お姉さん「行っちゃいましたね…。」
ガーラ「そうだな。」
お姉さん「あなたも本当に面倒見がいいですね。」
ガーラ「お、俺はそんなんじゃねーよ!アンタだって同じようなもんじゃねーかっ!
お姉さん「そうかもしれないですね。新人が旅立つのを見るのは寂しいものですね…。」
ガーラ「やっぱりアンタ結構おば…ゴフッ!?」
銃声
一週間あまりで多くの思い出を残した[コヨースカ]の門をカナとくぐり、獣人の国があると言う東へと足を向ける。
しばらくは小さな林がところどころ点在する平野の道を進むことになるようだ。
・・・やっぱり馬車とかを用意した方が良かったかな?ギルドのお姉さんにもらった地図だと結構遠いな。・・・
勇輝は1学年の秋に経験した25km行軍のことを思い出した。
富士山が間近に見える雄大な景色の中で途中雨に降られながらも64式小銃と重い背嚢を担いで歩き続けたのは今ではいい思い出だ。
ただ、もう一度やれと言われたら断りたい。
・・・まあ今回はもっと長いけど自由なペースで行けるし、なんといっても荷物も少なく、カナさんもいる。気楽にいこう。・・・
「カナさんは何かその国について知ってますか?」
馬車道に沿って気楽に歩きながら尋ねる。
「確か、[ノシヨ]って名前で、住人はほとんど獣人ですけど、少数の人間ともうまく共存しているらしいですよ。あとは王族や貴族などの階級がいます。」
・・・ふぅーん、王族や貴族ねー、それにしても共存ができてるのか。・・・
「そういえば人間と獣人の仲が悪くなってる原因って何なんですか?街の中では戦争しているような雰囲気が感じられないのですが。」
勇輝は以前に獣人が隠れて生活している理由を戦争かと思っていたが、街の空気は全く違ったので、別の理由があると考えていた。
「…それが…、王族同士の対立なんです。それで、貿易とかに影響が出ていたり王族中心の宣伝のせいでお互いの仲が悪くなってるんです。」
「ちなみにその対立の理由はわかりますか?」
「えーと、人間の王族が獣人の王女を嫁に欲しがったんですが、獣人の王族が拒否したっていう話らしいですよ。」
・・・えっ?それだけ!?人間の王小物すぎない?・・・
「そういうことなので獣人側ではたいして気にしていないみたいで、人間の街だけが獣人を嫌ってるんです。」
「そんな理由だったんですか。同族として恥ずかしいですね。」
勇輝は呆れながらも納得した。
・・・人間の王族に会ったらちょっとシバこうかな。会うことないと思うけど。・・・
そんなことを考えながら歩き続ける。
「勇輝さん、あそこの林で休憩しましょう。」
「そうですね。結構歩きましたから。」
小さな林が勇輝達の前に茂っていた。
林といっても十数本の木が生えているだけだが、木陰で休憩するくらいなら充分過ぎる。
手頃な木のそばに座ると、収納していた食べ物を取り出してカナにも分ける。
今回はイノシシの串焼きだ。
そのまま焼いてあるようで結構クセがあったが、できたてをキープしていたので美味しく食べられた。
カナは鋭い嗅覚のおかげで少し苦戦していた。
食べ終わった後にリンゴを1つ取り出してナイフで切り分けた。
・・・すごい切れ味だな。片手で持ちながら難なく切れた。・・・
ヘトスの自信作というだけあって大きなリンゴも豆腐のように切れた。
「カナさんも口直しにどうぞ。」
切り分けた半分をカナにも分けるが、あまりに楽に切れたので調子に乗ってウサギ風にしてみた。
「ありがとうございます……カワイイ。」
見た目とそのさっぱりとした甘さにカナもご満悦のようだった。
「勇輝さん……。」
リンゴを食べ終えたカナが呼びかけた。
「どうしましたか?」
勇輝がカナの方を向くとこわばった顔をしていた。
「あの、えと…私にジュウを撃たせてくれませんか……?」
「えっ…!?」
勇輝は驚いてリンゴの最後の一切れを落とした。
「カナさん!?どうしたんですか?いきなり。」
あまりに意外だったので落ちたリンゴも気にならなかった。
「だって…ジュウが勇輝さんの武器なんですよね。でも、私に気を遣って剣を使っていて……。私さえ慣れれば!」
うつむきがちに話していたが、最後の言葉は覚悟が感じられた。
「カナさん…。」
勇輝がカナの頭に手を置く。
