今現在も豪雨災害の災害派遣で頑張っている自衛隊の皆さんを応援しています。
勇輝とカナ、レイルとシャリアの2組はそれぞれの道へと向かう。
一足先にレイルたちが地下牢へと続く道を走り出した。
勇輝はカナとそれを見届けると居住区への道を塞いでいた氷の塊の奥でガンガンと音と軽い衝撃が伝わってきた。
「どうやら異変に気付いたようですね。氷が砕かれる前に私達も向かいましょう!」
「はい!」
二人はマスターがいると思われる道を走る。
道の先には木造の重々しい両開きの扉が見えてきた。
「勇輝さんっ!」
「このまま突撃します!少し前に出ます!」
「えっ!?ちょっと…」
カナの制止の言葉を言い切るのと同じくらいのタイミングでサーベルを抜きながらカナの前に出て左手を扉に向ける。
・・・扉が少しゴツいから強化版でいくか。・・・
「メラミ!」
左手からメラより一回り大きな火球が発射されて真っ直ぐに飛翔する。
「行けーーっ!」
走りながらで少し掠れた声とともに火球が扉に直撃して扉の周囲を炎に包む。
しかし、扉は燃えながらもまだ形を保っている。
・・・クソッ!足りなかった!けど…・・・
扉を視界の中央に捉えて意識を集中させて鑑定してみる。
[木の扉/耐久度:脆弱]
視界にうっすらとそんな解説が表示された。
・・・少し離れていたけどなんとかできた…脆くはなってるんなら目的は達成した!・・・
「とぉーつげぇーきーーっ!」
「勇輝さーん!まだ扉が残ってるじゃないですかー!」
後ろからカナが叫んでいるが奇襲はスピードが命だ。
「ダイナミック…エントリィーーッ!」
燃え盛る扉が目前に迫り勇輝は勢いそのままにライダーキックの要領で跳び蹴りをお見舞いした。
脆くなっていた扉が勇気の蹴りで崩れて勇輝は扉の先へと入っていった。
「ブゥアッ!?」
扉を突き破っても威力の衰えなかった勇輝の蹴りは扉の先にいた誰かも巻き込んだようで確かな手応えとともに短い声が聞こえた。
扉の先は今までのいかにも地下といったような殺風景ではなく、執務室のような空間が広がっていた。
足元を見ると小太りの手下っぽいおっさんが仰向けに伸びていた。
・・・ちょっとおまけがついてきた……。やっぱりこんな身体能力があるっていいなぁ。うまく使いこなせればもっと強くなれるはず。・・・
「さてと、お邪魔します。早速ですけど……問おう、貴方がマスターか?」
正面の立派な机の向こうに腰掛けている、黒基調の貴族らしい服を着た男にサーヴァントっぽく尋ねてみる。
「だったら…どうしたのだ?どうしてここまで来たか知らんが邪魔者ならご退場いただこうか。」
たった一人で座りながら堂々と勇輝に相対するマスターはかなりの迫力を見せている。
「それはできません、貴方を捕まえま…」
「勇輝さんっ!危ない!」
勇輝が後ろから聞こえた叫び声にハッとすると、直後に氷の礫が勇輝の目の前を斜め後ろから過ぎていった。
それはカナの氷魔法だということは理解できた…だが、それは勇輝の目前にいつのまにか迫っていた短剣を弾いていた。
「ッ!!」
氷の礫が部屋の壁に突き刺さった後に短剣が宙を回転しながら落下して床に刺さった。
「チッ…」
マスターが腕組みで口元を隠していたが確かに舌打ちをした。
「勇輝さん、危なかったですよ。あと少し遅かったら……とにかく一人で突出しないでください…。」
「ああ……ごめんなさい、助かりました。」
勇輝は少しはっちゃけていたことを反省してカナに軽く頭を下げる。
・・・今まで大して失敗も無かったからって調子に乗りすぎてたな……例え転生して魔法とかを使えるようになっても本質は変わらない…ましてやこの世界は元の世界よりももっと危険なんだ。油断は死に直結する……。・・・
