朝日が部屋を明るく照らして心地よい暖かさにする。
起きるのに丁度いい時間であったが、勇輝はその2時間は前から既に目が覚めていた。
・・・マズイ、これはマズイぞ……。・・・
勇輝はバイクに乗っている夢を見ていた。
そこにはカナもいて勇輝に両手でつかまっている。
だが、ふと目が覚めてしまったので一旦寝返りでもうとうと思ったが、体が重い。
夢は覚めているのにまだ掴まれているような感覚がする。
・・・あっ…そういうことか…。・・・
カナがバイクに乗っていた時のように勇輝に抱きついて寝ていた。
以前より密着度が上がっていて当たっているモノもよりはっきりとわかる。
・・・うーん……動けない。めっちゃ嬉し…イヤ、恥ずかしい。ていうかカナさんはこれをどう思うのか?・・・
そんなこんなで結局2時間ほどそのままになってしまった。
勇輝はほとんど姿勢を変えていないので固まった体を動かしたい。
・・・流石にそろそろ限界だな。何かいい方法はないか?………そうだ、せっかくだから尻尾をモフろう。今ならちょうどいい。・・・
動かせる左手を伸ばして勇輝の体の上まで伸びていた尻尾に触れてみる。
「おおっ。」
癒される触り心地に思わず声が出てしまった。
カナはまだ起きていないのでもうすこし堪能しておく事にした。
・・・髪の毛とはまた違うけどサラサラだな。だけど、その中にも柔らかさも兼ね備えている。何よりあったかい。・・・
右手が動かせないのが残念だが、その分たっぷりとモフった。
「勇輝さん…?私の尻尾……。」
「ーッ!?」
突然の声に驚いて左手を戻す。
顔を向けるとカナが顔を赤くしながら勇輝を見ていた。
既に体を離しているので自由に動けるようになった。
「ご…ごめんなさい!ちょうどいいところにあったものでつい…。」
自分の恥ずかしさを隠すためにも頭を下げて顔を見せないようにした。
「わわ…私こそくっつき過ぎました…迷惑でしたよね…?」
「いえっ!そんなことありませんっ!!」
勢いよく頭を上げて若干大声で言ったのでカナがびっくりして後ろに後ずさった。
「どうしてもという時は起こすかもしれないですが、とてもあったかくて柔らか…気持ち良く寝られるので全然迷惑ではないです。」
「ーッ!……それなら良かったです…。」
カナが顔をうっすらと赤くしてもじもじとしていた。
「オホン、朝食にしますか。済ませたら出発します。」
「……はい。」
今日がこの宿最期の食事ということで少し多めに食べる事にした。
「ここのパンはなかなか美味しいのでたくさん食べれますね。」
「このジャムが甘くて最高です。」
朝食はパンにイチゴみたいな味のジャムが付いていて、簡素な野菜のスープと牛乳があった。
「ふう、ごちそうさまでした。カナさん、行きましょうか。」
「はい、ごちそうさまでした!」
2人は揃って食堂を後にして一度部屋に戻った。
・・・まあ、大した荷物は置いてないけど少し休んでから行くか。・・・
ベッドに腰掛けて10分ほど休憩して、その後は異次元空間で着替えて装備を整えた。
「おやっ、出発ですか?お早いですね。」
「はい、3日間お世話になりました。」
声をかけてきた宿の主人に挨拶をして宿を出た。
・・・やっぱりこの視線はまだ慣れないなぁ。・・・
勇輝は町中で通行人に二度見を何度もされたり、睨まれたりしていた。
ちなみに今の勇輝の装備はサーベルと9mmけん銃にポーチ系、そして……迷彩服である。
カナも勇輝の浴びる視線の巻き添えを食らって落ち着きがない。
「カナさんもう少しで門に着きますからそれまでの辛抱です。」
「ううー…はい。」
・・・何が辛抱だよ!町中歩くのに何で我慢せにゃならん!異世界ならもっと変わった格好のやつの1人や2人はいるだろう!・・・
心の中で文句をいっても変わらないことは分かっているが言わずにはいられなかった。
しばらく歩いて町の門を出ようとすると見たことのある鎧の一団がいた。
「おおー、隊長さん、元気ですか?ちょうどこれから町を出るところだったんですよ。」
「ほう!勇輝殿か。聞いたぞ!魔物をたくさん倒したそうだな!カナ殿もたくさんの人を助けてくれたようだな。これからノシヨへ行くんだな?」
騎士団の隊長が2人の前に出てくると熱く語り出した。
「ええ、行ったことはありますか?知っていることはなんでも構いません。」
「あー、そうだな。名前はなんだったか…なんちゃら聖堂っていうところはすごかったぞ!あとはここよりもっと獣人が多いな。まあ、そんな所だ。2人なら大丈夫だろう。達者でな。」
「はい!隊長さんも体には気をつけてくださいね。」
「おう、余計なお世話だ!」
騎士の一団に見送られて2人は門を抜けた。
門を抜けて町を出て10分ほど歩いた。
