コボルト・・・中級の人型の魔物で下級のゴブリンの上位互換であるが、獣に近い姿のためか弓を使う器用さはない。姿はほとんどオオカミが二本足で立っているような見た目である。
勇輝とカナは街へと向かう馬車に乗っていた。
勇輝は落ち着いているが、カナはいまだに周囲をキョロキョロと見たりして落ち着きがない。
「カナさん、先程は助かりました。あの時私は確実に斬られると覚悟していましたが、カナさんのお陰で無事ですみました。」
カナの正面を向いて頭を下げる。
「僕はまだまだ未熟です。一時の気の迷いで危機に陥ってしまいました。これからあなたと旅に出ても、危険な目に遭わせてしまうかもしれません…。」
カナは驚いた様子で聞いていた。
「そんなことありません!だって…勇輝さんはあの時私に気を遣って銃を使うのを躊躇ったんですよね?それは…つまり…私が勇輝さんの足手まといになっているんじゃ……。」
カナが最後まで言おうとしたが勇輝に頭を撫でられて何も言えなかった。
「そんなことを言わないでください。すべて僕の覚悟が足りなかったことが原因なんです。」
・・・自分はウジウジ言ってるのに…、卑怯にも程があるよな。つくづく救えないヤツだな、僕は。・・・
勇輝が手を下ろす。
「僕はカナさんを守れるようにもっと強くなります。」
カナを真っ直ぐに見てそう言う勇輝の目は揺らぎなかった。
「勇輝さん……。」
二人を乗せた馬車は街に入った。
二人はギルドの扉を開けて中に入る。
受付のお姉さんに依頼達成の報告をする。
「この前ボロボロだったのが嘘のようですね。……これが報酬です。」
「ありがとうございます。」
銀貨少しと銅貨が入った袋を受け取ってギルドを後にしようとする。
「兄ちゃん、ちょっと待ちな。」
テーブルに座っていたグループの一人が勇輝に声をかける。
「随分と立派な剣を持ってるみたいだが、使いこなせてんのか?オレには飾りのように見えるな。」
身軽さを重視した鎧を着た騎士風の男が勇輝のサーベルを指差して言った。
・・・結構痛いところを突いてくるな。何も言えない。・・・
「確かに私は未熟です。ですが、鍛錬して使いこなせてみせます。」
勇輝は静かに言い放った。
カナは勇輝の後ろにだって男を睨んでいる。
「そうまでいうのなら、オレと決闘しな。お前がどれくらい未熟か教えてやる。」
男が立ち上がって勇輝の前に歩き出して言った。
男はそこまで身体が大きいわけではないが引き締まっていて身長は勇輝より頭一つ高い。
「判りました。受けて立ちます。」
少し見上げるように言って承諾した。
「勇輝さん!?」
カナは心配そうな顔を向けている。
・・・どう見ても不安だよなぁ。実際僕も自信ないや。けど、逃げるわけにもいかない。・・・
男が受付のお姉さんに何か話すと勇輝を呼んでギルドの奥へと向かった。
カナは一瞬立ちっぱなしだったが、はっとして勇輝の後についていった。
ギルドの奥には階段があり、地下へとつながっていた。
見たところかなり広い空間が広がっている。
確かにここなら決闘だけでなく色々な練習もできそうだ。
「こんな空間があったんですね。」
ギルドのお姉さんにそう言う。
「ここはもともとSランクへの昇級試験をするためにあるんですけど、そう滅多に使われないので魔法などの練習に使ったり、今回みたいなことにも使われます。」
カナと受付のお姉さんを残して勇輝と男は広間の真ん中へと歩いていった。
二人が向かい合って立ち止まる。
離れたところからカナとお姉さん以外にも上にいた人たちが見物に来ていた。
「オレの名はガーラだ。最初に言っとくが、魔法も飛び道具もナシだ。剣だけで、殺すつもりで来い。」
「判りました。勇輝です。未熟なので本気で行きますよ。」
勇輝は拳銃をホルスターごと収納し、余計なポーチ類も収納した。
二人は剣を抜いて構える。
ガーラの剣は真っ直ぐで両刃の両手剣だが、刀身の幅はそんなに広くないので一般的なロングソードよりは取り回しが良さそうだ。
「それじゃ、行くぞ!」
ガーラが素早く距離を詰めると両手で斜めに切り上げてきた。
勇輝はぎこちなく両手でサーベルを握り、上段から振り下ろして抑え込んだ。
「どうした?軽くてこんなんじゃ話にならねーぞ!」
上から押さえて有利なはずなのに勇輝の剣は押されて始め、ついにガーラに振り払われてしまった。
「ーッ!なっ!」
「片手で使う剣を両手で握ってもたいして変わらねーよっ!」
勇輝は後ろに下がって体勢を立て直す。
「オラーッ!」
今度はガーラの剣は上から振り下ろされた。
左手を刀身に添えて両手で受け止める。
「そんなんで止められると思ってんのか?」
少しずつ押し込まれてついにガーラの剣が勇輝の左肩に触れて刃が食い込み始めた。
「そんなんで嬢ちゃんを護れんのか?」
痛みに歯をくいしばりながら肩を見ると少しずつ血が滲んでODの作業着に赤黒いシミが広がり始めている。
その向こうにはカナの姿が見えた。
遠目でもひどく動揺しているのがわかる。
