女魔王「I'm your mother」勇者「Nooooo!!」   作:トマトルテ

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以前に読んだことのある方は1話から読み直すことをお勧めします。
4000字ほど加筆修正&設定微変更しているので。










道化

 1つの演劇が終わった。

 内容は悲劇。身の丈に合わぬ願いを祈った愚かな女の物語。

 期待していなかったが、最後は中々に()()()()()()()()

 

 少し意外な道に進んだが、それがありきたりにならずに済んだ要因だろう。

 ほんの少しの暇つぶしには最適だったとも言える。

 しかし、如何に面白かったとはいえ再演まで見たいとは思わない。

 新しい何かが必要だ。

 

 ああ、続編などでも見てみるのもいいかもしれぬ。

 

 今度は残された息子が主人公だ。

 あるとき、()()()勇者は魔王によって隠された秘密を知る。

 当然、勇者は母の事情を知り理不尽な運命をもたらした神を恨む。

 そして、勇者は無謀にも神へと戦いを挑み、その結末は──―

 

 

「いつまで天上の演出家を気取っているつもりだ? 神よ」

 

 

 その声を忘れるはずがない。

 思わず神らしくもなく驚愕に眼を開き、振り返ってしまう。

 

『貴様……どうやってここに来た、ゼニアオイ?』

「古来より死ねば神の下に招かれるとよく言うだろう? 何より一度経験済みだ」

 

 そこにいたのは女、ゼニアオイ。

 物語から退場したはずの元主人公。

 そんな存在が図々しくも神の前に立っていた。

 

『ただ死ぬだけではここにはたどり着けぬのだが、以前の記憶のおかげか?』

「どうやってここに来たかなど些細なことだよ。そんなことを語りたいわけじゃない」

『その通りだな。して、何ようだ?』

 

 女の登場は予想外ではある。

 しかし、ある程度の想定外があった方が物語は面白い。

 全てを知り尽くした物語などつまらないものだ。

 さあ、卑小な人間の考えを告げてみるがいい。

 

 

「単純な話さ。魔王として──―神を討ちに来た」

 

 

 そして、告げられる言葉は愚かさを超えた何かだった。

 思わず声が変わる程に嗤ってしまう。

 なんと愚か。なんと滑稽。なんと単純。

 

 この女は人間の身でありながら、神を殺すと言うのだ。

 

『ククククク! 息子を神に利用されぬようにか?』

「無論だ。お前は信用できない」

 

 自分を殺した息子のために。

 死してなお無様に足掻き続けて。

 これを嗤わずにいられようか。

 

『長きに渡る苦しみで頭でも狂ったか? ただの人間がどのようにして神を殺すというのだ』

「ただの人間……確かにそうだ。魔王を名乗った所で私は人間に過ぎない」

『それが分かっていながら、何故それ程に愚かなことをのたまう?』

「神のくせに忘れたか? 私は人間だが──―()()()()()()を与えられている」

 

 瞬間あり得ないエネルギーの嵐が女の体から吹き荒れる。

 人の身では、否、神の身ですらこれ程の力はあり得ない。

 

『馬鹿な…どういうことだ! 人間!?』

「極めれば神すら殺せるような圧倒的な力が欲しい。私はそう()()()()()()はずだが?」

『なに…?』

 

 一切の感情を捨てた冷たい瞳で女が告げてくる。

 確かに女の言う通りだ。転生特典として圧倒的な力を与えたのは事実だ。

 

『だが、所詮は私の与えた力! 神である私を殺すことなど──』

「黙れ」

 

 腕がはじけ飛ぶ。

 本来であれば、瞬時に治るはずのそれが傷のまま残り続ける。

 

『グ…ガァッ!?』

 

 その事実が否応なしに現実を理解させる。

 この女の前では、私も死する存在でしかないのだと。

 

「私が何故魔王となって悪逆の限りを尽くしていたと思う? 全ては神をも殺す力を蓄えるためだよ」

『あり得ない…あり得ない…! 私は神だぞ! それが人間なぞに…!?』

「自分で与えた力で殺される。何とも神らしい最後じゃないか。どこかの神話にありそうだ」

 

 一歩、また一歩と女が、否、()()が近づいてくる。

 何のために? 決まっている。神を殺すためだ!

