急に生き返るし。そう思ったら今度は無限に死に続ける地獄を見た。
それでも『住めば都』なんて言って。
結局のところ、俺の今までの人生で楽しくなかった事なんて一度もなかった。
黒く透明な雨に打たれ、倒れたセイバーが剣を杖代わりにして起き上がる。
藤丸立香には何が起きたのかが、理解出来なかった。
慌てて駆け寄り、セイバーを襲おうとする雑魚敵の掃討を担う。
幸い、目の前の巨腕は攻撃頻度が低いらしい。また掌に魔力を収束させているのは分かるが、時間が必要のようだ。
しかし、セイバーが食らったのは毒なのか……? それにしては、自分に変化はない。
後に、藤丸立香自身に毒をはじめとした耐性が付いているため、本来ならマスターにも影響があるこの雨が効かない事が幸運ではある。
そうしている内に黒い雨もすぐに止むが、セイバーの様子は依然優れない。周りの敵を撃破し始めるが、その動きに先程までの機敏さは一切なかった。
『大丈夫!? セイバー!!』
「問題ない……と、言いたいが……。今の雨のようなものはマズイらしい……! 相当に消耗してしまったようだ……!」
『何で……!?』
「う、うぐっ、……あああ!!」
目に見えて苦しみ出したセイバーの肩に触れる藤丸立香。その時、背中から隆起するものを見た。
それはセイバーの皮膚を波打たせ、ゆっくりと全貌を見せるように体外に放出される。しかし、それ自体は生々しいものではなく、比較するのはおこがましいとは思うが、あの黄金のサーヴァントが宝剣を出す時のような光景に似ている気がした。
彼女から出てきたもの、それは結晶である。
ただし、見た事こそあるが、サーヴァントから出て来るものとしてはあり得ないもの。
『……それは、黎明の腕を倒した時に地面に転がるアレ……!?』
「の、ようだ……! ……これはどう見ても種火だろう。……っ、どうやらアレは種火を作る素の成分のようだ……! 体内で強制的に生成される上に、かなりの魔力を持って行かれる……!」
『待って!? さっきの雨は広範囲で降ってた! なら、他のみんなも……!!』
「可能性は高い……! 幸い、私から生成された結晶は白くてまだ小さいが、魔力を持っているなら金色の種火が生成されると共に、私以上の魔力を持って行かれるぞ!」
「はぁ……、チクショウ。槍すらマトモに持てねぇってのは、つれぇな……」
「どうしたセタンタ。身体が鈍いぞ?」
ケルトの師弟が互いに背を預け、そう零した。
既に2人の手には槍は握られていない。槍を現界させる魔力すら惜しいと悟った当人たちが徒手空拳に切り替えていた。
「師匠はなんで魔力奪われたのに元気なんだよ。俺よりも魔力持って行かれただろうが」
「魔力不足だろうとなんだろうと、戦い抜かねばつまらんだろう?」
「はっ、まったくそうだなぁ!! だがよ、アンタも随分と鈍くなってるぜ?」
溢れ出るスケルトンの頭蓋を蹴り抜きながら、青いランサーが受け答える。
周りをみれば、全員が似たような構図であり。赤のランサーと黒人のアーチャーが背中合わせで迎撃していたり、特に黄金のサーヴァントは魔力が奪われていると察したや否や、耐久性の高い宝剣一振りを事前に取り出し近接戦闘を行う程である。ちなみに、一番魔力を奪われたのも黄金のサーヴァントである。
「ええいおのれ、大人しく自決でもしているがいいっ!!」
悪態をつきながらも応戦するサーヴァント達。
しかし、宝具による面での攻撃が魔力不足で使用不能になった今、無理に使おうとすれば自身が消滅しかねない。
消滅覚悟の攻撃をしたところで事態の好転は難しいだろう。
黄金のサーヴァントのすぐ近くでは、負傷した右手で日本刀を振り下ろすルーラーの姿もあるが、こちらもいっぱいいっぱいのようで中々に苦しい戦いになっている。
藤丸立香が巨腕に挑もうと近づこうとしても、セイバーに気を取られて巨腕の元に向かえない。単純にこれは甘さであるが、そのせいで突撃の奇襲要素が意味をなさなくなり、現在不利な状況に陥っている。だが、藤丸立香1人で立ち向かったところで無謀であり、結局のところ、雨が降る前に決着はつけるべきだったのだろう。
ついに、まともに動けなくなったセイバーが悪態をつきながらも、周囲から守ってくれている藤丸立香に、「自分は大丈夫であることを伝えたい」。勿論大丈夫ではないが、そちらの方がまだ勝てる要素はある。それでも、サルバドールの様に無力化された後にやられなければの話だ。今はそれすら告げる事も出来ない。
徐々に、バラバラだったサーヴァント全員がセイバーの地点まで後退してきた。
そしてタイミングの悪い事に、巨腕のエネルギーが溜まってしまい、サルバドールを吹き飛ばした小規模太陽が放出された。
「皆さん、衝撃に備えてください!!」
