朝になったようで小鳥のさえずりが微かに聴こえて朝日が差し込んでいる。
勇輝が目を覚まして馬車の中を見渡すと、ノースがノシヨからの返事の紙を広げた簡易的な台の上に突っ伏して眠っていた。
確か勇輝が眠る前からずっと思案していた様子を見たことを思い出した。
・・・お仕事ご苦労様。戦争を防げるかどうかはこの人にかかってるからな。かなりのプレッシャーだろうな。・・・
ノースを起こさないように音を極力立てずに外に出ると大きく伸びをした。
「さてと。」
勇輝はまだ眠たい目を擦ると気を引き締めるために一言口を開き、カナがいる馬車へと向かった。
「おはようございます。」
「あっ、おはようございます。」
途中で巡回中だった兵士に挨拶をする。
突然声をかけられた兵士は以外そうな顔をして慌てて挨拶を返す。
・・・そういえば少し見た目が若返ったような感じだったけど、他の人からはどれくらいに見られてるんだ?一応20歳いってるからな、これでも……。・・・
勇輝は自分の低い身長を意識して少しへこんだ。
・・・全く、最近の同世代はみんな背が高くていいよな。170台もゴロゴロいたし、てか異世界はその辺りが更に拍車がかかって他のルックスの平均も高いときた…なんか泣きたい。・・・
この世界での生活で若干明るくなった勇輝だが、一度落ち込むと悪い考えが巡ってさらに気分が落ち込む癖はなかなか治らない。
・・・ダメだな……ほんとこんなんじゃ、切り替えないと……。これからカナさんのところに行くのにつまらないことで暗くなるわけにはいかないな。・・・
気を取り直して小さくなった歩幅を戻して歩みを進める。
勇輝がカナの馬車の前に着くと椅子に座り小さなテーブルに頬杖をついてどこか上の空になっているカナがいた。
「カナさん。」
勇輝が声をかけるとカナの耳がピンと立って素早く振り向いた。
「勇輝さん!おはようございます!」
カナが立ち上がって挨拶をする。
先程までの表情が嘘のように明るく微笑んでいた。
「おはようございます。何か考え事でもしてたんですか?」
勇輝も挨拶を返すとさっきのカナの様子が気になって尋ねる。
「ああ、サラさんのことを考えてて…どうしたらいいのかなって。」
「そうでしたか。それならちょうど良かったです。何か朝食をもらってサラさんのところに行きましょう。もちろん3人分で。」
勇輝がそういうとその意味を理解したカナはニッコリと笑って勇輝の側に近寄った。
「優しいんですね。」
「え、ええ…まあ。」
カナが側に寄って発した言葉に適当な返答が見つけられず少し間の抜けた返事をした。
「それなら……ちょっと誰かいませんかー?」
カナが周囲に向けて呼びかけると近くにいた兵士が出てきた。
「王女様、どうされましたか?」
「何か軽い朝食を3人分用意してくれませんか?」
「わかりました!すぐにご用意いたします!」
兵士が走って指揮所の方へ駆けて行った。
「もう充分王女様っぽく振る舞えてますね。」
冗談っぽくカナに話しかける。
「ええ…そんなことないですよー。でも……それなら勇輝さんが私の王子様ですね。」
カナが無邪気な笑みを見せて行った言葉に勇輝は固まった。
・・・グッ…こんな不意打ちは心臓に悪い。並みの奴なら尊死していたかもしれない……。・・・
「…さん、勇輝さん?」
「ああ、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしてました。」
そんなやり取りの少し後に先程の兵士がパンと乾燥させた果物を持ってきたのでそれを受け取りサラの元へ向かった。
「ーッ!王女様!おはようございます!」
サラの見張りをしている兵士がカナを見て驚きながらも挨拶をする。
「おはようございます。彼女の様子はどうですか?」
「はあ…特に変わったことはなく、大人しくしています。」
「そうですか。少し彼女と話をしたいのでその間休んでください。」
「えっ?それでは……。」
兵士がキョトンとした顔をして何かを言おうとした。
「大丈夫です。何かあったら私が対処しますから。」
「そ、それなら休憩させていただきます。」
勇輝がフォローして見張りの兵士を離れさせた。
「どうですか?眠れましたか?」
カナがサラの前に出て話しかける。
「こんな状態じゃ眠れるわけない。…でも、少しは気が楽になった。」
まだ少しムスッとしているが仕方ないこととして片付けた。
「流石に拘束を解くのは皆から止められてしまいましたからね。それは申し訳ないと思ってます。よかったらこれ…持ってきたので食べてください。」
カナが貰ってきたパンを差し出すとサラは眉をしかめた。
「これ…さっき食べた。」
「えっ?」「ー!?」
サラの予想外の反応にカナだけでなく勇輝も驚いた。
「なんか…目が覚めたら置いてあった。けどこれも食べる。」
そう言って固まっているカナからパンを取って一口かじる。
「誰か私達より前に来たんですかね?一体だれが?」
「とにかく悪いことではないんですから食べましょう。」
「そうしますか。」
カナと勇輝も朝食を食べ始める。
サラはパンをさっさとたいらげると乾燥させた果物をずっと見ていたので勇輝が自分の分をあげた。
勇輝から貰った果物を食べたサラは目に少し光が灯ったようだった。
分かりにくいがどうやら気に入ったようである。
3人が食事を終えると向き合った。
「それでは本題に入ります。私たちはあなたに協力します。話せることはありませんか?念のため周りの人は離れさせてますから聞かれることはありません。」
勇輝が魔力レーダーで周囲を改めて確認して話を切り出す。
