「あれっ?」
勇輝は耳鳴りとまだオレンジ色の光で眩んだ視界に混乱しながらも自分の銃はしっかりと保持していた。
・・・どういう事だ?あの音は空砲の音だろうし視界が眩んでいるということは発砲を結構近くで見たという事だ。
いや、あの時銃口は僕の目の前に…!!
まさか僕は死んだのか?・・・
そして麻痺していた視覚や聴覚がだんだんと回復していって周囲の状況を見てさらに奇妙なことに気づく。
勇輝は木々が生い茂る森の中に立っていたのだ。
さっきまでいたはずのアスファルトの地面の開けた練習場ではなく足元には土や雑草に覆われている。
そして周りには誰一人としていなかった。
・・・ここは一体どこなんだ。どうして誰もいない?
とりあえず僕は怪我とかはないみたいだけど状況が状況がまったく理解できない…
ッ!まてよ、もしかしてテレポートか?それとも異世界か?・・・
勇輝は若干ミリタリーに偏っているがある程度広めのオタク知識は持っているし、最近やたらと身近になってきていた異世界モノもいくつか知っていた。
・・・まずは周囲の確認をするしかないな。
何がいるかわからない。慎重に探索しよう。
まずはこの木はなんなんだ?特に変なところはなさそうだがなんとも言えないな。とりあえず移動するか。・・・
念のためM1の銃口を下に向けて保持してゆっくりと進み自分の身が隠せるほど大きな木の幹に近づいて恐る恐る顔だけを出してその向こうを見る。
どうやらこの森は結構広いみたいで変わらない風景が続いている。
幸い木はそんなに密集していないので歩き難いわけでもなく、太陽の光も十分届いて明るい。
しばらく進んでいるとそれは現れた。
・・・なんだアレは?人…じゃなさそうだな。持っているのは剣?・・・
勇輝は木に隠れて顔を覗かせて謎の存在を観察する。
大きさは人の中学生くらいかもう少し小さめのようで色は赤っぽい茶色?
耳が尖っていてその手には鉈の様な剣が握られている。
足元には血まみれの鹿の様な動物が横たわっている。
どうやらコイツが仕留めたらしく首元付近が特に血に染まっている。
・・・もしかしていわゆるゴブリンってヤツか?
だとしたらアイツ単体じゃないよな?近くに仲間がいるかもしれないな。
どうする?逃げるとしても元来た方向に戻るか?それとも迂回する?
なら迂回先で仲間に出くわすかも…しばらく周辺を警戒しつつやり過ごすとしよう。・・・
この選択は間違ってはいなかったかもしれないが遅すぎた。
さっそく周辺確認をしようと顔を引っ込めて振り向いた時ヤツがいた。
振り向いた直後は気づいていなかったみたいだが、勇輝がヤバイと判断する頃にはあちらも気づいた様で目が合ってしまった。
「キィィィイー!!」
猿に近い様な金切り声を上げて剣を持った手を掲げた。
「待て!戦うつもりはない!」
苦し紛れに呼びかけてみるも言葉が通じていないのかそもそも見逃すつもりはないのかこっちに向かって走って来た。
「やるしかないのか。」
M1の安全装置を解除して身構える。
空砲とは言えども近距離であればかなりの威力があるのだ。
しかし相手にどれほどのダメージを与えられるかはわからないのでただでさえ近づがなければ効果がないがゼロ距離射撃で仕留めるしかない。
まだ問題はある。
それはM1自体の耐久性でこれがかなり重大である。
この銃が現役だった第二次大戦や朝鮮戦争の頃ならともかく60年以上経った状態ではM1の大部分を占める木製パーツの経年劣化が酷く戦闘に耐えられる可能性は低い。
勇輝の銃も様々な技に使用して時には落としてしまう事もあり機関部右側面に見た目ほど酷いわけではないが大きなヒビが入っている。
つまりはいつ折れてもおかしくないのだ。
・・・できれば攻撃をM1で受け止めて隙を突いてゼロ距離射撃を与えたいけど銃が壊れる可能性が高い。一か八か相手の初撃を避けてすかさず突き出して撃つしかない。・・・
ヤツは尚も走って来ている。
まだ最初に見つけたヤツが来て不利になる前になんとかして突破しなければ。
もうすぐ攻撃が来る、剣は上に振り上げられているのおそらくそのまま振り下ろすつもりなのだろう。
これだけあからさまにどう攻撃してくるか教えてくれるのならば避けるのは難しくない。
「見え見えだっ!」
M1を構えて剣を受けると見せかけて左後ろに身を引いて振り下ろしをかわす。
ヤツは少し驚いて隙ができたが返す様に横に振ろうとしている。
「遅いっ!!」
素早くM1を腰だめに構えて頭に向け突き出しすかさず引き金を引いた。
あの時と同じような乾いた爆音とオレンジの炎が出てヤツの顔面を穿った。
若干の反動で勇輝が仰け反るのと同時にヤツは吹っ飛んだ。
そして少しの間痙攣していたがそのうち動かなくなった。
「やったのか?」
もう弾がないがM1を向けて近づいて確認する。
流石に顔は見れないがどうやら死んでいるようだ。
「悪いが武器を貰うぞ。」
そう言って握られていた剣を奪ったところで後ろから最初のヤツが近づいて来る足音が聞こえて来たので近くの木の後ろに隠れる。
すでにM1は利用価値が薄いので負い紐を伸ばして背負い剣を握りしめる。
隠れて2分と経たないうちにもう一体がやって来た。
気づかれないように注意しながら観察してみると、あたりをキョロキョロと見回し、その後仲間の死体に近づいて何か調べている。
・・・不意打ちには持ってこいだな。やってやる。・・・
幸い相手は背を向けてしゃがみこんでいる。
足音を立てないようにゆっくりと剣を構えながら近づいていく。
・・・あと少しで届く。・・・
そう思った時ヤツはふと振り向いた。
「ーッッ!」
「ヤアァァー!!」
気づかれたのなら対応される前に速攻て決めるしかない。
雄叫びを上げながら駆け出したからか相手は驚いて動き出しが遅れているようだ。
ヤツが剣を掲げて防御しようとしたが間に合わなかった。
勇輝の剣は斜め上から振り下ろされ肩口から一気に斬りつけた。
相手は血を吹き出して倒れた。
「倒した…よな?これで安全か?」
もちろんその質問に答える者はここにはいない。
しばらく周辺を見渡してみたが気配は感じられなかった。
肩の力が抜けて一気に疲労が勇輝に襲いかかった。
それだけでなくおそらく人ではないとは言え、生き物を2体…片方に至っては銃で殺すのとは違い、自分の手で斬り殺したのだ。
そして自分のしたことに恐怖し、大きく動揺する。
急に心身の両方に大きな負担がかかったのだ。
勇輝は尻餅をつくようにへたり込むとそのまま気を失った。