開かれた窓からは月夜が覗き、そよ風が入ってくる。
部屋の中に置かれた小さなテーブルの上には空になった瓶と皿が一枚乗せられている。
「とても美味しかったですね。疲れた時は甘いものが一番です。」
勇輝がベッドに腰掛けてくつろいでいる。
「そうですねー。甘いものは最高です。」
カナはさりげなく勇輝の隣に座っている。
今も果物の砂糖漬けの余韻に浸っているようでどこか夢見心地だった。
「そういえばカナさん。」
ふと気になったことがあり、カナの方を向いて呼びかける。
「……はい!?どうしましたか?」
急に現実に引き戻されたかのようにビクッとしてこちらを見る。
「魔法をたくさん使うとやっぱり疲れるんですか?私は普段魔法を使っていないので細かいことがわからないのでいろいろ知りたいですね。」
「ああ、それなら多少の疲労は溜まりますよ。実際に走ったりするのとは異なりますけど使い過ぎるとなんとなく力が入りづらくなりますね。」
カナは冷静さを取り戻すと自分の感覚を思い出すように話し出した。
・・・多分魔力かMPのようなものが存在するのか。・・・
「勇輝さんはどんな魔法が使えるんですか?」
カナが興味のこもった視線を向けてくる。
・・・困ったなぁ…あんまり出来るとカナさんが落ち込んじゃうかもしれないし、何しろ僕もどこまで出来るのかわからない。・・・
「うーん…回復魔法はほとんど効果がありませんでしたが、今のところ雷撃を飛ばしたり火属性のものは使ったことがあります。それから無属性もある程度はできますね。」
とりあえず使ったことがあるものは言ってみた。
「雷撃…ですか……多分光属性ですかね?結構珍しいですよ。火は一般的ですね。複数使えるなら組み合わせでもっといろいろ出来ると思います。」
カナが難しそうに考えて分析した。
・・・やっぱり光属性か……僕の性格なら闇だと思うんだが…それは厨二病が過ぎるか。複数属性はあまりないみたいだけど特典とかで出来たりするかな?明日にでも試してみよう。・・・
「そうなんですか。あとは街でガラの悪い人に絡まれた時に使った小さな衝撃を飛ばすものだったり、壊れたものを修理するものができましたね。」
「ええっ!?修理ですか!?かなり難しいんですよ!すごいじゃないですか!」
カナが予想外の驚きを見せたことに勇輝も驚いた。
・・・イメージが大半らしいけどそれでも難しいのか。やっぱりハ○ー・ポ○ーの世界の魔法はすごいな。・・・
自分の知識がかなりのサポートをしていたから実現できたのであろう魔法のありがたさを再認識した。
「珍しいといってもまだまだ使ったことが少ないので明日いろいろ試してみます。カナさんには魔法のことを教えていただきたいです。」
「そんな!私こそすごい魔法を見せて貰えるだけでも嬉しいのに、私が教えるんですか!?」
「今のうちに勉強して銃がない時でも戦えたりすれば便利ですからね。とりあえず今日はもう休みましょうか。」
「えっ?ああ、そうですね。おやすみなさい。」
寝ると言ってベッドに寝そべったが、カナの様子が気になって寝返りを打って見てみた。
「ーッ!!」
「あっ………寝ないんですか?」
隣のベッドに座っているカナと目が合った。
突然目が合ったからかカナはバツが悪そうに目を逸らした。
「だ…大丈夫…です。」
もごもごと絞り出したような返事をしてこちらを見ずにいる。
・・・絶対僕が寝るのを待ってるよな。毎回起きた時にびっくりするから…今回はちょっと揺さぶりをかけるか。・・・
「こっちに入ってきていいですよ。もう気にしませんから。」
「ーッ!!」
・・・気にするわっ!こんなの元の世界だったら事案ものだぞ!学校に広まったらすれ違いざまに「警務隊さん、コイツですww。」っていわれるから!・・・
勇輝は恥ずかしさを必死に堪えてカナを見続け、カナの耳がピンと立ったのを見逃さなかった。
「い…いんですか…?」
ゆっくり、赤らめた顔を向けながらカナが呟くように尋ねた。
「大丈夫ですよ。なんだかんだで毎日入ってるじゃないですか。私が寝るまでずっと起きているんですよね。そんな気を遣わないでいいですよ。遅くなったら健康にも悪いですから。」
「うぅ……。」
カナは耳を垂れて縮こまって葛藤しているようだ。