「本当に…助けてくれるの?」
そう尋ねるサラは以前より軟化しているようだがまだ完全に信用できていないようだ。
「はい!信じてもらえるか分かりませんが、力になりたいんです!」
カナがサラに正面から向き合って力強く言う。
「……まずは私の名前…といっても普段使っているだけで本当の名前は知らないけどサラじゃなくてシャリアと呼ばれてる。弟はアル、年は多分9歳くらい。3年前まではその日暮らしでなんとか生活してた。……でもアイツが…マスターが現れてアルを……。」
サラ…シャリアはそこまで言うと俯いた。
「それで今まで言いなりになっていたと。」
勇輝が確認するように言うとシャリアがゆっくり頷いた。
「ひどい…どうしてこんな目に合わなければいけないんですか。」
カナは静かにシャリアの境遇に憤っていた。
「でも…生活が苦しかったのも事実で、どちらか…または両方とも病気にかかるかして死んでいたかもしれなかった。命令通りに仕事をして成功すればアルにも会わせてくれた。でも何か失敗したらしばらく食事を与えられなかったみたいでたまにひどく痩せてた。だから…ずっと頑張ってきた。」
シャリアの声が涙ぐんできたがそれでも話し続けた。
「マスターはアトライアにいる。公にもそれなりの権力があるといってたからもしかしたら貴族かサビーナ家と繋がってるかもしれない。」
シャリアは涙をこらえながらも最後まで言い切って少し呼吸が荒れていた。
「いかにも黒幕っていうとこですかね。しかもアトライアにいるとは。」
・・・しかしサビーナ家はそんなに関係してないかもな。じゃないとあの間抜け王子とはいえもう少ししっかりした外交をするだろうからな。良くても家臣クラスの貴族だろう。……あっ!そういえば!・・・
「シャリアさん!」
勇輝がとあることを思い出してシャリアに声をかける。
「どうしたんですか?急に大きな声をだして。」
シャリアをなだめているカナが勇輝に尋ねる。
「シャリアさん、ケーネ王女はいったいどうなっていますか?」
「ーッ!!」
カナはその名前を聞いてハッとした。
「その人も…確かマスターの近くにいた。アルほどじゃなさそうだったけどそんなに良い扱いじゃなかった。」
シャリアは暗い顔でボソボソと話した。
「これは…もう決まりですね。あなたの弟だけでなくケーネ王女までいるとは、一刻も早く助けに行かなければいけませんね。……そうでしょう?レイルさん。」
「えっ?」
勇輝がにやりと笑って後ろに向かって呼びかけると木の陰からレイルが出てきた。
「なんでだ?いつから気づいてた?」
「そりゃあなたが近づいてくる時から分かってましたよ。…カナさんも気づいてましたよね?」
「ふぇっ?」
「あっ…。気づいていませんでしたか?」
「うぅ…。」
カナが少し自信なさげに耳を垂らしてしゅんとした。
その姿を可愛いと思ったが、落ち込ませてしまったことで若干後悔した。
「まあ、通りすがりの兵士にあんたらが3人分の食事をもらって行ったと聞いてまさかと思って来てみたんだよ。そしたら…お前、随分とおしゃべりになったな?」
「……。」
レイルはシャリアを一時睨みつけて勇輝たちに顔を向けた。
シャリアは暗い顔のまま下を向いた。
「王女様がいる場所がわかったんだろ?なら今すぐにでもマスターってヤツのところに殴り込みにいかないとな。……弟とやらは好きにしろよ。」
「えっ…それは…。」
「おい、さっさと準備しろよ。こっちはいつでもいける状態で待ってるんだ。」
シャリアが顔を上げて驚きの表情を見せたが、レイルはそれに目もくれず勇輝とカナを急かした。
「……はい!40秒で支度します!」
「40秒ですか!?」
勇輝は少しにやけながら異次元空間から装備を取り出して準備をする。
カナはまず40秒の意味が分からずあたふたしている。
・・・異世界の人がこのネタ知ってるわけないもんな……カナさんはとりあえずこれだけあればいいよな?・・・
「アクシオ!カナさんの杖よ、来い!」
足元の木の枝を拾ってカナの馬車の方向に向けて唱えるとカナの杖が文字通り飛んできた。
「カナさん、うまく捕まえてください。」
「きゃあ!?」
そこそこのスピードで飛んできた杖をカナがなんとかキャッチする。
「……なんだその魔法…便利だな…。」
レイルがその一部始終を見て呟いた。
「カナさん、とりあえず杖だけあればいいですよね?」
「は、はい。」
杖を両手で抱き抱えるように持ってカナが頷いて応える。
「これで準備は完了です。あとは…レイルさん、道案内が必要ですよね?」
勇輝がいたずらっぽくレイルに尋ねる。
「…ああ!それはこっちでうまくやるから先に街の門に向かっとけ!」
レイルがしょうがなさそうに言うと指揮所の方に走って行った。
「……どういうことですか?勇輝さん。」
走り去るレイルを見たカナは勇輝に尋ねる。
「この中でマスターの居場所まで案内出来る人は誰ですか?」
勇輝がもったいぶりながらカナに言う。
「あっ!そういうことだったんですね!」
カナも気づいたようで笑顔ではしゃいだ。
「それじゃあシャリアさん、先に行きます。アル君も…あなたも助けます。……カナさん!」
「はい!」
2人はシャリアを残して走り去った。
「本当に…ありがとう。」
誰もいないなかシャリアは天を仰ぎ呟いた。
勇輝たちが去った後……
兵士(さて、捕まってるヤツにもメシくらいは食べさせないとな。)
「ほらよっ、メシだ。食え。」
シャリア(今朝だけで3回も食べれるなんて…)
「……ありがとう。」
兵士「おっ…おう……。」
(かわいい……。)