冷静さをある程度取り戻して短剣が飛んで来た方向に目を凝らすと暗がりに人影が見えた。
・・・アイツか、マスターに気をとられすぎて存在に気が付かなかった…、やっぱりこれは実戦なんだ…命がかかっている本物の…。・・・
「危なかったぞ、出てこい!」
そう呼びかけるがその影は動かない。
「良い、行け、奴らを排除しろ。」
「御意…お前らには怨みはない…だが死んでもらう。」
マスターが命じると前に進み出てその姿を現した。
暗がりから姿を現した敵はすらっとした長身に青い髪の若い男だった。
・・・ふーん、なかなかのルックスじゃないか…強敵オーラが漂ってる。けど…コイツを倒してマスターをとっ捕まえる!・・・
勇輝はサーベルを握り直すと構えた。
「カナさん、コイツは私が押さえます!カナさんはマスターを!」
「はい!」
カナが杖をマスターに向ける。
マスターは依然座っている。
男も剣を抜いた。
その剣はサーベルに近い曲剣で勇輝のものより少し刀身が広い。
「いくぞ…っ!」
男が走って距離を詰めてきた。
「このっ!」
スピードの乗った斬り上げを右に小さくステップを取って躱す。
ステップと同時にサーベルを握っている右手を残して左肩の前まで剣を持ってくる。
ステップが終わり、足が地に着いた瞬間にサーベルを横に振る。
「やるなっ…。」
カキィンという金属音を響かせて男が素早く体の前に戻した剣に勇輝のサーベルの刃がぶつかり、そのまま滑って空振りに近い形でいなされた。
・・・クソッ!強い……・・・
サーベルを振り終わり、背中を向けるのは不利な状況になるのでそのまま体を回転させて振り返るように再びサーベルを横に振る。
しかし、これも受け止められる。
今度はガッチリとかち合って切り結んでいる点からガチガチという音が小さく聞こえる。
「く…まずい…。」
鍔迫り合いに振り向きざまという不安定な体勢で挑んでいるために力量が足りず、徐々に押される。
「ーフッ!」
「うわぁっ!」
男が一気に剣を振り払って勇輝の身体ごと吹っ飛ばした。
「ガッ……い…痛い…。ーっ!」
勇輝は壁に背中から叩きつけられその痛みに悶絶するが、追撃を掛けようと迫ってくる男を見て慌てて左手で9mm拳銃をホルスターから抜き、照準が完全でないままに3発撃った。
「なっ、飛び道具か…。」
構えが甘かったのと下から構えて撃ったために弾丸は男の頭上を通過して天井に着弾した。
しかし、男の身長が高かったこともあって結構すれすれにいったらしく男はバックステップを取って距離を置いて立ち止まった。
短い時間だが、座り込んで銃を向ける勇輝と剣を構える男が睨み合う奇妙な状態が続いた。
「そうです…弓矢よりも速く、強力な武器…これが私の本当の武器です!卑怯なのは重々承知です。ですが、剣の腕は貴方に敵わないみたいなので今度はこれで戦わさせていただきます!」
勇輝は銃を向けたまま立ち上がってサーベルを納めて正対する。
「クッ…厄介な!」
男が剣を握りしめて構えるが、両手で確実に照準している9mm拳銃が火を噴く。
「ーッ!」
その銃弾は男を貫くことは無かった。
男の後ろの壁には少し後ろの左右に小さな弾痕がついている。
・・・マジか…弾丸を見切って斬ったのか!・・・
一瞬驚いて止まったが、もう1発撃つ。
これもまた斬り落とされた。
「確かに…速い…だが、見切れる!」
男が走り出した。
「クソッ、クソーッ!」
勇輝は苦し紛れに2発発砲するが走りながらでも防がれてしまった。
更に距離が詰まっていく。
「残念だったな…悪く思うな。」
男のリーチ内に勇輝が入りそうになったところで男が呟いた。
勇輝は力が抜けたように拳銃を持った手を降ろした。
「お見事です。でも……ごめんなさい!」