「ここら辺でいいですかね。カナさん、ここからはこれで行きましょう。」
町からある程度離れて平原と馬車の道のみが続いているところまで来たので人の目の心配は無い。
勇輝は偵察バイクを取り出した。
・・・燃料は満タン、後ろのラックにもしもの時用に9mm機関けん銃と適当なサイズで使い勝手が良さそうな雑嚢もある。・・・
一応帽子を収納して88式鉄帽に変えておいた。
エンジンをかけてバイクにまたがって周囲を見回す。
「よし、カナさん、乗ってください。」
「はい!」
カナが後ろに座って勇輝にしっかりと抱きつく。
杖は邪魔になるので簡易的なスリングを通して背負わせている。
「それでは行きますよ!」
一気にアクセルを全開にして平原を駆け抜ける。
エンジンの音が響き、振動が伝わって来る。
「風が気持ちいいですね。」
「分かりますか?これがこの乗り物の魅力の1つなんです。」
カナはすっかりバイクが気に入ったようだ。
・・・おっと、アレは馬車…か?追い越すか。本当にバイクって速くて便利だなぁ。・・・
遥かに前にいたはずの馬車にグングンと追いついてしまいには追い越してしまった。
「あっという間に追い抜いちゃいましたね。」
「これがバイクの実力です。」
その後20分ほど移動を続けてちょうど良さそうなところで休憩を挟んだ。
・・・えーと30分くらいを60kmで移動してたから…この辺りかな?この調子なら夕方には着きそうだ。あっさりすぎるけど早いに越したことはないからな。・・・
勇輝が取り出した屋台の軽食を食べながら地図を見て現在地を確認していた。
・・・こういう地図を見ていると1年の時の地図判読を思い出すな。コンパスとかを使って自分の位置や目的地の方位を調べたりしてひたすら歩いていたなぁ。・・・
久しぶりに士官学校時代の訓練が役に立ちそうだ。
「カナさん、そろそろ行きましょう。」
「はい。勇輝さんは大丈夫ですか?もう少し休んでもいいんじゃないですか?」
カナは心配そうに見つめてくる。
「大丈夫ですよ。ただ運転するだけなのでそんなに疲れないですよ。」
軽めに受け流してバイクの元へ向かい、エンジンをかける。
「無理しないでくださいね。」
カナが優しく抱きついてきたので一瞬動揺してアクセルを掛けられなかった。
「……行きますよ。」
照れを隠しながら再び移動を開始した。
・・・暇だな。ずっと平原をドライブしていても飽きてくる。何も無いのが一番なのはわかっているけど暇なのもキツイな。・・・
少しぼーっとしながら運転を続けていると勇輝をつかんでいるカナの力が強くなったのを感じた。
「ーッ!勇輝さん!何かが向かって来てます!………上ですっ!」
「えっ!?……なっ、アレは!?」
見上げた勇輝の視界を覆う黒い影は大きく翼を広げながらこちらに向かって来ていた。
「カナさん!アレはっ?」
「たぶんワイバーンです!火を吐いて攻撃してきます!注意してください!私も迎撃してみます。」
カナが片手を離して背中の杖を取った。
「厄介ですね……振り落とされないように気をつけてください!」
勇輝はスピードを上げて振り切ろうとするがワイバーンは完全に目をつけたようで逃してはくれないらしい。
・・・クソッ!しつこいな。ミラーが付いていたらもう少し見えやすいんだけど。・・・
運転に支障が出ない程度に振り返って見上げてワイバーンを観察していた。
「勇輝さん!ブレスがきます!」
ワイバーンは口の隙間から炎を吹き出して今にもブレスを放とうとしていた。
「撃ってきた瞬間に右に避けます!掴まっててください!」
「はっ…はい!」
「…………今だっ!」
ハンドルを大きく切って右に動いた。
直後に火球が勇輝達の左側に着弾して小さな爆発とともに炎で包んだ。
・・・なかなかの威力、精度だな。当たったらひとたまりもない。・・・
冷や汗をかきながら再びワイバーンを見上げると、既にブレスの発射体制になっていた。
・・・連射もきくのか!?回避しないと!・・・
「次は左に避けます!」
「きゃあっ!……大丈夫です。」
カナが体勢を少し崩したがなんとか持ち堪えたようだ。
火球がさっきまで2人のいた場所に着弾する。
「カナさん!反撃を!」
「はい!……当たって!」
カナが杖を向けてさらにもう1発ブレスを放とうとしているワイバーンに氷の塊を放つ。
しかし、狙いが定まっておらず横に逸れてしまった。
「そんな……。」
反撃を受けたワイバーンはブレスを中断してさらに上空へと距離を置いて様子を伺っている。
勇輝達の真上に陣取っているので形勢は依然不利だ。
・・・何か手はないか?対空手段………。・・・
「あるじゃないか。」
勇輝はある兵器を思い出してニヤリと笑った。
