ガタンッ
「っ!」
一郎はとびきり大きな衝撃で、目覚めてしまう。
「いたた……でも、よくねたぁ……」
欠伸をして全身の筋肉痛と振動による体の痛みを感じる。
(あれ? これ、藁? 違う……むしろかな?)
一郎はむしろと共に、背中に誰かいることを確認する。
直感でわかった。この背中合わせで寝ている子が、このむしろを持ってきたことを。
「ありがとうな。もう、俺は大丈夫だ」
そういって、むしろを子供にかけなおして、足先まで覆うようにしようとした。
「坊主」
「! な、なんですか?」
壁を背にして寝ていた初老の人が、一郎に眠気を含む低い声をかける。
「お前を気遣ったんだ。甘えとけ」
「ですが……」
「お前はまだ、子供だろう。大人のいう事は素直に聞くもんだ」
そういわれると弱い。
一郎は子供に寄り添って、再度浅い眠りに落ちていった。
……
ガンッゴトゴト
「皆さん。一度休憩にしますよ」
「うごごご……(か、体が痛い……)」
しかし長距離の砂利道を、軽トラの荷台で運ばれた時よりまだましだった。
「ほらほら、起きろ起きろ。何時魔物が襲ってくるかわからないからな」
「え、魔物がいるんですか?」
「いるが、今はいないだろう」
寝るために用意した布を片付けている皆。
初老の人も、一郎に声を掛けながら外に一度出るために準備している。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫。背中がちょっといたいだけさ」
一郎は背中合わせに寝ていた子に心配されながら起き上がる。
そして彼は道端に停められた馬車から降り立ち、近場にある川でみんなと共に休んだ。
「……では、皆さん。行きますよ」
体感15分後、馬車は都に向かって歩き出した。
「どれくらいかかるんですか?」
「後二日だ。お前の足なら、一か月ちょっとといったところか」
「うげぇ(良かった。本当に全力で頼み込んでよかった!)」
ひきつった表情を見せる一郎。
「そういえば、なんで魔物はいないって断言できるんですか?」
話題を切り出した一郎は、この事を聞いてみた。
他にもあの竜の事を聞くつもりだ。
「ああ。それはだな……」
「竜神様がこの1周期は、近郊に降りてきていらっしゃるんだよ」
初老の人の代わりに、となりのおばさんが一郎に答える。
「竜神様?」
「それもしらないのかい?竜神様は、神様に一番近い存在なんだよ」
「でもそれは自然界でいえば、ということ」
「そそ。僕ら人間で一番神様に近いのは、法王様だよね~!」
「へぇ~それは知らなかったなぁ(神と竜神は、俺に対して殺意MAXだった。
うん。なんかいらついてきたな)」
一郎の知識不足を、馬車にいる皆が声を出し合って知識の補完をしてくれる。
「それで、法王様がなんで一番神様に近いんですか?
あと、竜神様も」
「法皇様も竜神様も、ただただ神様からお告げを聞いてそれによって、世界を繁栄させてきたんだよ」
(ただのメッセンジャーかよ!? でも、方針が決まった。
今は都で就職活動して生活を盤石にして、竜と戦うか法皇に冒険者か何かでお願いするしかないか)
一郎は今までの殺されそうになった経緯を思い出す。
ただの学生が、世界の最高位に位置するとおもわれる存在に、無理やり殺されそうになった。
(わけわからんけど、神様をぶんなぐって話を通そう)
「それで、だ。ほかにも話があってな――」
一郎は皆の話を聞いていって、時間をつぶしていく。
だが迫りくる空腹をごまかすには、少々頭を使い過ぎた。
……
「魔物だ!」
「魔物!? どこだ!」
子供が魔物をとらえ、馬主に伝える。
その緊張感は、さすがに一郎でもわかる。
「(魔物……魔物――あれか!)あそこだ!」
指で指し示す。
皆が注目する。魔物。それは黒い狼。
「デッドウルフ!? あいつは、ここらへんにはいないぞ!?」
「北の方で戦争があったとは聞いたが、そこから流れてきたのか!」
(俺の知らない情報が沢山あるな……とにかく、この魔物から逃げれるのか!?)
デッドウルフは一匹ではない。
沢山連れてくる。しかも、目で、脚で追ってくる。
「馬主!」
「分かっている! 全員掴まれ!」
全員荷台につかまって、振動で振り落とされないようにする。
だがデッドウルフの中で一番大きな奴が吠えると、全てのデッドウルフが追ってきた。
「やばいっ!(追ってくんなよ! どっかいけ!)」
徐々に追いついてくる。
後ろにつかれてしまう。
「「「グルァウ!!」」」
そういって奴は口の中に、何かを含む。
頬が膨れると、奴らは口を開けて息吹を放ってきた。
「「うわあああ!!」」
「「ひいいい!!!」」
馬主が巧みに操り回避。
しかし奴らは口元をゆがめて、楽しそうに追ってくる。
一郎は荷台の壁に身をかがめて、息吹に当たらないようにする。
(このままだと、全滅は必至! だったら……だったら、やるしかないのか……?)
