ずっと街なので設定集のネタが増えない……
ある程度の準備を整えた勇輝とカナはもうすぐアトライアの門に到着しようとしていた。
「はぁ……カナさん、ちょっとペースを落としましょう。シャリアさんが来ないことには行き先がわかりませんから。」
「そうですね。」
カナは何事もないかのように応えるが実は勇輝は少しばかりへばっていた。
朝っぱらから門の近くまで3〜4kmは移動している。
流石に運動能力が高くても常人の域を出ない勇輝にはかなりこたえる。
・・・ふぅ、助かった。本当にカナさんの体力はいったいどうなってるんだ?交通手段の発達した世界の現代っ子にはキツイぞ…。装備だってそんなに軽くはないんだから。・・・
今回の勇輝の装備は迷彩服4型に迷彩帽、弾帯、9mm拳銃とサーベル、そして予備マガジン2つである。
比較的軽装の部類だが、サーベルを装備して走るのはなかなか難儀だった。
それに対してカナは急ぎだったのもあるが、いつものローブと杖だけしか持っていない。
「勇輝さん、大丈夫ですか?」
「え、ええ…大丈夫ですよ。とりあえず門をくぐったらそこでシャリアさんたちを待ちましょう。」
多分へばっているのがバレてしまったが、とにかく今は休憩を入れたかったのでそう提案すると難なく受け入れられた。
その後少しして門に到着したので案内してくれる予定のシャリアを待つ。
アトライアの門は人でごった返しており普通なら待ち合わせには適しておらず、勇輝はしまったと思った。
・・・失敗だったなぁ、これじゃ合流どころかお互い見つけられるかもわからないぞ。・・・
「どうしましょうか?一旦外に出て人が少ないところまで戻りますか?」
「うーん、確かにここだと……」
「おーーいっ!勇輝!」
「ん!?」
カナの言葉を遮って聞こえてきた自分の名を呼ぶ声に驚いて振り向くとレイルと…シャリアがいた。
シャリアはフード付きのローブではなく露出は少ないが動きやすそうな青基調のデザインの服を着ていた。
「レイルさん!それにシャリアさんも…その格好はどうしたんですか?というかどうして見つけられたんですか?」
「おいおい一つずつ質問しろ。まずは二つ目の方からだが、自分の格好を見てみろ。そんな変わった服を着てたらすぐに見つかるだろ。」
レイルが少し呆れるように言った言葉に勇輝はハッとした。
・・・これ(迷彩服)かー……そんなに目立ってたとは、やっぱり街で着るのはやめようかな?目立ったら迷彩の意味無いし。・・・
「あとは…コイツの格好だが、たまたまちょうど良さそうなのがあったからあげただけだ。それ以上でもそれ以下でも無い。」
迷彩服の指摘を受けて改めて周囲を見回す勇輝に構わずレイルが話を続けたが、適当にはぐらかされてしまった。
・・・たまたまってなんだよ…なんでそんなもんあるんだよ。見た感じぴったりじゃん。・・・
「シャリアさん、可愛いですね!」
「あ、ありがとう。これ、とても良い。」
カナがシャリアの服を褒めるとシャリアは少し頰を赤らめた。
彼女もカナと同じか少し下の年の女の子なのだ。
お互いそれなりに仲良くできそうでもある。
「そういえばレイルさん、どうやって連れて来たんですか?」
カナとシャリアのやり取りを見てなぜかバツが悪そうにそっぽを向いているレイルに声をかける。
「ああ、脱走したから俺が一人で追っかけるから他は警戒を怠るなって感じにした。」
「へぇー、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。問題ない。」
勇輝の何気ない心配に少しめんどくさそうにレイルがきっぱり言った。
・・・おい!そのセリフはヤバイ!大丈夫じゃないヤツだから!・・・
大した理由もなく聞いただけだったのにレイルの言葉で本当に心配になってきたが、もう一度戻るなんてことはしたくないので聞かなかったことにした。
「勇輝、どうした?」
「えっ?何もないですよ。」
「いや、なんかヤバイみたいな雰囲気がしたからよ。」
レイルがそう言ってきたが、勇輝は理解できなかった。
・・・あれー?表情は表情筋が死んでるからあまり出ないし……なんでわかった?まあ、それだけあのセリフのフラグ臭があるってことだな!うん、そうだ。・・・
「とりあえず、出発しましょう。シャリアさん、お願いします。」
