「す、すす、素晴らしいッッ!!!」
「へ?」
「先輩はいつもああなんだ」
法皇に認められた近衛は、人事を担当している先輩に次郎の登用を任せる。
すると、次郎も一郎と同じ、古代語のエキスパートだった。
「同郷と聞いたとき、まさかと思ったが……やはり、君たちは救国の使者だ、そうに違いないッ!!」
ガシッと肩を掴む先輩は、鼻血だらだらとながしながら喜んでいる。
さすがに鼻血を流しながら、近くまで顔を寄せられると引く。
「あはは、買いかぶりすぎですよ、先輩(わかった、わかったから、鼻血拭いて!?)」
「この俺が、救国の使者……! 頑張るぞ~!」
「おうよ! 頑張ってくれ!」
先輩の言葉に簡単に乗せられる次郎。
こんなので大丈夫かな、と一郎は頭を抱える。
だが確実に一郎は次郎の登場により、精神的に安定したんだ。
「よし、最初の仕事だ、ついてきてくれ!」
「はい!」
「了解!」
こうして一郎と次郎は、この国になじんでいった。
この世界に来て幾日。
一郎は次郎に聞くことがあって聞いた。
「なあ、次郎」
「ん?」
「お前はどうしてこっちにきたんだ?」
「あーそれ? なんか神様に、お前を殺してやるとか言われたんだよ」
経緯は一郎と同じ。
「で、俺は神様に殺されかけたんだ。丁度暇になったからってさ。まったく、ふざけた奴だぜ?」
「いやいやいや、なんで神様からにげれるんだよ」
竜神様という、神様に一番近い生物から逃げている一郎がいう。
「それがさ、戦闘中に隕石が来てさ、死んじまうって思ったら翼が生えたんだよ!
ありえねえ!って思ったね」
「あ、それ、俺もなったぞ?」
「まじで!?」
(うるさいなあ)
誰にも聞かれたくない事なので、人がいないところで話している。
それでもテンションが高いので、声が聞かれないか一郎は心配だ。
「うーん、なんで翼が生えたんだ?」
「あーそれ?それは、一度見たものに変身できるからさ」
「だとすれば、神様にそっくりそのまま変身するもんだろ?」
「そこはほら、こっちの世界の神だし、なられると困るんじゃ?」
目的の分からない変身能力に、頭をひねるばかりだ。
「おーい、一郎、次郎! 話したいことがあるんだー! どこ行ったー!?」
先輩が探している。
「まずっ! 次郎、戻ろう。こんなところでたむろしてちゃ、なんか思われるかもしんねえ!」
「お、おお、戻ろう!」
行動が遅い次郎を一郎が理由をつけて急がせる。
「それで先輩。話したい事ってなんですか?」
「実はシフトというものがあってなー。今日と明日、君たちに休みが与えられるんだ!
