「それでお話しって何ですか?……えーと…。」
「ああ、私はエリナよ。……話ってのはカナちゃんのことなの。」
勇輝はエリナの座っているテーブルの前に座る。
「やっぱりそうでしたか。」
「勇輝さんが先に部屋に戻してくれたから助かりましたよ。昼は気づかなかったんですけどカナちゃんって、獣人だったんですね…。」
「それがどうかしたんですか?」
エリナの言い方に少し疑念を抱いて聞き返した。
「夕方にあのイノシシの肉を仕入れた時に聞いたんですよ。獣人の少女とボロボロの緑色の変な格好の青年がギルドに来たって話を。あれって勇輝さんのことですよね?今はもう怪我をしてないみたいですけど。」
・・・やっぱり噂になってたのか。しかもあのイノシシの肉って僕らが仕留めたヤツだったのか。・・・
「確かにその話は私たちのことです。」
「やっぱりそうだったのね。なら質問だけど、そのあとカナちゃんがずっとくっついてたりしてなかった?」
「……そういえば昼食を食べた後に寝たんですけど、その時もさっきまでずっとつきっきりで側にいました。まあ、私が起きた時には寝ちゃってたんですけど。」
「あちゃー、やっぱり……。」
エリナが片手を額に当てて目を閉じて上を向く。
「えっ、それが何か問題でもあるんですか!?」
驚いた様子で勇輝は聞く。
「狼とかって群れの仲間が怪我をした時は治るまでずっと一緒にいるって知ってる?」
・・・そういえばなんかのケモミミっ子がヒロインのアニメでそんなこと言ってたのを聞いたことあるな。・・・
「ええ、私も聞いたことはありますよ。……もしかして!」
「そういうことよ。カナちゃんの行動もそれと変わらないの。つまり勇輝さんはカナちゃんの大事な人ってことよ。ただ仲が良いだけじゃここまではならないわ。」
「私がカナさんの………。」
・・・つまりは好きな人ってことか!?会って1日くらいなのに!何か深いわけでもあるのか?・・・
「獣人の娘はそうなったらずっと一途よ。けど、それで捨てられて心に傷を負う子もたくさんいるの。」
エリナは悲しそうな顔をして思い出すように話した。
・・・エリナさんの友達かだれかがそうだったのかな。・・・
「カナちゃんはまだ若いわ。それにとってもカワイイから、どうかあの子のことは捨てないであげて……。」
エリナが勇輝の手を握ってすがるように言った。
「私もカナさんの悲しむ顔は見たくありません!私は絶対にカナさんを捨てたりなんかしません!それに約束もしましたから…。」
勇輝は固く誓った。
するとエリナは微笑んで勇輝の手を離した。
「良かった。じゃあ私からも約束よ。あの子のことを捨てないでね。」
「はい。約束です。」
・・・捨てない…か。絶対にそんなことするもんか!・・・
そう決意を新たにしてカナの待つ部屋に戻った。
「すいません。カナさん、お待たせしました。」
ドアを開けながら申し訳なさそうに勇輝が部屋に入る。
「あっ!勇輝さん。何を話してたんですか?」
勇輝の姿を見て嬉しそうに尋ねてきた。
・・・エリナさんとあんな話をしていたって言えないよな。・・・
「ああ、カナさんの部屋のことですよ。今は隣の部屋も空いてるから使っていいということでしたよ。」
勇輝は適当に話の内容を誤魔化した。
・・・こういう時に無表情が役に立つんだよな。でも、騙してるようでちょっと罪悪感を感じるなぁ。・・・
「私は…………勇輝さんのそばに居たい…です。」
「なッ!?カナさん!?」
この部屋は勇輝一人で取っているので勿論ベッドは一つしかなく、サイズもそんなに大きくない。
「勇輝さんがイヤなら…私はテーブルと椅子で構いません。」
カナの決意は固いようで意見を変えそうにない。
・・・そんなところで寝たら今度こそ本当に風邪を引いちゃうじゃないか!そんなことはさせたくない。……いったいどうすれば…。・・・
勇輝はしばらく葛藤を繰り返したが、単純な答えにたどり着いた。
・・・もう一緒に寝ればいい!絶対に、絶対に手を出さない!これでみんな幸せなはず!・・・
夜が更けたからか勇輝の考えは少しブッ飛んでいた。
「そんなところで寝たら風邪ひきますよ。……はぁ、私のベッドで寝てください。」
・・・ついに言ってしまったな。持ってくれ!僕の自制心!・・・
「本当にいいんですか…?」
「あなたが無理をして風邪を引いたら私が悲しみます。」
勇輝がそう言った途端にカナの顔が真っ赤になった。
「私はもう寝ます。まだちょっと疲れているので。私のことは気にしないでください。ちゃんと毛布を被ってくださいね。」
赤くなってうつむいたままのカナを尻目にベッドに寝そべる。
「おやすみなさい。カナさん。」
「お、おやすみなさい…。」
どうやらまだ恥ずかしいようで椅子の上で固まっている。
勇輝は疲れと眠気に抗えず、すぐに眠った。
それからしばらくしてカナはなんとか立ち直っておそるおそるベッドに入った。
「勇輝さんの匂いがする…。」
カナが眠りについたところで勇輝はかろうじて目を覚まして、カナの半分しかかかっていない毛布を見た。
勇輝の右側にカナは丸まっているので自分の左側の毛布を引っ張ってカナにかけた。
これで勇輝の左腕はむき出しになってしまったが、それでも良かった。
