今回は少々短いです。
「本当に…これで…良かったのか…?」
膝をついて呆然としている勇輝が視線を下に向けると若干くすんだ金色の空薬莢が散らばっていた。
「拾わなきゃ…」と一瞬思ったが、この世界で薬莢を回収する必要は無いのでその考えはすぐに振り払った。
・・・ーッ!そうだ!カナさんの方は…。・・・
片膝を立ててカナとマスターのいる方向を向いた。
カナが小さな氷の礫を弾幕のように絶え間無く射出し続けているが、その全てが結界に阻まれていた。
「フン、無駄な事をいつまで続けるつもりだ?」
「うぅ…いったいどうしたら……。」
マスターは机に両肘をついて手を組み涼しい顔で弾ける氷をまるで余興のように眺めていた。
・・・この人の話だと自分が死なない限りは解除できないと言っていた…。つまりは…あの結界はもう無敵では無いということになる。マスターからはこっちが死角で決着に気付いていないみたいだ。カナさんも弾幕で精一杯みたいだな。ここで強力な一撃を加えれば破壊できるかもしれない……。・・・
勇輝は9mm拳銃をリロードしてホルスターに入れた。
そして異次元空間から巨大な筒状の鉄の塊を取り出して結界に向けた。
「110mm個人携帯対戦車弾…魔法はどうか知らないけど今ある中で一番の火力だ。喰らえ…。」
照準具を覗いて中心にマスターを結界越しに据えると引き金をゆっくりと絞る。
「後方の…安全確認…よし……。カナさんっ!!下がって!」
「えっ!?」
意味があるのか不明な確認を呟いた後、カナに警告をして最後まで引き金を引くと軽い推進音が室内に響き弾頭が高速で飛翔する。
「なんだ!?」
マスターが素早く顔を向けた瞬間に弾頭が結界に直撃して爆炎に包まれた。
用済みになった発射装置を収納すると勇輝はカナの元に駆け寄った。
「カナさん、大丈夫でしたか?」
「はい、少しびっくりしましたけど…、勇輝さんは?」
そう答えたカナは特に何事もなかったようだ。
「大した怪我は無いです。結界の方は……。」
そう言って2人が爆炎が晴れ始めた結界の方を見ると、うっすらと光の障壁が視界に入り込んできた。
「ーッ!ダメだったか?」
「待ってください!あれっ!」
焦りを含んだ声を上げた勇輝にカナが指をさして叫ぶ。
「………あれは!」
結界は無事なように思えたが、上の方にヒビが入っていた。
まだ致命的ではなさそうだが、決して小さくもない。
「ハッ!…驚いたぞ。…だが、残念だったな。それでもこの結界は崩せなかったようだな。」
煙の奥に見えたマスターは椅子から立ち上がっていた。
「それはどうかな、マスターさん。」
勇輝が進み出るとマスターと目が合い、マスターの表情が固くなった。
「貴様…勝負はついたのか?」
「ええ、もうあなたの結界は無敵ではありませんよ。」
「……チッ、役立たずが…。」
マスターの表情が険しくなり、振る舞いも粗暴になってきた。
・・・結局は小物か…結界のヒビにも気が付いていないようだな。・・・
「あの人の事を侮辱するのはやめろ…。」
「勇輝さん!?」
勇輝は両手に個人携帯対戦車弾を取り出して腰だめで構えた。
「なっ…通じないと言っているのに悪あがきを…。」
突然武器を取り出した勇輝にマスターは一瞬狼狽えたがすぐに余裕を取り戻りた。
「耐えてから言うんだな。……カナさん…下がってください…。」
「はい…。」
抑揚のない声を発するとその気迫にカナが圧倒されてすごすごと後ろに下がった。
「あの、後ろも危ないですよ。少し横に…。」
「うぅ…ごめんなさい…。」
カナがしゅんとして斜め横に離れた。
・・・しまったな……カナさんを威圧してどうする。自分も人に言えたもんじゃないな……。・・・
「いいや…吹き飛べ…!」
八つ当たりのように両手で引き金を同時に引いて2発の対戦車弾を発射した。
後方に反動を相殺して軽減するカウンターマスが吹き出されて大した反動は無かった。
2発とも結界の中心に命中して大きな爆発と煙に包まれたが、今度は少し違った。
バリンというガラスが割れるような音を重々しくしたような音が部屋にこだまして煙が流れ込んだ。
「ゲホッゲホッ!…馬鹿な…結界が破られるなんて…。」
煙の中からマスターが煙にむせている様子が容易に想像できた。
煙が晴れてくるとマスターの姿がはっきりと見えてきた。
「もうあなたを守るものはありません。どうしますか?」
「ヒィッ!…き…貴様!何が目的だ!俺に何の恨みがある!」
9mm拳銃を構えた勇輝に狼狽えて喚き立てる姿は始めの頃の面影など全く無かった。
「恨みは…無いとは言いませんが、どうでもいいです。…ただ、貴方に虐げられている人達を助けて欲しい、そんな願いを叶える為にここに来ました。」
勇輝がふぅと一呼吸置いて言った言葉は決して大きくは無かったが覇気がこもっていた。
「な………アイツらがなんだっていうんだ!放っておいてものたれ死んでいただけのようなヤツらだぞ!それを生かしてやってるんだ、何が悪いっ!」
マスターは開き直って語気を荒げてまくし立てる。
「俺がわざわざ生かしてやって使っているのだから俺の道具同然なんだよ!それを…」
「黙れっ!!」
なおも喚くマスターの言葉を勇輝の叫びと直後の銃声がかき消した。
「ああーーっ!!足が!俺の足がーっ!!」
膝下に銃弾が命中してその痛みにマスターは足を抱えて転がった。
「もう余計な口を開くな。戯言は聞きたくもない…。」
「勇輝さん…。」
「もういいです。カナさん、最低限の治療をしてコイツを連れていくのでお願いします。」
拳銃をホルスターにしまって振り返り、カナにそう告げると真っ直ぐあの名も知れないな剣士の骸の元に歩いて向かった。
「助けてあげられなかったせめてもの償いだ。しっかり弔ってやらないとな…。」
近くに落ちている剣を拾って鞘に納めるとその体を持ち上げてマスターの机の上にそっと寝かせた。
それから部屋の中をある程度物色してめぼしい物はとりあえず収納して、天井にいくつかC4爆薬をセットした。
「カナさん、もう出ましょうか。」
「ええ、こっちも準備できました。」
2人は縄で両手を縛られて包帯を巻かれた足を引きずるマスターを連れて部屋を出る。
「あっ…忘れてた。」
勇輝は最初の突入でおまけに仕留めた手下を見るとため息をついて両手を縛り、収納した。
崩れて吹き抜けになっている扉を抜けてしばらく歩くと爆弾のスイッチを押した。
後ろから爆音と少しばかりの風が届き、小さな地震を伴って部屋の天井が完全に崩れて埋もれた。
「安らかに眠れ。」
勇輝は振り返ることなく、先へと進んで行った。