「そう言ってもらえて嬉しいです。……けど、私が撃ちます。撃つには大きな音以外に覚悟が要ります。カナさんが背負う必要はありませんよ。」
カナは黙ってうつむいていた。
そして勇輝が手を下ろして低い声で話す。
「銃は剣や弓と同じように人を殺すための武器です。しかし、引き金を引くという動作であっという間にその命を奪うことができるのです。実感のない殺しをし続けていくと命を奪うことに何も感じなくなってしまいます。カナさんにはそうなって欲しくない。」
そう言って立ち上がるとM1を取り出して負い紐を緩めて腕を通した。
「しばらくはこの銃で戦います。カナさんは慣れるまで離れていてください。……それでは出発しましょうか。」
「………はい。」
カナはゆっくりと立ち上がって付いてきた。
林を出て馬車道に戻ると再び道に沿って歩き始めた。
途中で人を乗せた馬車に追い抜かれたこと以外は何もなく3時間経とうとしていた。
足に乳酸が溜まって力が入れにくくなる。
カナを見るとまだまだ大丈夫そうだ。
・・・結構カナさん強いんだな。……負けられないな。・・・
ちょっとショックを受けたが負けじとペースを維持した。
すると、止まっている馬車を見つけた。
「あれってさっき私たちを追い越した馬車じゃないですか?」
「確かにそのようですね。休憩ですかね?」
馬車に近づくとカナが異変に気付いた。
「ーッ!勇輝さん!血の匂いがします!」
「本当ですか!?急ぎましょう!」
2人は走って馬車に駆け寄った。
止まっている馬車の横には肩を押さえて座り込んでいる男性がいた。
「大丈夫ですか!?いったい何があったんですか?」
勇輝が御者と思われる男性に声をかける。
「ゴ…ゴブリンの群れに襲われて…中に乗っていたお嬢様が連れ去られた。2人いた騎士のうち1人は重症で馬車の中にいるが、もう片方は1人で追いかけに行っちまった…。」
男性自身も肩に矢を射られていたようだ。
止血はされていた。
・・・重傷者を助けないと、治療できたらいいんだけど…。・・・
勇輝が馬車に入ると上半身だけ鎧を脱いで寝かせられている騎士がいた。
呻き声を上げている彼の横っ腹には大きな傷ができていて、巻かれている包帯が血に染まっている。
「カナさん!いけますか?」
「やってみますっ!」
カナが傍に座って回復魔法をかける。
「私は外の人を見てきます。任せました!」
勇輝は再び外にいる男性のもとへ向かう。
「……騎士さんは大丈夫そうかい?」
御者の男性が痛みに耐えながら尋ねる。
「私の連れが治療しています。私もできることをやります。」
勇輝はそう言うと片膝をついて御者の肩に両手をかざして強く念じた。
・・・治れ…治れ……。・・・
すると、かすかに暖かい光が発生した。
御者の顔色が少しだけ良くなったが、傷はほとんど治せなかった。
・・・クソッ…慣れていないからか、才能が無いのか知らないけど状況は変わらないか。・・・
「すいません…。私の力不足で治せきれませんでした。」
「いや、俺は大丈夫だから気にしないでくれ。それよりもお嬢様と追いかけて行った騎士さんが心配だ。」
御者は不安そうな顔でうつむいた。
「私たちも加勢します!どの方向に向かって行きましたか?」
「本当か!?助かる。……やつらはあの森から出てきて戻る時もそっちに行ったから騎士さんも追っかけてった。」
「わかりました。それでは安静にしていてください。」
勇輝は立ち上がってカナを呼ぶと準備をして森へと向かった。
「重傷者はどうなりましたか?」
森の近くまできた時に勇輝がカナに尋ねた。
「ある程度治療できたのでしばらくは持ちますが、早めに街に連れて行った方がいいです。」
「短い時間でそこまでできれば上出来です。それでは森に入ります。周囲の警戒を。」
褒められてカナは少し嬉しそうにしていた。
森は意外と深く、太陽の光が遮られて薄暗くなっている。
2人で周囲を警戒しながら進む。
「ーッ!勇輝さん、向こうから血の匂いがします。」
カナが声を抑えて勇輝に知らせる。
カナが示した方向に向かうとゴブリンが数体血を流して倒れていた。
「これは……。」
カナと手分けして周囲を調べて手掛かりを探す。
・・・コイツら…剣でやられているな。騎士がやったのか?・・・