一郎は隣にいる子供を見る。
その子は恐怖に呑まれ、泣いている。
「うわああっ、来ないで! いやだあ!」
「……」
一郎は奥歯を噛みしめる。
「く、はは……お、俺がなんとかしてみせる……さ」
「お兄ちゃん……?」
一郎は荷馬車の後ろの方へ、這う這うの体で向かう。
被害を免れるため、奥の方へ固まって居たから。
「大丈夫。たぶん」
一郎はデッドウルフの攻撃で馬車が軋むごとに、恐怖で体を震わせる。
しかしここでやれるのは自分だけ。
「死にたくないから、さ」
「おい、坊主! こっちにこい!」
「あはは、はは」
「わっぱァ! 戻ってこんか!」
初老の人や若い男性に呼ばれる一郎。
しかし恐怖と軟弱な決意で、聞く耳を持たない彼。
「か、かかってこんかい! くそ狼共!」
「「ウォオオオオ!!!」」
あれる荷馬車で、壁につかまりながらデッドウルフを挑発する。
「ぼ、ボスが釣れた、ヒヒ……やったぜぇ」
鼻水をすすりながら、ボスが連れたことに喜ぶ。
後は自分が持つ翼で、どうにかできたらいい。
「来るなら……来いよお! 雑魚底辺共があ!」
後ろを少し見ると、皆が怯え切っているのがわかる。
初老の人も、頭を抑えている。
「グラアアア!!!」
ボスが全力で走って、とびかかってくる。
「往生せぇやああああ!!!」
足をがくがくさせながら、意識して模る。
そしてデッドウルフが数センチ先になった時、背中がかなり重くなる。
それと同時に、デッドウルフの頭からしっぽの先まで純白な……それもよくある神様がもつようなつばさが貫いた。
「道を開けろおおおお!!!」
いつの間にか馬車を包囲していたデッドウルフに、突き刺さったボスを投げ飛ばす。
一匹に当たってそのまま動かなくなった。
一郎はやってしまったという強烈な後悔といろんな感情がごちゃ混ぜになって、ハイテンションになった。
後ろでは一郎を見る乗客全員の目が、奇異の目で染まっているからだ。
「ひい!?」
調子に乗っていると先ほどのブレスが襲い掛かってくる。
翼で受け止めず、そのまま荷馬車の壁に隠れてしまう。
そして外の様子を見ようと、頭を上げる。
そこにはたくさんのデッドウルフが、とびかかっている様子が。
「来るんじゃねえええ!!!」
そういうと、背中が軽くなり、肉体に変化が起こる。
その姿はデッドウルフのボスとうり二つだ。
一郎が叫ぶのと同時に、荷馬車を襲った息吹よりさらに上の爆風がデッドウルフを全て突き飛ばした。
「く、ははっ。ありがとよ、坊主。今のうちだ、走れ!」
「「ヒヒーン!」」
馬主はあまりもの出来事に驚きながら、そのまま馬車を遠くまで走らせた。
しばらくして徐行の状態にさせる。
「(あ、あれ? 追い返した? しかも、息吹に……あれ、体が黒い……まさか、デッドウルフか!?)」
状況を見て、すぐに理解する。
すぐに人間に戻ると、変身または変態する前の状態になる。
つまり、服を着用した状態だ。
「え、あの……その……」
一郎は馬車奥にいる皆の注目を浴びて、それが全て得体のしれないものを見るかのような表情に見えた。
このまま魔物蔓延る森に降ろされるかもしれない。
そんな恐怖や今までのストレスで、遂に泣いてしまう。
「終わりだぁ……もういやだぁ……」
「泣かないで、お兄ちゃん」
子供が近づいて、一郎の顔を覗く。
「かっこよかったよ! ありがと、お兄ちゃん!」
ガタゴトとリズムよく走る荷馬車の上。
子供は英雄的行動をした一郎を見て、はしゃいだ。
なんで泣いてるのかわからないらしい。
「ぐす……うぉ、応よ……かっこよかったろ?」
せめてもの最後の強がりで、かっこつけた。
目元が赤く腫れている。
「坊主。ありがとな」
「へ?」
皆が荷馬車の奥から出てくる。
そして馬主も含め、皆が感謝の言葉を告げ、ある人は一郎の頭を撫でてくる。。
「ありがとな、小僧」
「あんたもやるじゃないか」
「君、勇気あるな。スゲェよ」
「チト、あんたもこの子みたいに強くなりなよ」
「俺にゃ無理だって。彼みたいに強くないんだから」
そういって、冷めきっていたはずの乗客は、先ほどの件で一郎への認識を改めた。
「なんで? 怪物って」
理解不能な判断に、一郎は困惑する。
好意や評価はわかるけれど、そこまで思考がおいついていない。
あるのは絶望的で否定的な結末、のはず。
「馬鹿か」
その時、厳格な初老な人が腕を組んで、一郎をにらみつける。
「何があったかは知らん。
……が、もしも俺たちを襲う魔物ならば、なぜ人に化ける必要がある。
人を助ける魔物? 上等だ。俺たちは何もできない弱小者だ。
荒らされ散らされるのは、自然の摂理。
しかし、それを踏みにじってまでも俺たちを助けようとするもの好きを、
そのまま無碍にしておくほど人間の心を捨てていないのでな」
初老の人の言葉に、皆がうなずく。
馬主も「こいつが、都にいくのか。楽しみじゃねぇか」と豪快に笑っていた。
皆のあたたかな雰囲気。
これに呑まれて、なんかもう、色々考えていた自分がバカじゃないか、と彼は泣き笑いをした。
「泣いて笑うなんて変なのー」
「うれし泣きっていうんだよ」
いつものテンションに戻った一郎は、いつも通りにふるまう。
今日もまた、都への道が近くなった。
一郎が神に降ろされる、殺してやるっていわれる。竜神と戦闘、逃げる、馬車に乗せてもらう。
ここまでがテキストに書いてる奴。まだ序盤。
次は都ですね。さ、明日も頑張ろう!