「レイル…お前…生きてたのか?」
ノースは獣人の剣士レイルに向かってゆっくりと自分を落ち着かせるとともに尋ねる。
「俺は…あの後、ケーネ王女の行方の手掛かりをつかもうとして冒険者になったんだ。依頼をこなしながら情報を集めているうちに仲間も増えたんだ。」
レイルはそう言いって周りのパーティーメンバーを見る。
「なんだ、お前そんな事情があったのかよ。それなら俺たちにも言ってくれたらよかったのに。」
オジさん冒険者がレイルの肩を叩きながらつぶやいた。
「生きてたんならどうして知らせてくれなかったんだよ!お前が死んだと思ってとても落ち込んだんだぞ!」
ノースは涙目になりながらレイルに詰め寄った。
「すまん…いつかは連絡しようと思っていたんだがきっかけがなくてな…。それよりも……ノース、お前はどうしてここにいるんだ?」
レイルか肩を竦めて申し訳なさそうに謝った後に質問をする。
「いやぁ…今は外交官としてサビーナ家と交渉をしに来ていたんだ。」
ノースが若干照れ臭そうに答える。
「おおっ!やっとなれたのか!よかったじゃないか。」
レイルがノースを激励した。
「あのぉ……。」
勇輝とカナは話についていけていない。
・・・詳しくはわからないけど死んだと思われてたんだな。後は王女がどうとか言ってたな。・・・
「ああ、すいません。予想外の再会につい嬉しくなってしまって。コイツはレイル、私の小さい頃からの親友です。」
勇輝たちのことを思い出したノースが気を取り直してレイルのことを紹介する。
「へぇー、親友ですか!よかったですね。私は勇輝といいます。コッチはカナさんです。……でも死んだと思われてたって?」
「私は二年前にケーネ王女が行方不明になった事件の時護衛をしていました。」
「なんですって!?護衛の人たちはみんな死んでしまったって…。」
「私もレイルに会うまでそう思ってました。…けど、コイツは生きてます。」
・・・あの事件の生存者か……一体何があったんだ?・・・
新たな事実に勇輝とカナは驚いた。
「うーん……もう今日は飲み会の雰囲気ではないな。俺たちは帰っとくから気にせず話したいことを話せよ。」
空気を読んだオジさん冒険者が他のメンバーに呼びかけて各々が自分の宿へと帰って行った。
「ありがとう。……それじゃあちょっと汚れてるけど座ってくれ。」
勇輝、カナ、ノースはレイルの前の席に座った。
「レイル、あの時何があったんだ?」
テーブルに着くなりノースがさっそく全員が気になっている質問を切り出した。
「そうだなぁ……二年前、あそこで俺は死んだはずだった。けど今も俺は生きている。それはケーネ王女のお陰なんだ。」
「どういうことなんだ?」
「俺たちとケーネ王女は馬車で移動中に謎の人物に襲撃を受けたんだ。馬車の道を塞ぐようにたった1人で居て、道を開けさせようとして近づいた仲間をいきなり殺した。それから全員でかかったけど…次から次へとやられていった……バケモノだったよ。俺はそいつに斬られたけど、運良く傷が浅かった。そして、護衛が王女の近くにいる2人だけになった時、なんとか護衛の兵士用の馬車の下まで隠れたんだ。そのすぐ後に王女の護衛の悲鳴が聞こえた。けど王女をなんとか馬車の下に隠れさせたんだ。しばらくヤツはまだ息があるやつを一人一人殺しながら王女を探していた。ヤツが俺の隠れ場所の目の前まで来て遂に見つかりそうになった時…隠れていた王女が自分から出ていったんだ。そしてヤツに連れていかれる前に俺の方を向いて笑っていたんだ……。」
レイルは当時の事をゆっくりと話す。
最後の方は後悔や自責の念が感じられる話し方だった。
「そんな事が……。」
「ソイツは一体どんなヤツだったんだ?」
「とにかくバケモノじみてた。真っ黒いローブにフードも被っていたから性別も分からない。短剣で鎧の隙間を正確に狙って…最後は急所を突いてきた。俺たちは翻弄されるばかりで全く歯が立たなかった。一撃も与えられず20人くらいの護衛が全滅したんだ。王女の近くにいたのは精鋭だったのに。」
襲撃犯の話をしているレイルはその事を思い出したようで震えていた。
「俺は王女様に助けられたんだよ。俺のことを庇って飛び出したんだ。あれから偶然近くを通っていた馬車に拾ってもらってこの街にたどり着いて冒険者になったんだ。」
「レイル……お前は…。」
「分かってるさ、けどな…やっとヤツの手掛かりを少しだけ掴んだんだ。」
「本当か!?」
ノースはレイルに詰め寄る。膝に溢れていた酒がついても気にもとめなかった。
「この街の裏の事情に詳しい奴がそれっぽいヤツを最近見たといってたんだよ。」
・・・えっ…この街にいるの?ヤバイじゃん。しかもめちゃくちゃ強いみたいだし、危険な香りしかしない。・・・
2人の会話を聞いて勇輝は思い詰めていた。
「そういえば…カナさん?だったか、さっきはすまなかった。本当にケーネ王女にそっくりだったんでな。今でも信じられないくらいだ。」
「そ、そんな…仕方ないですよ。びっくりはしましたけど…。」
突然話を振られてカナはビクッとしたがなんとか返答できた。
「……あっ!」
勇輝はとあることを思い出して大声をあげた。
「勇輝さん?どうしたんです?」
