英雄育成の為に周回で狩られる腕の裏話   作:夢見 双月

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絶望とは、唐突に襲い来る理不尽である。


黎明の腕を持つ男 その三

『オラァ!!』

 

 ルーラーの頰に放たれた拳は命中し、そのまま後方に吹き飛んでいった。

 

『……やりましたね、サルさん!』

 

 藤丸立香がサルバドールにそのような声をかけ、笑みを見せた。しかし、サルバドールはルーラーの方を見ながら警戒を解かない様子を見て、藤丸立香も訝しんだ。

 

『……どうしました?』

 

『……さぁな。だが、さっきから嫌な予感がする』

 

 サルバドールは、自身の直感には自信がある。

 ルーラーとの決着はついた。しかし、いつだってそうだ。

 後ろには想像も出来ない敵が潜んでいるのがこれまでの旅であった。その今までの経験がこの状況に違和感を覚えていた。

 

 慎重に、サルバドールはルーラーに近づいていった。

 

 

「うっ……ぐぁ……」

 

『ほら、さっさと聖杯を返せ。テメェの願いだろうと上書きしてやるからよ』

 

「……無駄だ。我が願いは叶えられる。もう、どうにも出来ないぞ」

 

『願い……? そういや、人類の救済、だったよな?……待てよ、なら立香に何かしらの変化が起きてもいいはずだ』

 

「……なんだと?」

 

 

『聖杯が願いを叶えない? それはおかしい。なら、ルーラーが叶うと確信する要素がないからだ。……考えろ、他に何の可能性がある?……いや、待て、そもそもこの聖杯の……特に魔力の出処も怪しいぞ。俺達が使っている聖杯は本物なのか……!?』

 

「貴方……! まさか!!」

 

 

 

『まだ終わっていない。この世界には何かがある!!』

 

 

 空に上がった聖杯。いつのまにかルーラーと切り離されていたソレは、次第に怪しく光り始める。

 

「なんだ……?」

 

 呟くセイバーとは対照的に、警戒のために臨戦態勢をとる赤のランサー。

 

 黒い弓兵と黄金のサーヴァントもただ見ているだけではなく、僅かに目を細めて、その場を動かない。

 

 

 聖杯の光が不意に、黒く染まり始める。

 

 

『おい、ルーラー? もしかして、コレも人類の救済とやらに必要な行程?』

 

「……そんな、はずは……!」

 

『オーケー、取り敢えず後回しにしよう。まずは止めるか?』

 

 サルバドールが意気込んだ瞬間。

 辺りに聖杯から奔流が流れ出す。物理的な魔力の流動という形となり、それに直撃したサルバドールは押されるように飛ばされた。

 

『な、なんだぁ……!?……ぐぇっ!』

 

「な、なんだ!?……コレは!?」

 

 後ろで転がるサルバドールとは反対に、ルーラーは魔力の流れに包み込まれる。既に満身創痍であるルーラーに抵抗する力はない。

 

 

 ルーラーはそのまま中心に持って行かれ、徐々に取り込まれ始めた。

 

「グッ……!? ガアアアアァ……!!」

 

『ルーラーを吸収するつもりか!? やらせるな、《友の名を刻んだ鎖(エンキドゥ)》ッ!!』

 

 サルバドールはルーラーの事態を理解したと同時に、英雄王から渡された鎖を走らせる。

 友の名を刻んだ鎖(エンキドゥ)は応えるように、ルーラーの腰や腕に巻きつき一気に引っ張り上げて引き離した。

 

『よっと』

 

 気絶しているようなので、ルーラーはそのまま適当な所に置いておく。

 

 

 しかし、その間にも黒き奔流が捻れ、あり得ざる形へ変貌していく。

 

 

 

 

『おいおい、こりゃ……』

 

 目の前に現れたのは、巨大な腕。

 黎明をも破壊する、邪悪の神腕は唸りをあげた。

 

 

『もしかして、今まで殺された腕の恨みー……とか? 笑えねぇよこの野郎。どんだけ死んでると思ってんだ』

 

 

 腕の指の先から、微小な炎弾が無数に放出される。

 

 

「マスター!」

 

『問題ねぇ!! 全員で立香を守っといてくれ!!』

 

 セイバーがサルバドールに叫ぶが、当人はそう言って腕に接近を始める。

 

 一気にカタをつけようと、干将・莫耶を投影。そのまま斬り込んだ

 。

 

 刹那、サルバドールが右手に持っていた剣が彼方へ飛んで行った。

 

 目を見開きながら、サルバドールは驚愕した。

 自分が今、浮いている。

 目の前の腕に浮かされているのが分かる。だが、足掻こうと暴れても全く動けずに上昇していった。

 

 そして、目の前の小さな太陽が映る程にまで空へ上がり。

 

 

 

 小さな太陽は。

 

 

 

 サルバドールに向かって衝突した。

 

 

 

『うおおおあああ!!』

 

 一切逃げ場がない状態での、自身を燃やし尽くす一撃。

 喉が潰れるぐらいの雄叫びをあげて、サルバドールは右手を前にかざした。

 

『《熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)》ッ!!』

 

 咄嗟に唱えた宝具名によって、目の前に四つの花弁が咲き誇った。

 展開した盾は太陽を受け止めるが、浮いた状態というのは踏み込みがつかない。

 粉々に砕け散り、恒星の爆発する事によって完全に崩壊した時。

 

 爆発の衝撃によって、サルバドールは血を撒き散らしながら遠くの森まで放物線をなぞって飛んで行ったきり、見えなくなった。

 

「マスタァァアア!!」

 

 セイバーが悲痛の念を隠しもせずに叫ぶ。

 その慟哭には静寂しか帰ってこなかった。

 

 

 

 

 




たった一瞬でサルバドール退場。

一転、窮地に陥る事になる一同は、勝利することが出来るか。

世界が、敵だ。
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