「とりあえず、その部屋が一郎の部屋な」
「ここが……」
奴隷商への荷物を、協会の倉庫に取りに行くとき部屋を確認しに行く。
そう、それは宿舎だ。
休む場所がなければ、神官の仕事は務まらない。
「そういえば、神様にお祈りなんて捧げなくていいんですか?」
「ん? 祈り? なんだそれは。神様は、常に我々を天から見てくださっている。
お祈りしても意味がないのだ! それにお祈りは神様と会話することを意味する。
不敬罪で殺されても文句はいえないぞ!」
つまり、黙祷と合掌を同時にすれば、殺される。
”いただきます”はセーフ。
「行くぞ!」
「合点承知の助!」
(よし。就職できたし、ここから徐々にのしあがって、神様とやらと会話する法皇に話をつける。
そして神様と会話するか、居場所を突き詰めて殴って縛って吐かせて元の世界へ戻る!
あ、でも、空中戦になりそうだから、体力はつけておくべきだな!)
一郎は方向性を確認して、上司についていく。
「奴隷商への荷物は、拘束具一式だ。後奴隷は汚いから、触られる前に逃げろ!」
「はい!」
奴隷の館へ来たので、荷物を商人に渡すだけ。
「お、新入りか? 何かあったら、この奴隷の館をひいきに頼むぞ!」
豪快というか豪傑っぽい人物が、高らかに笑う。
しかしその奴隷を扱っているという事もあって、微妙な気持ちだ。
(うげ。異臭はないけど、あまり居たくない感じ)
見た目は人だけど、獣人という人種が痛めつけられているのを見て、逃げるように立ち去った。
「できたな。次行くぞ!」
次はギルド本部の新設倉庫に関しての資料運び。
「こんな重要書類を神官のしたっぱにやらせるんかい!?」
「うむ! 雑用は基本だ。使われているのではない、民のため身も心も清らかにしなければ、労働のすばらしさが見えてこんのだ!」
「何言ってんのかわかりません」
全力でどこかの方向へつっぱしる先輩を後目に、ギルドへものを運び込む。
「神官の奴らか。こっちに頼んだものを置いてくれ」
一郎と先輩は、忠実に雑務をこなした。
そんなとき、一郎に声をかける人がいる。
「よぉ、あんちゃん。無事、就職できたんだな」
「はい。あの時はありがとうございました。
それで……皆さんどこに行こうとしてるんです?」
物々しい雰囲気。
ギルド内は傷ついたおっさんを含め、ごつい人でごった返している。
「これから竜神様の森で、邪神退治だ」
「邪神!!?」
先輩が驚愕して、彼らに振り返る。
「んん~? したっぱ神官にゃ、知らされてねぇのか?
俺たち界隈では、結構な人気になってんぞ。神様から討伐命令が出たと法皇様から指示が来ている。
討伐すればかなりの褒賞がもらえるらしいんでな。皆、張り切ってるわけだ」
(げっ、法王に邪神認定されてんのか! あれ、でも、なんで今頃?
法皇ってまさか、情報が遅いのか?)
邪神討伐に意気上がる人達を見て、命の危機を感じる。
しかし期間が開きすぎていることに違和感を感じ、法皇の情報は一歩遅れていると思うことにした。
「それでは、吾輩らは行ってくる。あんちゃんらも、邪神にも気を付けておけよ?
この世界を滅ぼす、神羅万象・万物の敵なんだからよ」
「はい、わかりました!」
手を振って、別れる。
まだこの段階で、正体がばれていない。
一郎たちは一度戻って、食事になる。
見たことがない食事に、胸を躍らせる。
「おーい、一郎。法皇様が、お前を呼んでるぞ?」
「ブッ!?」
「うわ!? 驚くのはわかるが、ちゃんと拭いてこいよ?
じゃ、広間に来てくれ。俺が案内する」
「はい~……(驚きすぎだ、俺。 でも、親玉に近い幹部に会うって、死亡フラグかな?)」
心臓を悪い意味で高鳴らせ、意を決して現実を見ることになる。
玉座にて。
<法王よ、邪神がこちらの世界に侵入した。あの神官がそうだ。殺せ>
「ハッ、仰せのままに」
法王は神から、真言を聞く。
「法王様、新人の神官をお呼びしました」
「うむ、下がれ」
「はっ」
法皇は丁度良くやってきた奴に、笑みがこぼれる。
「近衛兵。下がっていろ」
「しかし……」
「私一人でやれる」
「かしこまりました」
法皇は新人を迎え入れるのに、仰々しさMAXじゃいかんだろ?と言った。
それに対する近衛の反応だ。
退散する近衛の背中を、ほくそ笑みながら新人神官である邪神を座して待つ。
「貴様が法皇様に呼ばれた新人か?」
「その通りであります!(何もありませんように!)」
「うむ、元気があってよろしい! くれぐれも粗相のないようにな」
「ありがとうございます!(皆、元気があると笑ってくれるなぁ)」
扉越しに聞こえる大きな声の会話。
普通なら神官が、そんな大きな声を出すなとか品格が疑われるとかになる。
大きな扉を開け中に入って来る一郎。
「(これが邪神か。弱いな)ようこそ、新人君。君の名前を教えてくれないか?」
「イチローです(法王か。やばい匂いしかしねぇな、これ)」
「なるほど、聞いたことがある名前だな(懐かしいな、おい)」
色々神官の業務について聞いていく。
「辛いことはあるか?」
「いえ、全く。皆さんが私に優しくしてくれますので、私も皆さんに優しくなれます!