「クソーーッ!」
勇輝は踏ん張っていた足に力を込めてジャンプするようにして前に飛び出した。
刃がさらに肩に食い込んだが、ガーラに体当たりをすることができた。
ガーラは後ろへ下がり、その隙に勇輝も距離を取った。
痛みを堪えて肩を押さえている。
「どうした?さっきからやられてばかりだぞ。さっさと来いよ!」
「クッ…言われなくても!」
勇輝はサーベルを構えて走り出す。
「ハアァーッ!」
大振りで横に斬りかかるがガーラも剣を振り上げて勇輝は身体ごと振り払われて吹っ飛んだ。
「甘すぎるんだよ。かわすべきものと受け止めるものも区別出来ず、冷静さを欠いた攻撃、どれも全くなっていない!」
吹っ飛ばされた勇輝は背中から地面に着き、苦痛に顔を歪ませる。
・・・駄目だ……経験が全く違う。けど、絶対に一太刀入れる!・・・
勇輝はよろめきながらも立ち上がり、サーベルを構えた。
「どうした?来ないのか?それならこっちから行くぜ!」
・・・よく見るんだ。剣が通る場所、向き、力のベクトルを。・・・
恐怖に負けそうになりながらも、ガーラの剣から目を離さない。
ガーラは斜め上から再び左肩を狙って振り下ろしてきた。
「ーッ!」
勇輝はサーベルの剣先を下に向けて防御の姿勢を取ったが、足は強く踏ん張らずにいつでも動けるようにしている。
ガーラの剣がサーベルの刀身に触れるがその勢いは殺されず、刀身に沿って直撃コースから外れて勇輝の左を掠めた。
「これでッ!」
がら空きのガーラに向けて手首を返してサーベルを上段から振り下ろしにかかる。
「よくいなしたけど、まだまだだ!」
サーベルがガーラを捉える前にショルダータックルを受けて勇輝の身体が浮いた。
またもや背中から地面に着いて大の字になった。
「勝負ありだな。さっきの動き…、センスは認めるが、基本がなってねー。」
「……そうですね。完敗です…。」
決闘は勇輝の完敗で幕を閉じた。
「お前、あそこの嬢ちゃんを護りたいんだろ?強くなりたいか?」
剣を収めたガーラが勇輝に近づく。
「強く…なりたいです。護れるように……。」
勇輝は倒れたまま痛みを堪えて呟く。
「オレが鍛えてやる。いつまでもビギナーズラックは通用しないからな。」
「えっ…?」
勇輝は驚いてガーラを見上げる。
「勇輝さーん!大丈夫ですか!?い、いま治します!」
カナが泣きそうな顔で駆け寄って肩の傷を治療する。
遅れて受付のお姉さんも歩いてくる。
「ガーラさんも相変わらずですね。もうちょっと手加減してください。」
お姉さんが呆れたようにガーラに言う。
「それなんだが、またしばらくここを使わせてくれ。」
ガーラがお姉さんにそういうとお姉さんは微笑みながらため息をついた。
「本当に物好きですね。ほどほどにしてくださいよ。」
毎度のことといった感じで了承する。
勇輝は治療を終えて体を起こしてサーベルを収める。
ガーラが勇輝の方に振り向いてニヤリと笑う。
それを見てカナが勇輝を守るかのように身を寄せてガーラを睨む。
「これからお前のことを鍛える。いっておくがオレはかなりスパルタだぞ。」
「ハイッ!よろしくお願いします!」
精一杯の返事をした。
「まぁ、今日のところはゆっくり休みな。明日またここに来い。」
そう言ってガーラは立ち去り、見物人も帰っていった。
「あの人いっつもあんな感じで新人の面倒をよく見てくれてるんですよ。ちょっと怖そうですけど、結構優しいんですよ。」
受付のお姉さんが勇輝達に楽しそうに話した。
勇輝はカナの手を取り立ち上がると砂を払ってギルドを出た。
ギルドを出た二人は街で旅に必要な物を買い出しにいった。
「僕の魔法ならそのまま保存できますけど、念のため保存が効くものも用意しておきましょう。」
「はい。私もある程度は携帯しておきます。」
屋台で色々な食べ物を買っては収納し、今度は食料品店で野菜や果物、調味料を買った。
その後、干し肉などの保存食も買った。
食材もだが、なんといっても水を大量に保存できるのはかなり便利だ。
「そういえば一応服なども買っておきますか。カナさんも同じローブばかりでは辛いでしょう。私も毎回変な格好とは言われたくないですし。」
・・・でも、買った服は街中でだけ着ることにしよう。制服とかを着なくなったら元の世界の自分を完全に見失いそうだし。・・・
カナがとても恥ずかしそうに顔を赤くする。
「わたしは…いいですよ。このままでも…。」
カナは遠慮するが勇輝にはなんとなく我慢しているのがわかるようになっていたので諦めない。
・・・ちょっとアプローチを変えてみるか。僕も恥ずかしいけど……。・・・
「いやぁ、僕は違う服を着たカナさんも見てみたいですね。ははっ……。」
・・・なんとか言い切ったけど、めちゃくちゃ恥ずかしいな。・・・
「ーッ!?うぅ……。」
言われたことに驚いてもじもじしている。
だが、どこか嬉しそうだ。
「はい…。行きましょう。」
二人は服を売っている店を探して中に入った。