勇輝とカナはマーハリクの門から宿へと向かっていた。
しかし、とある忘れ物に気づいた。
・・・しまった…昼飯食べてない…。カナさんはお腹空いてるかな?空いてるよなぁ…昼前にあんだけ働いたら。・・・
防衛戦が始まったのは昼になる少し前で今は既に4時になろうとしている。
「そういえば、今日のおひ……」
グウゥー…
勇輝が振り向きざまにカナに声をかけ始めた時にその音は聞こえてきた。
出どころは……すぐにわかった。
「ーーッ!!」
カナの顔が真っ赤に染まり、耳は倒れている。
顔を下に向けて必死に恥ずかしさを堪えているようだ。
・・・そりゃ仕方ないよな。実際食べてないんだし。それで恥ずかしい思いをするのは僕にも責任がある。・・・
「いやぁ、ごめんなさい。お昼を食べ損ねて私のお腹が催促しているようですね。途中で何か買って食べましょう。」
かなりわざとらしかったと思うが、何もしないよりはマシだろう。
近くに果物屋があったのでリンゴを2つ買って分けた。
「はい、カナさん、食べてください。」
「あ…ありがとうございます。」
顔をまだうっすらと赤くしながらおずおずとリンゴを受け取る。
しかし、尻尾を振っているところから嬉しいという事は見てとれた。
それからリンゴをかじりながら再び宿へと歩を進めた。
「お帰りなさいませ。防衛戦に参加されたのですか?ご苦労様です。」
宿の扉を開けると宿の従業員が2人に気づいて声をかけた。
「いえいえ、私達は城壁の上から援護していただけなのでそれ程でもないですよ。まあ、カナさんはかなり働いてましたけど。」
勇輝が謙遜の次にカナの方を見ながら言うと、カナは恥ずかしそうに勇輝の後ろに隠れた。
「そうですか。夕食はもう少し後になるので部屋でお休み下さい。今回は防衛戦の労いという事で豪勢になってますよ。」
カナの仕草を見て従業員はニッコリと笑い、2人を見送った。
「はあ、疲れましたね。本当なら依頼の後は町の観光でもしようと思ってたんですが…。」
「魔物が突然来てしまったので仕方ないですね。今日はもうゆっくり休みましょう。」
部屋に戻って勇輝は椅子にドサリと座り込んでボヤくとカナが隣にちょこんと座った。
「私、勇輝さんのことをもっと知りたいです。勇輝さんの故郷ってどんなところなんですか?」
カナがこちらを向いて期待の目を向けている。
・・・おっと、結構積極的だな。こういうのも悪くないかな。・・・
夕食までの時間潰しがてら勇輝の故郷のことを話すことにした。
「私の出身は基本的に暖かいところで海や山などの自然が豊かでしたね。町はあまり大きくはなかったですけど、不便はありませんでした。」
流石に違う世界から来たとは言えないので国をすっ飛ばして出身県の話をすることにした。
カナは顔だけでなく耳まで勇輝に向けている。
・・・ヤバイ、可愛い。………続けるか。・・・
「自然が豊かなものですから食べ物もいろいろあって、どれも美味しい物ばかりでした。私の記憶だとなぜか甘いものが多かったですね。特産のかんきつ類はとても小ぶりですがその中にとてつもない甘さを秘めていました。他にも甘い芋も有名でそれを使ったお菓子がたくさんありましたね。」
勇輝はの故郷である鹿児島の小みかんとさつまいもを思い出し、少し寂しさを募らせた。
・・・これだけじゃない……やけに甘い卵焼き、しろくま、数え出したらキリがない。思い出したら食べたくなってきたなぁ……。・・・
「へぇー、甘いもの………いいなぁ。」
望郷の念に駆られている勇輝をよそにカナは鹿児島の甘いものを想像して微かににやけている。
・・・やっぱりこの年頃の女の子は甘いものが大好きだよね。食べさせてあげたいなぁ。この世界にないのかな?さつまいもとか。・・・
カナの愛くるしさに寂しさが薄まり、もっと喜ばしたいという気持ちになる。
勇輝はこの世界に故郷の食べ物に近いものがないか探そうと決心した。
とりとめのない故郷の話をしていると部屋の扉がノックされた。
「はい。」
返事をすると扉を開けて宿の従業員が半身を出して入ってきた。
「失礼します。夕食の準備が整いましたのでお知らせに参りました。」
「待ってましたよ。わざわざご苦労様です。」
