不審者の尋問をノースに任せて勇輝は自分の馬車に戻った。
「あっ、勇輝さん、どうでしたか?」
馬車から勇輝を見つけたカナが声をかける。
「やっぱりグレアム王子との面会を妨害しようとしていたみたいですね。ただ、結婚ではなく断る為だということを教えたら驚いてましたね。未然に防いで反省もしているみたいなのでもう大丈夫そうです。」
「へぇ、狙われてたなんて…ちょっと怖いですね。」
・・・まあ、たった2人でどうするつもりだったのか知らないけどね。それよりもその2人をそそのかしたやつの方が怪しいな。・・・
勇輝は内心でそう呟いて考え込んでいた。
「……さん、勇輝さん?どうしたんですか?」
「おおっ、ちょっとぼーっとしてました。」
カナに呼びかけられて慌てて馬車に乗り込む。
「今夜はもう休みましょうか。私は外で寝ますね。」
「えっ、それなら私も……。」
カナが少し寂しそうに勇輝を見るが、堪える。
「今は王女の立場を装っているんですから、中で休んでください。私も辛いですけど、今は我慢してください。」
「はい…。」
カナの耳が弱々しく垂れて、表情は暗くなっている。
・・・城に入ってからあんまり一緒にいれてないからなぁ…この依頼が終わったらいつもよりちょっと甘えさせてあげようかな?・・・
カナの顔を見て罪悪感に駆られたのでそう決心する。
「それじゃあ……おやすみなさい、勇輝さん。」
「おやすみなさい。」
それだけ交わして勇輝は馬車を降りた。
勇輝は馬車の近くで他の兵士らと共に外で眠った。
この時町で購入して収納していた適当な毛布を使っていたのでそこまで苦痛でも無かった。
ちなみに毛布を使う時に周りの兵士から羨ましそうな視線を感じた。
朝になると出発の準備で周囲が慌ただしくなった。
勇輝も朝食を軽く済ませて作業を手伝った。
20分程で出発の準備が整い、勇輝はカナのいる馬車に乗り込んだ。
「カナさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
「おはようございます、ちょっと寂しかったですけど…大丈夫です。」
カナは少し不貞腐れたように答えてそっぽを向いた。
・・・うーん…ご機嫌斜めかぁ、無理もないか。・・・
心の中でため息をつく。
「お二方、おはようございます!失礼しますね。」
微妙な空気の中、何も知らないノースが爽やかに乗ってきた。
「おっ…おはようございます。」
勇輝は返事を返したが、カナはそっぽを向いたままだった。
「おや?何かあっt…」
「そういえばあとどれくらいでアトライアに到着するんですか?」
雰囲気を感じ取ったノースの言葉を遮って強引に話題を変えさせる。
ノースはそれに一瞬固まったが、少しニヤついて口を開いた。
「もうすぐ出発して、今日の昼過ぎといったところですね。」
「そうですか、馬車での移動は少し慣れないもので、それを聞いて安心しました。」
分かった上でわざと話に合わせてくるノースに若干イラつきながら説明を聞いていた。
そうこうしているうちに馬車が動き始めてしばらくはただ馬車に揺られる気まずい時間が続いた。
・・・レーダーの使用もそこそこ慣れてきたみたいだな……けど、継続時間の限界はまだわからない。それはそれでいいことだけど……。・・・
全周型の魔力レーダーを出発してから3時間程張り続けているが、反応もなく、魔力切れの予兆すら全く無い。
そこまで魔力の消費が大きくないのか、魔力量が底なしになったのかはわからないが別に悪いことでも無いので特に気にしないことにした。
「そういえば、ノースさん?」
「はい、どうかしましたか?」
「昨日の不審者の2人組は結局どうするんですか?」
勇輝は昨夜の尋問の途中で抜け出したので結末がふと気になったのでノースに尋ねた。
「まあ、あれから特に何も情報は出てこず、反省もしているようなのでアトライアに到着した時に解放する予定です。」
「そうですか、念のため解放した後も彼らを探ってみたほうがいいと思いますよ。もしかしたら黒幕がまた接触するかもしれないですし。」
勇輝はノースに思いついたことを提案する。
「ふむ、その可能性もありますからねー…2人ほどこっそり兵士をつけましょう。」
ノースは少し考え込んだ後勇輝の提案に賛成した。
・・・でも、もう一度接触するかなー?口封じとして始末されるほどの情報も持ってなかったみたいだし……あるとしたら任務失敗の方か?・・・
「あっ、勇輝さん!あれがアトライアの街ですよ!」
突然ノースがはしゃぐような声を出して窓から指をさす。
「ということはもうすぐですね。」
勇輝も双眼鏡を取り出して覗いてみる。
・・・おおー、さすがは王都なだけはあるな。建築物はコヨースカのものに近いな。でも規模が全く違う。・・・
カナも気になったようで別の窓から外を覗いていた。
馬車の列が王都の門に差し掛かると衛兵が出てきたが、ノースと数名の兵士が出て話をするとすぐに通してくれた。
窓の外から見える街並みは賑わっているが獣人の姿は1つも見えない。
・・・ノシヨではどっちも普通に生活してたのになぁ…王都では宣伝のせいで獣人が肩身の狭い生活を強いられているんだろうな。・・・
