インスピレーションと休みがなくなる前に!
「カナさん、どういうことですか?」
勇輝は兵士に聞こえないように小声でカナに問い掛ける。
「わ…私も分かりません…。なんで第二王女が私なのか…。」
「おいお前、離れろ。」
近くにいた兵士が勇輝を小突いてカナから離した。
そして王宮の門の前までやってきた。
すると大きな門が開いて中からメイドの集団が現れた。
「さあ、ケーネ王女こちらです。」
「えっ…ちがっ…勇輝さん!」
カナはメイド軍団に引っ張られて行ってしまった。
「カナさんっ!どうするつもりだっ!グッ……」
「大人しくしろ。お前も一応連れてきたが本来は用はないんだからな。」
勇輝は兵士2人がかりで押さえつけられて小さめの応接間のような部屋に連行された。
「ここで大人しくしていろ。……お前たちは引き続き監視だ。」
「「ハイっ!」」
勇輝を押さえつけていた2人の兵士も一緒に残った。
「あの、いったい何がどうなっているんですか?どうしてカナさんが第二王女なんですか?」
勇輝は2人の兵士に尋ねた。
「カナ?何を言ってるんだ。あのお方はケーネ第二王女だ!お前こそなぜ王女と一緒にいたんだ?」
片方の兵士が逆に尋問口調で聞いてきた。
「ケーネ第二王女は病弱で城から出られないって……。」
「あれは国民向けの嘘だよ。本当は行方不明になっていたのさ。そしてついさっき見つかった。お前と一緒にいたところをなっ!」
もう片方が畳み掛けるように話す。
「なっ……」
・・・そういうことだったのか。ケーネ王女は城から出られないのではなく、行方不明だったから嫁に出せなかったのか…でもカナさんが?・・・
ある程度全体像が見えてきたが結局はカナが本当に行方不明の第二王女かどうかはわからない。
・・・クソッ、今は大人しくするしかないのか…。・・・
勇輝はホコリをかぶった古い椅子に座り込んで時を待つしかなかった。
勇輝がふと腕時計を見ると30分くらいが経過していた。
「おいっ、コイツも連れて来いってさ。あまり乱暴にするなってことだから丁重にな。」
部屋の扉が少し開いて別の兵士が監視している2人に話をしている。
「そういうことだとさ、暴れるなよ。」
「判りました。」
勇輝は特に抵抗することなく黙って2人に付いていった。
無駄に広く装飾の凝った廊下や階段を通り、一際立派な扉の前に到着した。
兵士の1人が扉を叩くいて少しした後に仰々しい音を立てて扉が開かれた。
その向こうには玉座が置かれ、双眼鏡で見た国王が両端に護衛の騎士を並べて座っていた。
「ほら、さっさと入れ。」
兵士に従った3人で玉座の間の中央へと進んだ。
王の御前に立ち止まると2人の兵士が跪いた。
即座に2人と騎士たちの鋭い視線を感じたので勇輝も慌てて跪く。
「2人の兵は下がって良い。」
「「ハッ!」」
王の近くにいた大臣らしき人が勇輝の隣にいた兵士2人を下がらせた。
「よし、面をあげよ。」
王が勇輝に声を掛けた。
勇輝が頭を上げて見上げた王の姿は威厳溢れるもので圧倒された。
「名を名乗れ。」
「はい、私は永遠勇輝と申します。冒険者として様々な街を旅しております。」
「ふん、冒険者か…卑しいヤツめ。」
周囲の大臣や騎士たちがボソボソと陰口を叩いている。
「ほお、今のランクはなんだ?」
王はそれを気にすることなく質問を続ける。
「現在はCです。それから以前マーハリクで緊急クエストに参加し、その功績で表彰もされました。」
「ふむ、この前にマーハリクに魔物の大群が押し寄せたことは聞いておる。そなたも戦ったのか。」
王は勇輝を見下すことなく真剣に話を聞いていた。
「さて、そなたのことは十分理解した。本題に入ろう。なぜケーネと一緒にいたのだ。」
王の表情が険しくなり張り詰めた空気が流れた。
「正直に申しますと、あの方とは約二週間前にコヨースカで会いました。それから行動を共にしてマーハリクを経由してノシヨまで来ました。彼女は自分をカナと名乗っておりました。」
勇輝は自分とカナの経緯を正直に述べた。
「コヨースカだと?なぜそのようなところに……ん?なんだ?」
王が何かを聞こうとした時に騎士の1人が駆け寄って王に耳打ちをした。
「分かった、入らせろ。」
王がそう言うと扉が開かれてメイド数人に囲まれたカナが出て来た。
カナは薄紫色の胸元が開いた豪華なドレスを纏っている。
「カナさん……?」
「勇輝さん!」
カナは勇輝を見るとメイドを振り払って駆け寄って来た。
「カナさん、大丈夫でしたか?その格好は……。」
「これは……無理矢理着せられて…勇輝さんこそ何もなかったですか?」
とりあえずお互いの無事が確認できたのでホッとした。
「おお、ケーネよ。よくぞ戻った!顔を近くで見せてくれ。」
王は玉座を立ち上がると早足でカナに近寄った。
そしてあと1メートルもない距離に近づいた時に王が立ち止まった。
「違う…ケーネではない……お前は何者だ…?」
王が違和感に気づき、声を荒げる。
「私は…ケーネ第二王女ではありません!カナですっ!」