勇輝は勢いよく立ちあがり、礼を言った。
カナは慌てて立ち上がって勇輝に続いて小さく会釈した。
「それでは行きましょうか!」
「は…はい!」
早足で食堂に向かう勇輝にカナが後ろをついていった。
「おおー、すごい量だな。カナさん、見てください!」
食堂来た勇輝は並べられた料理の量に驚いていた。
カナも勇輝の後ろからその様子を見て同じように驚いている。
・・・デザートの分も考えて食べないとな。バイキングとかだとすぐに腹一杯になっちゃうんだよね。・・・
勇輝は本来少食だが、容量自体はそれなりにあった。
それが士官学校生活でさらに鍛えられているのでそこそこ食べられるのだが、勇輝としては別に好き好んでたくさん食べることはしない。
4月の初めての外出で引率の4年生にしゃぶしゃぶの食べ放題でめちゃくちゃ食べさせられた記憶が蘇る。
・・・あの時はキツかったなぁ。今となってはいい思い出だ。けど、やっぱり食いシバきはもう勘弁願いたいね。・・・
「カナさん、私達は少し早めに切り上げて部屋でデザートをいただきましょう。」
「はっ!……そうですね。」
小さめな声でカナに話しかけると思い出したように頷いた。
「それじゃあ、いただきます!」
「いただきます。」
食べ過ぎに注意しつつ晩餐を楽しんだ。
勇輝は肉料理ばかりを食べていた。
元の世界でもバイキングや食べ放題では肉や揚げ物ばかりを食べていたが、それで胃がもたれてすぐにキツくなってしまっていた。
・・・ここまで肉を食べると米が食べたくなるなぁ。なんか異世界って大抵お米がないんだよね。・・・
ふと焼肉屋で食べる白米を思い出し、懐かしく感じた。
一方でカナはバランスよく食べていた。
・・・うん、カナさんは健康的でよろしい!僕はそんなこと言える立場じゃないな。いや、一応スープとかで補っている……か?・・・
カナより年上で日本でも成人の年齢でもある自分が子どものような偏食をしているのがみっともなく思えたので、適当に野菜も取った。
「そろそろ部屋に戻りますか?」
最後に野菜を片付けた勇輝がカナに呼びかける。
「私はもういいですよ。」
「それじゃあ、帰りますか。」
2人は騒ぐ他の客を尻目に部屋へと戻っていったがその足取りは軽かった。
「勇輝さん、早く食べましょう!」
「まあそんなに焦らなくても逃げませんよ。」
部屋に入るなり年相応にデザートが待ちきれないカナを微笑ましく感じながら果物の砂糖漬けが入った瓶を取り出した。
部屋の小さなテーブルの上にあらかじめ持ってきておいた手頃な皿を置く。
「んっ……結構硬いな。………よしっ開いた。」
硬く閉まっていた瓶を開けて中身を皿に広がる。
甘ったるい果物の香りが部屋内に漂っていく。
・・・美味そうだ。本当にいいものをいただいちゃったな。・・・
そう思っていると嗅覚に優れたカナは瓶が開いた瞬間から幸せそうな顔をしていた。
「よし…それでは改めて、今日はお疲れ様でした!このデザートは今日一番の働きを見せたカナさんが最初に食べるべきです!どうぞ!」
「えっ!いいんですか!?やったー!」
カナは小さく飛び跳ねて尻尾を激しく振りながら皿の上を目を輝かせながら見ている。
・・・なんだろうな、見ているこっちも癒されるんだよなぁ。控えめなところもいいけど、やっぱり元気な姿も可愛いもんだ。・・・
「それじゃあお先に…いただきますっ!」
真っ先に一切れの桃にフォークを突き刺して口に頬張った。
「んんー!!美味しいですっ!……こっちは…これもいいです!」
桃の甘さの余韻に浸る間も無くリンゴも口に入れる。
そして夢見心地な顔を見せるカナはとても幸せそうだった。
「よかったですね。私もいただきます!……おおっ!甘い!」
勇輝も我慢できなくなり、好物だった桃を食べるとあまりの甘さに頬が緩んだ。
「勇輝さん、ありがとうございます!私はとっても幸せです!」
突然カナが勇輝に向かってとびっきりの笑顔を見せた。
「あ……ああ、どういたしまして…。」
・・・こ…こんな笑顔を見せられて動揺しないわけないだろう!・・・
「こちらこそ…幸せです。」
2人はデザートの作り出す至福の時をかみしめていた。