一瞬「強いられてるんだ!」という幻聴がした気がするが無視する。
勇輝は複雑な感情を抱いて街の喧騒を眺めていた。
カナも似たようなことを考えているのだろうか、ずっと街の様子を眺めている。
「ここも…コヨースカと同じ…。」
ノースには聞こえていなかったようだが勇輝にはギリギリ聞こえるような呟きだった。
「こんなことはやめにしたいですね。そのためにも……。」
・・・どの世界でも差別はあるよな。けど、許されるわけではない!何よりケモナーの端くれとして断じて許さんっ!・・・
そのうち街の中央にそびえる巨大な城が窓から見えるようになった。
「あそこにグレアム王子…サビーナ家が…カナさん、大丈夫ですか?」
「はい、覚悟はできてます。」
カナは服装も相まって毅然とした雰囲気を醸し出していた。
その姿は王女としても差し支えないものだと感じられる。
「勇輝さん、カナさん、到着しました!」
ノースが興奮気味によびかける。
「それじゃあ、獣人の国のため、人間の国で暮らす獣人のため、行きましょう!」
「「はい!」」
3人は決意を胸に馬車を降りた。
馬車から城門までの道は真っ赤な絨毯が敷かれている。
その両端には儀仗兵と思われる派手な格好の兵士が並んでいた。
その道をカナもといケーネ第二王女、外交官ノース、護衛役の勇輝が歩いて行く。
勇輝は白い飾緒(モール)が付いた士官学校の紺色の冬制服に銀顎紐を取り付けた制帽、ズボンは冬制服の夏バージョンである純白の第一種夏制服を組み合わせた格好をしていた。
そして式典用の肩つり白弾帯にはサーベルを提げている。
これは儀仗隊で「ドリル服装」と呼ばれる格好で指揮官はサーベルを装備し、通常の列員はM1ガーランドを持つ。
このごちゃ混ぜな格好は経緯は不明だが、かつての東京オリンピックで各国のプラカードを持って歩いた士官学校の学生が着ていたのが有名だ。
・・・本当は指揮官の制帽はツバに飾付きだけど、省略で……というか、異世界でドリル服装を着るとは思わなかったな。けど、こういう機会にピッタリだ。・・・
儀仗隊の演技本番しか着れないドリル服装、しかも指揮官仕様を着れた事に勇輝は心の中で舞い上がっていた。
それでも練習で叩き込まれた美しい歩きは忘れない。
ぎこちないながらも上品に歩いているカナと並んで若干モデル歩きっぽいと言われる儀仗隊の歩幅の乱れぬ歩きが独特の空間を作っている。
ノースは気が引けているのか少し後ろをちょこちょこ歩いてきている。
3人は赤い絨毯の道を歩ききり、城門の目の前に立った。
すると大きな門がゴウゴウと音を立てながら開いた。
・・・ついに、城の中へ……本題はここからだ。・・・
ゴクリと唾をのみ、城の中へと入った。
門を通り、城内へと入るとだだっ広いホールの中に出た。
目の前には端正な格好の家来らしい人たちが待ち構えていた。
「はるばるご足労でした。王の御前に案内します。」
先頭の初老の男が前に進み出て挨拶をするとエスコートをしてくれた。
3人は彼について行き王の待つ玉座の間へと向かった。
途中で目に入る装飾や調度品はいかにも高価そうなものだが、あからさま過ぎて趣味が悪い。
・・・何だろうな。町長の屋敷やノシヨの城の方がいい感じにまとまってたぞ。ここのは何でもかんでも無理矢理豪華に仕上げた感が拭えない。・・・
ジロジロと内装を見ながら進んでいるとどうやら到着したようだ。
「ここが玉座の間でございます。どうか、ご無礼はなさらぬように。」
・・・えっ!?一国の代表相手にそれは失礼じゃない?王様が偉いのはわかるけどこちら側にも礼儀は尽くしてほしいものだな。・・・
最後に一行の評価がガタ落ちになった案内役の男がお辞儀をして立ち去ると扉が開いた。
「あれっ?いないじゃん。」
玉座の間に入っての第一声は勇輝のそれだった。
大臣クラスの家臣が何人かいるけど当の王はおろかその家族さえいない。
・・・なんだよ、随分とナメた事してくれるじゃないか。どこまで愚かなんだ。・・・
あまりに失礼な相手方の仕打ちにノースは唇を噛み締めていた。
外交官として恥をかかされた彼はとてつもなく屈辱なのだろう。
カナは表情を崩していない。
「陛下の御入りです!」
大臣の1人が叫ぶと一斉に跪いた。
仕方ないので流れに合わせて3人も同じように跪く。
そして部屋の奥から1人の若い男が歩いてきた。
そして玉座に深く座り込む。
「面をあげろ。私がグレアム第一王子だ。父に代わって会ってやる。」
一行が顔を上げると玉座にはまだ青年とも呼ばない若さのふてぶてしい態度のグレアム王子だった。
・・・こいつがグレアムか、とりあえずいいやつではなさそうなので安心したよ。カナに思いっきりフラれるといい!・・・
突然のグレアムの登場にカナとノースはあたふたしていたが、勇輝は冷たい目で睨んでいた。
東京オリンピックの時にプラカード持ってたのは士官学校の学生さんだったということを知って驚きました。
なんでもずっとプラカードを持っておける精強な若者として声がかかったそうですね。次のオリンピックではどうなるんですかね。