ゴルドとホームズが話す事は、違う視点からの同じ話を統合したものだった、
ゴルドは実際の体験を元に。
ホームズはマシュ達が救出に向かった後、待機中に聞こえてきたスピーカーを通して。
それは、二人が怪しい変態の話を展開する数時間前のこと。
カルデアスのある管制室前。
その時、私兵が全滅したゴルドは第三勢力に追い詰められていた。
(コイツら……思い出した……。
自分の身を守るのは己のみ。
今までの人生の運の悪さを嘆きながらも必死に足掻く。
その言葉にマシュやオルガマリーが反応し、救援をしに向かったが。
二人よりも、その言葉に応えた人間がそこにいた。
「
「なら、俺が認めてやる。俺が愛して……はやれないな、流石に。男だし。その趣味はないし。まずは退く事だ、殺す事しか知らない傀儡共」
オプリチニキの集団が、一瞬にして蹴散らされる。
その男は異形であった。
オプリチニキを瞬殺する力を見せながらも、その体躯は筋肉質でありながら細く締まっている。
特に右腕は、肘から先が神秘の腕を移植したかの様に常人の肉体とはかけ離れたものを持っていた。
それでありながら。
「へ、変態だぁぁあ!?」
「誰が変態だぁぁあ!? どう見ても『おお……!我が恩人……!』って感謝するところだろうが! もっと敬え、俺を!!」
その男、サルバドールは未だに全裸であった。
「なんなんだお前は!? お前も敵なのか!?」
「あー?……んー味方ではないかもしれんが、少なくとも敵ではないって感じかな? そんな事より、人探しをしていてね。ここの所長さんを探しているんだが心当たりはないか?」
「私が知るわけないだろう! 奴らの待機場所は設けていたが、この騒ぎなら十中八九奴らは逃げ出している! この私を置いてな!」
「……ふーん、あっそ。とりあえずはここにいるんだな?……ふっ、そうか」
「貴様は何処から来たんだ!? カルデアに貴様みたいな奴がいる報告は受けておらんぞ!? 私達の軍隊にも所属していない筈だ!」
「それは……すっごい言いづらい事情があってなぁ……。まぁ、細かいことはいいんだよオッサン」
「私オッサン!? 小僧にオッサンって呼ばれた!? このゴルドルフ・ムジーク……」
「長いッ! 三文字まで!」
「せめて名乗らせて!?」
サルバドールはゴルドを無視して、カルデアスを見やる。
以前とはかけ離れた、かつて自分の分身とも言えた機械。
これからはカルデアスからの恩恵は受けられないと悟る。英雄の模倣も出来なくなるだろう。
それでもサルバドールには、今まで英雄達から受け取ったモノがある。ならば、前に進もう。
そう思って考えを振り切り、ゴルドに向き直る。
「俺はこれから生きてるみんなを助けに行く。オッサンはここで待っててくれ」
「な、なんだと!? この私を助けに来たのではないのか!?」
「優先順位はあるだろ。それに、ここの雑魚どもが全滅した事が周囲に知られない限り、かえってここが安全な場所になる。俺は今からどっちかって言うと危険な方向に行くからな。オッサンは足手纏いだ」
「頼む、お前しか助けてくれる人間はおらんのだ!!」
「……いるさ。俺が行くのは、ピンチでどうしようもない事態に陥っていた時のための切り札だから。あいつらならきっと死なないとは思うけど、もしものときのために俺はいる。……過保護かもしれないけど。……それに、オッサンの叫び声の中に聞き覚えのあるフレーズがあってね。あいつらならきっと逃げる直前だろうとここへ助けに来るさ。……もしくは俺が戻ってくるが、来れないのはほぼ負傷のせいと見ていいだろうよ」
「何故、そこまで信用できるんだ……?」
呟くようにゴルドから出た言葉に、サルバドールは返す。
「事あいつらに限って、信用出来なかった事がないからさ」
「……おい! クサい台詞を吐いてそのまま行くな! 服を着ろ!」
「お、ありがとう。助かるわオッサン。オラ、早く脱げ」
「誰が私のモノを貸すといった!? そこのオプリチニキのモノを着ればいいだろうが!!」
「あーそう言う事ね。……じゃあ失礼して……」
これがゴルドルフ・ムジーク・ユクドミレニアがカルデアの面々に救出される数分前の出来事である。
その後。
管制室を離れダヴィンチちゃんの工房に寄ったサルバドールは、工房内での探索によって一つの解を導き出していた。
