勇輝は不審な2人組を捕縛して笛で待機させている兵士達を呼んだ。
しばらくすると茂みからぞろぞろと飛び出してきた。
「2人とも捕まえましたので連行しましょう。帰り道で魔物に気をつけながらも逃がさないようにしてください。」
「了解です!」
剣や槍を突きつけられているため不審者は大きな抵抗なくロープで縛られて連行された。
それまで2人を拘束していた光の縄や杭を兵士達は不思議そうに見ていた。
・・・うーん、もう集団で行くから松明の灯りで進むけど目立つな…レーダーの反応的に魔物を回避するのも難しそうだ。・・・
勇輝は銃剣を取り付けた89式小銃を取り出して先頭を進む。
「そろそろ魔物と出くわします!気を付けてください。」
振り返らず手を上げて注意喚起する。
グルルル…
茂みの奥から唸り声が聞こえて、光る目がこちらを睨んでいる。
「狼です。数は少ないので先手を打ちます!」
相手が威嚇しているうちに光る目の中心に狙いを定めて単発でダブルタップを決める。
キャインッ!
茂みのから甲高い鳴き声が聞こえてドサリという音が後から聞こえた。
そしてこちらを睨んでいた目はなくなり動物が逃げて行く足音が複数聞こえた。
・・・反応が離れていく…逃げてくれたようだな。……いや、1つ接近してくる?・・・
レーダーの反応から危険を察知して大声で叫ぶ。
「構えて!何か来ます!」
勇輝の慌てように兵士たちも武器を構えて不審者を連れている者を中心に陣を組む。
「なんだ?一体何が来るんだ…。」
反応が接近してくる方向に89式を構えて緊張感を漂わせる。
およそ50〜60mくらいの距離に反応が近づいた時だった。
ドシン…ドシン………
一定の間隔の小さな地響きが足音とともに勇輝達に届いた。
・・・で…デカイやつか?木が邪魔で確認できない。・・・
そしてついにソレは姿を現した。
グゥオォォーー!!
木々の間から現れたのは黄土色の巨体に大きな棍棒を持った醜い顔の巨人だった。
「と…トロールだぁーー!」
兵士の1人が叫ぶと他の兵士たちも狼狽える。
「なっ…デカイ…。」
勇輝も間近で圧倒的な大きさに動揺している。
・・・マーハリクではスコープ越しに遠くから見たが、こんなにも大きかったのか…。・・・
トロールが一歩を踏み出すと勇輝が冷静さを取り戻して振り向いた。
「急いで迂回しろっ!私が食い止めます!皆さんは不審者を連れて野営地へ!」
「あ…ああ、分かった…。」
兵士たちはか細い声で了承すると側面へと走っていった。
それをトロールが目で追って向きを変えようとする。
「相手はこっちだ!デカブツ!」
大声の挑発と左足への3発の射撃で注意を逸らす。
ダメージは小さかったようだが、トロールは勇輝の方を睨みつけて向かってくる。
・・・ヘイトは向けさせたけど、どう仕留めたものか……ひとまず89式で粘ってみるか。・・・
勇輝は改めて89式を構え直してトロールに正面から相対する。
トロールは間抜けそうな顔で勇輝を見下ろして棍棒を振り上げた。
「遅いし見え見えだ!」
トロールのモーションを見て勇輝は後ろへ下がった。
勇輝が攻撃範囲の外に出たにも関わらず、トロールは棍棒を地面に叩きつける。
直後に小さな揺れが発生して勇輝も少しフラついた。
「おっと…本当に間抜けだな。」
呆れながらセレクターを「3」にした89式の3点バースト2回を素早く浴びせる。
弾丸は肩や胸に集中して命中したが、やはり効果は薄い。
・・・タフだね、全く…!・・・
棍棒を持ち上げて再び勇輝に接近しようとするトロールの左足に残りの全弾を叩き込んだ。
グゥオ!?
トロールがバランスを崩して横生えていた木を巻き込んで派手に転倒した。
・・・流石にこれだけ撃てば効果あるみたいだな。・・・
89式のリロードをしながらトロールを見る。
額から脂汗を流してトロールは棍棒を地面について立ち上がったが、歩くこともままならないようだ。
「確実に決めてやる。」
勇輝は89式を収納してサーベルを抜いた。
そしてトロールに向かって走り出した。
「ハアァァーッ!」
すれ違うようにトロールの右足の横をすり抜けながら右足を横に大きく切り込む。
「まだまだっ!」
切り込んだ直後に体を捻って振り返り、縦に斬りおろして十字に斬った。
グゥオォー!
