顔を上げた3人は玉座に肘をついて座っているグレアム王子を見上げている。
「おおっ!お前がケーネ第二王女か。獣人でありながらなかなかのものであるな。」
じっくりと舐めるようにカナを眺めるとグレアムはニヤリと笑った。
その顔は下心満載である。
・・・なんだよコイツ、顔にモロ出てるじゃないか。こんなのが次期国王とはこの国も災難だな。・・・
勇輝は心の中でそう思いながらため息をつきたくなったが、一応は玉座の前なので我慢しておく。
カナもグレアムの視線を嫌そうにしているみたいで耳を垂れて若干下を向いている。
ノースは表情に何も出していないが、今後の動きを見ているのだろう。
「グレアム王子、私は王子にお会いするためにここまでやって参りました。それは関税の引き上げを止めさせるためです。その事はお約束いただけますか?」
カナがグレアムをしっかり見て力強く告げる。
そこにはおどおどした様子は微塵もない。
・・・強いな…カナさん。芯が通っていてちょっとやそっとじゃ引かなさそうだ。こんな一面もあるんだな。・・・
勇輝は普段と違うカナに感心していた。
「ほぉー、言うではないか、まあ良いだろう。関税の引き上げは中止にすると約束しよう。病気見舞いだとでも思うといい。」
相変わらず姿勢を変えないグレアムは面倒くさそうに言った。
・・・おっ、案外簡単に取り付けられたな。裏でもあるのか?・・・
勇輝はグレアムの以外な返答に警戒している。
ノースもまだ様子を伺っているが、目的の一つである関税の引き上げ阻止が達成できたので少し明るい表情をしている。
「お心遣い感謝します。実はもう一つお伝えしたいことがございます。よろしいでしょうか?」
カナが厳かな雰囲気の中、口を開く。
・・・ついに切り出すか。少し展開が早すぎるんじゃないかな…。・・・
「ほお、なんだ?申してみろ。」
「それでは言わせていただきます。………グレアム王子、私は貴方と結婚出来ません!」
息を大きく吸った後に大きすぎず、しかし覇気のある声で宣言をした。
「なっ!?」
グレアムが膝を肘掛けから落としてバランスを崩した。
・・・おー、言っちゃったね。一応インパクトはあったみたい。さて…こっからどう出るかな?・・・
カナはしてやったりというように胸を張っていた。
「何故だ…?お前は私と結婚すると発表しているのだぞ!……理由を言ってみろ!」
急に狼狽えだしたグレアムが半ギレ状態でカナに言葉をぶつける。
その様子を見てノースは一瞬ニヤリと笑った。
「理由ですか?それはこの王都に来た時に獣人の姿が見えなかったからです。貴方達の宣伝によって獣人は肩身の狭い思いをしています。そんなことをする人と結婚なんか出来るわけありません!」
カナは畳み掛けるように理由を説明する。
これはカナ自身も経験していることなので力がこもっている。
「そ…それは………ああもうっ!そんな理由で…」
「そんな理由ですかっ!?」
「うっ……。」
圧倒するカナにグレアムは涙目になっていた。
・・・メンタル弱いなぁ…こんくらいで涙目とか脆すぎだろ。・・・
勇輝は呆れて我慢出来ずため息を漏らした。
「よろしいでしょうか?私からも話させていただきます。私は外交官のノースと申します。今回の会談で正式に結婚のお話を白紙にさせていただく旨をお伝えに参りました。」
ノースが前に進みでると自己紹介の後に追い打ちをかける。
「え…そんな…嘘だ嘘だ嘘だー!」
グレアムは駄々をこねる子供のように喚き立てて足をジタバタさせる。
もうそこには王子としての風格は存在していなかった。
「陛下っ!お気を確かに!どうかお鎮まりを…。」
側近が慌てて王子に近寄ってフォローしようとするが収まる気配は無い。
側近の何人かがこちらを睨んだが、こちらも睨み返してやった。
「それでは王子、これで帰らせていただきます。」
カナがそう言うと共に3人は立ち上がって返事をする余裕もない王子達を尻目に玉座の間を出て行った。
勇輝達が出て行った後玉座の間は何とも言えない雰囲気に包まれていた。
「王子……どうされますか?」
側近がオドオドしながら尋ねるとグレアムは立ち上がって拳を握りしめた。
「許さない……。国民にはもう結婚式の発表までしてたのに…俺にこんな恥をかかせたあいつらをこのまま返すもんか…。あんなことをしたあいつらを後悔させてやる!」
