士官候補生の異世界漂流   作:サイレントグラス

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活動報告に今後の投稿について書いてあります。
これからもお付き合いください。


寄り道

勇輝は手足を縛られて意識を失っている女性……お嬢様のところへ向かいながらM1の銃剣を取り外した。

お嬢様は高価そうな服を着ているが、体はカナよりも小さく年も若いだろう。

お嬢様のそばに着くと銃剣で手足を縛っていた縄を切り、仰向けに寝かせた。

カナが遅れてやって来た。

まだこわばった表情で、耳はパタンと倒れている。

「ごめんなさい…カナさん。いきなり近くで撃つことになってしまって…。」

正面に向かって勇輝は頭を下げる。

「いいんです。びっくりしましたけど、この人を助けるためで、正しかったと思います。」

頭をあげるとカナは微笑んでいた。

・・・本当はまだ怖いはずなのに……どうしてそこまで明るく振る舞うんだ。・・・

勇輝は自分のことは棚に上げて、何も言わず許されることをどこかもどかしく思っていた。

「カナさん…無理はしなくてもいいですよ。辛い時は言ってください。……それではこの人の治療をお願いします。」

勇輝がお嬢様から離れて入れ替わるようにカナが両膝をついて回復魔法をかけた。

「この人は大した怪我をしていないみたいです。早く馬車に連れて行ってあげましょう。」

カナがそう提案して勇輝も賛成した。

勇輝がお嬢様をおぶって森を進む。

 

 

「お嬢様!」

2人の前に騎士が立っていた。

力を振り絞って来たらしく、足がふらついている。

「ああ…、ありがとうございます!お嬢様はご無事ですか?」

騎士が感嘆の声を上げて尋ねてきた。

「ええ、大した怪我をしていないので大丈夫です。あなたこそ大丈夫ですか?」

「良かった…。私はなんとか歩けます。早く馬車に戻りたいところです。」

「そうですね。カナさん、肩を貸してあげてください。」

カナは少し躊躇う素振りを見せたが、騎士に肩を貸して歩き出した。

・・・人見知りのカナさんにはちょっと辛いかもしれないけど、我慢してくれ。・・・

カナの頭は微動だにせずただ正面のみを見ていた。

他者に触れているのはかなりの勇気がいるだろう。

しばらく歩き続けて森を抜けることができた。

 

 

馬車が見えてくる。

よく見ると御者の男性が怪我をしていない手を振っている。

一行はなんとか馬車までたどり着いた。

「皆さんご無事で良かったです!早く出発しましょう。お二人も是非乗ってください。」

御者が手綱を取って催促する。

「それでは世話になります。」

2人は馬車に乗り込んだ。

馬車の中ではお嬢様と重症の騎士が寝かされていて他の3人がうまく空いたスペースに座っていた。

カナは重症の騎士の治療を続けている。

「先程のことは改めてお礼申し上げます。お嬢様が無事で本当に良かったです。お二人はどこに向かっているのですか?」

騎士が深々と頭を下げた後に尋ねた。

「私たちは[ノシヨ]への旅をしていました。」

「そうだったのですか。我々はその道中にある町[マーハリク]に向かっていたんです。お嬢様はその町の町長の令嬢なのです。」

・・・そうだったのか。そういえば地図に載ってたな。ちょっと寄り道になるけど寄っても悪いことはないだろう。・・・

「私たちも[マーハリク]で休もうと思っていたのでちょうどいいですね。」

・・・よしっ!これで今日はもう歩かないで済むぞ。・・・

 

 

しばらく馬車に揺られていたが、カナが勇輝の隣に座った。

「カナさん、あの騎士の治療は大丈夫ですか?」

「はい、もう大丈夫です。傷を塞ぐところまでできたので、あとは安静にしておけばいいです。」

「そうですか。エライですね。」

勇輝はカナの頭を撫でるとカナは恥ずかしそうにしていたが、嬉しそうだった。

「勇輝さん、彼女は…?」

騎士が尋ねるとカナが警戒するように睨んで勇輝の腕を掴む。

「この子はカナです。獣人ですが、私と一緒に旅をしています。ちょっと人見知りです。」

「ほう、そうですか。大丈夫ですよ、そんなに警戒しなくても。[マーハリク]では町長の政策で獣人も普通に生活してます。」

騎士はカナを見て安心させた。

・・・カナの場合はそれだけじゃ安心しないんだよなぁ。……獣人も普通に暮らしてるのか。人間の為政者でもまともな人っているもんだな。・・・

さっきより警戒が薄まっているが、カナはまだ勇輝にくっついている。

ちょっと気まずくなったので勇輝と騎士は馬車の外を見ていた。

しばらくすると森が点在する平野の景色の奥に[コヨースカ]ほどではないが立派な町の城壁が見えてきた。

 

 