右手を離して斜め上に掲げるとボソリとつぶやいた。
「91式携帯地対空誘導弾!」
その瞬間黒く細長い塊が現れてどっしりとした感触でバランスを少し崩した。
・・・お、重い……。M1を4挺片手で持ってるみたいだ。これは両手じゃないと使えないな……ということはアレをやらないとダメか?・・・
「カナさん!弾幕を張って出来るだけ近づけないでください!威力は必要ありません。」
「分かりました!」
再び接近してきたワイバーンにカナの氷魔法の弾幕が襲いかかり、ブレスの妨害をする。
・・・よし、やるなら今だ。出来るかな…いや、やるしかない!・・・
勇輝はゆっくりとハンドルを切ってワイバーンを正面に捉えた。
「ーッ!」
勇輝は両手をハンドルをから離して膝を伸ばした。
体は真っ直ぐ伸びて両手で地対空誘導弾を照準している。
・・・これは初めて扱うけど、使い方はある程度知っている!あとはバランスを保っている間に……。・・・
ワイバーンは火を吐くということはおそらく赤外線でも誘導できるかもしれないが、念のため可視光イメージ誘導方式で狙う。
「……急げ、急げ……よし!喰らえーーッ!」
長い筒からミサイルが飛び出してある程度離れると2段目のロケットによってさらにグングンとワイバーンに向かって飛翔していく。
「おおっ、危なかったー。」
慌てて片手でハンドルを掴んで体勢を整える。
ワイバーンは向かってくる異様な物体に危険を感じて高度を上げて回避しようとするが、ミサイルは振り切れない。
「無駄だ!落ちろーッ!」
そしてミサイルはワイバーンの胴体に直撃してありったけの運動エネルギーで表面を貫き、爆発して翼や首が胴体から離れた。
発射してすぐに本体を収納して両手でハンドルを握っていた勇輝は右手でガッツポーズをした。
カナは杖を片手に唖然としていた。
勇輝はスピードを緩めて墜落したワイバーンの近くに向かった。
「うわっ、結構エグいな。流石にミサイル食らったらこうもなるか。」
爆発で一部がバラバラになったワイバーンの死体を検分していた。
とりあえず記念とか何かに使えそうな首は収納してある。
バイクに積んであった9mm機関けん銃を構えてマガジンの全弾を胴体や翼に叩き込む。
・・・9mmじゃあほとんど効果がないな。翼膜でさえこの距離でやっとか。・・・
胴体はほとんどの銃弾を弾き、翼も翼膜でやっと貫いたくらいだった。
ため息をつきながら9mm機関けん銃のリロードをしてバイクに戻すと89式を取り出して同じように30発撃った。
「マジか……。硬すぎない?」
結果は翼や関節などの可動部のほんの一部を除いて殻に傷がついただけだった。
・・・貫通力のある5.56mmでこれか……。7.62mmも微妙かな。・・・
「じゃあこれならどうだ?」
勇輝はサーベルを抜いて風を纏わせた。
「ハアッ!」
胴体に真っ直ぐ振り下ろした一撃はかなり重かったが切ることができた。
しかし、力が足りず、途中で刃が止まってしまった。
「うーん、いけなくはないみたいだけどこれもキツイな。次は魔法か。」
サーベルを引き抜いて鞘に納めると右手をピストルの形にして死体に向ける。
「破動の四…白雷!」
雷撃が狙ったとうりに真っ直ぐ伸びて表面の鱗を焦がしながら小さな穴を穿った。
近くで確認すると周囲は黒く焦げていて、穴はそこまで深くない。
・・・表面を少し貫通したくらいか。まだ威力不足だな。最後はC4を試すか。・・・
やれやれといった感じでC4爆弾を取り出してワイバーンの胴体にセットすると急いで離れて起爆した。
「………どうかな?……ああ、まあ悪くないか。」
C4爆弾をセットした箇所は見事に吹き飛んでいた。
・・・今のところは爆発物が有効か…手間がかかるな。こんなのにたくさん来られたらたまったもんじゃない。・・・
「カナさん!お待たせしました。……あれっ?それどうかしたんですか?」
ずっと放りっぱなしだったカナの元に駆け寄ると、カナは杖を何やらいじっていた。
「あっ、勇輝さん、終わりましたか?今この鱗を少し加工してこの杖に組み込もうとしてるんですよ。ワイバーンの鱗は魔力の伝導効率が結構いいんですよ。」
「へぇ、そうなんですね。それじゃ私もいくつか鱗を取っておきましょうかね。」
ナイフで状態が良さそうな鱗を10枚ほど取ってバイクに積んである雑嚢に入れた。
「そろそろ出発しましょう!少し予定が遅くなりそうなので急ぎます。」
「はい!今行きます!」
2人はワイバーンを後にしてノシヨへの道に戻った。
やっぱりミサイルは個人で扱うには重すぎますよね。それでも個人携帯レベルにするのはすごいと思います。普通の小銃の威力は今後も変わらないんですかね?早く89式の後継が見てみたいですね。