真っ赤でドロっとした血が流れ出てトロールがやっと痛みの声を上げて倒れた。
両足ともダメになってしまったので立つことはできないだろう。
勇輝は歩いてトロールの前に立つ。
トロールも危機的な状況を感じたのだろうか間抜けそうな顔から焦りのある表情を見せている。
・・・トドメを刺すか。・・・
勇輝は左手でホルスターの9mm拳銃を抜き取りトロールの目の前に立ち頭に全弾を撃ち込んだ。
グオォ…
勇輝が弾切れになった拳銃を下ろしてもトロールはしぶとく生きていた。
顔の至る所から血を流し、銃弾の跡で見るに堪えないことになっている。
「うわぁ………拳銃じゃ威力不足だったか。」
若干グロテスクな光景に萎えた勇輝はスライドストップを解除して拳銃をホルスターに戻すとサーベルを握り、トロールの眉間に渾身の突きを放った。
おろそしい切れ味でグサリと突き刺さったサーベルはおそらく頭蓋骨も貫いただろう。
トロールは生き絶え、勇輝はサーベルを抜くと横に振って血を払った。
・・・さてと、帰りますか。・・・
高揚感の冷めないうちに森を駆け抜けて兵士たちの反応を追って行った。
先に逃がした兵士たちは足早に野営地へと帰還していた。
勇輝もレーダーの反応からそれを悟ったので森を抜けてからは歩いて暗視装置の視界を堪能しながらゆっくり帰った。
「あっ…ヤバイ…。」
ふと腕時計を見て出発してからそれなりに時間が経過していることを知ってあることを思い出したが、その時には野営地の目の前に迫っていた。
勇輝は暗視装置と88式鉄帽を収納してバツが悪そうに歩いて野営地に入る。
「勇輝さーん!」
突然カナが走ってきて勇輝に飛びつく。
勇輝はなんとか受け止めて優しく抱く。
「どうしてこんなに遅くまで…しかも準備を手伝うって嘘じゃないですか!」
「いやぁ…本当にごめんなさい……。」
勇輝の顔を見上げてカナが涙まじりに怒りの声をぶつける。
完全に勇輝に落ち度があるので素直に謝る。
「心配したんですから……。勝手にどこかへ行かないでください…。」
不謹慎ながらうつむいて弱々しく呟いたカナの頭はいい香りがした。
「そうですね。私が悪かったです。ただ…私も何者かが襲ってこないか心配だったんですよ。何も言わずに行ったのは謝ります。」
そう言いながらカナの頭を撫でると尻尾は左右に揺れていた。
・・・まあ久しぶりだったからね。仕方ないか。・・・
それを見て微笑む勇輝だった。
勇輝は夕食を済ませて捕らえた不審者の元へと向かった。
馬車の近くに縛られている2人は兵士に監視されていた。
フードは取られていてその頭には……獣人の証である耳があった。
「獣人…だったんですか。にしても一体どうして。」
監視の兵士に話しかけると兵士がオドオドと答えた。
「私たちも驚きましたよ。でも…この人たち何も話さないんです。だから困ってるんですよ。」
・・・ふーん、面倒なことだな。何か聞き出せないものか。・・・
勇輝は2人の獣人の側に膝をついて顔を合わせる。
1人は細身だが、もう1人…勇輝に襲いかかってきた方はガッシリしている。
「お前たちは何者なんだ?」
「話すことなんてない。殺せ。」
「俺たちは死を恐れない。」
強気な返答に勇輝はため息をつく。
・・・そういう系か…厄介極まりない。目的を知らないことにはなー。・・・
「そう身構えることないじゃないか。君たちが怪しかったから捕まえただけでどうこうしようというわけでもない。」
とりあえずは敵意を下げなければ交渉以前の問題なので害するつもりはないことを伝える。
・・・よし、騙すようで悪いけどちょっと揺さぶってみよう。それで完全にではなくてもある程度目的を絞れる。・・・
勇輝はあることを考えて続けて口を開いた。
「ここだけの話だけど僕らはある大臣の娘さんの外遊の護衛をしていたのさ。君らはそれを知ってたのかい?」
まずは第1段階として思いっきりでっち上げの話を出した。
「なっ…話が違う…。」
「嘘だ!あんなに堂々と出発したのに…おうじy」
「おいっ!」
ヒョロイ方が激昂して何かを言おうとしたのをガッシリした方が割って入って止めた。
・・・明らかに「王女」って言おうとしてたな。まあ、そうだろうな。よし、次だ。・・・
勇輝は何も聞いていないといった風に話を続ける。
「どうしたんですか?……まあ、いいです。ご令嬢は寛大なので君らが何もしないのならばこの件は水に流すと仰られている。約束さえしてくれればそのまま解放する。どうですか?」
