昨日もそのせいで休んでしまって……!
(他にも要因はあったけど)申し訳ない!
それではどうぞ!
無手で構えるサルバドールに、クー・フーリンはその隣に立つ事で意思を示した。
共闘戦線。
以前の関係だった彼らにとっては大したこともない、かつてよく見た光景だった。
それは、サルバドールがマスターとしてカルデアにいた頃まで遡る。
『スカサハ……あんた、死にたいんだってな?』
「……その前に、そのベルトはなんだ? 玩具にしか見えないが」
『これもクー・フーリンって奴の仕業なんだ……。とまぁ、冗談はさておき。ちょっくら久々に体動かしたいんだよね。トレーニングつけてくれない?』
黄色いラインが特徴的なベルトギア(おもちゃ)を適当なところへ投げ捨てて、サルバドールはそう提案した。
「いいぞ。私も退屈しのぎになるものを探していたところだ。……ついでにセタンタも呼ぶか?」
『え”……。あの青タイツもぉ〜?』
「いいではないか。喧嘩するほど仲がいいのだろう? お主らは」
『それはあなたの視点の話で、これは犬猿の仲って言うんですけど?』
「ぴったりな言葉だ。的を射ている。何よりお前はサルで、セタンタは猛犬だ。……この言葉を作った者はお主達を見て思いついたのではないか?」
『笑いたくもなりますね、そんな冗談。……性格は似たもの同士のはずなのにどうしてこうも馬が合わないかなぁ?』
「馬の英霊を持ってこないと改善は難しいじゃないか?」
『おっぱいタイツ師匠、冗談キツイっすね』
「ふっ、そうか。……悪かったな、流せ」
「そうだ、サルよ」
『……なんです?』
「セタンタと共に儂を殺してみよ。どうだ、トレーニングとしては面白かろう?」
「あー嫌だ嫌だ。テメェの魔力なんざ受け取りたくなかったってのによ」
『ウッセェな! 瀕死だった奴に言われても負け惜しみにしか聞こえねーな!……いいからチャチャっと倒すぜ』
「指図すんじゃねぇ」
『やるか? 犬っころ』
「いいぜ? 猿が」
「余所見とは感心せんぞ? お主ら」
的確に急所を突き刺そうと槍を振るうスカサハ。
二人に同時に突き出された矛先は。
片や、掌でいなされ。
片や、槍の先端部で受け止められた。
「『さぁやるか……!」』
「ほう……退屈せずに済みそうだ」
「抜かせぇ!」
『くたばれ!』
クー・フーリンが蹴りを、サルバドールが掌底を打ち出す。
しかし、スカサハは片膝で受け止めながら跳躍し、勢いそのままに後退した。
サルバドールが迂回し、クー・フーリンが正面から突貫する。
先程とは違い、クー・フーリンの俊敏性は魔力補給の為か本来の素早さを取り戻している。スカサハの眼前に一瞬で肉薄する。
槍の特性として、一番隙の少ない攻撃方法は突きとされている。
この攻撃方法は速く対象に届くうえに、槍を引くことで元の体勢に戻る時間も速い為、槍の基本と言える。
しかしそれは常人が振るった場合のこと。英霊ともなればそれを行う速さは桁違いである。
クー・フーリンは自身の朱槍、ゲイ・ボルグで無数の刃を突きという形で撃ち出す。
もちろん、物理的に増えているわけではない。クー・フーリンの突きの速さが成せる業である。
無論、クー・フーリンが出来るという事は。
その師であるスカサハが見切ることは容易であるのと同義ではあるが。
右手に携えている槍だけを用いて、避けるスカサハ。左手のもう片方の槍を使わないのには、当然のごとく訳があり。
サルバドールの存在である。
サルバドールはクー・フーリンに劣らない脚力でスカサハの死角に回り込む。
少なくとも、そういう行動をする人間に限って警戒を怠ることは、次に待っているのは奇襲による敗北である。
故に、何が起きても対応出来るようにする為の左手である。
しかし、サルバドールを注視しながら戦える程、スカサハにとってクー・フーリンは弱い相手ではない。
現に今、突く、薙ぐ、払うなどの多彩な技を用いながらクー・フーリンはスカサハを追い詰めていた。
反撃しようにも、スカサハがクー・フーリンに反撃をしてしまえば、すぐさまサルバドールはその一瞬の隙を逃さず突いてくる。
それでも、挟み撃ちの形になってしまえば強襲され、スカサハは急激に不利になる。だからこそ攻撃をいなしつつ、サルバドールから離れるように動く事でサルバドールとクー・フーリンを同じ視界に収めようとするスカサハ。
すると、走り続けるサルバドールが追いつけないと悟ったのか、自身の手を鉄砲の形にしてスカサハに向けた。
––––––なるほど、ガンドか。
そう思ったスカサハはクー・フーリンに意識を向ける。
ガンドは中距離に放つことができる呪いの一射。確かに当たれば自分の動きが止まる程の威力はあるはずだ。
だが、それだけだ。当たらなければどうという事はない。さらに言えば、その程度の飛び道具が儂に当たると思っているのが甚だ疑問だ。
飛び道具の一つや二つ、見ずに避けれなくて何が英雄か。
そう思うスカサハであったが、サルバドールは指の銃口をスカサハから外し。
スカサハの真上。その天井に狙いを定めた。
(天井……? まさかこの部屋の照明を儂に落とす気か……!)