「うん、こっちの方。」
一行は街の中を進んで行く。
………時を少し遡り勇輝とカナが出て行った少し後のこと
・・・しまったなー、いろいろ考えてたら寝落ちしてしまった。・・・
ノースは大きなあくびをしながら馬車から出てきた。
そして目を擦っているとレイルが走っているのを見かけた。
「レイル!どうしたんだ?そんなに急いで。」
「あ?ノースか、あーあれだ、あの女が脱走しやがったから追っかけるとこだ。」
「なんだって!?勇輝さんたちは?」
「今別の用事で街へ向かった。」
「それじゃ兵士を何人か同行させて…」
「いや!俺一人で行く!兵士たちにはここの警備を任せる。あと、お前も交渉の仕事があるだろ?そっちの護衛を優先させろ。」
レイルはやけに早口で兵士の同行を断った。
・・・あれ?確かコイツ…こういったときって……もしかして…。いや、よそう。・・・
「そうか、無茶するなよ。交渉はオレに任せてくれ。」
「助かる!それじゃあな!」
レイルはぎこちない笑顔で感謝すると再び走り去っていった。
ノースはとりあえず朝食をとるために指揮所へ向かった。
指揮所はそれほどでもないが、脱走者が出たということもあり、少し物々しい雰囲気だった。
「隊長、詳細はどうなっている?」
ノースが現場の指揮を執っている兵士に尋ねる。
「えーっと、現在分かっているのは脱走が判明したのはつい先ほどで、ケーネ王女が話をしたいとおっしゃって兵士を下げさせ、その後兵士が戻ってくる間に脱走したものとおもわれます。最初に気づいたのは監視の任に戻ろうとしていた兵士とレイルさんで、レイルさんはその後単独で追跡に出ました。」
兵士が説明しているのをノースは静かに聞いていた。
「そうか、レイルとはちょうどさっき出発するところをすれ違った。ちなみに脱走の原因はわからないのか?」
「それが……ケーネ王女が話を終えて街へ向かわれた後、兵士が戻るまで誰もいなかったため分かっておりません。痕跡なども特に残されておらず手段も不明です。」
兵士は申し訳なさそうに話す。
「今後は監視体制を見直さないといけないみたいだな。レイルの方は彼を信じよう。お前たちは引き続きこの野営地の警備にあたれ。それから、昼前に城へ交渉に行くから何名か選出しておいてくれ。」
「はっ!了解です!」
兵士が勢い良く返事をしたのにノースも応えると指揮所を後にしてすぐ近くでもらった朝食を食べた。
・・・レイル…無茶してないだろうな。しかし、レイルのあの振る舞いは…何か隠してる時のものだった。流石に親友は騙せないぞ…いったい何の目的が?……でも今は交渉に集中しないと…。・・・
ノースは明らかに引っかかるレイルの行動に疑念を抱いたが自身の任務があるために一旦後回しにすることにした。
………時系列は元に戻って街の中
勇輝たちはシャリアを先頭にして彼女の案内に従って路地の中を進んでいた。
「おいおい、この先は貴族の屋敷が多い地区だぞ。本当にこっちにあってるのか?」
「こっちでいい。この先に入り口がある。」
レイルの言葉に淡々とシャリアは答えてどんどん進んで行く。
「マジかよ…今までスラム地区とかを重点的に調査してたのに…全く見当違いだったのかよ。」
「そうでもない…そっちには仮の拠点もあったから間違いはない。でも、そう簡単には見つからない。」
「そうかよ。」
落胆するレイルをフォローしてるのかどうなのはっきりしないがそんなやり取りをしているうちに周囲の建物がやたら豪華になってきた。
「さすが貴族なだけあってわかりやすいですね。」
「なんかお城と同じようにあまりいい気はしないですね。」
「まあ、貴族のほとんどは城で役職を持ってたりしますからね。環境は似たものになりますよね。」
勇輝とカナの感想はそんなものだった。
「こっち、この建物の横の細い路地…。」
「なっ…こいつは……。」
シャリアがとある建物の方を指差すとレイルが突然立ち止まった。
「この屋敷はカイゼル公の屋敷じゃねーか!」
「レイルさん、なんなんですか?カイゼル公って。」
「貴族の中でも結構上のやつでサビーナ家とはあまり仲が良くなくて王の座を狙ってるとも噂されてる切れ者だ。まさか…そいつが…。」
レイルが屋敷の門の紋章らしき物を見ながら説明した。
・・・これまた大物が出てきたな。しかもサビーナ家の政敵か…。まあ、そんなことはどうだっていい。救出が最優先だ!・・・
