。
「…っと。こんなもんで良いだろ。書置きして…、僕も出掛けますか」
財布とエコバッグを持って出かける。目的地は近所のスーパー、そして翠屋。桃子さんには厨房を借りる許可を貰った。逆チョコの用意をするために。
皆に見せましょうか、僕の本気をね。
はやてサイド
今、私は皆と一緒になのはちゃんの家に居る。
そもそも、今日皆がここに集まったのはアリサちゃんの「バレンタインだからチョコ作りましょう」という一言が切っ掛けだった。
私も折角八雲君と恋人同士になれたんやからチョコ位用意したいと思ってた。もちろん、手作りで。ただ、私は料理はかなり得意だけど、お菓子作りはそこまで経験が無い。八雲君とたまに作るけど、渡す本人に教えてもらうのでは意味がない。だから、アリサちゃんの提案は凄くありがたかった。
「さて、作るわよ!」
「「「「「おー!」」」」」
私を含む皆はやる気満々。渡すのはそれぞれの家族や友人。皆共通の男友達は八雲君しか居らんけどね。でも、皆学校の人には渡す予定はないみたい。皆可愛いから、学校の男の子は悲しいやろうなあ。
なんか私以外皆はいつか渡す本命の為の練習らしい。料理は数こなすことやからなあ。私は本命一本…では無く、本命の八雲君用とウチの家族の為のをたくさん作った。ウチの子らもガンバっとるし私に出来る事はこれくらいやけど、それでもやってあげたいしなあ。
「「「「「「できたー!」」」」」」
皆で声を合わせてそう言う。なんか、ファンファーレとか流れてきそうな感じやね。
「さて、八雲はどこに居るのかしら?」
「念話で聞いてみるの」
なのはちゃんがそう言う。
「そういうのを見ると、魔法って便利だよね」
「ホント、私も使ってみたかったわ」
そう言うのは地球生まれの非魔導師組の二人。
「でも、ミッドでも魔法適性無い人、いるよ」
「そうなの、アリシア?」
「うん、魔法は公にされてるし、凄いポピュラーだけど、皆が使えるわけじゃない。ミッドはいろんな次元世界の中心だから、魔法の無い地球みたいな世界から来た人もいっぱい住んでるしね」
「ミッドだと、魔法を使える使えないは個性の範疇だよ」
「「へえー」」
簡単に魔法について説明をするアリシアちゃんとフェイトちゃん。
その間になのはちゃんが八雲君の場所を聞き終わった。
「八雲君、翠屋に居るんだって」
「そういや、昨日この事言ったら、そう言ってたなあ。待たせたんかな?」
「ううん、そんなに待ってないみたいだよ」
「でも、いつまでも待たせる訳にはいかないわよね。行きましょ」
私達はそれぞれチョコを持ってキッチンを後にし、翠屋に向かった。
まさか、この後、あんな目に合うとはこの時には思ってなかったんやけど…。
さて、僕が翠屋の厨房を借りて作ったのは、フルーツパフェ・ウィズ・チョコレートバナ~ヌおいしおいし。色々なフルーツを使ったパフェにチョコレートクリームを使ったバナナタルトを追加した物だ。
前世で高校の学園祭の時に出した中で一番人気だったのとなおかつ、チョコレートを使ってるので丁度良いかなと思ったからこれを選んだ。
皆が来たのでこれを勧めると、
「これ…八雲が作ったの?」
と、アリサに聞かれた。皆は沈黙している。はやてだけはもう食べているけど。
「そうだよ」
「どうしたん、皆? 美味しいで」
「八雲君、お菓子作れたの?」
「うん。っていうか、僕の作ったの皆食べたんじゃないの? クリスマスの時に」
「「「「「クリスマス?」」」」」
皆が口を合わせてそう言う。あれ? 伝わってない?
「あれ? 言わんだっけ。クリスマスにシグナム達が持って来たケーキ、八雲君が作ってくれたんよ」
「「「「「ええ~っ!?」」」」」
どうやら言ってなかったみたいだね。
「あれ、どこかのお店で買って来たんじゃないの!?」
「私もそう思った!」
「お店で売れるよね」
「普通にお母さんが作ったのと変わらないレベルだったよ、あれ!」
「あれが、八雲の手作りだったなんて…」
「「「「「負けた…」」」」」
いや、一体何と勝負して、何に負けたか知らないけど。褒められて嬉しい。
「まあ、そんなんええやん。食べなもったいないで」
一人で食べ進めているはやてがそう言う。美味しそうに食べてるはやて…可愛いなあ。
はやてに勧められて、皆が食べ始める。美味しいと言ってくれるんだけど、少し複雑な顔をしている。
やっぱ、あれかな。女の子より料理の上手い男子ってちょっと…って事なのかな。
僕としては、作った人の気持ちさえ込められていればそれだけで嬉しいんだけど。
「あー美味しかった。ありがとうな、八雲君。それで私からも渡したいものがあるんや」
そう言ってはやてが出したのは可愛いラッピングされた袋。やっぱ、チョコレートかな。
「ありがたくいただきます」
「ちょっと待ってな」
はやては一個のトリュフを取り出して、
「私が食べさせてあげる。はい、あーん」
これは、人前でやるのはかなり恥ずかしい。が、僕にこれを食べないという選択肢は存在しない。後で皆にからかわれるだろうけど、そんなの知るか。僕はその差し出されたのを食べる。それは僕が今まで食べたチョコの中で一番甘くて美味しかった。
「…どう?」
「凄く美味しかった」
「良かったー。私、チョコ作んの初めてやったから、上手に出来とるか心配で。はい、じゃあ残りの」
はやては僕に残りのを手渡す。
「ん? ていう事は、はやて食べてないの?」
「途中で味見はしたけど、完成品は食べてへんよ」
美味しいから食べてもらいたいんだけど…。僕が食べさせてあげる? 同じ事するのは何かなー。…そうだ!
「はやて」
「ん、何八雲く…」
振り向いたはやての唇を一気に奪い、銜えていたチョコを舌ではやての口に押し込む。
「な、なななな、何しとんの!」
顔を真っ赤にして非難の声をあげるはやて。
「何って…キス? それより作ったチョコどうだった」
「…分からへんよ。あんなんされたら分かる訳ないやん…」
そうやって顔を真っ赤にして俯きながら言うはやては反則的に可愛かった。
後で、他の五人にからかわれる事なんてどうでもいいくらいに。
甘さ全開でお送りしました。
また、ネタが降ってきたら書きます。