思わずスカサハは天井に目線を向ける。
否、向けてしまった。
今、スカサハのいる真上にはその類は一切ない。
(
クー・フーリンを今の一瞬で見逃した。
サルバドールは銃の手を作り天井を指差した。それだけの小細工でスカサハを欺いたのだ。
「そぉらよ!!」
クー・フーリンが回り込んだ事に気づくのは、騙された事を知ってから一瞬の事である。下から袈裟に振るわれた朱槍をスカサハは槍の太刀打ちの部分で受け止めるが僅かに弾かれた。
「くっ……! やるようになった……」
そして。
完全に視界から、サルバドールが消える。
『……縮地』
何がともあれ、彼女は彼を背を向けた。
そのチャンスは無駄にするほど、サルバドールは鈍くない。
『無手版《無明三段突き》ぃ!!』
かつて沖田総司が使うと言われた、相手に一瞬で近づく技能の一つである『縮地』。そして、三つの斬撃を全く同じタイミングで打ち出す『無明三段突き』という事象飽和の絶技が存在する。
だが縮地はともかく、サルバドールの無手版無明三段突きの方は三つの拳を全く同じタイミングで出せている訳ではない。ただの力を込めた打撃というだけで、実際は名前だけである。
ただ、無明三段突きと同じ威力を誇るだけの名称に過ぎない。
スカサハは槍を地面に突き刺し、その槍の上部を持つことで一時的な盾の役割を担わせる。
その槍の中心よりやや高めの位置に当たった拳によって、スカサハは衝撃のみを食らって壁まで吹き飛ばされた。
(相変わらずの馬鹿力は健在か……!)
そう心の内に零すスカサハにも、欠点が存在する。
元々この世界での不安定な召喚だった所為か、スカサハは本来の力をほとんど出せていない。一種のシャドウサーヴァントと同じようなスペックになっている。それは、彼女が本来なら神霊という扱いで召喚することが出来ないという事に起因する。
尚、その状態でも魔力不足のクー・フーリンに遅れは取らなかったが。
クー・フーリンが追い打ちとばかりに、スカサハに迫る。
それに対してスカサハはいくつものゲイ・ボルグを顕現させ、クー・フーリンに向かって射出させた。
どれも必中の呪いが付いているために、クー・フーリンは自身のゲイ・ボルグで全ての槍を弾きながらスカサハに差し迫る。
スカサハはクー・フーリンに応戦する為にスカサハはカウンターを行動に選択した。
今現在、吹き飛ばされた際に得物は手放さざるを得なかったために、もう一本の槍しか手元にはない。だが、スカサハにとっては十分である。
クー・フーリンの攻撃に合わせて刺し違え、撃破、或いは蹴りなどを用いて吹き飛ばす事で距離を取る。
何せ、クー・フーリンの後ろに控えているのはサルバドールだ。
何をしてくるか分からない為に、早急にクー・フーリンは対処しなければならない。
そう思い、クー・フーリンの背後にちらりと見えたサルバドールを見るスカサハ。
当のサルバドールは、カルデアにいる時にギルガメッシュから使い方を学んだ黄金の波紋を出し、その中から何かを取り出した。
曰く、本人は言う。
基本はギルガメッシュからくれた鎖しか取り出せないよ。
俺があそこに入れれる所有物なんて、そのぐらいだし。
ただ。
貸してくれる、と。ギルガメッシュから許しが出れば話は別。
サルバドールが取り出したのは原初の地獄。その体現。
「は?」
スカサハは、この時初めて人生で驚愕したのかも知れない。
「は?」
クー・フーリンはやっと、自分の今から迎える運命に気付いた。
『クー・フーリン、ごめん。戦いに犠牲は付き物だっ』
まるで、悪戯を仕掛けた子供のようにサルバドールは。
乖離剣、エアを引き抜いた。
その紅き暴風は部屋一帯を破壊し、蹂躙し尽くし。
少なくとも、後に分かったのは。
高貴な城の下段部に大きな風穴がぽっかりと空いたという事実だろう。
さぁ、みんな用意はいいな?
せーのっ。
ランサーが死んだ!?