・・・耳が垂れているのはなかなか可愛い……っ!イカン、これでは寝るまで持たん!・・・
心の中でいろいろと格闘しているうちに覚悟を決めたらしく、カナが勇輝のベッドに移ってきた。
「嫌じゃ…ないですか?」
・・・うっ…上目遣いっ!?ここまでの可愛さだとは………士官学校で鍛えられた精神が無ければ即死だった…。・・・
勇輝の精神に大打撃を与えたカナはいつものように毛布に潜り込んで勇輝にくっ付いて目を閉じた。
「おやすみなさい…。」
ゆっくりと手を伸ばしてカナの頭を撫でながら呟くと尻尾で返事をした。
・・・さて…頑張れ僕の理性!これ以上は手を出すなよ。・・・
自分に強く言い聞かせるように念じて勇輝も目を閉じた。
「うーん………ーッ!?」
勇輝が目を覚ますと朝陽が微かに窓から差し込んでいる。
とりあえず体を動かそうとしたが、何やら体が重い。
・・・あれっ?動かない……なんで?・・・
思考を巡らせているうちに寝ぼけも無くなった感覚からある答えに辿り着き、毛布を左手で少し持ち上げて中を見る。
・・・だ…だだ…抱きつかれとるーーッ!!・・・
驚愕の光景に勇輝は2分くらい思考が停止して唖然としていた。
・・・ハッ!?昨日は何もしてないよなっ?大丈夫だよな?・・・
あたふたしている勇輝のことはつゆも知らずカナは無垢な寝顔を見せて両腕で勇輝に抱きついている。
そんな体勢なのでもちろんいろいろと接触している。
・・・これは……む………・・・
勇輝がそれに気付いて頭の中にある単語を浮かべようとした時にカナが動くのを感じた。
・・・ーッ!起きるかっ!?とりあえず狸寝入りだ!・・・
何事もなかったかのように目を閉じて寝たふりをする。
カナの息遣いが変わったのを感じたので起きたので間違いはないようだ。
しばらくそのまま何も変化がなかったので勇気を出して目を開けた。
「ふぇっ?」
「あっ……。」
まだ寝ぼけた様子のカナとバッチリ目が合ってしまった。
「ゆ…勇輝さんっ!?」
「お…おはようございます、カナさん……。」
カナは一気に目が覚めて毛布から出ようとする。
しかし勇輝が右手で頭の上に手を乗せた。
「ーッ!!」
「気にしないと言ったじゃないですか。慌てなくてもいいですよ。」
「…はい……。」
カナは一瞬迷ったように動いていたが、すぐに動きを止めた。
「毛布の中では息苦しいでしょう。上がってください。」
・・・ちょっ!?何言ってるんだ僕は!今でもやばいのにもっと顔を近くにしたら……・・・
「えっ!?あ…うぅ……大丈夫ですっ!」
カナは恥ずかしさの限界だったようで横から飛び出してしまった。
・・・ふぅ、こっちも助かった。僕もここでの生活でおかしくなってきているな。………でも、悪くは感じないのがまた……。・・・
「よいしょっ。」
勇輝もベッドから起き上がって大きく伸びをした。
「まあ……朝食でも食べましょうか。」
「そ…そうですねー?」
恥ずかしさ故にお互いぎこちない会話となったが、ひとまず食堂に向かった。
食堂では特に何事もなく、朝食を済ませて部屋で身支度を整えた。
「この宿も今日で最後ですからね。さて、行きましょうか。」
「はい。」
勇輝は久しぶりに旅人の服を着てサーベルと9mmけん銃を装備してまずはギルドに向かった。
「カナさんは昨日みたいな緊急の依頼って受けたことありますか?」
ギルドへの道すがら振り返ってカナに聞いてみる。
「コヨースカは近くの森で大量発生した魔物の討伐がありましたね。私は単独だったので参加はしてませんでした。」
・・・ああ、そういえばそうだな。あんな森が近くにあるんだからそういうこともあるよな。・・・
「とにかく、報酬が楽しみですね。カナさんにはたっぷりと弾んでもらわないと。」
「そ…そんなことないですよっ!勇輝さんだってトロールを全部やっつけちゃったじゃないですか!」
「ま…まあ、そうですけど。カナさんも頑張ってましたよ…。とりあえず善は急げです。行きましょう。」
お互いがお互いを褒めるつもりがちょっとした言い合いに発展しそうだったのでこの話は切り上げることにした。
ギルドに到着して扉を開けると、普段はそこそこ人が入っている酒場みたいな雰囲気だったのが一転してどんちゃん騒ぎとなっていた。
