勇輝とカナはバイクで獣人の国ノシヨへと向かっていた。
ワイバーンの襲撃のあとは特に何事も起こらず(ガス欠があった)夕方にはそれらしい街並みが遠目に見えてきた。
「あれがノシヨですか……今までの街と少し違う街並みですね。」
「私も初めて見ます。もしかしたら失った記憶の中にあったかもしれないですけど…。」
勇輝はカナが勇輝を掴む力が強くなったのを感じた。
「大丈夫です!あの街でカナさんの手掛かりを探しましょう!きっと何かあるはずです。」
真っ直ぐ前を向いて勇輝は声を上げた。
・・・昔の僕だったらこんな根拠のないことは言えない……けど今はこう言ってあげたいんだ。カナさんの力になりたい。絶対に手掛かりを見つけてやる。・・・
勇輝はアクセルを回してスピードを上げた。
「ここからは歩きで行きましょう。ここまで来れば十分でしょう。」
バイクから降りて収納し、雑嚢だけは肩にかける。
日が暮れかけて空が薄いオレンジ色に染まっている。
・・・ちょっと急いだ方がいいな。日が暮れる前には門を通りたい。・・・
「ちょっとペースをあげましょう。日が暮れる前には到着したいですからね。」
「そうですね。」
2人は足早に馬車道に沿って歩いて行った。
なんとか日暮れ前に門の前に到着した2人は斧を持った熊みたいなゴツい獣人の衛兵に声をかけた。
「すいません、街に入りたいのですが。私とこの子の2名です。」
カナを指差して衛兵に尋ねる。
「おう、日暮れ前に着いて良かったな。あんたらどこからきたんだ?目的は?」
怖そうな見た目に反して人当たりの良さそうな印象に一瞬驚いたがすぐに切り替えて質問に答える。
「私たちはコヨースカを出て途中でマーハリクを経由してきました。冒険者をやっていて色々な街を転々と旅をしています。」
「ほおー、そうかい。そんなカワイイ娘と2人で旅とは羨ましいねぇ。いいぞ、通行料は1人銀貨一枚だ。」
「はうぅー……。」
カナが勇輝の後ろに隠れて服を掴んでいる。
・・・照れてるのかな?恥ずかしいけど確かにカナとの旅は楽しいからな。・・・
「えっと……はい、2人分です。どうぞ。」
若干もたつきながらも銀貨を支払って門を通過した。
・・・もう暗くなってるからあんまり街の様子が見えない。けど、今までの街より騒がしいな。・・・
通りには酒場らしい店が沢山あって中から光が漏れて賑やかな騒ぎ声が聞こえてくる。
「賑やかですね。……ちょっとお酒臭いです……。」
「まあ、ひとまずギルドでも探しますか。あとは…明かりですね。」
勇輝は道端で拾った手頃な木の枝を構えて上に向けた。
「ルーモス!」
枝の先端に白い光の球が発生して周囲を照らした。
「あー、まだちょっと暗いな。……ルーモス…マキシマ!」
先程より大きい球が発生して2人の周りを照らし出した。
「すごく明るいですね。るーもすってなんですか?」
カナがぼんやり照らされた光の中で勇輝に尋ねた。
「ええと確か…[光よ]っていう意味だったと思います。[マキシマ]はその強化版みたい感じです。」
やっぱりハ○ー・ポ○ターの魔法は便利だと思いながら照らされて安全になった道を進む。
先程より明るくなったので分かるようになったが、今まで街と大きく違うのは建物の多くが木造であるというところだ。
ところどころ石造りの建物もちらほらとあったが数は少なかった。
「ただ歩いていてもわからないですね。ちょっとこの酒場で聞いてきます。カナさんはどうしますか?」
あてもなく歩くのに業を煮やし、振り返ってカナに提案した。
「私は…着いていきます。」
少し躊躇いがあったがどうやら決心は固いようだ。
・・・改めて考えれば外で待ってもらうのも心配だしな。何かあっても近くにいれば守ってあげられる。・・・
2人は近くにあった酒場の扉を開けた。
開けた途端に食べ物や酒の匂いが混じった独特の匂いと喧騒が2人を包んだ。
カナの顔が引きつっている。
・・・未成年にはキツイよね。僕も新成人みたいなもんだから分かるなぁ。・・・
気を取り直してマスターらしき狐耳の獣人に話しかける。
「あの、初めてこの街に来たのですが、ギルドはどこにありますか?」
「ふむ、初めてですか…ようこそノシヨへ。一杯どうですか?」
「うーん…酒は遠慮します。連れもいて宿も確保しないといけないので。」
考えてみれば異世界の酒をまだろくに飲んだことがなかったので飲みたいと思ったが、急ぎなので断った。
「残念ですね。それじゃあ落ち着いたときにでもまたいらしてください。ギルドはこの店の通りをまっすぐ行って2つ目の石造りの建物です。あとはその少し前にちょうど良さそうな宿もありますよ。」
「宿まで…ありがとうございます!明日にでもまたお邪魔させて貰います。」
親切なマスターのお陰で宿も確保できそうだ。
「おーい、嬢ちゃんーオレらと遊ぼうや。こっちこいよー」
「い…イヤっ、離して…!」
「カナさん!」
酔っ払いの声に振り向くとカナが腕を掴まれていた。
勇輝がすぐにその手を払いのけるとカナは勇輝の後ろに隠れた。
カナはひどく怯えているようで勇輝を掴む手は震えていた。
「あ?何すんだよー。いいじゃねーか!」
・・・クソっ、この酔っ払い、たち悪いな。吹っ飛ばすか?・・・
「嫌がってるじゃないですか!大人しく向こうで飲んでてください。」
若干キレ気味に答えたが、これはあまり良い行動では無かった。
「んだとてめー!ガキのくせに調子こいてんじゃねーぞっ!」
酔っ払いが千鳥足で殴りかかろうとして向かって来た。
「あーもう!破動の一…しょ…」
バシャ!!