これもまた勝手な作り話である。
しかし、解放というワードを聞いた途端に2人の目の色が変わった。
「本当…なのか?」
「騙すんじゃないだろうな?」
「ええ、私は殺されかけましたけど何事もなかったので気にしませんし、何よりご令嬢が早く行きたいから面倒ごとは済ませろというように仰っているんですよ。約束してくれますか?」
ニヤけそうな顔を微笑みでごまかしながら迫る。
「約束する。」
「俺もだ。」
2人は頷いて了承した。
「わかりました。今日はもう暗いので明日の朝に解放します。諸事情があって捕まったフリで縛られた状態で過ごしてもらいますが、それまで我慢してくださいね。それまでお話でもしましょうか。」
勇輝はあぐらをかいて2人の気をさらに緩ませる。
「そういえばご病気だったケーネ第二王女、やっと回復なされたみたいですね。私達が出発するときにご一緒したんですよ。途中で別れましたがね。」
世間話を装った作り話を始めたが、王女の話題を出すと2人の耳がピクリと反応した。
・・・あっ、わかりやすっ。・・・
勇輝は思わずニヤけそうになるのを堪える。
「そ…そうだったんだな。王女様がやっとね…」
「それは良かったですね。王女様は王都へ向かったのですか?」
2人も話を合わせてきたようだ。
「私達よりも先に行ってしまったんですよね。やはり国としても一刻も早くグレアム王子の元へ行きたいのでしょう。これで冷めていた関係が改善されたら良いのですが。」
「でも、向こうの王家はクズだって有名だろ。あんなところに王女様を…。」
「そうです。結婚なんてするべきではない!」
2人は興奮気味に語り出した。
・・・やけに熱が入ってるな。おおよそ目的はわかったぞ。・・・
勇輝は深呼吸をした。
「だから……結婚をやめさせようということだな?」
勇輝が語気を強めて放った言葉で場が凍りついた。
勇輝はさらに続ける。
「どういうわけか知らないが、力ずくでやめさせるなんてどうかしてる!ここで邪魔が入ったら本当に獣人の国が危機に陥るんだぞ。」
「なっ…何を言って…」
「だからどうした!あんな奴らは戦争で滅ぼしてしまえばいいんだ!」
「ほー、それが目的だったのか。」
勇輝がわざとらしく呟くと2人はギクッという音が聞こえそうなくらいに固まった。
「悪いが、戦争は絶対に防ぐ!戦争では誰も幸せにならない!」
勇輝は胸を張って断言した。
「どうしてだ!現にあんな理不尽な仕打ちを人間の王族はしているんだぞ!」
「そうだ!向こうが悪いんだ!」
2人はいきり立ってわめき立てた。
「見っともないですよ。何が国の為になるのか…それを理解してればこんなことはしないでしょう!………いいでしょう、教えてあげます。王女様は今回の訪問でグレアムをこっ酷くフリます。」
「「えっ!?」」
2人は勇輝の明かした秘密に間抜けた声を上げた。
「結婚はしませんよ。ただ会いに行くだけです。」
「それじゃあ…俺たちは…。」
「早とちりだったっていうのか…。」
2人はガックリとうなだれて下を向いた。
「これで君らの目的は無くなった。けど、これは君たちだけの行いではないだろう?話してくれるのなら話は通してあげるよ。」
勇輝は一か八かの勝負に出て自白を迫る。
・・・おそらくこの2人は純粋に結婚を阻止したかったんだろう。それがはなっから存在しないって分かったら、後は自分の身の安全だろうな。・・・
「ああ…話すよ。」
「いいのか?」
「もう目的は最初から達成していたようなもんだ。今更隠すこともないだろ。」
「そうだな。」
2人は話すことに決めたようだ。
勇輝は一旦2人の元から離れてノースを連れてきた。
そして2人の供述を聞く。
「俺たちはある人物に今回の情報を教えてもらったんだ。」
「『王女の結婚を阻止したいか?なら協力してやろう。』って言ってな。」
「その人物とは誰ですか?」
ノースが2人に詰め寄る。
「それが、顔を隠してたからわかんねーんだ。人間なのか獣人なのかもわかんない。」
「ただ不気味なヤツだったな。」
・・・うわぁ、これまたヤバそうなやつだな。あんまり関わりたくない。・・・
黒幕っぽい存在に嫌な感情を抱く。
「ノースさん、私はもう結構です。後はお任せします。」
それだけ言って勇輝はその場を後にしてカナがいる馬車へと向かった。
・・・なーんか嫌な感じだな。単純に結婚の阻止が目的だったらいいんだけど…多分あの2人は捨て駒みたいなもんだろうし。・・・
色々と思案してみたが答えは出ないまま馬車の前に着いた。