馬車が町の門に近づくと衛兵が近寄ってきたが、御者が話をすると大慌てで戻っていった。

今度は馬車の中の騎士と同じ鎧を着た騎士たちがやってきた。

勇輝の肩をかりて騎士が馬車を降りるとすぐに囲まれた。

「隊長!ご無事で何よりです!お嬢様は!?」

「大丈夫だ。怪我はないが眠っておられるので静かにして欲しい。あとは御者と部下を運んでやってくれ。応急処置はしてある。」

・・・この人騎士団の隊長だったの!?あっ、でも考えてみれば偉い人の護衛にはそれなりの人も着くよな。・・・

隣にいる勇輝は騎士団の勢いに圧倒されていたが、隊長の言葉を聞いて静まり返って負傷者を連れて行った。

「お前は馬車で俺とお嬢様、あと恩人2人を屋敷まで運んでくれ。」

「はっ!了解です!」

隊長が手近な部下を捕まえて御者台に乗せる。

馬車は門を通って町の中心部にある町長の屋敷へと向かった。

外を見ると[コヨースカ]とはまた違う活気にあふれていて、中には獣人の姿も見ることができた。

 

 

「隊長!到着しました!」

馬車が町中でもひときわ大きくて立派な建物の前で止まった。

鉄柵の門が開かれるとメイドの女性達が出てきてお嬢様を運んで行った。

・・・おっ、メイドさんだ。本物始めて見た。秋葉原にはよく行ったけど、メイド喫茶には行ったことなかったからなぁ。・・・

勇輝がメイドを見ているとカナが袖を引っ張った。

「勇輝さん、呼んでますよ。」

隊長が門の前で2人を呼んでいた。

門を通ると多種多様な花で彩られた庭園が広がっていた。

「うわぁ…きれい…。」

カナの耳がぴょこぴょこ動いていた。

・・・めっちゃ可愛い…。……うん!きれいな花だな!・・・

頭の中までお花畑になりそうだったのをなんとか切り替えて隊長についていく。

「ようこそおいでなさいました。私めが町長のもとへと案内します。」

屋敷の扉を開けると執事が出迎えた。

片眼鏡をかけてバランスよく白髪が入っている。

執事について行くが、勇輝は道中の調度品を観察していた。

・・・どれも高そうだな。さすがはお屋敷だ。・・・

 

 

部屋の前に到着すると執事がノックをする。

「町長、お連れしました。」

そう言うと、扉を開けて勇輝達を招き入れた。

正面には年季を感じさせる机があり、その向こうには初老の男性が座っていた。

「町長、お久しぶりです。騎士団第一部隊隊長、ただ今帰還しました。」

隊長がひざまづいて報告した。

「隊長、ご苦労だったね。負傷したと聞いたが大丈夫かね。」

「もったいなきお言葉です。お嬢様と我々はこの方達のお陰で帰って来ることができました。」

「ほう……君たちが娘の恩人か。」

町長が勇輝とカナを見て頷いた。

カナは恥ずかしさと人見知りでそわそわしている。

「私は永遠勇輝と申します。こちらはカナといいます。旅の途中で偶然お助けしました。」

カナは話せそうになかったので勇輝がまとめて言った。

すると町長がにっこりと笑って執事を呼んでなにかを話すと執事は部屋を出た。

「この度は娘の命を救ってくれてありがとう。一個人として感謝するよ。」

「いえ、当たり前のことをしたまでです。それよりもたった1人で魔物の群れに立ち向かった隊長さんの方が立派です。隊長さんのお陰で魔物の数が少なくなっていましたから。」

勇輝は隊長の方を向いてフォローした。

すると扉が開いて執事が手押し車を押して入ってきた。

その上のは袋が3つ乗せられている。

手押し車が町長の前に着いたところで町長が口を開いた。

「皆の功績を称えて褒美を与えようと思う。金貨20枚だ。是非受け取ってくれ。負傷したともう1人の騎士にも後日与える。」

執事が袋を一人一人に手渡す。

その袋はずっしり重く、受け取った瞬間に落としそうになった。

カナも重さに驚いている。

・・・金貨20枚ってすごいな!町長太っ腹だな。人助けっていいな。・・・

あまりの大金に少しにやける。

「皆ここで昼食を食べるといい。本当にご苦労だったね。」

「光栄ですっ!失礼しました!」

隊長に続いて部屋を出た。

執事が食堂へと案内する。

その空間はきらびやかなものは控えめであるが、長いテーブルや椅子はどれも素晴らしい出来だった。

テーブルの端に座るとカナが隣に座り、隊長は反対側に着いた。

長テーブルの反対側の端に町長とその夫人が座って食事が始まった。

どの料理も美味しかったが夫人の長話で長時間拘束された。

 

 

「本日はご苦労様でした。」

「こちらこそご馳走様でした。」

執事が見送りの挨拶をして3人は屋敷を出た。

「俺は騎士団の詰所に行くが、勇輝はどうする?」

屋敷の門を出て隊長が尋ねる。

「私たちは適当な宿を探します。それからギルドの方も見てきます。」

「そうか、じゃあ元気でな。」

隊長が2人に別れを告げて歩いて行った。

・・・いくらカナに治療してもらったからって…元気だなあの隊長。・・・

隊長の活力に感心しながら手を振った。

「大金をもらったことだし、町をじっくり見て回りましょうか。」

「はい!」

やっと2人きりになれてカナが嬉しそうに応えた。

 

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