 

『ま、待て! 私を殺せば転生者である貴様も魂ごと消滅するぞ! 消滅が怖くないのか!?』

「我が子のために命を惜しむ母親がいるものか」

 

 お互いに消滅すると説明してやるが、魔王の足取りは欠片たりとも揺るがない。

 殺すつもりだ。私を、神を。

 そこらに居る虫けらと変わりなく。

 

『そうだ! 貴様を生き返らせてやる。そうして今度こそ息子と一緒に暮らせばいい。どうだ? これならばお前も息子も幸せだろう?』

「散々、お前に振り回されてきた私が信じるとでも?」

 

 嘘だ! あり得ない! 何だこの物語は!?

 神である私が死ぬなんてどうかしているだろう。

 想定外が起きて欲しいとは願っていたが、こんなことは間違っている!

 

『な、なら、お前の息子に永遠の幸福を与えてやろう!』

「あの子は神の力などなくとも強く生きていけるさ」

『ならば、ならば……』

「──―見苦しい」

 

 万力のような力で頭を締め付けられる。

 痛い、痛い、痛いイタイッ!

 なぜ私がこのような目にあっているのだ!

 私はただ愚かな人間を使って物語を楽しんでいただけだというのに、何故だ!?

 

「最後に言い残すことはあるか?」

 

 絶対零度の声が私に死刑宣告を告げる。

 死ぬ? 死ぬのか? 私が、神がこんなところで!

 死にたくない、死にたくない、死にたくない!

 

『嫌だ…嫌だッ! 死にたくない! 死にたくない!』

「……下らんな」

 

 死にたくな───――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 魔王、母親を倒してからしばらく経った。

 魔王の正体については誰にも言っていない。

 仮に言ったとしても誰も信じてくれないと思う。

 それに俺自身良く分かっていないことが多すぎる。

 

「おとーさん! まだぁ?」

「コラ、クロッカス。とーさんは今、お墓参りしてるんだから静かにしなさい!」

「でも、リーズ。賑やかな方がおじいちゃんとおばあちゃんも喜ぶと思わない?」

「それは……どうなんだろう?」

 

 遠くから子供達の声が聞こえてくるので、墓の掃除を切り上げて立ち上がる。

 この墓は父と母のものだ。名前しか刻まれていない墓だけど、俺にはそれで十分だ。

 

「リーズ、クロッカス、もう終わったから行くよ」

「「はーい!」」

 

 娘のリーズと、父親の名前をつけた息子のクロッカスを呼ぶ。

 

「とーさん、おじいちゃんとおばあちゃんに何を話してたの?」

「んー? リーズとクロッカスが大きくなったとか、俺は元気だよとかかな」

「それだけしか言ってないの、おとーさん?」

 

 母親が魔王だったことで、俺もあれから色々と悩んだりもした。

 今だって、母親の愛してるという言葉が信じられない。

 

 でも、こうして自分にも家族が出来たことで1つけじめをつけることが出来ている。

 今までは考えもしなかった程に当たり前のことで、最も偉大なこと。

 母親が誰であってもそれは変わらない。

 

「後は、そーだな……」

 

 それが無ければ、友とは出会えなかった。

 妻とは出会えなかった。

 この子達と出会えなかった。

 その全ての始まりへの感謝の言葉。

 

 

「──―命をくれてありがとう…かな」

 

 

 お母さん、産んでくれてありがとう。

 




落ちが浮かんだので1話加筆&更新。
イメージはギリシャ神話辺り。楽しんでいただけたら幸いです。

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