推測をしているとカナが何かを発見したらしく勇輝を呼んだ。
カナのところに向かうと騎士が血だらけで木にもたれかかっていた。
意識はないが、カナが治療していることからまだ生きているようだ。
「うぅ…。」
騎士が意識を取り戻したようで呻き声を上げた。
「もう大丈夫ですよ。動かないでください。」
治療しているカナの後ろから騎士に話す。
「頼む……お嬢様を…。」
消えそうな声で騎士が言葉を発した。
「わかりました。必ず助けますので待っていて下さい。」
カナの応急処置が終わるのを待って森の奥へと向かった。
カナの回復魔法は特訓で傷だらけになった勇輝を何度も治したからか、かなり上達していた。
以前なら治しきれなかった傷も治せるようになっている。
・・・魔法も結構成長するんだな。覚えておこう。・・・
勇輝は感心しながらも警戒は怠らない。
しばらく進むとカナが立ち止まり、帽子を取って耳をピンと立てた。
「…音が聞こえます。多分群れが近くにいます。移動はしてないようです。」
「よし…追いついたな。」
無意識に小声になる。
慎重に進むと若干開けた場所が広がっていて中央付近にゴブリンの群れと手足を縛られている女性がいた。
茂みの中から双眼鏡を手に持って様子を伺う。
数は6体のようだ。
・・・何体か怪我をしているな。騎士がやったんだな。・・・
森の中の死体も含めると10体以上はいたことになる。
「カナさん、私は反対側から攻撃します。私が最初に撃ったら次に氷魔法で牽制して下さい。……ああ、別に倒してしまっても構いませんよ。」
カナがあの死亡フラグを言うことは絶対ないと思うが一応潰しておく。
「わかりました。気をつけて下さいね。」
勇輝はM1を手に慎重に茂みの中を回り込む。
・・・陸自迷彩舐めんなよ。日本の森だったらもっとわからなくなるぞ。・・・
位置についたらM1に銃剣をつけてゆっくりと構えて狙いをつける。
「作戦開始…!」
1人小さく呟いて引き金を引いた。
発射炎が茂みの葉っぱを吹き飛ばして弾丸は勇輝に2番目に近いゴブリンの頭に命中して脳漿を散らした。
「ウラァァーー!」
直後に茂みから飛び出してM1を突き出しながら突撃をする。
後方のゴブリンが慌てて弓を引こうとすると別方向から飛んできた氷の刃が背中に突き刺さってどさりと倒れた。
2方向からの攻撃で動揺していた1番近い位置にいたゴブリンに銃剣を突き立てる。
銃剣はあっさりと刺さって引き抜くと簡単に抜けた。
「次っ!」
即座にM1を近くのゴブリンに向けて射撃して仕留める。
槍を持ったゴブリンが迫ってきた。
・・・槍か、今までと勝手が違うな。・・・
初めての相手を冷静に観察する。
「ーッ!」
槍を突き出してきたのを横にかわすが、穂先の刃が頬を掠める。
「ヤァッ!」
すぐさま懐に飛び込んでM1を振り下ろして槍を持っていた手を斬りつける。
しっかり刃がつけられた銃剣は遠心力も加わってゴブリンの右手首から先を切り落とした。
「グギャーーー!?」
ゴブリンが痛みに耐えかねて叫ぶがすぐさま振り上げるように突き上げられた銃剣が首に突き刺さり、引き抜かれると前に倒れた。
・・・やっぱり銃剣に刃がつくと攻撃の幅が広がるな。・・・
ホッと一息をついた。
「勇輝さんっ!」
茂みから出て来ていたカナが指を指す。
その先には女性を抱えて逃げる最後のゴブリンがいた。
・・・クソッ、面倒なことをするな。・・・
舌打ちをしたくなるが別のことが気になってやめた。
「カナさん、近くで撃ちますが我慢して下さい!あとで謝りますから!」
勇輝が叫ぶとカナは慌てて耳を塞ぐ。
M1を構えて狙いをつける。
・・・女性に当てるわけにはいかないな。足に当てるしかない!・・・
狙いを下方に修正して引き金を引く。
「うぅっ……!」
銃声の後にカナの声が耳に入った。
・・・カナさん…ごめん!・・・
弾丸はゴブリンの左膝にあたって突き抜けた。
ゴブリンはつまづくように転んで、抱えられていた女性は前に放り出された。
勇輝がすかさず走り出す。
ゴブリンが這いつくばって逃げようとしていたが勇輝が追いついた。
「ここでおしまいだ。」
背中から銃剣で心臓を突き刺されてゴブリンは息絶えた。
「作戦終了…。」
気を失っている女性のところに歩きながら呟いた。