いつも通りの工房内。いくらお世話になったか分からないぐらいにはよく来た場所でもあるために、大体の芸術作品の配置は覚えている。
だからこそ、サルバドールが感じた不審な点は、彼にとって分かりやすいモノだった。
(ダヴィンチちゃんの工房の芸術作品は微妙に動いているだけで特に変化はない。おそらくこの騒ぎの影響で揺れた所為だろうが……それとは別に、普段と
彼が感じたのは、ダヴィンチちゃんが何もしていないはずがないという認識。
例えば、カルデアに置いておけられないモノを念の為に持っていくための発明品。又は、瞬間的に退避することの出来る発明品。
そのどちらかはあってもおかしくない。
事実、ダヴィンチは前者の通りに、『英雄の座』のデータをトランク型ケースに入れる事で持ち運べる様にしていたと後に分かったが。
(それらがここに無いという事はダヴィンチちゃんが実は緊急時の事を何も考えてない馬鹿だったか、もしくは脱出の目処が今既に立って移動しているか、のどちらかだ。……この場合なら断然後者だな。ダヴィンチちゃんふざけてる時はふざけるけど決して馬鹿じゃないし。だって英雄だし、万能だし)
かつて、工房の奥にしまっておいたあらゆる発明家サーヴァント合作で仕上げた発明品を引っ張り出しながら、かつての仲間の元へ捜索に向かった。
「––––––というか、コンテナから脱出なんて想定外でしたが」
「ふむ。とは言え、13名もの尊い人命だ。……後は任せてもいいかね、コヤンスカヤ君?」
「ええ。業務時間外ですがサービスいたします。こちらにもプライドがあるので」
ダヴィンチの心臓を貫手で貫いた神父、言峰綺礼はコヤンスカヤと呼ばれる女性に声を掛け、コヤンスカヤもそれに応えるようにライフルを持ち上げた。
二人の目的はカルデアの襲撃。ゴルド諸共、破壊活動及び殺害をする第三勢力として猛威を振るい、カルデアの体制は完全に崩壊したと言っていいだろう。
中心的なメンバーはコンテナから氷山を滑るように逃げられたが、頭脳の役割をカルデアでになっていたキャスターのダヴィンチを始末している。彼らに反抗の力はないだろうと、追い討ちを掛けようとした瞬間である。
「むっ……!」
「っ!?」
爆発が起きた。
その大きな音は、カルデア内部から起こったようだ。
「……むっ、まだ反乱分子がいたのかね?」
「キャスターとは別に、もう一体のサーヴァントを残していたカルデアの事です。我々の妨害策を講じていてもおかしくありませんが……」
コヤンスカヤはそう言いながら、言葉尻をすぼめた。
妨害策にしては、大雑把過ぎる。大きな音がしたからと言って、直接的に邪魔になったとは言い難い。何かの前兆か、はたまた何かあると見せかけたフェイクか。
悩む事もなく、コヤンスカヤはライフルを構えた。
少なくとも、この程度の妨害なら取るに足らない。そう判断しての行動だったが。
ライフルのスコープを覗いたコヤンスカヤは、思わず声を漏らした。
「は?」
スコープの先には、カルデアの生き残りが避難したコンテナ。
そして、それをバイクで追いかける
サルバドール自体、何故コンテナの中にカルデアメンバーが居るのかは正直把握していない。ただ、なんとなくではあるが、このタイミングでコンテナを落とすならば、それはきっと人間の運搬であると推察したに過ぎない。
というか、「えっ、アレで脱出してるくない?」と、完全に乗り遅れているためにかなり焦っているのが現状である。
カルデアの壁を突っ切る為に破壊した為に、大きな破壊音を出したのもサルバドールである。
もう、アクセル全開であった。
彼が乗っているバイクは、エジソンやテスラを始めとした発明系サーヴァントがこぞって改造したモンスターマシン。
このまま行けば確実に追いつくスペックを誇る。
だが、危険を察知して右方に咄嗟に避ける。すると、先程いた場所に何かが通り過ぎ、前方のコンテナに直撃した。
「うおあ!?」
流石に面を食らったサルバドールは後方に目をやる。しかし、カルデアが随分と遠くになっているために、カルデアからの狙撃とは分かっていても敵の正体までは把握出来ない。
誰がやったのか。そう思う間も無く、前方のコンテナからその表面の壁が剥がれ落ちていく。
培った運転スキルで難なく障害物となった破片を避けたサルバドールが見たのは、前方を走る大型の車両。
「ええええ!?」
コンテナの中からトラックが出てきたぁ!?