「ノースさん!あの不審者2人が言ってた黒幕ってソイツの事じゃないですか!?彼らは今どこに?」
勇輝は立て続けにノースに話すとソワソワする。
・・・特徴が似ている…もし同一人物だったらマズイことになるっ!・・・
「まだ、兵士たちと共に街の外にいるはずです。………ッ!?もしかして!」
「そうです!皆さん、すぐに行きましょう!」
勇輝達とレイルはギルドを飛び出した。
カナとノースは慌てて帽子を被り、レイルはそのままでてきた。
勇輝は大丈夫なのか心配したがすぐにその必要は無くなった。
「おや、レイルの兄ちゃん!どうしたんだ、そんなに急いで?」
「忙しそうだね。頑張んなよ!」
どうやらレイルはアトライアでそこそこ有名人らしく、獣人でありながら街の人たちから好かれているようだ。
「ノース!兵士達はどの門にいる?」
「えと…東門だ。」
「なら、こっちだ!近道するぞ!」
先頭を走っていたレイルが急に脇道に入り、他の3人も付いていく。
大通りと違う入り組んだ道をレイルは迷い無く走り抜ける。
・・・なかなか速い…すごいな、街の事を知り尽くしているのか。・・・
勇輝とカナはともかくノースは付いていくのがやっとだった。
もう何度目か数えるのをやめた細い路地を抜けると馬車の中から見た覚えのある大通りに出てきた。
「ああ…ここ…門を抜けた近くの…。」
ノースが息を切らしながら呟く。
「すごい、こんなにすぐに着くなんて…。」
「言ったろ、近道だって。」
感心しているカナにレイルが得意げに答える。
「あと少しだな。もう一走りするぞ!」
「えぇ…ちょっと休憩。」
「そんな暇ないぞ!ノース。」
くたびれているノースに喝を入れてまた一行は走り出した。
ギルドを飛び出してから20分もかからないうちに門の外から少し離れた兵士たちの野営地にたどり着いた。
見たところ異常はなさそうだ。
「私は指揮官に説明してきます。皆さんは2人の様子を見てきてください。」
ノースは一行から別行動となり、勇輝、カナ、レイルは不審者2人の元へと向かった。
「ん?あんた…また俺たちに何か用か?……ケーネ王女!?」
「何でここに!?」
縛られている2人は勇輝達を見て驚愕している。
「はぁ、何度目かなぁ………この人は王女ではありません。そっくりなだけです。…今回はあなた達をそそのかした人物に関して聞きたいことがあって来ました。」
「別人?また俺たちを騙しているのか?」
「あなた達を騙す必要ないですよ。騙したのはサビーナ家です。グレアム王子を見事に振りましたよ。……やりすぎて宣戦布告されちゃいましたけどね。」
「「えっ……?」」
2人は口をあんぐり開けて固まってしまった。
「それは置いといて……レイルさん。」
「おう、あんたらが会ったっていうヤツは真っ黒いローブにフード姿だったんだな?声はどうだった?」
レイルが2人の前に進み出て尋ねる。
「 そんな格好だった……。声は若かったな、男とも女とも取れる感じだったから微妙だ。」
2人は真剣な表情で質問に答える。
「ソイツの背丈はこんくらいだったか?」
レイルは近くの木に剣で傷を付けて尋ねた。
「確か…そんくらいだった…と思う。」
「そうか…他に何かなかったか?なんでもいいんだ。」
2人にすがるようにレイルは聞く。
「すまねーがもう何もない………いや、まてよ!アイツからは少しだが、血の匂いがした。きっと近距離戦が得意なんだ!接近戦で染み付いたものにちがいない。この鼻に誓って間違いない。」
ヒョロイ方の不審者が新たな情報を提供してくれた。
「ーッ!!ありがとう。参考になった。」
レイルの目は確信に満ち溢れていた。
「レイルさん、やっぱり……。」
「ああ、アイツに違いない!ヤツが現れたんだ。」
情報を掴んだ3人は不審者の元を後にしてノースに合流するために簡易の指揮所に向かった。
「そうですか、つまりは同一人物の可能性が高いと…。」
「ああ、遂に尻尾を掴んだんだ。絶対に捕まえる!」
「しかし、相手はかなりの使い手なんですよね。一体どうやって?」
勇輝がもっともな質問をする。
「俺だって二年間ただ調べ物をしてきただけじゃない。沢山の依頼をこなして力もつけた。昔のようにはいかないさ。」
レイルは自身たっぷりに剣の鞘に手を置いた。
「私もお手伝いします。色々と助けになると思いますよ。」
勇輝は決心をして支持を表明する。
「勇輝さん…私も…。」
「カナさん…相手はかなり手強いんですよ。止めはしませんが無理はしないでくださいね。」
「はい!」
カナは明るい顔で元気に答えた。
・・・断られると思ってたんだろうけど…止めたって聞かなさそうだからね。それなら初めから参加させた方がいい。治療ができるものカナさんだけだからな。・・・
勇輝はその機会が訪れないことを祈るばかりだった。
「どうします?探すか、待ち受けるか…。」
「相手は強い…万全の状態でなければ厳しいだろう。こちらに有利な状態でやって来るのに賭けよう。」
レイルは自身だけでなく冷静な分析もできるだけの頭脳も兼ね備えているようだ。
勇輝もこの意見に賛成する。
「それなら……とことん準備しましょうか。ノースさん、兵士たちも総動員しますので集めてください。」
勇輝がニヤリと笑ってノースに呼び掛けた。