ちょっと神様をぼこってくる   作:名無しの権左衛門

4 / 5
神官

 

「とりあえず、その部屋が一郎の部屋な」

「ここが……」

 

 奴隷商への荷物を、協会の倉庫に取りに行くとき部屋を確認しに行く。

そう、それは宿舎だ。

休む場所がなければ、神官の仕事は務まらない。

 

「そういえば、神様にお祈りなんて捧げなくていいんですか?」

「ん? 祈り? なんだそれは。神様は、常に我々を天から見てくださっている。

お祈りしても意味がないのだ! それにお祈りは神様と会話することを意味する。

不敬罪で殺されても文句はいえないぞ!」

 

 つまり、黙祷と合掌を同時にすれば、殺される。

”いただきます”はセーフ。

 

 

「行くぞ!」

「合点承知の助!」

 

 

(よし。就職できたし、ここから徐々にのしあがって、神様とやらと会話する法皇に話をつける。

そして神様と会話するか、居場所を突き詰めて殴って縛って吐かせて元の世界へ戻る!

あ、でも、空中戦になりそうだから、体力はつけておくべきだな!)

 

 一郎は方向性を確認して、上司についていく。

 

「奴隷商への荷物は、拘束具一式だ。後奴隷は汚いから、触られる前に逃げろ!」

「はい!」

 

 奴隷の館へ来たので、荷物を商人に渡すだけ。

 

「お、新入りか? 何かあったら、この奴隷の館をひいきに頼むぞ!」

 

 豪快というか豪傑っぽい人物が、高らかに笑う。

しかしその奴隷を扱っているという事もあって、微妙な気持ちだ。

 

(うげ。異臭はないけど、あまり居たくない感じ)

 

 見た目は人だけど、獣人という人種が痛めつけられているのを見て、逃げるように立ち去った。

 

「できたな。次行くぞ!」

 

 次はギルド本部の新設倉庫に関しての資料運び。

 

「こんな重要書類を神官のしたっぱにやらせるんかい!?」

「うむ! 雑用は基本だ。使われているのではない、民のため身も心も清らかにしなければ、労働のすばらしさが見えてこんのだ!」

「何言ってんのかわかりません」

 

 全力でどこかの方向へつっぱしる先輩を後目に、ギルドへものを運び込む。

 

「神官の奴らか。こっちに頼んだものを置いてくれ」

 

 一郎と先輩は、忠実に雑務をこなした。

そんなとき、一郎に声をかける人がいる。

 

「よぉ、あんちゃん。無事、就職できたんだな」

「はい。あの時はありがとうございました。

それで……皆さんどこに行こうとしてるんです?」

 

 物々しい雰囲気。

ギルド内は傷ついたおっさんを含め、ごつい人でごった返している。

 

「これから竜神様の森で、邪神退治だ」

「邪神!!?」

 

 先輩が驚愕して、彼らに振り返る。

 

「んん~? したっぱ神官にゃ、知らされてねぇのか?

俺たち界隈では、結構な人気になってんぞ。神様から討伐命令が出たと法皇様から指示が来ている。

討伐すればかなりの褒賞がもらえるらしいんでな。皆、張り切ってるわけだ」

 

(げっ、法王に邪神認定されてんのか! あれ、でも、なんで今頃?

法皇ってまさか、情報が遅いのか?)

 

 邪神討伐に意気上がる人達を見て、命の危機を感じる。

しかし期間が開きすぎていることに違和感を感じ、法皇の情報は一歩遅れていると思うことにした。

 

「それでは、吾輩らは行ってくる。あんちゃんらも、邪神にも気を付けておけよ?

この世界を滅ぼす、神羅万象・万物の敵なんだからよ」

「はい、わかりました!」

 

 手を振って、別れる。

まだこの段階で、正体がばれていない。

 

 一郎たちは一度戻って、食事になる。

見たことがない食事に、胸を躍らせる。

 

 

 

「おーい、一郎。法皇様が、お前を呼んでるぞ?」

「ブッ!?」

「うわ!? 驚くのはわかるが、ちゃんと拭いてこいよ?

じゃ、広間に来てくれ。俺が案内する」

「はい~……(驚きすぎだ、俺。 でも、親玉に近い幹部に会うって、死亡フラグかな?)」

 

 心臓を悪い意味で高鳴らせ、意を決して現実を見ることになる。

 

 

 

 玉座にて。

 

<法王よ、邪神がこちらの世界に侵入した。あの神官がそうだ。殺せ>

「ハッ、仰せのままに」

 

 法王は神から、真言を聞く。

 

 

 

「法王様、新人の神官をお呼びしました」

「うむ、下がれ」

「はっ」

 

 

 法皇は丁度良くやってきた奴に、笑みがこぼれる。

 

 

「近衛兵。下がっていろ」

「しかし……」

「私一人でやれる」

「かしこまりました」

 

 法皇は新人を迎え入れるのに、仰々しさMAXじゃいかんだろ?と言った。

それに対する近衛の反応だ。

 

 退散する近衛の背中を、ほくそ笑みながら新人神官である邪神を座して待つ。

 

「貴様が法皇様に呼ばれた新人か?」

「その通りであります!(何もありませんように!)」

「うむ、元気があってよろしい! くれぐれも粗相のないようにな」

「ありがとうございます!(皆、元気があると笑ってくれるなぁ)」

 

 扉越しに聞こえる大きな声の会話。

普通なら神官が、そんな大きな声を出すなとか品格が疑われるとかになる。

 

 

 大きな扉を開け中に入って来る一郎。

 

 

「(これが邪神か。弱いな)ようこそ、新人君。君の名前を教えてくれないか?」

「イチローです(法王か。やばい匂いしかしねぇな、これ)」

「なるほど、聞いたことがある名前だな(懐かしいな、おい)」

 

 

 色々神官の業務について聞いていく。

 

 

「辛いことはあるか?」

「いえ、全く。皆さんが私に優しくしてくれますので、私も皆さんに優しくなれます!