「相手が誰であろうと助け出しましょう!」
「そうだな。よし、行くぞ!」
一行は路地に入る。
「待って、ここに入り口が隠されてる。」
細い路地の奥に差し掛かり、シャリアが皆を停止させる。
そしてカイゼル邸側の壁に手を触れるとほのかに青白い光が魔法陣らしき物を描いた。
魔法陣が完成するとさらに強く光って平坦だった石の壁にいくつも切れ込みが出来てスライドしたりしながら人が一人通れる大きさの入り口が出来た。
・・・おおー!ハ○ポタみたいでカッコいいな。・・・
「こんなところに入り口が隠されてるなんてな。」
「さっきのはどんな魔法なんですか?」
カナとレイルも思わず口を開く。
「私もあまり詳しくはわからないけど偽装を解く魔法って言われて教えられた。……それより、ここからは覚悟をした方がいい。私以外にも従わされている人たちがいるから戦いになるかもしれない。」
シャリアがそう言うと真剣な雰囲気に包まれ、全員がそれぞれの武器を握りしめた。
勇輝も9mm拳銃のスライドを少し引いて弾薬の装填を確認して、セーフティを解除した。
・・・シャリア以外にも同じように言いなりになっている人たちがいるのか、極力戦いたくはないな。・・・
決意の中に若干の迷いを抱えて入り口に入って行く。
入り口を抜けるとすぐに下へ降りる階段になったのであまり足音を立てないようにゆっくりと降りて行く。
勇輝は個人的に足音を立てるのが好きではないので普段から足音は小さくする癖があり、普段とあまり変わらないペースで降りるが、カナとレイルは少し苦手なようでゆっくりになっている。
シャリアは慣れているのか勇輝と同じか少し速い。
階段を下り終えると短い真っ直ぐの道をランプのようなものに光の球が入れられた灯りが薄暗く照らしていた。
道の先は3つに分かれている。
「シャリアさん、どうしますか?」
「多分マスターたちは真ん中…そしてこっちは倉庫と私達の居住スペース、そして最後が…地下牢で警備もそれなりにいた。」
シャリアがそれぞれの道を指差して説明する。
説明が終わった後も地下牢へ続く道を見つめていた。
「どうしましょうか……そういえば普段はシャリアさんたちはこの先にいるんですか?」
勇輝は倉庫と居住区の道を指して聞く。
「そうだけど…。」
「今は特に行く用も無いですか?」
「えっ…?たぶん…大丈夫。」
勇輝質問に一瞬驚いたがすぐに答えた。
「勇輝、何するつもりだ?」
レイルが後ろから声をかける。
「いや、なるべく戦いは避けたいのでこの道を封鎖しちゃおうかと考えたんですよ。」
「そんなことできんのか?」
「ええ、問題無いです。あと、残りの2つの道を二手に分かれていこうと思います。」
勇輝が全員に目を配って説明を始める。
「私が道を封鎖したあとレイルさんとシャリアさんで地下牢の方へ行って王女とアル君を救出して下さい。私とカナさんでマスターを押さえます。」
「そうか、あんたの実力は見せてもらったから信用するが、無茶するなよ。あくまでも救出が目的だから深追いはするな。」
レイルが進み出て勇輝の肩を叩く。
「大丈夫です。そちらこそ救出頑張ってください。」
レイルとシャリアに呼びかけると倉庫へと続く道を向いた。
「カナさん、手伝って下さい。」
「私ですか?」
カナが勇輝の隣にやってくる。
「一緒にでかい氷を出して塞いじゃいましょう。」
「えっ!?……分かりました!」
カナが杖を握りしめて前へと構える。
・・・氷の魔法で何かちょうどいいのは……あれでいいや。・・・
「ハァー……」
カナが目を閉じて魔力を集中させると杖の先端が光り始めた。
「えいっ!」
以前魔法の練習で出してもらったものより少し大きな氷の塊が道の真ん中に発生した。
「よし。」
勇輝は魔力効率の良いM1ガーランドを取り出して肩に担った。
そして次の瞬間肩から瞬時に外して手で保持して「マリン立て銃」をやった。
「ヒャダルコ!!」
技の最後に床尾を地面に着地させる瞬間に唱えると氷の塊の周囲を更に氷が覆うように凍りついて隙間が埋まっていった。
「ふう、これで人は通れないでしょう。それでは作戦開始です!行きましょう!」
「はい!」
「よっしゃー!やってやる。」
「アル…もうすぐ助ける。」
一行は二人ずつに別れてそれぞれの道を走った。