特に進むわけでもなく甘めとなっています。
「勇輝さん…、勇輝さん、起きて下さい。」
カナの声が聞こえて目が覚めた。
・・・そうか、依頼のリッジウルフを撃退して帰りの馬車に乗って寝たんだっけ。・・・
目を擦り頭の中で情報を整理しながら外の様子を伺う。
するとマーハリクの街並みが遠目に見えていた。
「どうしたんですか?カナさん。」
町までまだもう少しかかるはずなのに起こしたということに疑問を持ち尋ねた。
「御者の人にも伝えたんですけど、少し前から何かがこの馬車をつけているみたいなんです。しかも血の匂いも混じってます。」
カナの目は真剣そのもので、耳はピンと立っている。
どうやらかなり警戒しているようでどこか落ち着きがなかった。
「わかりました。私が双眼鏡で見てみます。」
勇輝は双眼鏡を取り出してカナが示した方角を見回す。
「特に何も……ん?」
狭まった視界の端に一瞬動くものを見て、あわてて視界の中心に合わせる。
そこには赤茶色の狼の姿があった。
たが、血を流していて動きも鈍くなっている。
「カナさん、いましたよ。さっき私たちが逃した2匹の手負いのリッジウルフです。」
双眼鏡を覗きながらそう言うとカナがため息をついた。
「やっぱり…、リッジウルフは執念深くてなかなか諦めないんです。群れを壊滅させられて傷を負っても追いかけてくるとは…。」
双眼鏡を下ろしてカナの方を見ると少し悲しそうな顔をしていた。
「そうですか、それなら彼らの執念に報いるためにも確実に仕留めてあげましょうか。」
勇輝は双眼鏡を収納し、対人狙撃銃を取り出した。
「ここから2匹を仕留めます。カナさんは耳を塞いでいて下さい。すぐに済ませます。」
カナはもちろん御者にも注意を促し、銃を構える。
・・・距離はおよそ600だったな。馬車が少し揺れるけどじっくり狙えば大丈夫だ。・・・
スコープの調整をしてレティクルの中央にリッジウルフの1体を捉える。
「ーッ!」
引き金を引き、シアが落ちた瞬間に銃声が響く。
1秒も経たないうちにスコープ越しにリッジウルフが血を吹き出して転ぶのを確認した。
「あと1体!」
すぐさま次弾を装填してスコープを覗くと最後の1体は仲間が突然倒れたことに驚き、立ち止まっていた。
・・・足を止めたのは間違いだったな。・・・
動かない標的に狙いを定めてもう一度引き金を引いた。
放たれた弾丸はリッジウルフの頭に直撃し、赤い花を咲かせるように血やらを散らした。
「あっけないな………、カナさん終わりましたよ。」
対人狙撃銃を収納してカナに声をかける。
カナは以前より慣れたのか震えたりはしていなかったが、まだ目をつむっていて耳も銃声で麻痺しているようで勇輝の声に気づいていない。
「カナさん。」
申し訳ないなと思いながらカナの肩を優しく叩く。
「ひゃっ!?…勇輝さん?」
カナはビクッとした後目を開けてゆっくりと振り向く。
「終わったんです…か?」
カナが恐る恐る聞いてくるが、その耳はまだ伏せられていて少し涙目だった。
・・・かわいい…。・・・
不謹慎にもそう思ってしまったが気持ちを切り替えて質問に答える。
「ちゃんと仕留めましたよ。まだ銃の音はきついみたいですね。ごめんなさい……。」
カナに頭を下げて謝った。
「ー!!頭を上げてください!勇輝さんは悪くないです!」
語気を強めてカナがあわてて勇輝の謝罪を否定する。
・・・どうして…カナさんはそんなに許してくれるんだ……。・・・
未だに勇輝は許されるということに慣れず戸惑っていた。
「と…とにかくもうすぐ町に着くのでゆっくり休みましょう。」
この話はもう終わりというようにカナが提案してきたので勇輝もそれを了承して再び仮眠をとることにした。
15分ほど仮眠をとった後に馬車がマーハリクの門をくぐって止まったので2人はギルドに向かった。
ギルドに到着し、犬耳の受付に報告をする。
「こちらが報酬です。ご苦労様でした。」
「どうも、それではまた。」
さっさと報酬を受け取って宿へと急いだ。
日が落ちかけて空がオレンジ色に染まり始めた。