更に給料日! というわけで、これから資金の配給といってもいいところとか、
いろんなことを教えるぞ!」
念願の休日だ。
約一か月位働いている一郎たちは、月給100万円を受け取れる。
「給金はこの配給所で受け取れるんだ」
別になんてことはない。神官の服は、認められたものじゃないと着用できないように厳密に
管理されている。だから、神官は顔パスで、給金を受け取れる。
「よし、受け取ったな? 盗まれんじゃねーぞ?」
「はい!」
「おうよ!」
受け取ったというより、受付に置かれたって感じだ。
この国のお金の単位は、円ではない。しかし、円と同じ感じの割合なので、円で統一する。
そして協会印の札束を、恐る恐る手に取った。
「す、すげえ。1万ドルPONと渡されたぜ」
「あ、ああ。月給十万で10か月分……バイトとか飲食業なんて目じゃないぞ(こんな大金、盗まれるよな)」
次郎は万札の束を一枚一枚数えていき、一郎は盗難防止の腰ぎんちゃくを見つけこれに入れる。
「盗まれたくなければ、一郎が手に持ってるこれを使うんだ。盗まれない・濡れない・燃えない・汚れない。
神様の素晴らしい恵である!!」
「神様パねえ!」
「流石は神様だ! 俺たちにできない事をやってのける! そこに痺れる憧れるゥ!」
初めての給料にテンション↑↑な二人。
先輩も後輩二人が喜んでいるのをみて、うれしく思っている。
(初めての給料日、俺もこんな風に恐る恐る喜んだなあ)
「なあなあ、何に使う!?」
「はあ?うまい飯に使うに決まってんだろ」
「いやいやいや、お米見つけて買うんだろ!?」
「お金は大切に使おうな?」
「「あ、はい(騒ぎ過ぎた……!)」(今まであってきた人の中で、一番気が利く人だ!)」
先輩は二人に注意した。
そんなこんなあって、二人は街へ繰り出す。
「お、例の神官様じゃねえか! 俺んところの果実水、飲んでってくんねえか!?」
「いいのか、おっさん!(ヒーローってやっぱ、いいもんだな!)」
「いいってことよ、なんてったって、この街を守ってくれた英雄様だからな!」
「あ、バカ。ちゃんとお金払わないといけないだろ?」
「大丈夫さ。神官様が飲むだけで、ありがたいんだよ!」
屋台のおじさんは、そのように言って豪快に笑う。
宣伝のようなもの、と一郎はわかってしまった。
(ちゃっかりしてるなぁ)
「またこの『レムリン果実水屋』をひいきにな!」
「おー、またくるぞ!」
「ありがとうございました!」
一郎たちはおじさんに感謝して、街中の散策を行う。
街中を歩くと、そこには人の笑顔が沢山あり、活気づいているのがわかる。
仕事中に聞いた話だと、一番発展していて活気づいているのが、法王様がおわすこの王都であると。
「兄ちゃんたち、この『バオブ』食ってってくれや!」
お肉の塊を削いだものを、『リニャ』にはさんだもの。
「なあなあ、『ぶどうケーキ』食えって、なあ!」
外見は葡萄。中身は林檎。クリームというより、チーズ。スポンジじゃなくて、パン。
「『リェモンド=サラッサ』はどうだい?」
南国の特産品を野菜と共に煮込んだもの。細長いハーブをそなえて、香り高くなる。
「おー、なんか超うめえ!」
「あの……この野菜って、どこにあるんですか? どうみても玉ねぎなんですよ」
「『タマネギ』なんて珍しいもの知ってるんだねぇ。いいよ、この店ご用達の青果店、教えてあげる」
そういって教えられた場所に行ってみた。
「散策以外にも、流通は知っておいた方がいいと思うんだ」
「お米だろ?」
「そのとおりだよ」
建前を容易に看破されてしまう一郎。
お米とは、日本人の魂だ。これがなければ、世界で生きていくことは精神的につらくなってしまう。
しかしこの中世ヨーロッパな世界で、果たしてそんなものがあるのか。
ありました。
「なんで、米が!? こっちは苺だ!」
「日本語だぜ!?」
見た目が林檎、中身が桃じゃないことは試食で確認した。
ポップやラベルが、軒並み古代語の単語でできている。
「あの、なんでこんなのがあるんですか?」
「初めてのお客さんは、みんなそういうな」
店の長はそういう。
「俺はもともと売れない野菜売りだった。しかし法王様が、支援するからこの青果を売ってくれないかって、
言ってきたんだよ」
ルーツは法王。
「まあ最初は物珍しさから好奇心旺盛な奴らがいたが、その値段の高さと古代語によって選別されていったな。
今では果物単品やお高い料理店が、買い出しに来ているだけだ」
青果店店長の愚痴を聞いていくこと13分。
「すまんな、神官様」
「いえいえ、愚痴を聞くのも仕事のうちですよ」
「……(休暇中になにやってんだよ、一郎……)」
「じゃ、その持っている林檎と米、合わせて500圓にしてやるよ」
「ありがとう!」
「ほら、さっさと行こうぜ(折角の自由を拘束されて、どうすんだよ。全く…)」
「待てって!(あーもー、少しは忍耐力ってもんないのか?)」
そんなこんなで、いろんなものを巡った。
持っている荷物は一旦、教会に持って帰り個室に置いてきた。
「よし、つぎはあっち行ってみようぜ!」
「お、おい、先走んなって!」
好奇心旺盛な次郎を抑えられることなく、一郎は次郎を追いかけた。
と思ったら、急にとまったのでぶつかってしまう。
「あがが……(し、舌噛んだ……)どうしたんだー?」
次郎の様子を見てみると、その表情は怒りに近かった。
何を見ているんだ?と思い、その目線の先を見てみる。
そこには、首輪をされた奴隷が華やかな服装をした人間に、暴行を加えられていた。
「お、おい……?」
嫌な予感がした。
「てめえええええ!!!」
「次郎!?」
「うわっ、な、なんだ、おい!」
「子供になんてことしてんだ!」
「あ、あのぉ……大事な、大事なお客様と商品なんですよ……」
「そうだ! この偉大な貴族であるわしが、目にかけてやったのだぞ!