この調子で、民に安寧を維持できるよう、頑張ります!(親切には裏がある。こういうやつだと、恐ろしい)」
「うむ、良い心がけじゃ(さて、警戒心もほどけたようだ。殺すか)」
法皇は小さく呪文を唱え、膝にのっけた手を前に突き出す。
「滅べ、ディ―――「突然の報告、申し上げます!」――なんだ?」
近衛兵が扉をガッと開けて入って来る。
法皇は手を伸ばした腕を引っ込ませる。
教養のある古代語をすらすらと読める人材は、今世紀最大、史上の逸材。
よって奴らの目に映る形で、始末するのは王国が揺るぎかねないものになる。
「ひ、東の空から、燃える火球が――!!」
「何!? 邪神の一部か!?(こんな時に隕石か! クソ……邪神は後回しだ)」
「いえ、いろんな方向から、落ちてきてます!」
「ふぅ……(この法王の目つき、殺す気だったぞ!?)」
皆が焦る中、一郎は額の汗を拭い取った。
外。
外にいる皆は、天を見上げている。
真っ赤に光る物体は、真っ黒な煙の尾を引いて、世界中に散らばっていく。
そしてその物体――隕石から、何かが零れ落ちる。
零れ落ちるのと同時に、隕石が破壊される。
衝撃波で周辺に突風がたたきつけられるが、そんなに大事ではない。
むしろ零れ落ちた何かは、隕石と同じく燃えながら城とも協会と言える場所に墜落していく。
「お、親方! 空から何かが――!」
「あれは……少年だ! 空から男の子が降って来るぞ!」
遠視な方達は、指をさして正体をいう。
その子は協会の屋根を突っ切って、中へ侵入する。
そして巨大な衝突音。
ズドンと腹の底を響かせるような、鈍い音が周辺に響き渡る。
中。
何か。いや、少年が玉座の間の中央に落ちてきた。
クレーターを作るわけじゃない。しかし、少し床がへこんだ。
「ぶはっ、いってぇ~! なんなんだよ、アレ!」
起き上がる少年。無傷でその場にいる事、それは驚愕に値する。
今現在、火球がこの街の周辺でクレーターを作り出す中、玉座の間内は混迷を極める。
クレーターを作る恐ろしい火球を破壊した少年。
それはもう、熱気に包まれる。
「「「素晴らしい少年だ!!」」」
<その少年も邪神だ。すぐに殺せ、今殺せ>
「はっ……。(できるわけがねぇだろ、ボケが! これから隕石とか復興で、各国との対談だぞ!)」
「うわぉ……(あれ、何か見たことあるな……)」
周辺の反応、神と法王、一郎の反応。
「あれ、どっかで見た顔だと思えば、一郎じゃん」
「あん……? って、次郎!?」
「やっぱり一郎だ! 今までどこ行ってたんだよ!」
周辺を見渡す次郎と彼に近づく一郎。
彼は田中次郎。一郎と同じ学校に通う、元気な中学生だ。
「なあ、新人神官。彼は君の……」
「友達です。というか、同郷です」
「なんと!!? や、やはり、デッドウルフを倒す実力は本物だったのか!」
近衛兵は気が動転したのか、一郎に次郎の事を聞く。
すると、一郎の事を聞いているのか、同郷というだけで素晴らしいことをする人たちと認めてしまう。
彼の驚愕とちょっとした噂好きにより、これが瞬く間に広がってしまう。
『一郎と次郎は同郷。デッドウルフの単独討伐と火球を破壊した英雄』。
「はぁ……?(こいつら……くそっ、民中心の政治なんてやるんじゃなかった!
そうすれば、すぐに邪神共を殺せたのになあ!)」
事態の急変に法王は驚き、すぐに次の討伐機会のため頭を回す。
「法王様! この少年を登用しましょう! きっと、民の安寧につながります!」
「わ、わかった、そうしよう(そういえば、法王祭が近々あったな。ふむ……依頼やらせて、邪神になったという
シナリオでも作っとくか)」
思考を中心にしていたので、簡単にうなずいたことに気づかなかった。
これにより、相当練らないと彼らを殺す為の正当性が足りなくなってしまった。
こうして、邪神二人はしばらくの安寧を手に入れる。