グレアムの目には怒りと憎しみがこもっていた。
「戦争だ!あんなやつら滅ぼしてやる!細かいことはお前らに任せる。」
「王子!?国王陛下が…お父上が病に倒れている今、そのようなことを…」
「ええい!構うもんか!やれと言ったらやれっ!」
「「は…はいっ!」」
側近達は王子の命令に従わざるを得なかった。
そして慌ただしく動き始めた。
「いやぁ、大したことなかったですね。」
「はい!あんな方が王子だなんて全くです!」
勇輝とカナは城を出て馬車に乗っていた。
ノースは外交官として何やら会談を行っているみたいなので終わるのを待っている。
「まさかフラれたとはいえ涙目になるなんて…。」
「自業自得です!」
カナはなんだか機嫌が少し悪い。
どうやらグレアムが本気で気に入らなかったようだ。
涙目になるくらいフッた後でもまだ物足りないみたいである。
「勇輝さん!カナさん!大変です!」
そこへノースが顔を真っ青にして飛び込んで来た。
「ノースさん、どうされたんですか?」
「会談中に突然…宣戦布告の通告をされました…。二週間後に軍を派遣すると……。」
宣戦布告が含められていると思われる丸めた紙を持ったままノースは暗い表情をしていた。
「戦争…最悪の事態になってしまいましね。」
「そんな…私のせいで……。」
カナは俯いて弱々しく呟いた。
「いいえ、カナさんは悪くありません!まだ猶予はあります。その間に交渉で戦争を回避します。ここからは私たちの仕事です!」
ノースが力強く告げるとカナの肩に優しくてを置いた。
「そうですね。カナさん、ノースさんを信じましょう!」
「はい…。」
勇輝とノースの励ましになんとか顔を上げてカナは頷いた。
「どうやって戦争を回避するんですか?二週間後には戦いが始まるんですよ。」
勇輝はノースに尋ねる。
「まずは、国王にこの件を報告します。私の伝令なら1日で往復できます。それで出来得る限りの譲歩をするつもりです…。戦いを避けるためなら多少の痛手は覚悟しなければなりませんね。」
ノースは魔法で鳥にした伝令の紙をノシヨに向けて飛ばしながら焦り気味に答えた。
「でも…今回はどう考えてもあっちのワガママじゃないですか?それでこちらばかりこんなに苦労するなんておかしいですよ!」
カナが穏やかながらも怒りを露わにして訴える。
「ええ…確かにそうでもありますけど、今回はあちらの面子の問題もあります。まさか国民に既に結婚するつもりで発表していたとは……これは国として一大行事を台無しにされたも等しいことです。政治は個人レベルとはまた違うのです。」
ノースは仕方がなさそうに肩を落としながらカナに言った。
・・・面子かぁ、どっかの国によーく似てるな。国益とはまた別で厄介な事になりやすいんだよなぁ。交渉で退いてくれるのか?・・・
勇輝は元の世界のご近所の国を思い浮かべながらため息をついた。
「とにかく伝令が戻ってきて譲歩できそうな事項の許可が取れたらすぐにでも交渉するつもりです。それまではアトライアに滞在します。」
「私達は構いませんけど…兵士達などはどうするんですか?」
勇輝が途中で別れた他の馬車を思い出して質問する。
「そうですねー……本当は王都の駐屯地にでも行かせたかったのですが…戦う事になったことで双方を余計に刺激してしまうでしょうね。人数もいますから、申し訳ないですが彼らには外で待機してもらいましょう。」
ノースはやれやれといった感じでそう答えた。
・・・まぁ戦う予定の相手の兵士が近くにいるのは問題だからな。でも流石に可哀想だよな。何か毛布とか差し入れでもしてあげよう。これでも少しは野営のキツさは知ってるつもりだ。・・・
自分が毛布を使っていた時の彼らの視線を思い出し、そう決意した。
「私達は安全そうな宿を確保しましょう。それから身分を隠していた方が都合がいいでしょう。あなた達は普段どうりの振る舞いをしていてください。」
「了解です。」
勇輝はそう答えてカナは頷いた。
カナはやっと王女を演じることから解放されてホッとしているようだった。
・・・よく頑張ったな。少しはわがままも聞いて上げないとな。・・・
「それでは私とカナはギルドに向かいます。ノースさんは?」
