英雄育成の為に周回で狩られる腕の裏話   作:夢見 双月

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エピローグ編開始。

と言っても、これ含めて後二話、多くとも三話を予定しているため、長くないです。

まずは、藤丸立香という少年のその後の話。


Epilogue その後の話。
サルバドールが遺したモノ


 俺は、あの時。

 

 もう一人の背中を見た。

 

 薄れていく意識の中で、それだけは覚えている。

 

 

 彼から受け取ったもの。見えないものではあるが、確かにそこにある何かを自分は受け取っていた。

 

 だから。

 

 

 

 

 藤丸立香は結論から言えば、夢から醒めるように特異点Fに戻った。

 先に起きていた所長に呆然としていた事を怒鳴られてしまったが、それまでは今までの事が白昼夢の様なものだったと理解する事でいっぱいいっぱいだった。

 

 

 

 もう、ほとんど覚えてはいない。

 

 

 辛うじて憶えているものと言えば、誰かを名乗る藤丸立香という自分であって自分ではない存在。

 

 聖杯を使って、自分を返してくれたその人の背中。

 

 

 それと、何より考えたのは。

 

 

 

 向こうの藤丸立香が見せた、救いの残滓。

 

 

 ふと、思い出した彼との会話に、気になる言葉があった。

 クー・フーリンには悪いけど、大聖杯とやらへ突入する前にやらなきゃいけない事がある。

 

 もう少しだけ準備があると告げて待ってもらい、管制室に連絡をとる。

 

『ロマニさん、聴こえる?』

 

「どうしたんだい、藤丸くん? 物品の転送なら相談に乗れるよ」

 

『その前に、こちらのメンバーに知られたくない事がありまして。聞かれない様に出来ませんか……?』

 

「……現時点ではマシュ、所長にも聞こえないように設定されているよ。でも、場合によっては後で話す必要も出てくるだろう。それとも、後ろめたい何かがあるのかい?」

 

 

 

『……もしかすると、この特異点で所長が死ぬ可能性があります。……もしくは、もう……手遅れの可能性が』

 

「なんだって!?」

 

『戯事かも知れません。……まるで本当に起きるような悪夢を見ました。昔からこういう悪い予感は当たるんです。絶望しながら死んでいく所長を見てしまったんです……!』

 

「落ち着くんだ藤丸くん!」

 

 

 当然、でまかせで吐いた嘘だ。

 彼に聞いていなければ、所長が危ないなんて誰が知れる。自分には所長を救う方法なんてない。

 

 

「まだ決まった訳じゃない。こちらも動向は細かくチェックしているし、所長がそんなっ……いや、死に急ぐような人でもないハズだし……」

 

 

 渋るのは分かっていた。だが、話を聞いた時は細かい事は教えてくれなかったし、話してくれたとしても憶えていない。

 

 

 ならば。

 

 

 所長が危ないと知って尚よく考えれば、この考えには誰もが気づくはずだ。もしかすると、なんて思えばそうとしか思えなくなるぐらいには。

 

 

「ロマニさん。あの爆発に一番近かった人って……誰ですか?」

 

 

 

 

 

 特異点Fから無事に帰還出来た後、思索に更けながら藤丸立香はカルデアの廊下を歩いていた。

 

 あの後、ダヴィンチちゃんと名乗る女性(?)が介入、オルガマリー所長の状態に気付いたロマニ達管制室の方々が対応策を練り始め、ダヴィンチちゃんに「特製タマシイスイトール」という胡散臭くて訳の分からない物を渡された。

 

 結果だけ言えば、精神体をデータ化して保存する云々。一応所長は助かったという認識でよかったらしい。

 

 だが、これでよかったのか。

 

 ブドウ糖の飴を袋から取り出し、口の中に放り込む。

 

 確証はないが、何かの道を踏み間違えたかのようなそんな感覚が体の中で今も駆け巡っている。

 でも、彼も自分と同様に助けている。

 

 いや、これでいいんだ。

 なんにせよ、所長が危ないという話を聞いただけで自分は黙っていられなかったんだ。その行動に後悔はない。むしろ自分自身を誇るべきだろう。

 

 うん。

 だから、レフから遠ざける際に胸を揉みしだいてしまったのも事故だ。

 しょうがない。うん。

 なんか喘ぎ声が漏れてた気がするけど何もない。何もないんだ。

 

 マシュはその時にゴミを見るような目をしていたけど……。

 

 俺は無実だ。

 

 

 そう自分に言い聞かせながらいると、白衣を着た青年が歩いてきた。

 

『あっ、ロマンさん』

 

「あだ名なら呼び捨てでいいよ。藤丸くんの方は眠れないのかい?」

 

 そういえば、夜だったか。

 レイシフトで飛んでいる時とカルデア内は時間が微妙に異なるのと、そもそも興奮が勝って眠れない。これは事実だ。

 

「そうですね、昨日の今日って感じで。……これから頑張らないとですね」

 

「無茶なことを言ってごめん。カルデアは人手不足だから、裏方だけでも十分嬉しいんだけど……」

 

『あっ、そうだ』

 

「?」

 

 ロマンに目を合わせて、にこやかに告げる。

 

「実は…俺も藤丸立香って呼ばれるよりは、あだ名で呼ばれたい派なんですよ」

 

『そうなんだ。どんなあだ名なんだい?』

 

 思い浮かべるは、彼の名前。彼と同じように藤丸立香が何人もいるとするなら、もう一つの呼び名は必要だ。

 どうせなら、俺らしい名前がいい。

 

「俺の名前は––––––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、微小の特異点が発生。後に「フリークエスト」と呼ばれる様になるその場所の存在を聞きつけ、黎明の腕と戦う事になるのは別の話。

 ついでに言えばこれから先、藤丸立香がサルバドールに会う事はなかったという。

 

 

 

人理修復の旅は続く。

 

藤丸立香編、完。

 




次回、サルバドール編エピローグ。

明日投稿したいですが、明後日になるかも。

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