カナが声を張り上げて名乗ると玉座の間は騒然とした。
「違う?」
「なんだと…あれはどう見ても……。」
「どういうことだ?」
大臣や騎士は口々に狼狽えている。
「鎮まれっ!」
王が一喝すると一瞬で静かになった。
「この人物はケーネではない。眼の色、そして耳が少し違う。我が娘を間近で見るまで気づかないとは……父親失格だな。」
王が玉座に座りながら力なく呟くように言った。
・・・なんだ…他人の空似だったのか。誤解は解けたのか?・・・
勇輝はホッとため息をついた。
「カナさんが第二王女ではなかったのなら私たちはこれで用はないですよね。」
「そ…それは…」
大臣が冷や汗を滲ませながら王を見る。
「いや、まだだ…待って欲しい。」
王が顔を上げて語りかけた。
「そなたらは冒険者なのであろう?それなら依頼を受けてほしい。」
「国王っ!?」
王の意外な言葉に大臣だけでなく勇輝とカナも驚いている。
「カナといったな。そなたにはケーネの影武者としてグレアム第一王子の元へ行ってほしい。」
「なっ、なんだって…?」
「私が……。」
「何も結婚しろとは言わない、ただ会ってそこで結婚を断ってくればよい。この国の王としての頼みだ。」
王は淡々と依頼の内容を説明した。
・・・替え玉ってことか。カナさんを人間の王族の所へ?・・・
「そんなこと…カナさんが受けるわけ…」
「わかりました。やります!」
「カナさん!?」
勇輝が断ろうとする前にカナはハッキリとした口調で引き受けた。
ドレスを着ていていつもとは違う雰囲気を醸し出しているが、その目には決意が感じられた。
「カナさん、どうして……?」
「なんか…放っておけないじゃないですか。それにこの国の人たちの役に立てるのならそれだけでも十分です。」
カナは迷いなくそれを言い切った。
・・・そうか…間違っているのは僕の方かもな……。平和を愛し、人々を守る自衛隊の幹部候補生ともあろう者が何を怖気付いているのか。・・・
「そうですか…いいんですね?それなら私も最大限支援します。」
「依頼を引き受けてくれるのか?」
「はい、やらせていただきます。この国を救うことができるのならやれることをさせてもらいます。」
「そうか、ありがとう。そなたらには感謝しきれない。」
王は姿勢を正して2人に向き合った。
「そうとなったら……この者たちを最大限にもてなせ!無礼は許さん!」
「「「ハッ!」」」
王の言葉に玉座の間の家来全員が反応して勇輝とカナを外へと案内した。
「頼んだぞ…旅の者よ。」
一気に人数が減った玉座の間で王は呟いた。
あれから急に忙しくなった。
玉座の間から出されたと思いきやそれぞれ立派な個室を用意されて、豪華な夕食まで出された。
上級家臣しか使えない浴場まで使わせてもらい、至れりつくせりだった。
・・・逆に疲れた。夕食の時以外カナさんとも別行動だし、まあ、悪いようにはされていないだろうけどちょっと心配だな。・・・
ふと夕食の時にカナが大量のデザートに目を輝かせていたのを思い出して笑みがこぼれた。
「ヨイショ!ちょっくら行きますか。」
豪華な椅子から立ち上がると部屋の扉を開けた。
「勇輝様、どこへ行かれるので?」
部屋の外にいた執事が尋ねてきた。
「カナさんのところです。案内していただけますか?」
「かしこまりました。こちらです。」
・・・あれっ?結構すんなりいけた。・・・
てっきりダメだと言われるかもと思っていた勇輝は拍子抜けした。
案内された部屋の前にはメイドがいた。
「あのー、カナさんいますか?」
「ええ、ただ今部屋にいらっしゃいます。………カナ様、勇輝様がお見えになりました。」
メイドがノックをした後扉を少し開けて内容を伝えると、しばらくしてから扉を大きく開いた。
「どうぞ、お入りください。」
「どうも。」
勇輝はメイドと案内してくれた執事に礼を言うと部屋の中に入った。
「カナさん、調子はいかがですか?」
「はい、とても快適です。ただ、このドレスはちょっとキツイですね。」
カナがそう言うと顔を赤らめた。
改めて見てみると確かにキツそうだ……どこがとは言わないが。
・・・さっきはあまり気にならなかったけど今見ると結構キワドイ……。それでいいのか、カナさん……。・・・
極力服を見ないようにしながら予定を話すことにした。
「どういう風にやりますか?グレアム第一王子がどういった人物なのかもわからないのでは何が起こるかわからないですからね。」
「大丈夫です。私は何があっても勇輝さん以外を相手にしません!」
「そ…そうですか…。」
カナがきっぱりと言い切ったので勇輝は照れながら返事をした。
「私も色々とサポートするのでうまくやりとげましょうね。」
「はい!」
そして勇輝は部屋を後にした。
外が暗くなり寝ることにしたが、大きすぎるベッドにたった1人で寝るのは変な感じがした。
・・・そういえば、いつもカナが隣に居るのに慣れてしまったんだな。こんなにも物足りないとは……。・・・
いつもより快適なはずなのにうまく寝付けなかった。