ルーラーが黒鍵を光球に投げ付け、比較的遠いところで爆発を誘爆させた。それでも、威力の高い光球は全員を巻き込んだ。
全員が被害が少なくなる様に動き、藤丸立香は動けないセイバーを庇って共に転がっていった。
瓦礫の中での擦れは擦り傷だけでなく、尖った石に刺さったり大きな石に思いっきり身体を叩きつける事もある。
城の端まで跳ねながらも、地面を背中で滑った藤丸立香は背中に受けたダメージによって動けない程度には重傷だが、藤丸立香は自分の身体に鞭を打って上半身だけでも起き上がらせる。
近くはないが、遠くもない敵。
他のサーヴァントのみんなも衝撃を食らって吹き飛んではいたものの、未だに闘志の炎は消えない。
セイバーも迷惑をかけたとばかりに立ち上がるが、かなりフラついている。
ふと気づいた。周りに魔力の粒子が微かに見える。
特異点Fで見た、シャドウサーヴァントが消失する際に変化して霧散するもの。
つまり、至るところで……サーヴァントの近くでも見えるソレは、自分達に対抗できるチカラがない事を明確に示している。藤丸立香はそう思い、拳を強く握る。
もう。……ダメなのか。
邪悪な巨腕は収束させたものを再度黒く変色させ、上空に撃ち放った。
魔力を奪い、種火の結晶を強制的に生成させる雨。
青いランサーが駆け、黒肌のアーチャーが射るために構えるが、どちらも近くの敵に妨害される。
その黒い球は徐々に破裂せんと膨らみ。
その手前に影が飛び出した。
『東方の三博士』
その青年は。
『北欧の大神』
自分によく似た。
『知恵の果実』
右手が異形となりつつも、一時は右手が本体だった。
『そんなもんはどうでもいい』
もう一人の、藤丸立香。
『我が光、我が万能は、あらゆる奇跡を凌駕する––––!』
「ふん、遅いわ……戯けめ」
『《
サルバドールが放った万能の光は黒い球と混ざり合い、何も存在しなかったかの様に消滅し、相殺した。
『藤丸立香。……一度だけだ』
目の前の青年が呟く。
小さくともそれは、藤丸立香にはっきりと聴こえた。
『俺を使ってみろ。–––––––
クラス:アンノウン(全てのクラスに該当しないため)
真名『藤丸立香(サルバドール・アニムスフィア)』
マテリアル
先人でありながら、違う結末を迎えた藤丸立香のイフ。それでありながら、経歴があらゆる藤丸立香の可能性の中でも特異であり、英雄の座に招かれる程の実力を持つ。その正体は、参加者が全滅したとされる第二次聖杯戦争の平行世界線にて召喚されたキャスターの宝具により、「もし兄が早死にせず人として生きていたら、というたらればの芸術作品」となって転生したキャスターの兄。「完全な人間」として造られた人形だったが、元々幼い頃に死んだ人物の為に人格が形成されておらず、最初に転生した世界が人格に影響を与えた為に価値観が一般人と同等に近い状態になっていた。
彼の起源は『融合』。弟であるキャスターの宝具の影響と血の繋がった兄弟の為か、キャスターの逸話に近い起源となった。その起源で、死ぬはずだったオルガマリー・アニムスフィアをカルデアスごと融合し、また分離に成功する。この時点で真っ当な人間ではない事を自身が自覚した為に「人類最後のマスター」をオルガマリーに定め、自分はあくまで戦力が不足した分のサポートに回り、共に人理修復を進めていった。
起源の『融合』と融合したカルデアスの歴史観測を併用する事で、ほぼ完全な解析の下で英雄の座にいるサーヴァントを投影し、自身と融合させる「霊装投影」を使用する。神霊から英霊に格下げして召喚に応じるサーヴァントも投影できるが、神霊そのものを投影すると耐えきれずに爆発四散する。
終局特異点にてロマンやダヴィンチと共謀する事で、オルガマリーとマシュを連れずに単身終局特異点に突入、ソロモンの宝具を投影する事で結果的に相討ちの形になり、終局特異点の崩壊に巻き込まれ姿を消し、最終的に3人の命を救う結果になった。しかしこのソロモンの宝具の影響により、彼は座から消滅したために聖杯戦争で召喚される事はない。
彼は本来の姓を名乗る事を「弟の方が有名なんだ、なら、わざわざ穢す事もない」と嫌うために藤丸立香又はサルバドールと呼ばれる事が多く、わざわざ実際の姓で呼ぶ者は居なかった。真名での姓はアニムスフィアとなっているが、これは自称であり結婚はしていない。
「結婚する前に死んじまった。あははは」
この後なんらかの事件が起き、偶然にも黎明の腕となって転生し直す事になったのが今回の話である。
ちなみに、藤丸立香というキャラクターと事故という形で『融合』する前は、FGOというアプリが存在した世界にいたために、メタ要素には少し理解がある。その時のセーブデータは終局特異点をクリアしてエンドロールを迎えた所で止まっている。