勇輝はヤツがフードの下から僅かに覗かせている顔に汗が滲んでいるのを見逃さなかった。
・・・おおかた詳細は掴んだぞ。インターバルは不明だけど、少なくとも障壁が発生している間にカバーしてない所を狙えば攻撃が通る。ヤツの様子を見ると動揺しているみたいだな。ここは畳み掛けるか!・・・
勇輝が9mm機関拳銃を腰だめで構えるとヤツが咄嗟に回避行動をとりながら接近してきた。
左足のダメージは大したことはなかったようでスピードは衰えていない。
・・・やっぱりすばしっこいな…でも、短剣のリーチで攻撃するにはかなり近づかないといけない……それなら!・・・
勇輝は無理に動きを追うのをやめて相手の攻撃を待った。
すぐにヤツが自分の間合いに入って短剣を振り抜いてくる。
「ーッ!いまっ!」
短剣が勇輝を捉える前にバックステップをしながらバースト射撃をした。
短剣の先端が左肩の上を掠ったがギリギリの距離で放たれた数発の弾丸は足に命中し、障壁が発生して防がれた。
「ーッ!!」
ヤツは慌てて距離を取ろうとするが、障壁から覗いている上半身を捉えている
銃口から更に弾丸が放たれる。
「ウッ…」
3発が右肩周辺に命中して血が吹き出し、ヤツがくぐもった声を出す。
右手に握られていた短剣が飛んでいき、身体は弾丸の衝撃で大きくよろけた。
「ハアァァーーッ!」
勇輝は9mm機関拳銃を放り投げて素手で突っ込み、ローブを掴むと体を入れ込んで体落としをかました。
「カハッ!?」
受け身をせずにモロに地面に叩きつけられたヤツは大ダメージを受けた。
「縛道の四、這縄!」
すかさず拘束して取り押さえる。
そのまま右手でフードを思いっきり掴んで引っ張り上げた、
「女の人…?」
フードに隠されていた髪は綺麗な銀髪でそんなに長くはないがサラサラしている。
「とりあえず…あなたは何者なんですか?」
「………。」
襲撃者の女は口を開かず沈黙したままだった。
勇輝は治療を終えたレイルと兵士に女を任せると放り投げた9mm機関拳銃を拾って収納して全員で野営地に帰投した。
「まさか、俺の仇がこんな美人だったとはな……。」
野営地に到着してレイルが開口一番に言った。
その言葉は冗談めいてはおらず、複雑な心境の中で出たようだった。
「いったい何の為に来たんでしょうか?」
カナが手を後ろで組んで勇輝に尋ねた。
「話してくれますかねー?ああいった感じのものは難しいかもしれないです。」
勇輝は適当に受け答えて女が拘束されている場所へと向かった。
・・・どう見ても凄腕の暗殺者とかそういうやつだもんなぁ、拷問でも通用しないんじゃないかな?てか、ちょっと可愛かった……って何考えてんだ!・・・
いつの間にか思考が変な方向に向いてしまい慌てて心を落ち着かせる。
そして目的地に到着した。
彼女にそそのかされた獣人2人組は別の場所にいるようで女1人を数人の兵士とレイルが見張っていた。
彼女は木に縛られているが無表情で俯いている。
腕の傷は最低限の治療を施され、包帯が巻かれている。
美しい銀髪が顔の前にかかろうとも気にしていない。
・・・くっ殺系ではないみたいだな。どっちかというと感情が希薄なタイプか。どことなく綾波レイっぽい雰囲気だな。・・・
尋問が困難なものになるであろうことにため息をついた。
尋問に際してレイルとカナ、ノースと共に話を聞くことにした。
「まずは私から…なぜここを襲撃したのですか?」
ノースが前に進み出て尋ねる。
「……知る必要は無い…。」
彼女は小さく口を開いて抑揚のない声で答えた。
「そうですか…。では貴女は何者なんですか?」
ノースは右手を額に当ててやれやれといった感じで次の質問をする。
「サラ…とでも名乗っておく、本当の名前は自分も知らない。」
サラはそう言うと顔を下に向けた。
「孤児…ですかね?見たところまだ15〜6といったところみたいですし、彼女が黒幕でも無いかもしれないですね。」
ノースが下がって推測を述べた。
・・・うーん…となると、この子は利用されている線が強いな。依頼されているのかそれとも何者かに従っているのか……。・・・
勇輝が考え込んでいるとレイルが次に前に出た。
「お前は二年前も襲って来たな。俺はあの時ケーネ王女のお陰で生き延びてずっとこの時を待っていた……王女はどこだ!生きているのか!」
レイルはサラに掴みかからんと詰め寄る。
サラはケーネ王女という言葉を聞いて顔を上げた。
「……あの人は…生きてる…でも…。」
サラはまた口を閉ざし、レイルは更に食いよる。
「でも何だ!?いったいどこにいるんだ!答えろ!」
「レイルさん!落ち着いてください。」
「そうですよ。何か理由があるのかもしれないです。」
ヒートアップしたレイルを勇輝とカナが抑える。
「俺は二年間ずっと…探し続けたんだ。教えてくれ…。」
少し落ち着いたレイルはサラに頼むように言った。
「言えない……マスターに逆らったら…。」
サラは涙をこぼしながらそう呟いた。
泣き出したサラを前にレイルだけでなく他の者も尋問どころではなくなってしまった。
「クソッ!」
