引き続きお楽しみください。
勇輝とカナは入り慣れた[猫の月]の扉を開ける。
ベルの音が鳴り、エリナの母が出迎える。
「あらっ、お帰りなさい。今日で最後ね。今夜の料理は腕によりをかけて作るから楽しみにしていてね。」
・・・もう最後かー。今夜はしっかりと味わって食べよう。・・・
宿の奥にある風呂で汗を流したら食堂に向かった。
「ハーイ!勇輝さん、カナちゃん、今日はご馳走だよ!」
エリナが元気に登場し、皿を並べていく。
「私も頑張って作ったからたくさん食べてね。」
・・・今…さらっとヤバイ事言ってなかった?この中に混じってるのか!?・・・
カナも状況を理解したようで青ざめた顔をしている。
・・・せめてカナさんには食べさせないようにしなければ!どれだ?いったいどれがハズレなんだ!・・・
勇輝は片っ端から解析を行った。
その結果2皿混じっていることが判明した。
その2皿をさりげなく自分の方に引き寄せて自分の近くにあった安全な皿と位置を交換した。
カナには気づかれていないようだ。
・・・最初になんとかして片付けてから美味しい方を味わおう。そのためにも倒れるわけにはいかない!・・・
血の気が体中から引いていくような感覚がしたが、我慢して食べ続けた。
・・・うぅ…あと少し……。・・・
残り一皿の僅かを残して腕が止まってしまった。
「勇輝さん?私もそれ食べます。」
カナさんが手を伸ばして残り僅かな料理を取ろうとした。
「えぇい!」
最後の力を振り絞って皿を掴み無理矢理かきこんだ。
カナは唖然としている。
・・・ふぅ、なんとか……食べきったぞ……。後は大丈夫だ。・・・
しばらく意識が遠のいたり腕が無意識に震えたりしたが、美味しい料理を食べてなんとか復活した。
周りで見ていた他の客は真相に気づいたらしく涙を堪えているものや、勇輝を讃えるジェスチャーをしていた。
その後は美味しい料理を食べて幸せな気分になった。
「どう?美味しかったでしょ。まだまだあるから食べてね。」
エリナがそう言いながらあの料理をさらに追加しようとした。
・・・マズイ!もうダメだ!・・・
勇輝は諦めかけたその時……奇跡が起きた。
「エリナちゃん!その皿オレにちょうだい。」
「俺んとこにも!」
他の客がエリナに声をかけた。
「えっ?でもこれは…」
「エリナさん、いいですよ。あの人たちにも食べさせてあげてください。」
断ろうとしていたエリナに勇輝がフォローする。
「じゃあわかりました。」
渋々エリナは料理を頼んだ客のところに持っていった。
「カナさん、そろそろ帰りましょう。」
「えっ?はい。」
カナと一緒に席を立ったが、振り向くと助けてくれた客が任せろと言うようにガッツポーズをした。
・・・ありがとうございます!あなたたちのことは忘れません!・・・
2人は食堂を出て部屋に戻った。
「勇輝さん、エリナさんの料理ってありましたか?」
部屋に戻るとカナが質問してきた。
「そういえばありませんでしたね。たぶん勘違いだったんですよ。」
・・・真実は彼らのみが知る。彼らの名誉のためにも黙っておこう。・・・
カナは首を傾げている。
「明日にはこの街を出るので荷物の確認をしましょう。足りないものは明日の昼までに買います。」
「私はもともとあまり何も持ってないので大丈夫ですよ。」
・・・本当に大丈夫か?まあほとんどこっちで用意してるから何かあってもなんとかなるかな。・・・
勇輝は久しぶりに異次元空間に入って備蓄品の確認をした。
カナには教えていなかったのでかなり驚かれた。
「びっくりしましたよ!あんな空間に入れるなんて!」
「そういえば言ってませんでしたね。驚かせてごめんなさい。」
・・・さて、足りないものもないようだし、早めに寝るか。・・・
「明日から旅なので早めに寝ましょうか。」
「あ、はい……先に寝ていてください。」
カナが顔を赤くして言った。
・・・今まで何も言わずに寝て、僕が寝たのを見計らって入ってきてるからな。いざ一緒に入るとなると恥ずかしいのか。………僕もなんだけどね。・・・
「分かりました。カナさんも早めに寝てくださいね。」
・・・あまり言ったら可哀想だからやめとこう。・・・
とりあえずわざと右腕を横に広げて寝ることにした。
途中本当に寝てしまっていたが気づくと11時になろうとしていた。
そのときゆっくりと毛布が動かされた。
・・・きた……。・・・
カナがいつものポジションである勇輝の右側に入ってきた。
毛布の中に入り込むと勇輝の右腕をどうしようかしばらく迷ったようだが、腕を枕にすることにしたようだ。