「ちょうどいい時間ですね。リッジウルフが向こうから出向いて来なかったらもっと遅かったでしょうから。」
「結果的にはそうなりますね。」
・・・カナに治療してもらったとはいえ、怪我をした御者はたまったもんじゃないだろうけど…。・・・
そんなツッコミを自分にいれているうちに宿に到着した。
「おかえりなさいませ。これから夕食が出るので食堂へどうぞ。」
宿の従業員が2人に声をかける。
「それでは夕食と行きましょうか。」
「はい!」
やっと食事ができるということで少しテンションの上がっていた2人は食堂に早足で向かい、美味しい料理を堪能した。
「いやぁ、ここのご飯は美味しかったですね。」
「そうですね。エリナさんのお母さんの料理にも負けないくらい美味しかったです。」
食事を済ませた2人は部屋に入ってくつろいでいた。
勇輝がどうしてもと2つ用意したベッドにそれぞれ腰掛けて話にふける。
「………いやぁ、弟は私よりも運動ができて頭の回転も良かったもんですから喧嘩も勝てなかったんですよ。」
「苦労してたんですね。」
勇輝は自分の世界に残してきた1つ下の弟の話をしていた。
勇輝は3人兄弟の長男で年子と中学3年生になる弟がいた。
「それで5、6年前に弟と暗黙の了解で手を出す喧嘩をしないようにしていたからこちらとしては助かってたんだけど、口喧嘩もかなりのものでろくに勝てなかったんですよね。本当に兄として情けないですね。」
勇輝は弟との喧嘩とその敗北を思い出しながら語る。
・・・本当に一度も勝ってないんだよなぁ。屁理屈やらいろいろ使いこなしてるし、何よりこっちの頭が硬すぎるんだよな。・・・
「そうですか?勇輝さんみたいな優しいお兄さんがいて弟さんは甘えているんじゃないですか?」
カナのさりげないフォローから優しさを感じて少し嬉しく感じる。
「私は…勇輝さんみたいなお兄さんがいて欲しかったな……。」
「えっ!?」
カナがポツリと言った言葉を聞いて勇輝は思わず驚きの声を上げたが、カナも自分の発言の意味に気がついて顔が真っ赤になった。
「いっ…今のは…その…。」
カナはうつむきがちに何かを言おうとしてはモジモジしているが勇輝も恥ずかしくて真っ直ぐに見れなかった。
あまりにも気まずいので勇輝は意を決してカナをまっすぐ見て笑顔(?)を作って冗談を言ってみることにした。
「それじゃあ私はカナさんの4つ上のお兄さんということですかねっ?お兄さんって呼んでもいいですよ?」
緊張が隠しきれず語尾がおかしくなっていたりしたが、なんとか言いきれた。
「ふぇ!?…うぅ…お、お兄…さん?」
「グハッ!?」
予想外の反撃に撃沈されてしまう勇輝だった。
・・・ダメだ…僕には眩しすぎる。こんな可愛い妹がいたら幸せだろうけど、お兄さんと呼ばれるのは心臓が持たない。・・・
上目遣いで顔を赤くしながら勇輝を見つめるカナの尊さに耐えきれなくなった勇輝は強引に毛布を被った。
「も…もう疲れているようなので寝ることにします。………おやすみなさい。」
「おやすみ…なさい。勇輝さん……。」
疲れていたのは事実で勇輝はすぐに眠りについた。
朝日が昇り窓から光が差し込んできた。
「ううーん、朝か…。」
体を伸ばそうとして腕を上げようとする。
・・・ん?……まさか…またか。・・・
違和感を感じてゆっくりと毛布の中を覗いて見ると栗色の耳と髪をもつ頭が見えた。
・・・やっぱり、また入り込んできたのか。これじゃベッドを2つ用意した意味がないな。・・・
ため息をついた勇輝はもう少し起きないことにした。
・・・状況的にちょっと犯罪臭がするけどこれくらいならいいかな?・・・
カナを起こさないように気をつけて頭の上に手を乗せる。
毛布の中にいたこともあって暖かく、その髪はさらさらとした感触だった。
・・・本当に妹みたいだな。・・・
自然と笑みがこぼれる。
決してにやけてなどはいない。
・・・とりあえずどうしたものかな。このまま獣人の国に向かうのはともかくそこからどうしようか。カナのことが分かるとは限らないし。ほんとにカナはいったい何者なんだ?・・・
色々と思案していたが特になにも変わらなかったので大人しく寝ることにした。