レイルは無言で下がり、近くの木に拳をぶつけた。
その後どこかへと早足で行ってしまった。
「レイル……少し時間をおきましょうか。」
「そうですね。」
ノースが提案して勇輝も了承した。
ただ、勇輝とカナは近くに留まった。
尋問が終わってからしばらく経ったが、勇輝はひとつ考え事があった。
・・・サラが最後に言ったマスターってのが気になる……身寄りがなくて生きるために従わざるを得ない状態ってのがテンプレな流れだろうな。何か逆らえない理由が他にもあると考えていいだろう。それさえ分かれば…。・・・
「カナさんはサラのこと…どう思いますか?」
勇輝の近くの木の根元で体育座りをしているカナに尋ねる。
「私も生活には困っていましたけど彼女はまた違った雰囲気がありました。普通だったら冒険者になればなんとか暮らしてはいけるはず…しかも彼女ほどの実力ならなおさらです。なのにこんな事をするのは…何か大切なもの…例えば家族…とか…」
「それだっ!」
「ふぇ?」
勇輝が突然声を出したのでカナはびっくりして間抜けた顔をした。
「生活はなんとかなるはずだ。けど…家族は違う…そういうことか。」
勇輝はサラの元へと歩き出し、カナが慌てて立ち上がって付いてきた。
「また来たの…何も言えないのに…。」
サラは勇輝とカナをチラリと見ると顔を背けた。
泣き止んだようだが、うっすらと涙の跡が残っている。
「貴女には兄弟や姉妹がいますか?」
「ーッ!!」
勇輝の問いかけにサラは戦闘の時のような素早さで真っ直ぐ勇輝を見つめた。
「やっぱりですか。もしかして…人質に取られているとか?貴女が言えないのなら私が言う"独り言"に勝手に反応してくれればいいです。」
「…どういうつもり?…なんで……。」
「もう一度…貴女には弟とか妹がいますか?」
あくまでも独り言という体なので無視して話を進める。
しばしの静寂の後にサラがはっきりと頷いた。
「次です。マスター…とやらにその人を人質に取られている?」
勇輝がマスターと言った時にサラが少しビクついたが控えめに頷いた。
「ーっ!勇輝さん!」
「ええ、カナさんの言った通りですね。」
カナと顔を見合わせて再びサラを見る。
「もしもですけど、その人が安全になったら貴女は自由になれますか?」
「ーッ!」
サラは勇輝の問いかけに大きく驚き、その目には涙を浮かべ始めた。
そして静かに頷くと涙が流れ落ち、顔を上げると微かに笑っていた。
・・・なんだ…笑えるじゃないか。感情が希薄なんじゃなくてただ表に出にくいだけだったんだな。・・・
「お願い…私の家族を…弟を助けて!」
サラは振り絞るように声を上げた。
「勇輝さん、私…。」
カナが勇輝の方を向いてすがるように見つめる。
「分かってます。私も同じ気持ちです。………助けましょう!」
勇輝がそう決意するとカナの顔もいっそう明るくなった。
「ありがとう…。」
サラはそれだけ告げると泣きながら笑顔を見せた。
勇輝はサラの相手をカナに任せて馬車に戻った。
勇輝が馬車に戻るとノースとレイルが待っていた。
「勇輝さん、また勝手に話を進めていましたね?今度は何をききだしたんですか?」
ノースがいたずらっ子を追い詰めるように話しながら寄ってきた。
「ああ…バレちゃいました?まあ、ちょっと思い当たる節があって…揺さぶりというか、アプローチを変えてみました。そしたら彼女の置かれていた状況が分かりましたよ。」
やれやれと肩をすくめて勇輝が2人に白状する。
「アイツにどんな理由があろうと許されるわけじゃない。」
レイルが馬車の側に座り込んで呟いた。
「………彼女は…サラは弟を人質にされ、マスターとやらに従わざるを得ないようです。彼女の行動原理は弟の身の安全…そしてマスターが今回の黒幕であると考えられます。つまり…私たちでサラの弟を助け出せばサラは従う必要がなくなります。」
「ほう…家族を人質に……そんな理由があったとは…。」
ノースは唸っていたが、レイルは特に反応しない。
「黒幕のマスターならケーネ王女に関しても知っているでしょうし。」
勇輝がわざとらしく言うとレイルの耳がピクッと動いた。
「今はカナが相手をしています。詳しくはまた夜が明けてから聞く予定です。ノースさんは戦争回避の交渉に集中してください。レイルさんは…できれば協力して欲しいですけど…無理強いはしません。」
「そうですね。ノシヨに送った伝令の返事も帰ってきたので私は交渉内容をまとめさせていただきます。」
ノースはそう言って馬車に入っていった。
勇輝とレイルの2人きりになった時、レイルが立ち上がった。
「俺は…アイツを許してない。だが、ケーネ王女の行方を掴むためにもそのマスターってヤツをとっちめなけりゃならないようだし、協力する。弟には罪は無いしな。」
「レイルさん…ありがとうございます!」
勇輝が礼を言うとレイルは背を向けて兵士達のいる詰所へと歩いていった。
・・・ツンデレだな、なんにせよ心強い味方ができた。・・・
レイルを見送ってホッと一息つくと馬車に入って何やらブツブツ言いながら考えているノースを尻目に眠りについた。