いくら神官であろうと、容赦せぬ!」
「ああ!? 何言ってんだ! 偉大だあ!?
そんな大層な奴が、子供をいじめるとかしつけがなってないんじゃないか!」
「なんだと!? このわしを動物扱いする気か!」
「するね! もともとこの俺がこの子を目にかけていたんだぞ!
神官様が目にかけていた商品を、殴る蹴るで怪我させてんだ! お前、常識を知らねえのか、犬っコロ!」
「な、な……」
憤慨しすぎて思考と動作が追い付いていない隙に、次郎は奴隷商に金を握らせる。
「おい、汚い貴族に怪我されまくった汚物を引き取るんだ。文句は言わせねぇ」
「は、はひぃいいっ!! どうぞ、どうぞ持ってってくだせええ!!」
見た目完璧やくざに、気の弱そうな商人は鼻水たらして地面に腰を打ち付ける。
「おい、いくぞ」
「……っ!」
次郎はその奴隷を連れて、人影がないところ閑静な場所へ行く。
一郎は掌を握り震えながら、苛立った表情で彼らを追った。
「よ、一郎。いじめられてた子、解放してやったぜ!」
そうやってしたり顔な次郎。それを見て一郎は、安心なんてしていなかった。
「あ、あ、あほかお前はああああ!!!」
「「!?」」
いきなりの剣幕に次郎と連れ子は驚く。
「ここはなあ、異世界転生とかそんな補正も夢も現ぬかしの非現実的世界じゃないんだぞ!隕石を破壊した英雄とか周囲に認められて、気持ち浮つかせてんじゃねえよ!現実ではなかった感覚と快楽におぼれさせて、なんかあったらどうすんだ!しかも復讐とか権力にうるさくて煩わしい、貴族なんて下種どもを挑発してバカじゃないのか!頭のねじ吹っ飛んでんのか! ここはなあ、身近に死がある現実なんだ!
わかってんのか!!!」
「で、でもさ……あ、いや、ごめん」
一郎は顔真っ赤にして、激しく剣幕を立てる。
それに反論しようとするが、一郎が涙を流したので反論する気も失せた。
「こんなところで、死にたくないんだよ……
生きて、生き延びて、家族に会いたいんだ……。分かってくれよ、なぁ……」
「すまん。一郎がそんなとは思ってもみなかった。
これからは、自重する(しないとは言っていない)」
「……頼む(大丈夫かなぁ?)」
そんな感じで反省会をしていると。
「あのぉ……僕、蚊帳の外なんですが?」
「「あ」」
元奴隷の獣人の男の子は、自分の空気の薄さを表明し存在感を放った。
気付いた二人は、彼のためにじかんを作ることにする。
三重のシェフさんとの差異が、はっきり分かれてくるのでおもしろいはず。
転移するのは誰でもいいんです。