トラックが雪面を降りていくのに対し、加速をかけて追いかけるサルバドール。
困惑と同時に、焦りを見せるサルバドール。
彼の頭の中にはある疑問がこびりついて離れない。
なぜ、コンテナから出てきたのは車なのか。
傾斜を下るだけが目的ならばタイヤではなくスキー板のようなものをつけるべきだし、海に脱出するならば水陸両用車の形を構築するべきなのにそのような外見ではなかった。素人目からしても、普通にこの氷山から脱出するようにはどうしても思えないのだ。
では、彼らはどうやって脱出するのか。
モンスターマシンの上に立って、トラックに向かって跳躍する。
嫌な予感がする。ここでこのトラックに接触しないとまずい。そんな結論がサルバドールの頭に駆け巡った。
そのトラック、シャドウボーダーの虚数空間への潜航。サルバドールの跳躍。そしてカルデアからの狙撃によってバイクを爆破させたのは、ほぼ同時にの出来事だった。
「うおああああ!?」
バイクの爆発は小さなものではなかった。カルデアの室内で80キロは出る発明品であり、機体に貯蔵されていたエネルギーもジェット機レベルの規模であった。それ故に、ロマンや所長に激しく怒られた上に厳重に管理されてしまうほどには。
それ程の加速を持つ乗り物であったからこそ、今回は最適なものだったと言える。
結果的に、サルバドールは間に合ったのだから。
「エ……《
かつてギルガメッシュから貰い受けた、神秘だけが上乗せされた普通の鎖。自分の意思のみで自在に操れるその鎖によって、かろうじてしがみつく事が出来た。
あのバイクの爆発によって態勢がかなり崩れていた為の、やぶれかぶれに鎖を振り回したに過ぎない稚拙な考えではあったが。
そのままシャドウボーダーをよじ登ると、体から空気が抜けたかのように倒れた。
「あ〜疲れた! ひんやりしたトラックがゴリゴリしてるけど気持ちいいなぁ! やっと静かに休められる!」
カルデアに訳がわからない内に戻ってきてしまったサルバドールは、今までリラックスして休む事なく動き続けてきた所為で疲労困憊であった。
「まぁ、休ませてくれる事なんてないよね」
「そうだな」
刃がしなり、サルバドールの首にかかる。
それから逃れる為に後ろに転がるように飛び上がった。
「シャドウボーダーの存在を確立させた際に出没した異物。原因はお前だな」
「異物って……俺がここにいる事だよな? よく分からんが、邪魔者になってしまったなら申し訳ない。この車の中に入れてくれれば異物扱いではなくなると思うが」
「異物ではなくなるだろうが、不審である事に変わりはない。それに……」
当然現れたサーヴァントから繰り出される袈裟斬りをやや大袈裟に避ける。
「その異形の右手。怪しさだけで言えば問答無用で切り捨てられるだろうな」
「……やっぱり分かる? 抑えてる訳じゃないから、服の上からでも十分に分かるか」
「何者だ。お前は敵か?」
サルバドールはオブリチニキのマスクと帽子を掴んで、問いに答える。
「それは君達が決める事だ、新顔さん。俺は最早、何者でもない」
「なっ……!? そんな、その姿は……!?」
そのサーヴァントは顔を見て驚愕に顔を染めた。サルバドールは布地の中から右腕も露出させる。
「そちらの対応を聞こうか、セイバー。……いや、アルテラと呼んだ方がいいか?」
「マスター……! まさか藤丸立香という名前は––––––!」
「かつてはその名前で良かったんだがな。ある宝具のおかげで、名前諸共消え去ってしまったんだ。一回な。だから、今は正しくない。代わりと言ってはなんだが、別に使ってた名前があるからそっちなら通じるかな?」
「念話で伝えてくれ。サルバドール・アニムスフィアが死ねずにのこのこ帰ってきた、てな」
正直、みんなに会うのは怖い。
無事に帰る。それを裏切って自分自身を取り残したのだ。
散々泣かれるだろう。沢山怒られるだろう。軽蔑さえされるだろう。
それでも。
真っ先に帰ってきて思い浮かんだのは、カルデアにいたメンバーの事だったんだ。
それに……。
待たせてしまった女性もいる。
でももし、許されたなら。共にまた冒険を繰り広げる事が出来たなら。
その時は、思い出話に花を咲かせる事にしよう。
俺はもう、藤丸立香という存在ではない。だから、これからは以前会った
それがいい事かは分からない。別の結末になる事は間違いないだろう。それでも俺は進むだろう。
さて、彼らに今までの事を話すならどんな題名にしようか。
中々、上手いのが思いつかないな。
少しダサいかも知れないが、取り敢えず題名をつけるなら。
『英雄育成の為に狩られる腕の裏話』だ。
さて。話すなら、俺は何回死んだかを思い出さないとな。
完。
ここまで見ていただき、ありがとうございました。
少しでも楽しんで頂けれたのなら幸いです。
……まさか最終回直前で失速からの失踪になってしまうとは露ほども思わず、遅くなり申し訳ございませんでしたぁ!!
スランプ(なんか書けん)&リアル忙しい(なんか時間がない)&最終回構成やり直し(なんか違うと思っちゃった)が重なって勝手にヤバい事になってました。
ちまちま頑張って書いてましたけど、ここまで牛歩になってしまったのは自分の責任ですね。申し訳ない。
この後は……取り敢えずFGOやりますかね。最近碌に触れてないので、全然進まないんです。
ん? フレポ? 星5の種火……ほーん。
サルバドールの右腕って確か……ふーん。
フレンドガチャの中心で触媒にされるサルバドールの図が思い浮かんだなぁ。
……えっなにそれ怖い。
それではまたどこかで。
さいならー。