この調子で、民に安寧を維持できるよう、頑張ります!(親切には裏がある。こういうやつだと、恐ろしい)」

「うむ、良い心がけじゃ(さて、警戒心もほどけたようだ。殺すか)」

 

 

 法皇は小さく呪文を唱え、膝にのっけた手を前に突き出す。

 

「滅べ、ディ―――「突然の報告、申し上げます!」――なんだ?」

 

 近衛兵が扉をガッと開けて入って来る。

 

 法皇は手を伸ばした腕を引っ込ませる。

教養のある古代語をすらすらと読める人材は、今世紀最大、史上の逸材。

よって奴らの目に映る形で、始末するのは王国が揺るぎかねないものになる。

 

 

「ひ、東の空から、燃える火球が――!!」

「何!? 邪神の一部か!?(こんな時に隕石か! クソ……邪神は後回しだ)」

「いえ、いろんな方向から、落ちてきてます!」

 

 

「ふぅ……(この法王の目つき、殺す気だったぞ!?)」

 

 皆が焦る中、一郎は額の汗を拭い取った。

 

 

 外。

 

 外にいる皆は、天を見上げている。

真っ赤に光る物体は、真っ黒な煙の尾を引いて、世界中に散らばっていく。

 

そしてその物体――隕石から、何かが零れ落ちる。

零れ落ちるのと同時に、隕石が破壊される。

 

 衝撃波で周辺に突風がたたきつけられるが、そんなに大事ではない。

むしろ零れ落ちた何かは、隕石と同じく燃えながら城とも協会と言える場所に墜落していく。

 

「お、親方! 空から何かが――!」

「あれは……少年だ! 空から男の子が降って来るぞ!」

 

 

 遠視な方達は、指をさして正体をいう。

その子は協会の屋根を突っ切って、中へ侵入する。

そして巨大な衝突音。

 

 

 ズドンと腹の底を響かせるような、鈍い音が周辺に響き渡る。

 

 

中。

 

 

 何か。いや、少年が玉座の間の中央に落ちてきた。

クレーターを作るわけじゃない。しかし、少し床がへこんだ。

 

「ぶはっ、いってぇ~! なんなんだよ、アレ!」

 

 起き上がる少年。無傷でその場にいる事、それは驚愕に値する。

 

 

 今現在、火球がこの街の周辺でクレーターを作り出す中、玉座の間内は混迷を極める。

クレーターを作る恐ろしい火球を破壊した少年。

それはもう、熱気に包まれる。

 

「「「素晴らしい少年だ!!」」」

 

<その少年も邪神だ。すぐに殺せ、今殺せ>

「はっ……。(できるわけがねぇだろ、ボケが! これから隕石とか復興で、各国との対談だぞ!)」

 

「うわぉ……(あれ、何か見たことあるな……)」

 

 

 周辺の反応、神と法王、一郎の反応。

 

 

「あれ、どっかで見た顔だと思えば、一郎じゃん」

「あん……? って、次郎!?」

「やっぱり一郎だ! 今までどこ行ってたんだよ!」

 

 周辺を見渡す次郎と彼に近づく一郎。

 

 彼は田中次郎。一郎と同じ学校に通う、元気な中学生だ。 

 

「なあ、新人神官。彼は君の……」

「友達です。というか、同郷です」

「なんと!!? や、やはり、デッドウルフを倒す実力は本物だったのか!」

 

 近衛兵は気が動転したのか、一郎に次郎の事を聞く。

すると、一郎の事を聞いているのか、同郷というだけで素晴らしいことをする人たちと認めてしまう。

彼の驚愕とちょっとした噂好きにより、これが瞬く間に広がってしまう。

 

『一郎と次郎は同郷。デッドウルフの単独討伐と火球を破壊した英雄』。

 

 

「はぁ……?(こいつら……くそっ、民中心の政治なんてやるんじゃなかった!

 そうすれば、すぐに邪神共を殺せたのになあ!)」

 

 事態の急変に法王は驚き、すぐに次の討伐機会のため頭を回す。

 

「法王様! この少年を登用しましょう! きっと、民の安寧につながります!」

「わ、わかった、そうしよう(そういえば、法王祭が近々あったな。ふむ……依頼やらせて、邪神になったという

シナリオでも作っとくか)」

 

 思考を中心にしていたので、簡単にうなずいたことに気づかなかった。

これにより、相当練らないと彼らを殺す為の正当性が足りなくなってしまった。

 

 

こうして、邪神二人はしばらくの安寧を手に入れる。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。