勇輝が指を酔っ払いに向けて吹っ飛ばそうした時に酔っ払いの顔に突然水が浴びせられた。
「他のお客様の迷惑です。大人しくするか店を出てください。」
勇輝が振り返るとマスターが空になったグラスを持っている。
初老らしい感じだが、その中に凍りつくような威圧感があった。
「チッ!わかったよ。マスターには敵わねーや。」
水をかぶって少し冷静さを取り戻した酔っ払いは踵を返した。
「マスター…ありがとうございます!」
勇輝が頭を下げるとカナも一緒に頭を下げた。
「お客さんを守るのが店の主の務めですから。」
マスターはニッコリと微笑んだ。
・・・カッコいいな、カッコいいおじさんってこういうのを言うんだな。・・・
2人は足早に酒場の出入り口に向かい、店を出る前にもう一度マスターにお辞儀をした。
「大丈夫でしたか?カナさん。」
「は…はい。ありがとうございました…。」
「ごめんなさい…怖い思いをさせてしまって。」
勇輝は頭を掻きながら下を向く。
「いえっ!……勇輝さんが助けてくれて…嬉しかったです。」
カナが少しうつむきがちに勇輝に顔を向けて呟くように言った。
・・・か、可愛い…勇気出して良かったー。・・・
勇輝は暖かい気持ちに包まれて嬉しくなった。
「さて、ギルドに行ってさっさと済ませますか!」
「そうですね!」
再びルーモスで明かりを灯して道を進んだ。
「これ…ですよね。相変わらずこのデザインは変わらないんですね……。」
大きさに多少の違いがあるもののギルドの建物は今までの街で見たものとほとんど同じだった。
「同じ見た目の方がすぐ見つけられるからいいじゃないですか?」
「まあ、そうですね。多分そんな理由ですよね。」
ギルドの扉を開けるとまたもや騒ぎ声が聞こえてくる。
カナはあからさまにイヤな顔をしている。
・・・あんなことがあったらイヤになるよなぁ。よし!・・・
「えっ!?勇輝さん!?」
勇輝はカナの手を取って引っ張って受付まで早足で進んだ。
カナは顔を真っ赤にして下を向いている。
受付まで辿り着くとやっと手を離した。
カナは勇輝が触れていた手を握りしめてどこか上の空だった。
「すいません、マーハリクから来ました。登録お願いします。」
「それはいいけど…あの子は?」
猫っぽい耳の若い女の獣人はカナを指して尋ねた。
「ああ…カナさん?ギルドカード出してください。……カナさん?」
「ひゃい!?」
やっと我に返ったカナも一緒にギルドカードを提出して登録を済ませる。
「はいどうぞ、今日は遅いから明日から頑張ってくださいね!」
「ありがとうございました。カナさん、行きましょう。」
「はい…。」
下を向いて顔が赤いカナがとぼとぼとついてくる。
ギルドを出て近くにある宿に入ってとりあえず一泊することにした。
マスターがオススメしただけあって悪くなさそうだ。
疲れていたので手っ取り早く手続きを済ませると部屋へと直行してベッドに倒れこんだ。
「はあー、疲れた。もう今日はすぐに寝ます。カナさんも早めに休んでくださいね。」
装備を外して適当に収納すると毛布を被った。
少し間を置いてカナも入って来た。
ただ、今回は最初からくっ付いて来た。
「なっ!?カナさん?」
「今日はこうさせてください……。」
顔は見れなかったがひどくしおらしく感じたので黙って自由にさせた。
・・・明日からはこの街でカナさんの記憶の手掛かりを探すんだ。・・・
長時間のバイクの運転で慣れない疲れが溜まっていたのですぐに眠りについた。