そして今度こそ二人とも眠りについた。
朝日が昇り、窓から太陽の光が差し込む。
士官学校で起床ラッパに慣れきっている勇輝は6時の少し前に目覚めた。
ただ右腕に違和感を感じる。
・・・そうだ!カナさんは!?・・・
勇輝が顔を右に向けるとカナが勇輝の右手に抱きついて寝ていた。
しかもその寝顔は勇輝の目の前にある。
・・・ーッ!声を出すところだった……危ない危ない。本当に可愛いな。あっ、まさか手を出してないよね………。いや、まさかね〜。・・・
記憶を整理してそれらしいものはなかったので一安心する。
しかし、カナが右腕にがっしりと組みついているので動けない。
すると、カナが右腕に顔をスリスリと擦りつけた。
・・・ヤバイ!可愛い!………耐えろ、耐えろ。・・・
どちらにしろ今日は療養で予定はないのでもう少し寝ることにした。
その時に左腕がかなり冷えてしまっていることに気がついた。
・・・まあ、これくらい気にしないさ。寒くなんかない。・・・
勇輝は士官学校では絶対にやりたくてもできない二度寝を決行した。
再び勇輝は目を覚ました。左腕の時計を見ると1時間少し寝ていたようだ。
相変わらず右手には………感触がない。
おそるおそるチラッと横を見るとカナは勇輝の腕の中……体にくっついていた。
・・・ーッ!?腕だけじゃなく!?・・・
獣人ということもあるからか、カナはとても暖かい。
そして勇輝はフリーになった右手でカナの頭を撫でた。
・・・この耳の感触と髪のサラサラがたまらないな。・・・
「うぅーん。」
もう少し軽く撫でるべきだったようでカナがゆっくりと目を開けてしまった。
「……勇輝…さん?」
「おはようございます。」
やっと状況を理解したようでその顔は一気に赤く染まった。
「おはよう……ございます…。」
二人はゆっくりと起き上がった。
カナはまだもじもじしている。
耳がピクピク動いているのがまた可愛らしい。
「朝ごはんを食べましょうか?」
「…はい!」
二人は食堂に向かって部屋を出た。
「みなさん、おはようございまーす!」
エリナが料理の乗った皿を配っている。
・・・エリナさん、いっつも元気だなぁ。あの若さでよくやるよ。・・・
「あっ、勇輝さんおはようございます!カナちゃんもおはよう!」
「おはようございます…。」
エリナが持ってきた料理を軽く平らげて席を立つ。
「ごちそうさまでした。」
「どうもー!…そうだ、カナちゃん、ちょっといい?」
エリナはカナに近づくと何か耳打ちをした。
隣の勇輝には全く聞こえない。
だんだんとカナの顔が赤くなっていく。
・・・オイオイ、何を吹き込んでるんだ?・・・
耳打ちが終わった後エリナは勇輝にサムズアップをした。
・・・イタズラではないよな。いったい何を話したのやら。・・・
考えても分からないので、まだ顔が赤いカナを連れて部屋に戻った。
部屋に戻ると勇輝は特にやることもなかったのでM1と64式の分解整備を始めた。
一通りの整備道具もあったのでやることにしたが、89式は扱ったことがないので今回は諦める。
・・・もう一度異次元空間を探してみるか。分解手順の説明書かなにかがあるかも。・・・
M1も64式も滅多にない射撃で銃身内が黒く汚れていた。
M1に至っては銃剣で戦ったので血が付いている。
外観の血や土の汚れを落とし、内部の金属部品は汚れを落としてから油を塗布して錆を防ぐ。
一通りの整備を終えて2丁の銃を収納する。
その一連の動作をカナはずっと見ていた。
「銃ってあんなにたくさん部品があるんですね。」
「はい、それの組み合わせをしっかり叩き込まれましたよ。」
若干の苦笑いで返す。
「私は耳や鼻が敏感なのでちょっと苦手です。」
勇輝はイノシシと戦った時の銃の音に怯えて震えていたカナの姿を思い出す。
「でも、勇輝さんのそばで戦えるように頑張って慣れます!」
今のカナは気迫に満ち溢れていた。
「カナさん……カナさんはどうして私なんかと一緒にいたいのでですか?」
勇輝はずっと気になっていたことを聞くことにした。
二人の間に静寂が訪れる。
しばらくしてカナが口を開いた。
「私がいうのもなんですが…、勇輝さんを放っておけないような気がしたんです。優しくて、私のために一人で飛び出して…勇輝さんが一人で行ってしまうのが不思議と嫌で耐えられなかったんです。」
そう言うカナの顔はどこか清々しい。
たぶんこれがカナの本心だろう。
「そうだったんですか……。私もまだまだですね。カナさんのような人を不安にさせてしまうなんて。」
勇輝はなんとなく気まずく感じて後ろを向いて窓のそばに立った。
すると、後ろから不意にカナが抱きついてきた。
「ーッ!?」
急だったので驚いて声が出ない。
「勇輝さん、私は勇輝さんがいないと不安です。……けど、それで勇輝さんが悩んでしまうのなら我慢します。」
「………。」
カナが背中で泣いているのを感じてなにも言わず振り返って正面からカナを抱きしめた。
「我慢しなくていいんですよ。こんなにも私のことを思ってくれる人を私は悲しませない!」
ゆっくりだが、それでも語気を強めて言った。
カナが声を上げて泣き始めた。
勇輝は時折頭を撫でて抱きしめた。