「おっと……賑やかですね…。」
「ですね……。」
巻き込まれないように壁沿いに受付を目指した。
「あのー、昨日の緊急依頼の件で来たのですが…。」
「ああ、そうでしたか、お疲れ様でした。ではギルドカードを出してください。」
犬耳の男性に言われるがままカードを手渡す。
・・・どうやって確認とかするんだ?昨日の倒した数とかあんまり覚えてないぞ。・・・
そんな心配はすぐになくなった。
「勇輝さんですね。すごいじゃないですか!トロール21体にその他40体以上です。前衛でも後衛でも他にこんなに倒した人はいないですよ!」
「へぇー、そんなに多かったんですね。どうやって調べたんですか?」
「あの戦場にギルド所属の探知系の魔法が得意な職員が感知して記録しているんですよ。実際に目で観察する人もいますよ。ああいった乱戦では虚偽の報告も多いですからね。」
・・・ふぅーん、管制官?いや、観測員でいいか。そういうのもいるんだな。これをもっと発展させられたらAWACSみたいに使えそうだな。・・・
「カナさんもカードを出してください。」
「はい。………お願いします。」
「えーと、カナさん…ですね。討伐数は6体ですが、多数の参加者から治療処置に対する感謝の言葉をいただいてますよ。この町には現在応急処置ができる人が少なかったので助かりました。」
「おー、カナさん、よかったですね!みんな見てくれているんですよ。」
「そんな…私なんかが?」
カナの反応で自分を卑下しているかもと心配したが、見たところ照れているだけだったので勇輝はホッとした。
「勇輝さんは今回の功績を称えて通常の報酬とは別に記念品が贈呈されます。カナさんにもギルドから感謝状をお送りします。」
受付の人が一旦奥に入っていくとしばらくして3人の職員を引き連れて出てきた。
それぞれ手は報酬が入っていると思われる袋と記念品らしきものがあった。
「受付の人ともう1人の職員が勇輝の前に立つ。
「こちらが報酬です。お受け取りください。」
まずは受付の人から袋を受け取ったが、大きさに比べてずっしりと重かった。
・・・うわっ、重たっ!金貨がたくさん入ってるのか?・・・
袋の重さに驚いているともう1人の職員が前に出た。
「記念品のバッヂです。これには加護の力が込められていてあなたを守ってくれると思います。」
受け取った小さなケースを開けると青い宝石のような綺麗な石に盾の紋章が細かく刻まれたバッヂが入っていた。
・・・おおー、いい感じだね。加護付きか。付けてて損はないだろう。・・・
カナも報酬と感謝状を受け取っていた。
いつのまにか騒いでいた他の冒険者達も勇輝達に気付いてギャラリーとなっていたのでカナは顔を赤くしながら受け取っていた。
そのまま勇輝の後ろに隠れて、ギャラリーがヒューヒューともてはやす。
・・・ああ…目立ち過ぎだな…カナさんにはちょっとキツイな。・・・
「それでは帰ります。カナさん、行きましょうか。………すいません、通りまーす。」
歓声に送られながら2人は足早にギルドを出て行った。
「おっ、こんなに入ってる、そりゃ重いよな。」
勇輝は報酬を確認していた。
内容は金貨7枚に銀貨16枚だった。
ちなみにカナに聞いたりして知ったが、金貨は銀貨20枚の価値で銅貨にすると300枚にもなる。
カナの報酬は銀貨10枚と銅貨が8枚だった。
報酬を確認し終えたらすぐに収納した。
「そういえば、カナさんも感知とかの魔法は使えますか?あれがあったら便利ですよね。」
「うーん…それなりの経験を積んだ人なら自然とある程度使えるみたいですよ。私は今のところ使えないですね。……けど、才能がある人はすぐにかなりの範囲で使えるそうです。」
・・・えーと…見聞色の覇気かな?魔法というよりはスキルっぽい感じだな。イメージもしにくいし、地道にやるしかないな。・・・
「そうでしたか、修行次第ってことですかね。」
そう言って歩き始めると昨日の依頼で行った洞窟付近へと向かい始めた。
「あの辺りなら人もあまりいなかったですよね。魔法の練習にもってこいだと思います。」
「確かに…あそこならできそうですね。」
2人は町並みをゆっくりと観ながら目的地へと歩いて行った。