「私は宿を探しておきます。何かあったら伝令を飛ばします。なので……これを。」
ノースは紙の端を小さくちぎって勇輝に手渡す。
「これを持っていれば私の伝令はあなたを見つけられるので大丈夫です。」
・・・へぇ、ビブルカードみたい。ますます使えそうだな。・・・
「それでは解散しましょうか。この馬車は兵士たちのところに持って行かせます。ご無事を。」
「ノースさんもお気をつけて。」
ノースは帽子を被り耳を隠すと馬車から出た。
カナはそれを見て慌てて何かないかと探し始めた。
「カナさん、服も着替えないとバレちゃいますからどうぞ。」
勇輝は異次元空間の入り口を開いた。
「分かりました。ちょっと待ってて下さいね。」
少し頬を染めてカナが入口へと消えていった。
しばらくしてカナがいつものローブと帽子を被り出てきた。
もちろん尻尾も隠している。
勇輝はその後に異次元空間に入って旅人の服に着替えた。
「さてと、ギルドに行きましょうか。」
「はい。」
2人は馬車を降りた。
外は昼下がりで人が沢山いた。
獣人の姿は見えないが、もしかしたら偽装しているだけでいるかもしれない。
・・・本当になんなんだろうな、全く。・・・
隣のカナをチラリと見てため息をつく。
通りすがりに出店の主人に道を聞いて歩くと案外近くにギルドはあった。
相変わらずのわかりやすい外観ですぐに見つかった。
初めて開けるはずなのに開け慣れた扉を開くと昼間だというのにテーブルで騒いでいる一団がいた。
しかもその中には獣人も何人かいる。
・・・結構大きいパーティーだな。祝勝会でもやってるのか?獣人も混じってるしなかなか愉快そうだ。・・・
そんな彼らの横を通って手続きをするために受付に向かう。
その時会話の一部が嫌でも耳に入ってきた。
「……だからよー、おしまいだぜ。この国はよう。」
「あんなボンクラじゃあなぁ。ガハハハハッ!」
どうやらこの国のことのようだ。
流れ者の冒険者にとってはこの国の後継者がどんなに問題児でもただの会話のネタに過ぎない。
「すいません、この街に初めてきたのですが、手続きをお願いします。」
「はい、それではギルドカードをご提出して下さい。」
慣れた手つきで2人はギルドカードを取り出して受付に渡す。
「あそこの一団はなんですか?」
「受付の人に勇輝が尋ねる。
「ああ、あの方たちは一昨日Bランクの魔物の巣の殲滅の依頼を達成した打ち上げをしているんですよ。」
「へぇ、そうだったんですか。Bランク…すごいですね。獣人もいますね。」
「冒険者はもちろん、ギルドも世界中にありますから、たとえ街中で差別されていてもギルドの中では関係ありませんからね。」
・・・ふーん、やっぱりそこら中に支部があるギルドは一味違うな。あの獣人たちもここなら人目をはばかる必要もないんだろうな。・・・
「手続きが完了しましたよ。ギルドカードをお返しします。」
「ありがとうございます。」
受付からギルドカードを受け取ると2人は出入り口へと向かった。
受付を離れて騒いでいるパーティーの近くを通った時だった。
「おい、そこの二人組、あんたら新顔だな?ランクは?」
ほろ酔い気味のオジさん冒険者が絡んできた。
「わ…私たちはCランクです。それではこれで…。」
「待てよ。そこの嬢ちゃん…獣人だろ?ちょっと話さねーか?」
勇輝が足早に帰ろうとしたら、若い獣人の剣士に呼び止められた。
「はい…そうですけど…。」
カナはもじもじしながらもゆっくりと帽子を取る。
「なっ…ケーネ王女…?どうしてここに!?」
帽子を取り、露わになったカナの顔を見て剣士はひどく驚いている。
「生きておられたのですか!いったいどうやって!?」
「ちっ…違います!人違いです!私は王女ではありません。」
獣人の剣士はカナの肩を掴んで問い詰めるが、カナも振り払って事実を述べる。
「おいおい、どうしたんだよ、レイル。お前らしくもない。」
なおも落ち着かない彼をオジさん冒険者が諫めた。
「彼女は…人違いなわけ…。」
獣人の剣士もといレイルはまだ驚きを感じている。
「勇輝さん!探しましたよ。いい宿が見つかって………レイル!?お前レイルかっ?」
ノースが帽子を取りながら勇輝の肩を叩くが勇輝の視線の先を見て驚きの声を上げた。
「ノース!?どうしてここに?」
レイルはノースの姿を見て再び衝撃を受けた。