勇輝は拳銃を持った右手をぶら下げたままで左手を前に伸ばした。
そして次の瞬間に黒い塊を掴んでいた。
「ーッ!」
「喰らえーーっ!」
左手に異次元空間から取り出した9mm機関拳銃を掴んで男にフルオートで弾丸の嵐を叩き込んだ。
銃口の跳ね上がりの抑制があまり意識されていない設計と毎分1200発という制御不能な連写性能の合わせ技によってすさまじいマズルジャンプが発生する。
男は再度斬り落とそうとしたが、高速で次々と迫る弾丸に対応できるはずもなく、胸から肩にかけて7〜9発の弾丸を受けた。
「ぐっ…がはっ…」
男は大きくよろけて剣を手から落とした後、血を吐き出した。
そして、がっくりと力無く膝をついた。
勇輝が銃を下ろすと男が唸り声を上げた。
「はぁ…うぅ、まだだ…まだ…たたかえ…る…。」
男は利き腕ではない左腕で剣を拾って床に突き刺し立ち上がろうとする。
「どうしてそこまで…もう勝敗は決したんですよ。」
弾切れになった9mm機関拳銃を収納して男に近づく。
右手は肩から流れた血が滴り落ちてだらりとぶら下がっている。
荒い呼吸の乱れ方から直撃ではないにしろ肺にもダメージが及んでいるようだ。
「貴方ほどの実力者は死なせるには惜しいです。もう大人しくしていてください。私もほんの少しだけは治療もできるつもりです。」
・・・以前は雀の涙程しか効果がなかったけど……やってやる!この人だってマスターに何かしらの訳があって従わされているはずなんだ…助けたい!・・・
勇輝は男から剣を軽く奪い取って放り投げると両手をかざして意識を集中させる。
「そんなことは無意味だ。ゴホッ…あっちを見てみろ。」
「何?……カナさん…あれは…。」
男の目線が示した先ではカナが氷の礫や塊をマスターに大量に射出していた。
しかし、マスターは未だに涼しい顔をして座っている。
カナの攻撃は薄い光の膜のようなドーム状の障壁に防がれている。
「結界…か。」
「そうだ、あれは…俺が生きている間半永久的に解除されない…。」
「何だって…!他に何か方法が…」
男が勇輝の肩を掴んで弱々しく引き寄せると小さな声で話し始めた。
「無いさ…ゲホッ…まあ、ほっといても俺は死ぬだろうが、マスターが何かをする時間稼ぎにはなるだろう。だがなぁ…俺もそれは気に食わない…!だから…俺にトドメを…刺せ!」
「ーーっ!そんな!」
勇輝は目を見開いて男の顔を凝視する。
男の顔は血の気が引いて白くなっているが僅かに微笑んでいる。
「お前達が…ここにいる…みんなを…助けてくれるのなら…本望だ。」
男は真っ直ぐに勇輝を見つめている。
「どうして…貴方が死ななくてもいい方法が絶対に…。」
そう言いかけた勇輝は男の表情を見てそれ以上何も言えなかった。
・・・そんな…人を殺すなんて…しかも戦いでもなく、助けられるかもしれない人を切り捨てるなんて……嫌だ!けど……けど…!・・・
勇輝の手はいつしか9mm拳銃のホルスターにかかっていた。
その手は尋常じゃないくらいに震えている。
勇輝が立ち上がって後ずさり距離を開き、銃を構えるが震えは止まらないどころか更にひどくなった。
「それでいい……、迷うな…これは…正しいのだから………みんなを…助けてやってくれ。……覚悟を…決めろ…!」
男は弱々しい言葉を連ねたが、最後は覇気がこもっていた。
「うわぁぁぁーーっ!」
声を上げて震えを無理矢理押さえつけて引き金を思いっきり引いた。
乾いた銃声が耳にいつもよりはっきりと響いて、不安定な握り方だったために反動が大きく伝わった。
勇輝が閉じていた目を開くと男は仰向けに倒れて呼吸ひとつもしていなかった。
「僕は…助けられなかった…それどころか…この手で……。」
勇輝は膝をついて呆然と男の骸を眺めていた。