これより下のあとがきにて報告がございます。
よろしければご覧ください。
藤丸立香は夢を見た。
白昼夢。
先程までサルバドールの隣で必死に剣を振っていたのだから、現実感のないこの場所が夢だと確信するのに時間はかからなかった。
暗い世界だった。
周りに何かあるのかも知れない。手を伸ばすがただ空を切るのみ。
誰も、何も、いない世界。
酷く、つまらない世界だった。
目の前に光が灯る。その光の中から、一つの情景が見てとれた。
それは、幼い少年が墓の前にいる光景。
少年は目を見開き、驚きを隠さないままに墓に刻まれた文字をなぞる。
微かに口が開いているまま固まっている少年に対し、父親が告げる。
これはお前の兄だ、と。
父親は、兄が早くして死んでしまった事。その墓がそれである事。そして。
目の前の少年に、兄と同じ名前を付けた事を告げた。
その時の少年は何を思ったか。
きっと碌でもない事だろう、と誰かの声が藤丸立香の心に響く。
少年は確かに嗤っていた。
光が消えてゆき、別の光が後ろから輝いた。
藤丸立香はおもむろに振り向く。
別の少年だった。リビングに入ると父親と母親に笑顔で迎えられた少年は、微笑ながら家族の輪に入っていた。
制服のままの少年はスマホを取り出し、ゲームを起動する。
普通の人間としての生活を送っていた。
友人と学校に向かう途中、車に轢かれるまでは。
意識すら朦朧としている少年は、スマホから電話をかけようとするが指に力が入らない。友人が既に救急車を呼ぶために電話をかけている事すら気付かずに少年はスマホを握りしめる。
やがて、手から零れ落ちた。
落ちる直前に誤まって画面に触れたせいか、ゲーム画面に切り替わる。
その少年に死への恐怖はなかった。
何故か、既に経験した気がしたから。
代わりにあったのは落胆。
また俺は死ぬのか。自身に問いかける少年。
画面を覗く。
ああ、せめて。
俺もこのゲームの様に、華々しく生きたかった。
そう言って、その少年は光に消えていった。
上の方にまた光が現れる。
憐憫を想う獣と、完璧を謳う人形。
互いに、人ならざるものが相対し、人形は切り札を切る。
我が人格に意味は無し。
絶えず変容せし体に、ひと時の在り様を。
人の生き様を真似るしか能のない俺が、唯一見せられる英雄性。
「《
目の前の敵を倒す道を切り開くため。この命は惜しまない。
その鋼鉄の意思で貫いた宝具は、最後の敵の在り方を損ない。自分は呆気なく消滅した。
女の人が叫んだ。その直後に目の前にいる盾を持つ少女の名を怒鳴る様に叫ぶ。
同じく涙を流しながら、少女は盾を強く握り突貫した。
「我が消滅を以って、人理焼却も消滅する。だが……最後の勝ちまでは譲れない……! 始めよう、カルデアのマスター。お前の
「そうだな。お互い、勝利などは無かった。お前は負け、俺は良くて自爆による相討ち。今も自分の体が残っているのが不思議でならないが……。さぁ、幕引きと行こう。僅かな意地をも持っていけよ、ゲーティア!」
自身の神殿が崩落していく様を尻目に。
少女達の背中が見えなくなったのを確認し。
人王ゲーティアは指輪を正面に掲げ。
サルバドールは歪な剣を前に構えた。
「ここまでか……。いや、ここからだ……!」
最期の一撃がサルバドールの胸を貫く。
吐血しながらも、乖離剣を杖にして尚立ち上がる。
何かを呟いたのを、藤丸立香は見た。
その眼は決して屈する事なく、勝つ為に前を見続ける。
その景色を乗せた光は消滅し、この世界の一部となって消えていった。
その後、彼と敵の間でどんな戦いがあったのかは分からない。しかし藤丸立香は分かった気がした。
目の前に、男の背中が現れた。
彼こそ、世界を救った英雄なのだと。直感で理解した。
『貴方は凄い』
「凄くなんかない。沢山の人、英雄が……みんなが助けてくれた。これからも多分、頼りきりになってしまうだろう。でも俺にはそれしか生き方を知らない」
『貴方は英雄だ』
「英雄なんかじゃない。ただの人間と欺く、人間ですらない何かだ。そんな存在でさえ、たった一人の涙を拭う事が出来ない」
『貴方は救われるべきだ』
「その必要はない。俺は既に満たされている。これ以上は野暮というものさ。これ以上の幸運を、俺は持てない」
『それでも』
「ああ……それでも。世界を救ったんだ。もし生まれ変わっても、俺のこの生き方は変えられない」
「きっと、あの時は全てが奇跡だったんだろう。それに甘えているのかも知れない。それでも俺は戦う為の力を手に取る」
サルバドールが想起するは、最後の決戦。
あり得ない事を、あり得ないままに引き起こした。
サルバドールだけの宝具。
「我が真なる宝具。その名は天邪鬼が如く……」
「《
サルバドールが引き抜くとともに世界が光り輝いた。
元の世界に戻ってきて安堵する藤丸立香だが、周りの様子がおかしい。
サーヴァントが一人もいない。黄金のサーヴァントですら姿を消した。
まるで……。そう言おうとして、後ろを振り返る。
変わらぬサルバドールの姿。
そして、その右腕に抱えているのは。
『よう、待たせたな』
聖槍ロンゴミニアドのように長くなり、九つの螺旋を描く乖離剣だった。
次回、最終回。
少々長くなるかも知れません。
遅れたらごめんなさい。