・・・ーッ!狙い通りだ。・・・
右腕に乗せられたカナの頭の重みとサラサラとした髪の毛の感触に癒された。
しかし、ずっと腕を出していてきつくなったので寝返りを打つ振りをしてカナの方に体を向ける。
しばらく待って目をゆっくりと開けるとカナは勇輝の腕枕で眠っていた。
・・・可愛いなぁ。僕ができるのはここまでだ。・・・
今度こそ勇輝は眠った。
朝になって目を覚ますと、右腕はカナの頭の感触がするが、左手には別の感触がした。
・・・ん?なんだ?・・・
おそるおそる確認すると勇輝の左手はカナの体の上にあった。
「ーッ!?」
かろうじて声は出さなかったが、勇輝は動揺した。
ローブで分かりにくかったが、おそらく左手はカナの胸の上に置かれている。
・・・ヤバイヤバイ!これはマズイ。・・・
カナを起こさないようにゆっくりと左手をどかす。
どうやら起きていないようだ。
・・・ふぅ、なんとかなった。・・・
勇輝が安堵の息を漏らすとカナが目を覚ましてその目があった。
「あっ…。」
カナの顔がみるみる赤くなっていく。
勇輝が耐えかねて飛び起きる。
「勇輝さん……どうかしましたか?」
カナが顔を赤らめながら尋ねる。
「柔らか……イエッ!なんでもありません!」
うっかり心の声を出しそうになって慌てて取り消す。
カナは首を傾げるが、その後微笑んだ。
「おはようございます!」
「お…おはようござい…ます。」
無垢な笑顔で挨拶されて、勇輝はドキッとしながら挨拶を返した。
「あら、おはよう。」
「おはようございます。もう朝食たべれますか?」
下に降りるとエリナの母がいた。
「パンと牛乳だけだからすぐ出せるわよ。食堂に行ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
食堂で朝食を済ませた。
勇輝は部屋に戻ると異次元空間の中で迷彩服に着替えてサーベルやホルスターなどがついた装備一式を身につけた。
空間を出るとカナも準備を済ませたようだ。
「それでは出発しましょうか。」
「はい!」
2人は下に降りた。
「おや、2人とももう出るのかい?」
「はい、お世話になりました。」
エリナの母がいたので声をかけた。
「ちょっと待ってね。エリナー!」
「ハーイ!どうしたの、母さん?」
エリナが奥から出てきた。
「エリナさん、一週間お世話になりました。これから旅に出ますがここでも思い出は忘れません。」
・・・特に食事は……。・・・
「そうなんだ!旅に出るのかー。そうだ!カナちゃん!」
エリナかカナに耳打ちをする。
カナは笑顔になって頷いた。
・・・何話したんだろうな。・・・
「それじゃ、元気でねー!」
「ありがとうございましたー!」
2人は[猫の月]を出た。
「ファイさん!いますか?」
「いるぜ!どうしたんだ?」
ファイの武器屋にも挨拶する。
「いろいろお世話になりました。このナイフはありがたく使わせていただきます。」
「おう!大切に使ってくれよ!旅もがんばれよ。…そうだ、ジジイも今いるぜ。ちょっと待ってな。」
ファイが店の奥に行き、しばらくするとヘトスを連れて出てきた。
「ヘトスさん、銃剣とサーベルありがとうございました。」
「フン!儂は条件を守ってだけじゃ。こっちこそあの剣をもらってありがたく思っとる。儂が作った剣を折ったら許さんぞ。」
「はい!大切に使います。」
2人に挨拶をして武器屋を後にした。
「最後はギルドですね。」
ギルドの扉を開けると久しぶりに迷彩服で来たので注目を浴びた。
「今までお世話になりました。」
「いえいえ、気をつけて旅をしてくださいね。他の街でもギルドを頼ってください。」
受付のお姉さんに挨拶をする。
「あっ?勇輝じゃねーか。どうしたんだその格好?」
後ろからガーラさんがやってきた。
「ガーラさん!この服は私の元いた集団の服なんです。それよりも鍛えてくださってありがとうございました!」
「こっちが勝手にやっただけだから気にすんな。のたれ死ぬんじゃねーぞ。」
「大丈夫です!ガーラさんの教えを活かします!」
「そうか、頑張れよ!あと、嬢ちゃんもな。」
ガーラはニヤッと笑いカナを見た。
「皆さんお世話になりましたー!」
2人はギルドを出た。
「それじゃあ、どこを目指しましょうか?」
勇輝はカナに向かって尋ねる。
「それなら…獣人が多く住んでいる東の国に行きたいです。何か思い出せるかもしれないので。」
「そうと決まれば出発しますか!」
「はい!」
街の門をくぐり、2人は東に向かって歩き出した。